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自動防御VS空手

「これが……TEAM PRIDE……」


担架で運ばれ行く伊佐美を見て、西谷はそう呟いたた。あれだけの差がありながら、蓋を開けてみれば何という試合結果か……中井真也の寝技対策、今後全てのチームが躍起に練るのは間違い無いだろう。


「くだらん……西谷、長谷部、見ていろ、優性召喚者と奴らの差を見せつけてやる」


伊佐美が負けた事に苛立つ、Vバングの前髪の少年竹原が、拳を握りしめて芝生へと歩み出た。それを西谷、長谷部の両雄は無言で見送るのだが。


「長谷部、竹原は大丈夫か?」


「大丈夫だ、竹原なら負けない……相手の町田は打撃タイプ、竹原のスキルと相性はいい」


「竹原もクラスは格闘家だったが……負けないって……勝てるのか?」


負けないと言った長谷部、しかし西谷からは、勝てるのかと問いかけられ、言葉に詰まった。


「確かに竹原のスキルは強力だ、過去に大敗はしていない……けど、それは予選での話」


「本戦に居座る4強の前では、あいつのスキルも心許ないのは知っている……だが、劣性召喚者相手なら」


「もうやめにした方がいい、西谷……認めるべきだ、TEAM PRIDEにはクラスやスキルなど、意味を為さないと」


長谷部の言葉に、西谷が顔を青くする。胸中穏やかでなかろう竹原の雰囲気、そして連戦せずに下がる中井に代わり、次鋒の闘士たる町田が向かい合う姿に、西谷は歯を食いしばる。


「勝てよ竹原、勝ってくれ……」




次鋒、町田恭二は先のサーブルクロス戦の秒殺に対し、不満があった。まさか、一撃で倒れてしまうとは、何とも言えない肩透かしを喰らったものである。だからこの一戦、相手が脆くなければ良いがと、Vバングに同じほどの背の高さの闘士を前にして、町田はそう思っていた。


「ではシンヤ選手交代により、キョウジ・マチダ選手と、アルス・タケハラ選手の試合を始める、両者下がって」


中々珍しい名前だなと、町田恭二はこの時思った。こうして後ろに退がる町田と、町田を見下す様な目で見つめる竹原或須が、対面する。


「始めっ!」


開始の鐘が鳴り響く、町田恭二は自然と腰を落とし構えを撮ろうとする中、竹原或須が町田に人差し指を指してこう言った。


「ハンデだ、劣性召喚者」


「うん?」


「俺はこの場所より動かず、貴様を倒してやろう、貴様が如何な攻撃を出そうが、俺には届かんのだからな」


剛気な事を口走る竹原、一瞬、何を言っているのか分からなかった町田だったが……。


『出た!竹原或須の不動宣言!!』


『あれが出たって事は勝利が決まったも同じだ!』


観客席の闘士達から聞こえた声に、嗚呼と理解する。ホームラン宣言とか、KO宣言と同じかと。町田からすれば、この竹原とやらはそれ程の実力を持った闘士なのだろうと受け取った。


「そうか、なら遠慮なく……」


なれば、遠慮はせぬと、町田恭二の身体はリラックスして、ステップを踏み出す。呼吸を整え、両足の筋肉のステップによるバネを感じ取り、右手の握りも軽く少し握り締める。


「シッッ!!」


爆ぜる!地面が、芝生が捲り上がる程の鋭いステップイン!1回戦目の秒殺劇を作り上げた、飛び込み逆突きが、竹原の顔面に吸い込まれるように放たれる!


「ぬ!あ!?」


しかし、竹原の右手が、町田恭二の右拳を掴み、右手の甲を左手で押さえて受け止めた。そして……竹原の足は、左足が町田恭二の拳の威力で倒れない様にする為、後ろに一歩退がってしまっていたのだった。


「おや……動かないのでは?」


珍しく、煽る台詞を掛ける町田恭二、その目は嘲笑うかの様に竹原は見えたが、拳を真正面より止めた事実に、称賛を込めた眼差しであった。


「劣性召喚者がぁ!」


右手を払い除け、構えを取る竹原。しかし町田恭二が、その間髪を逃しはしない。


「シャッ!!」


左足の前蹴りが放たれた、鳩尾狙いの前蹴りを竹原が右前腕にて脛を払う様に防御、次いで右の中段正拳を身体を右に捻り、左腕を盾の様にして防ぐ。


「いいやぁあ!」


コンビネーションの最後に町田が右の下段回し蹴りを放つ、重々しい音を鳴らすも、左足を上げてローカットにより防いで見せ、町田恭二は下がった。


町田恭二の飛び込み突きから始まった、左前蹴りから右正拳、右下段回し蹴りの四連繋を、竹原或須は見事に、完璧に防ぎ切ったのである。


「ふむ……届かないのは本当か」


見事に防がれた町田は、さほど驚きはせず、動きはしたが、攻撃は届かない事実に頷き、構えを取り直した。




「嘘!町田さんのコンビネーションが防がれたぁ!?」


その現象を一番驚いていたのは、町田本人ではなく神山真奈都であった。ベンチから見ていた神山、中井、河上、そしてマリスにニルギリの中で、一番の衝撃を受けていたのである。


