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一撃必殺

「あ、あー……まぁテレフォンパンチとか、結構雰囲気出してくる奴居るわな……分かる時もある」


神山の分析に、中井はまず頷いた。確かに殺気やら気配、足の動きや肩の動きから、攻撃を読む事はあるし、実際それで格闘家達は回避、防御をする。


「町田さんは……恐らくだけど、殺気でフェイントが出来るんだ」


神山から出たとんでもな答えに、中井は閉口した。漫画じゃあるまいと思いつつも……しかしだ、中井自身も格闘技を修めた者として、分からんでも無い体験があった為否定できなかった、事実幻想入り混じる、不可解な現象、理解できるが、他者に説明が難しいとはこの事かと、中井も、何より神山も互いに顔をしかめた。


「あぁできるな、俺はやられたぞ町田に」


が、そんな所業が町田は可能なのだと、河上は言い切った。


「我慢できずに斬り掛かって戦った時だ、顔面にこう、陥没するイメージが頭に過るくらい、濃い殺気がな?いやはや、あの後に股座を蹴られそうになって冷や汗かいたさ」


何だが恐ろしい話を聞いた気がする、斬り掛かった?友人だったよね河上さんと町田さんはと、あの二人の殺伐とした友人関係に二人は何も言えなかった。


「で、だ、多分自動防御とやらだが、目視による防御行動では無く、気配や殺気で体が反射的に防御体勢を作るスキルなのだろうよ、先程鼻を摘んだのが、その為の試しだろうさ……」


そして神山の推理を河上が捕捉し、自動防御の絡繰を看破したのだった。




「ぅゔう、ぁああ……」


眼下に自らの吐瀉物を見る羽目になり、竹原或須はわななく膝へ必死に力を入れて立ち上がる。


「よく立ったな、腹筋も薄かったからもう駄目かと思った、偉いぞ竹原くん」


目の前の劣性召喚者が涼やかに笑う、生まれたての鹿の様な立ち様を褒められる始末、しかし言い返す気力が竹原には無い、スキル『自動防御』を劣性召喚者に破られた事実が、竹原の精神的支柱を簡単に叩き折ってしまったのだった。


「な、何をした、何故、俺の腕は腹でなく顔面……を……!?」


何よりその身に起きた事態が、理解できない!腹を蹴ると宣告され、身構えていた!なのに両腕が顔面を守ったのだ!理解ができないと思った瞬間、竹原の身体がまた動いた。


左足を上げ、左腕で体の左側を庇う防御体勢、しかし……町田は攻撃も、ましてやその場から動いてすら居なかった。


「自分自身も知らない様じゃ強くなれない、君の自動防御とやらは便利で強かろう、が、それこそが弱点と言うべきか」


町田が歩き出す、竹原が左足を下ろして、その自らの肉体の反応に慄きながら、下がり出した。


「右回し蹴り、左の膝の上辺りに蹴る、防御しなさい?」


再び来る宣告!頭ではわかっている、声も聞いた!左膝を庇わねばならない!だが、竹原の足は芝生をしっかり踏みしめ、両手で腹を守る動作をしてしまった!


「えぇいしゃああッ!!」


そして放たれるは、町田恭二の『下段回し蹴り』フルコンタクト空手家による、膝よりやや上を狙う、振り下ろす回し蹴りが、ピンポイントで竹原の膝上を打ちのめした。


「あぎぃいいい!!」


重力加速を含めた下段回し蹴りの威力は、想像を絶する。竹原或須がその美顔を苦痛に染めて、またも芝生に膝を着いた。


「君の自動防御は、殺気を読み、それに反応する、だから成り立つ……目視で反応したら遅れるからだ……先程鼻を摘んだのは、動作に反応しているのか否かを確かめる為の試しだ」


自らを知らぬ者へ、敵が自らの能力の術理を説くという、何とも奇異なる光景。竹原或須はもはや、町田恭二により全てを看破されてしまった。


「松濤館流二十訓に"戦は虚実の操縦如何にあり"とあってな、攻める場所も、守らせる場所も悟らせない事が戦いの妙と言う意味だ……この虚実を生み出すのが、空手……いや、格闘における妙技でもある」


訳の分からぬ講釈を垂れながら、町田が見下ろす様に

竹原は、腹の疼き、膝の痛みを押し殺して立ち上がる。竹原或須、精神の支柱は砕けど、まだその誇りと自我、両足はまだ力を失ってはいない!


