それらは不可思議に伝染する
「なぁー、中井ぃー頼むって、次の試合の先鋒変わってくれよー」
「だから、ルールで無理なんだって、一度決めた順番の変更は、この予選の間は変更できないんだってば」
試合会場を後にして、控室に戻る中、神山は中井に懇願していた。というのも、不戦勝という無粋な形で予選を抜けたが為、神山は戦ってすらいないのだ。だから、次は先鋒として出たいとお願いしたのだが、ルール上の交代はできないので無理と断られていた。
それを聞いた神山は、ガクンと頭を下げてうなだれた。本当に災難な事だ、1人だけ戦えなかったのだ、不満はある、だがルールはルールである。
気を落とすなと、後ろを歩いていた町田に肩を無言で叩かれる神山、控室にTEAM PRIDEが到着する手前で、それは起こった。
「すいません、TEAM PRIDEの責任者様ですか?」
控室を前にして、数人のローブを着た男性達が、佇んでいた。最前に居たマリスがそう尋ねられて、どうしたのだろうかと思いながら、話が続く。
「はい、私が彼らの責任者、マリス・メッツァーですが?何か?」
「実は、他のチームよりTEAM PRIDEが、召喚者のクラス、スキルの虚偽申告をしていないか?と申し立てがありまして、TEAM PRIDEの皆様にはこれから鑑定診察を受けて頂きたくお願いに参りました」
これにマリスは驚いた、それはあり得ないのに、全員が劣性召喚者というのは確認済みだ。
「彼らは劣性召喚者で間違いありません、診察は必要無……」
「待った、マリスさん」
マリスの口を神山が止めた、神山に止められたマリスは振り返り、神山の、そして他の闘士達の顔を見た。全員、見事に笑顔を見せて来たのである。
「それは逆効果さ、かばってる風に見えてしまうよ、というわけでいいよ、鑑定でも診察でも、何でも受ける、いいだろ?皆」
神山の問いかけに、中井達以下全員が頷いた。
そう、神山の言う通り、マリスの庇い立てが逆効果になる事もある。むしろやましい事はしていない、生粋の劣性召喚者であると証明して貰えばいい。確かに、優性召喚者からしたら、先の秒殺3勝は信じられないから、申し立てされてもおかしくないのだから。
「ご協力ありがとうございます、では早速」
「お、トイレか?いいぜ行こう」
「は?」
と、ここまでは良かったのだが、神山によるトイレ発言に、マリスも、係員達も目を丸くした。何故ここに来てトイレなのか?鑑定診察でどうして必要なのか?理解できないぶっ飛んだ言葉だったからだ。
「え?尿検査だろ、それで判別するんじゃないのか?」
「しませんよ!?何ですか尿検査って!変態なのかあんた!!」
「ええっ!?」
神山は係員から、変態扱いをされてしまったのだった。
神山の言う尿検査とは、違法薬物使用やドーピングにおける検査方法として使われる。これは現代スポーツにおける検査方法では一般的な方法だ。採取した尿を検査して、違法薬物を使用してないかを検査する。神山は、召喚者もそれで判別するのだろうと思っていたのである。
無論、この世界では違う、優性召喚者達や普通召喚者達は、両手の手の平や甲に刻印が刺青の如く刻まれるので、視認による判別が可能だ。しかし、この刻印を魔法なり塗料で隠すことが出来る、スキル内にもそれらを隠すスキルがあるので、これらも看破して調べる必要がある。
「はい、では検査しますねー」
神山達は横一列に並び、1人の係員が何やらこれまた、男心を唆るメカニックな、それでいて荒廃的なデザインの眼鏡で俺達を見始めた。なんて言うのだろう、スチームパンク?キリキリ歯車は動いて、レンズが開いたり閉じたりとしている眼鏡である。
「検査終わりましたー」
「早っ」
一瞥だけで検査が終わった、そんな眼鏡係員を他の係員達が、彼の走らせる羽ペンに凝視する。
「で、結果は?」
「あ、はい、全員陰性ですねー、生粋の劣性召喚者でしたよ」
当たり前の結果が出た、神山達は全員、まぁそうだろうよと当たり前の結果に納得した。マリスも、万が一を考えていたらしい、胸を撫で下ろした。
「それは本当かね?」
「ですねー、この検査眼鏡、魔法も無力化しますから、偽装魔法も見抜けますし、何より4人からは魔力の流れが余りにも微弱です、我々現地人よりも遥かに下回ってます」
「その眼鏡が壊れていたりは?」
「展覧試合の様々な備品は必ず新調しますのであり得ませんねー、細工されないように開催規約でも決まってますから」
「彼らがそれを上回る魔法を行使した、された等は?」
「痕跡も一切無いでーす」
「そんな訳がない、再検査、いや、見なし失格にすべーー」
「肩入れも程々に、委員会で議題に挙げますよー」
めちゃくちゃに食い下がられたし、危うく見なし失格なる不条理な失格になる所だった。まぁ、その辺何となくだが、そうなっても仕方がなかろうと、神山達は身構えていた。