「驚く事かい、神山くん?君は町田さんを贔屓目に見てるけど、それくらいして来るんじゃないの、優性召喚者って」


対して、先程快勝を挙げた中井は冷静だ、優性召喚者だし、それくらいして来るだろうと試合を静観する。何せ蘇生すら可能な世界なのだ、スキルについても調べたのだ、当てはまるスキルは幾らでもあると中井は言う。


「では、早速それらに町田が当たったわけか、自動防御あたりか?中井、どう思う?」


「多分そうだ、防御はしていたけど、ただ防いだって感じ……神山くん、ストライカーの君なら今のはどう捌く?」


河上もこの瞬間、当てはまるスキルを例に出した、中井は先程の竹原の防御に違和感を感じ、打撃ならば神山の領分と再分析を問いかけた。尊敬すらしている町田の打撃を捌かれた神山は、少し慌てはしたが中井の問い掛けに呼び覚まされる。


「確かに……前蹴りはあんな防御しないな、前腕を痛める……足首を払うか、すくい上げる感じだ、正拳への捻りも左腕を痛める、ローカットも素人だった、足を上げてるだけだった」


落ち着けば見抜けるものだ、神山の打撃系格闘技の知識と、竹原の一連の防御の差を見抜いた中井は、手で口元に輪を作る。


「町田さん!多分相手は自動防御か、それに類したスキルを持っている!変に打ち過ぎてスタミナ切らすなよ!」




中井のアドバイスを聞いて、町田は顔には出さなかったが、成る程と納得していた。そしてそれが、確信となるまでの時間も早かった。何せその本人、竹原の顔が、中井の声に反応して歪んだからだ。


「図星の様だな、竹原くん」


一言、声をかけてやると、竹原は苛立ちを隠せずに応えた。


「見破ったがどうした、お前の攻撃は、決して俺に届かない事は変わらない」


あまりよろしくない、意味を成さない構えをしている竹原が、左へ左へ動きながら宣う。それを眺めつつ町田は、スキルに関しての話し合いで纏めた羊皮紙を思い出していた。


『自動防御』


このスキルに目覚めし闘士は、相手の攻撃に超反応を起こし、肉体が勝手に防御の体勢を作り上げる。素手ならばその身で、盾を持てばそれを使い、武器を持てばそれで打ち払う。類似として『自動回避』という、防御せず、回避行動するスキルもある。


試合開始時の自信と、今の傲慢さもこれが理由かと、町田は鼻息を一つした。困惑からではない、いよいよ来たかと感じたのだ、理不尽を思わせる異能を持つ相手に。


というわけで、その次に町田が取った行動は……。


「では、これはどうだ?」


先の中井を思わせる、ただの歩行であった。竹原は、それを見て更に苛立ちを募らせる。先の試合で仲間が行った策を、真似するという愚策。馬鹿にしているのかと、近づいて来る町田に、竹原はいよいよキレた。


「そんな真似事が通じるかぁああ!」


竹原の、左横腹を狙った右足の蹴りが放たれる。まあ力は籠もっている、しかし軸足がぶれているし、遅い、腰も回っていない。本当に、ただの蹴り……神山のムエタイ式右ミドルでも、右中段回し蹴りとも呼べない代物を、町田は放つ瞬間に踏み込んで潰した。


「なっ!?」


当たったのは右太もも辺り、威力は激減してしまい、目の前に町田恭二が立っている。だがそれでも、竹原のスキル自動防御が発動すれば、如何なる攻撃も防御できる。


筈だった、踏み込んだ町田が、その次に起こした行動は。


「よいしょ」


「んが!?」


鼻を摘んだのだ、軽く、きゅっと一瞬だけ摘んで、すぐ様離れた。竹原もまた後退し、町田が右手を顎に当てて首を傾げる様を見た。


「ふむ、成る程……分かった」


そうして町田が、一人納得した様で、竹原は摘まれた鼻を右手で触れて、一体何をしたのか、何が理由で鼻を摘んだのか、疑問を感じたのだった。


「予告しよう」


そんな町田より、言い放たれた。


「今から君の鳩尾を、右足の前蹴りで蹴る、防御してみるといい」


突然の宣告に、竹原も、両陣営も、観客たる闘士達も驚いた。前代未聞だろう、自動防御スキル相手に次の攻撃を宣告するという暴挙!