「だ、から、なんだぁあああああ!!」


竹原或須が拳を振りかぶる、右の拳を振りかぶり、町田恭二の顔面を殴り抜けにかかる!しかし、町田はそれを軽く左へ躱しながら、ガラ空きになった右脇腹へ、左の拳を叩き込んだ。


「がはっーー」


まるで、和太鼓を打ち鳴らしたかの様に音が響いた。左フックではない、左鉤突きにより、竹原の右肋骨が数本、簡単に折られた。


「ふむ、攻撃のカウンターでも自動防御は発動しないか、二つめの弱点とみた」


「っぁう……ぐっあ……」


最早、勝ちの見えぬ試合、一手、また一手と竹原或須を追い詰めていく町田恭二を、未だに竹原或須は睨み付ける。負けてなるものか、劣性召喚者に負けてしまえば、優性召喚者として示しが付かない、スキルも、クラスも無意味と否定される!


「がぁあぁああぁあぉあああ!」


竹原或須が吠えた、そして拳を、蹴りを、ひたすらに振り回し始めた。それは最早格闘などと呼べない、ただの童の駄々の様に。


振るう、振るう、振るう、しかしどれも空を切る、町田恭二の目の前で、触れる前に弾かれ、流され、防がれて。観客の闘士達も、何よりシルバードラゴンの残った二人も、その光景に絶句した。


「ふ、ざけんな、ふざけんなっっッ!野郎!なんつー涼しい顔で、竹原の攻撃を防御してるんだぁっ!!」


叫んだのは、西谷であった。竹原或須の決死の打撃は、町田恭二に決して届きはしなかった。全ての攻撃を受け、流し、捌き、涼やかにその場から動いていない。


何という意趣返し、何という返し技、開始時に竹原或須が宣った不動宣言、それを逆に成して見せるというその光景に、シルバードラゴンの西谷は怒り、長谷部は歯噛みした。


そしていよいよ、精魂尽き果てた竹原の手が止まり、町田恭二の右足が後ろに下がった。左手を前に、狙うは竹原が胸板、右の拳は、軽く握り脱力し、その刹那のタイミングを肉体に身を委ねる。


瞬間、町田恭二の足指が地を掴み、足首が動き、腰が回転した。


「せいやぁあああああああ!!」


放たれし右手の拳、向かう先は竹原或須が胸部!そして、右拳が胸部にめり込み、竹原或須は立ちながら痙攣し、その打撃音は吹き抜けである練兵場に響き渡ったのだ。


 町田恭二の正拳により、竹原の胸骨は破砕、それに連鎖して肋骨全てに亀裂が入り、砕け散った。


町田恭二が、竹原或須より右拳を引き抜く、その胸元には、くっきりと拳の跡が出来上がっていた。竹原は、目から光を失い、血を含めた涎を垂らしたまま、倒れずに立ち尽くしていた。


「……心を砕かれて、技も砕かれ、全てを賭してそれも砕き……君はそれでも立つか、竹原或須……」


何処かで参ったをしても良かった、逃げても良かった、しかし、最後まで竹原或須は町田恭二を睨み続けて戦おうとした。今もなお、その顔は恐怖は無い、まだ戦っていると言わんばかりの眼光で、町田恭二を睨みつけていた。


「目覚めて、まだ来る気力があるなら来い、いつでも戦ってやる」


 町田恭二は背を向ける、勝負は決した、心臓が止まっているがまだ間に合う、担架を用意させようと、審判に顔を向けた瞬間。


「竹原ぁあああああ!」


「!?」


シルバードラゴン側ベンチから声が響き、竹原或須が襲いかかってきた。町田恭二は刹那の気を抜いた瞬間に襲い掛かられ、思わず構えて背後に飛ぶ町田。


 しかし……竹原は地面にうつ伏せに倒れ伏した。ただの、倒壊だった。しかし、町田恭二の右の鼻腔より、血が流れ出していた。


 最後の一太刀、たった一撃、ただ鼻を掠っただけか……いや、竹原或須の執念の一撃だろうと、町田恭二は鼻を押さえた。


「最後に一撃、食らったか」


 町田恭二、自動防御の使い手にして格闘家、竹原或須に完勝す。されど、最後の一撃にて、鼻から出血を被ったのだった。




「竹原……馬鹿野郎、馬鹿野郎が……降参しちまえば良かったろうが!意地張りやがって!」


 シルバードラゴン側ベンチ、ウルフヘアの西谷が、運ばれ行く竹原を見て座席の一つを蹴り上げた。地面に打ち込まれた椅子の為、揺らすだけだが、荒れに荒れている西谷には関係ない、対して長谷部は腕を組み、下を見つめて無言のままだった。


