決着、そして……。
憧れたさ。
テレビの中で、両手を掲げ、ベルトを巻くチャンピオン。
たった二つ、両手の拳だけで戦って、強いと認められて……。
そうなりたいって思った、そうありたいと思った。
来る日も来る日も走り込んで、ミットを殴って、サンドバッグを叩いた。
ライバルは沢山居た、アマチュアボクシングで戦った。やがては練習がキツくてやめたり、才能あるやつに負けて挫折してやめた、怪我で断念した子も居る。
進んで行くたびに、後ろに見えるその人達が見えて、ここで折れたらダメだと前に進んだ。
それも全て、この世界に来て意味を無くしていた。この世界にボクシングは無い、この世界にベルトは無い。何より、俺が目覚めたのは格闘家じゃくて、魔法使い。
馬鹿げた話だ、両手の拳だけを信じていたのに、そちらの適正があると決めつけられた。
これは、その反逆なのかもしれない。魔法なぞ無くても、自分にはこの両手があると示したかったのだ。それでも、もたらされた異能の前ではあと一つ届かなかった。
言われたよ。
魔法使いなら魔法を使え。
魔法を使えば勝ててた試合だ。
喧しい……何が分かる、この手に注ぎ込んできた心血は、そんな簡単に捨て切れやしないんだ。
だが、チームの為もあった、魔法の勉強もした、使える様になって、まるで手足の様に自由に行使して、更に苛まれた。
本当だったのだ、俺は、ボクシングよりも魔法が得意だったなんて……。こんな世界の、馬鹿げた魔法に適性があるなんて……信じたくなかった。
諦めきれない、そんな馬鹿げた魔法よりも、俺のボクシングの方が強いと拳を握った。
そうしたら今日、お前達が現れた。
クラス?異能?何する物ぞ、それを真っ向から打ち破った彼らを見て……眩しかった。
「羨ましいよ、お前たちが……」
光の中で、涙を流しながら俺はそう呟いた。
「凄えな長谷部、凄えよ、長谷部……どこから、意識を失っていた?」
膝を着いた長谷部が……決して倒れまいと、こちらを見上げていた。今にでも立ち上がって来そうな気迫、そして清々しい笑み……こっちも笑いそうになってしまう。
その目に、光は無い。だが……意識の外では立ち上がって、俺とまだ、戦っているのだろうな。
殴ってくる手の力が抜けていて、ひたすらに体を動かして、足が石畳を踏み外し、こうなった。歯は折れてない、しかし口の中の粘膜はズタズタ、ざくろみてぇに切れまくっている。
打たれた場所がズキズキと痛い、ていうか、今にも吐きそうなくらいに気持ち悪い。辺りには血が散らばっていて、審判も茫然と膝をつく長谷部を見ていた。
血と涎の混ざり物を、リングに吐く。真っ赤というよりどす黒いそれを見た審判が、俺に向けて手をあげた。
「し、勝者、マナト・カミヤマ!これによりTEAM PRIDE、予選第一ブロック決勝進出となります!」
勝利を宣告され、俺は観客席たる二回を見回した。静寂しかない、劣性召喚者のチームが予選決勝の出場決定。信じられないだろう……何よりも、それに負けたシルバードラゴンへの落胆も見て取れた。
「出るぜ審判、担架用意してやんな」
最早何も言うまい、俺は膝をつき意識を手放した長谷部を後にして、石のリングの四方を囲む、ツタのロープを潜りリングを降りた。
歓声一つ無し、誰も喜んではくれない。ブーイングすらない静かな会場の、なんとも寂しいことか……。誰も望んじゃいない勝利を掲げて、俺は意思表示の如く左腕を、拳を作って掲げた。
そして、ベンチで立ち上がり、皆が待っていた。呆れながらも笑う中井、よくやったと自信気な町田さん、当たり前だと言わんばかりの河上さん、ニルギリは相変わらず目を見開いたままだが、何となく心配してくれているのが分かる。そして、主人たるマリスは、涙目で俺を見ていた。
勝ったんだから、そんな顔しなさんなと言いたいが、異世界人にあの殴り合いは刺激が強かったやもしれない。
しかし……大将だけが傷だらけの帰還か、これはもう『大将が最弱』と甘く見られるかもなと、俺は笑いながらベンチに向かった。
展覧試合第一ブロック 準決勝
TEAM PRIDE VS シルバードラゴン
◯シンヤ・ナカイVSコウセイ・イサミ●
試合時間0:47 一本勝ち
決まり手 ヒールホールド
◯キョウジ・マチダVSアルス・タケハラ●
試合時間1:23 KO
決まり手 正拳突き
◯セイタロウ・カワカミVSセイジ・ニシタニ●
試合時間3:54 ドクターストップ
決まり手 審判団の介入による試合停止(以後ルール改定の一例として、審議)
◯マナト・カミヤマVSナオキ・ハセベ●
試合時間5:23 KO
決まり手 右フック
TEAM PRIDE……予選決勝となる一カ月後の、本戦出場決定戦に出場決定!!
練兵場にて観戦していた、展覧試合予選に参加していた闘士達は、静かに去ったTEAM PRIDEのリーダー、そしてその面々の試合を見て、皆が皆、それぞれの思いを抱いていた。
『ふざけるな、劣性が』と、敵意を露わにする者。
『対策を練らねば』と、席を立つ者。
『あんなのズルだ!』と、その力を妬む者。
『凄い戦いだった……』と、胸を一杯にする者。
抱える思いは様々だ、しかし……一つだけこの会場の皆が、同じ様に確信した事がある。
『なんであれ、今年の展覧試合は、大荒れする!TEAM PRIDEを中心に!!』
彗星の如く現れたダークホース、TEAM PRIDE……彼らは清濁関わらず、今年の展覧試合で注目されるだろうと、皆が確信したのだった。