愚行である!馬鹿馬鹿しい行いである!通じるわけが無い!例えこの宣告が嘘だとして、他を攻撃しようと、自動防御がそれに反応して防御する未来が見える。


「いいか、鳩尾だ、しっかり防御しろ?」


劣性召喚者が、馬鹿にしやがって、竹原の胸中は苛立ちに染まった。なら蹴ってみろ、蹴った瞬間に防御で反応し、足をつかんで叩き折ってやる!それ程までに苛立ちを込めて近づく町田を待つ。


「そらっ」


そして予告通り、町田の右足が、竹原の鳩尾目掛けて伸びていくと……信じられない事が起こった。


「えっーー?」


竹原の腕は、腹の前に動かされなかった。いやそれどころか、竹原の両腕が顔面の前に交差して重なっていたのである、まるで……顔面に来る攻撃を防御するかの様に。竹原の腹に、町田恭二の爪先はめり込んでいた、空手家の手足は槌であり刃でもある、その爪先は最早刃物の切っ先に匹敵する。


「ぶげぇあぁああ!?」


胃から込み上げてきた胃酸と消化物が競り上がり、食道を逆流し、竹原はそれを抑えれず吐き出しながら両膝を付き頭を垂れた。


「っしゃい!」


そうして町田恭二は一歩退がり、下段払いをしながら残身をするのだった。




「竹原の自動防御が……あんな簡単に!?本戦の4強の闘士が本気を出して、やっと破れた自動防御が!!」


西谷の衝撃は計り知れなかった、シルバードラゴン竹原或須の自動防御は、本戦ですら通用するレアスキルであった。まず普通の闘士が破るには不可能たる難攻不落の防御壁、これを打ち破るのは本戦に待つ強者だけだった!


それを、クラスもスキルも持たない劣性召喚者が!いとも簡単に打ち破って見せたのである!あの誇り高い美男子が、自信の塊が、膝をつき吐瀉物を撒き散らし這いつくばる様に、西谷は衝撃を感じてならない!


「長谷部!あの町田とかいう奴、一体何をやった!どうやったら竹原があんな間抜けな防御をしてしまうのだ!」


腹を蹴ると宣告されながら、竹原は顔面を間抜けにも防御してしまった。その様は何故だと長谷部に問う、これには長谷部も答える事が出来なかった。


「わ、分からない……こんな事初めてだから、本戦で破られた時は相手の攻撃の雨で、防ぎきれなかったのが原因だけど……これは」


長谷部は考えた。


実の所、自動防御にも弱点がある。あくまで反応できても、肉体が追いつかない場合は防御が遅れてしまうのだ。だから自動防御のスキルを持つ相手には、徹底的な連続攻撃による物量で押し切るのがセオリーとされていた。


だから、今町田が起こした目の前のそれは、最早奇跡の他ならない。竹原自身が一番衝撃を受けているのに違いはない。


「竹原ーーっ」


長谷部は歯を食い縛り、膝をワナつかせ立ち上がろうとする竹原を見る。勝てとか、負けるなとか、声を掛けたい。しかし、相手が何をしたのかすら理解できないその様に、長谷部の声は喉から出なかったのである。



「えー……何なの町田さん、自動防御簡単に破ってますけど」


対してTEAM PRIDEベンチより、中井真也……スタミナ切れに気を付けろと言った矢先、もう決着付きそうな様子に苦笑を禁じ得なかった。


「ちょっとミーハーな神山くん、何?あれ?空手の奥技とかそんな奴?スキル無効みたいなのがあるの?」


空手の奥技には異世界の異能を無効化する奥技でもあるのかと、そう言ってしまう程に今の事態を説明しろと中井は神山に説明を求めた。神山も、怪訝な顔で芝生の上の奇跡を見つめて、どう説明するのか、頭の中で浮かんだその『解答』が正解かも断ずる事ができずにいた。


「中井はさ……相手がどこを殴ってくるとか、どんな攻撃をしてくるとか、見た瞬間分かる事、あるか?」


恐らくこれだろ、そうだと思って、神山は中井に一例を挙げ説明を始めるのだった。

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[一言] 町田さん楽しそうだな~相手がギブアップを宣言することさえコントロールしながらタコ殴りを敢行しそうだな。ギブアップを口走りそうになったら喉に一撃入れて棹立ちにしてサンドバッグ状態。
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