「長谷部……やるぞ、俺達二人、絶対に勝って伊佐美と竹原の仇討ちだ!」


それを聞いたか聞き流したか、長谷部直樹は無言であった。これに西谷は苛立ち、長谷部に詰め寄る。


「おい、おい!まさかビビリ散らしてないだろうな、あぁ!?」


 長谷部の肩を鷲掴みにする西谷、臆したかと叱責する西谷だったが、その横顔を見るや口を噤んだ。


 怒っていた、長谷部直樹は怒りに打ち震えていた。ひたすらにTEAM PRIDE側を睨みつけていて、そのままゆっくりと立ち上がる。


「西谷くん……僕はアップしてくる、君はこの試合に集中して……勝とうが負けようが構わない、君だけの試合に集中して欲しい」


 そう言って、ベンチ席から離れて奥の廊下側へ出て行った長谷部、誰も居なくなったベンチ席にて、西谷は芝生を踏みしめ練兵場に出る。


「勝つさ、あのバカ強い侍、倒してお前に繋げてやるからよぉ!」


 シルバードラゴン西谷、肩に長柄の三又槍を携えて、出陣す。伊佐美と竹原の仇を打ち、長谷部へつなげる為の大一番に、背中の銀龍を棚引かせて、一人立つ!



「1発もらったか?」


「最後にね……」


「気を抜いたな?」


「面目ないな」


 ベンチに下がってきた町田恭二を、河上静太郎はニヤニヤしながら見ていた。町田恭二は鼻にガーゼを詰め込み、足を組んで息を吐いて、河上からの指摘に苦笑していた。


「あれが刃物なら死んでいたわけだ……気を緩めるとはバカめ」


「あのー、河上さん、そこまで言わなくても」


「いいさ中井くん、河上の言う通りだから」


 中々に長く町田を虐めるので、中井がそこら辺でと止めに入る。しかし、町田はその通りだから仕方がないと中井に河上を止めない様に言った。


「まぁいい、俺もどうやら人の事を言えなくなりそうだ」


 河上は薄らに笑みを作ると、芝生で待つシルバードラゴンが三人目を見て、鯉口を鳴らした。


「悲壮な目だ、俺と相討すら考えている……死兵の目だあれは……しかも槍が得物と来た、殺されるかもしれん」


「ええっ?」


 河上が笑いながら、自分が殺されるかもとまで宣ったので、神山は冗談キツイなと笑った。


「まさかぁ、河上さんが?冗談キツいぜ、さっさと斬り倒しちゃってーー」


「神山よ」


そんな神山の楽観視を制するかの如く、河上は振り向き眼光鋭く神山を見た。


「昔の合戦での死因、一番の死因が何か分かるか?」


「は?」


「答えてみろ」


「え、刀?」


 戦国時代の戦において、一番の死因は何か?そんなもの、腰に差した刀ではと神山は無知をさらせら、河上はほくそ笑んだ。


「阿呆め、飛び道具よ、弓矢に鉄砲石つぶてだ、次に槍……刀はそれこそ戦国時代、武器としては中途半端だったらしい、近寄って組めば脇差が多用されていたそうだ」


 意外にも知らなかった、それこそ神山の脳内では鎧甲冑着た侍が、槍やら刀やらで斬り合い突き合い殺し合いの想像が浮かんでいた。


「格闘技でも間合いが広い方が有利だろう、こいつより槍が、弓矢鉄砲が重視されたのが事実よ」


 左手に鞘を持ち柄でトントンと左肩を軽く叩き、自らが身を置く筈の刀を、余りにも心許ない武器として言う河上に、神山は何も言えずにいた。


「なら、負けるかもと?」


 それら踏まえて、負けてしまうのか、町田さんはと神山は恐る恐る聞いたがしかし、河上静太郎は言葉を凛として返した。


「ただし、相手の力量、怨嗟、熱が俺の技量に勝った時に限る。生半可な腕、弱すぎる怨恨、か弱い熱を奴が晒そうものならば、この俺が負ける道理は無しよ」


 つまりは、相手の何か一つが上回らなければ、負けるわけないと、河上は高慢に宣って見せた。


 芝生へ上がる河上、対する歯三又槍を抱え熱を醸し出す戦士、それに対して河上静太郎の足取りは、なんと軽やかで涼やかな事か。


「身体、温めてくるわ」


 それを見たら、居ても立っても居られないと、神山真奈都は上着を脱ぎながら、廊下に出る扉へ向かい、アップを始めにかかった。


 奇しくも、シルバードラゴン、長谷部直樹と同じ行動を、彼は取っていたのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 講義しながら攻撃を加え続けるなんてやっぱりサディストじゃないですか。心の奥底でひしゃげる肉や砕ける骨の感触がたまらなく心地よく感じているんじゃなかろうか?町田さんにはむっつりサディストの称号…
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