幕間 城内経過報告
「姫様、今年の天覧試合予選、終わりましてございます」
シダト城内、姫は兵士の報告を受けつつ、それを聞いてないのか、はたまた聞き流したのか、無反応、無言にて足元に置いた本を眺め続ける。
「それで、天覧試合の予選、本戦含めた試合にて、最速勝利記録が出ました」
「あぁ、そう……1分何秒かしら?」
そこでやっと、姫は兵士に返事を返した。最速勝利記録が更新されたのは久々だ、確か前は1分数秒だったし、それくらいか、はたまた分を切ったか程度の想像をしていた。
「6秒です」
姫が玉座からずり落ちた、長いスカートが玉座の手すりに引っかかり巻き込まれた。
「ひ、姫様!?大丈夫ですか!!」
「ひ、引っかかったわ!!あ、だめ、戻れない!?助けて!!」
ジタバタと足をばたつかせて、スカートが引っかかって玉座の手すりにスカートが捲り上げられ、ニーソックスとガーターベルト、白の下着が露わになる。兵士が慌てて玉座への階段を駆け上がり、すぐに体を持ち上げて玉座に座らされた。
「あー、ありがとう……じゃないわ、今なんて言った?」
「あ、はい、失礼します……最速勝利記録の新記録は、6秒です」
改めて聞かされる、展覧試合の最速勝利記録、それを聞いて姫は唖然とするしかなかった。
「冗談でしょ?読み違い、見間違いは無かった?」
「確かです、こちらに詳細なる記録が……」
羊皮紙を持った兵士から姫は奪い取り、しかとその詳細を見た。しばらくは硬直していたが、姫はすくりと立ち上がり、玉座をゆっくり降りながら兵士に伝えた。
「四聖を集めなさい……映像資料を取り寄せた上で、このTEAM PRIDEに関して話をするわ、貴方、この件は決して!他言をせぬ様に命じます!」
「か、かしこまりました!」
姫はそれだけ言って、兵士を後にし、玉座の間を去るのだった。
城内会議場……その空間には長いテーブルに、中心にはガラス製の様な、巨大なる球体が浮かび、そこには四人の男が座っていた。最奥にて姫が座し、深刻な表情で四人の男を眺めている。
「姫、集められた理由は……」
「剣聖?分かってるんじゃないの、こうして僕らが集められる理由はさ?」
剣聖と呼ばれた男が、顔をしかめた。
「四聖が集まるなんて、超危険闘士が現れたくらいでしょ、国を揺るがす闘士……くそ、顔が疼く」
「盾皇は前の超危険闘士に叩きのめされたからねぇ、あの二人か、今は確か南のバザル公国の食客だっけ?」
「魔将、やめてやれ、あれはこの国の汚点だ、全ての内地闘士が集まってすら勝てなかった二人、彼らは自然災害と同じだ、台風だったのだ」
魔将と呼ばれた男が、盾皇と呼ぶ男に笑いながら呟けば、剣聖はやめてやれと魔将を諭した。盾皇は歯軋りをしながらも、姫を見やる。
「そう言うわけなんですね、姫」
「そうよ……今回は四人の闘士が、それに類する危険な闘士になるわ、しかも……全員が劣性よ」
超危険闘士が出場、さらに全員が劣性と聞いた四人は、皆驚かず、それどころか澄ました顔をしていた。
「そうですか、となると、現世で強かったタイプですね」
「映像資料を見る必要があるな、出してもらえますか?」
魔将が呟き、剣聖がそう言うと、姫が中央の球体向けて手をかざした。そして映し出された、件のチームの今日の試合。
「展覧試合最速勝利記録を出したチーム、名称はTEAM PRIDE……雇い主は去年、闘士を雇えなくなって外壁に流れた貴族令嬢、マリス・メッツァー……彼女が集めた四人の闘士のチーム、控えの闘士は居ないわ」
「メッツァー……メッツァーだってさ盾皇!」
「やかましい……」
「煽るな魔将……で、姫……闘士達はどんな面々で?」
魔将がけらけら笑い、盾皇が顔をしかめ、剣聖が諫める。剣聖が姫に、このチームの構成を聞けば、最初の一人が映し出された。
「まず、1人目……シンヤ・ナカイ……件の最速勝利記録を塗り替えた闘士よ、相手に組みついて……えーと、なにこれ?こんなふうに戦ってるわ」
映し出された、甘いベビーフェイスを嬉々と歪ませ、腕や足に絡みつく戦い方に、姫は困惑した。説明しがたい奇妙な戦い方に、姫は言葉が出ない。
「寝技師か、恐らく……ブラジリアン柔術か、サンボだろう」
と、ここでまだ一言も喋っていなかった最後の1人が口を開いた。
「拳神、分かるのか?」
「あぁ、こいつは寝技……関節技というのを主体にして戦うタイプだ、素人ならば組み付かれたら負ける、最速勝利記録も頷ける」
拳神の説明に皆が、そうなのかと、映像のベビーフェイスを見つめた。姫はまた手をかざし、映像を切り替えれば、中々に顔つきが男らしい少年に切り替わる。
「2人目、キョウジ・マチダ……殴るのが早いわ、あと……防御も凄い……」
「空手家だ……凄まじい練度だ……」
次の男にも拳神はコメントした、映像の中でも全く敵の攻撃に当たらず、受け流す姿、飛び込みながらのパンチの速さに、盾皇は顔を押さえた。
「くそ、あの殴り方……あいつに似てやがる」
盾皇が唸りながらも、映像は切り替わった。続いては、女に間違いかねない、中性的で長髪の男性であった。
「セイタロウ・カワカミ……彼は最近、内地外壁で騒ぎになってた指切りの正体よ、剣士だわ」
「彼が……何という速さだ……」
「剣聖、びびってんの?」
「あぁ、あれは……真正面から勝てない」
「正直だなぁ、臆病だなぁ、それだから君は強いんだけど」
剣聖が見る、美丈夫らしからぬ狂気の太刀筋に、冷や汗をかいた。魔将が煽る様に言うが、正直に勝てぬと断じれば、だからこそ君がここに居ると、その強さの本質を褒め称えた。
それを見て姫が、最後の映像に切り替えた。
「最後よ、TEAM PRIDEのリーダー、マナト・カミヤマだわ……彼は……まぁ、確かに、優性召喚者を倒しているけど、他の三人に比べてパッとしないわ」
最後に映し出された少年、あどけない少年の部分もあるが、肉体は逞しく筋肉のラインも見える、しかし傷だらけで殴りあう姿は、他の三人よりもやはり劣って見えた。
「馬鹿みたいに殴り合ってるね、肉体だけの男?はは、大将に弱い奴置く作戦?」
魔将も、最初の3人に比べたら見た目も戦いも地味だと、チーム内最弱だろうとコメントした。
「最初の試合は相手が棄権、最後の試合の最初は追い詰められていた、いや……何故勝てた?」
盾皇は、この戦いの勝利自体が怪しいと、怪訝な目で映像を見つめた。
「動きはいいね、殴り倒した時も……あれ、拳神?」
剣聖も動きの良さは分かったが、他は何が強いのかと首を傾げると……異変に気付いた。
拳神が、震えていた。服の袖を掴み、映像を見上げて震え出していた。
「ば、馬鹿な……あ、あいつが、来ていたのか!?何故、何故こっちに来ている!?」
拳神が震え出したのを見て、剣聖が立ち上がり彼の肩を摩った。一体どうしたのか、彼の震える様に、尋常ではないと魔将も、盾皇も、姫も驚き拳神を見た。
「拳神、彼を知っているのか、彼と何かあったのか?」
知っている口ぶりでもあった、剣聖ばどうしてか聞き出そうと尋ねれば……彼はゆっくり口を開いた。
「奴は……俺の、現世での……プロキックボクサーの道を、叩き壊した男だ……俺だけじゃない!あいつに負けて、俺以外にも2人!心を壊された奴が居た!一度は勝てた、だが次に戦った時俺は……地獄を見た」
椅子から落ち、尻餅を付きながら拳神は、映像の中の男を見続けた。
「神山真奈都……アマチュアキック界で『神童』と呼ばれた天才に並んだ『狂人』それが、あいつなんだ」