所謂、ここはアウェーグランド、敵地であり、中井の受付けでのプロレス染みたヒールな動きもあった。審判団から目の敵にされても仕方がないだろう。
ただ、このスチームパンク眼鏡を掛けた女性係員は、公正な判断を下してくれたのだ。ありがたい事である、しかも用具類の徹底した管理といい、展覧試合は意外にも現世の大会からみて、ルールが整ったフェアな大会と判断できた。
「いやしかしだなーー」
「あんたらの気持ちも分かるけどさーー」
ただ、まだ食い下がってきた係員にはイラついたので、俺はそろそろ反論する事にした。
「現に、俺達がそんな細工できる輩に見える?ましてや外壁の人間だぜ?魔法も使えない、劣性召喚者がどうするのよ」
そもそも、そんな事出来る程のつても立場も無かろうよと、俺は係員に宣った。やれクラス偽装とか出来る人間かと。
「次は何か?魔法薬か自然薬の興奮作用でも調べるか?いいぜ調べても、トイレ行くからさ」
「ぬっーー」
こちらで調べておいて、言いがかりも甚だしい。何なら尿検査でも何でもやってやるよと、神山が睨みをきかせて反論すると、係員達はこれ以上何も言う事は無かった。
「ご協力感謝しまーす」
そして、感謝の礼をしたのも、この眼鏡の女性係員だけだった。他にも居たが、口を揃えて『有り得ない』だの『失格にすべき』だの口を揃えて好き勝手言いながら帰っていった。
「なあ、あいつら、無礼じゃない?」
さて、これには河上が苛立ちを覚えたらしい、鯉口を鳴らした。
「どうする?処す?処す?」
これを中井が、そう返せば神山が吹き出した。
「うわー懐かしい」
「河上、係員だけはやめろ、次の相手に……まぁ殺さない程度で」
何とも懐かしい言葉のパターンだろうか、しかし河上の苛立ちは本物、町田がどうどうとなだめるのだった。さて、予選二回戦、いや準決勝になるのか、次が本戦出場決定戦だからと数える神山。
その神山は、ふとある事に気付いて、顔をしかめた。
「うっわ、最悪」
「どうかしたか、神山よ」
神山が皆に振り返り、不機嫌そうな顔で言うのだった。
「トイレトイレ連呼するもんだから、催しちまった」
その三文字が膀胱を刺激したのだと、神山は機嫌悪く言うのだった。
「何だそれ」
中井が少し笑ってしまうが、神山は洒落にならんと、歩いて来た道を戻りだした。
「悪い、小便行ってくるわ」
「おい、女性の前だぞ」
マリスという女性が居ながら、隠す事無く言い放った神山に町田が注意した。神山は小言を言いながらも、余程らしく早足にトイレへ向かうのだった。
さて、それを見送り、角を曲がって神山の姿が見えなくなり、では控え室にとドアノブにマリスが手を掛けた瞬間だった。
「む……」
「え?どうかした、河上さん?」
河上が唸った、そうして中井が如何したかと問うと、河上は目線を横にずらして、背中を向けた。
「すまん、伝染った……行ってくる」
「えぇー……」
尿意が伝染したらしい、河上もまた神山に同じくトイレを目指し始めた。残るは中井、町田、マリス、ニルギリの4名だったが……。
「……中井くん悪い」
「はぁっ、町田さんも?」
ここで町田にも尿意が伝染した、駆け足にその場を去る町田。
何だ?示し合わせたのか?これ、僕も行かなきゃダメな流れなのか?だが別に尿意は無い、伝染してはいない。ニルギリの方を中井は見たが、その気は無さそうだ。
待つしか無いか、そうして中井はドアノブに手をかけた瞬間。
「失礼2人とも、お花を摘んでくるわ」
まさかのマリスが、赤面してスカートを軽く上げ、走れる準備をすれば、ニルギリが少し遅れてスカートを支えた。もう、何も言葉は返せない、背後から可愛らしいリズムと喧しいリズムで2人が去っていく。
「何だよこれ、もう!行かなきゃダメな空気じゃん!」
こうして中井は、別に用もないが、用を足しにトイレへ向かうのだった。
「ふぃー、危ねー……」
俺はは男子トイレにて、開放感から身を震わせた。知らず知らずに溜まっていたらしい。危うく膀胱炎もあり得たかもしれないぐらいだ。
「しかし、この様式とはなー、あー、タイが懐かしい」
そして、この世界の男子トイレは、所謂個別に便器がなかった。石壁があり、その上から緩やかな水が常時流されているという様式で、左からも右からも丸見えである。
タイでも未だにこの様式な公衆便所がある、初めはびっくりしたが、文化の違いを感じたものだと懐かしんだ。
タイか……あの時は本当になりふり構わなかったなぁと、武者修行を思い出す。毎日毎日ムエタイの日々、ボコボコにされて笑われて、微笑みの国の別側面を体感したっけ。
本当ならば、いずれ強くなれば、あの大地に侵攻しに行く筈が、今や馬鹿げた世界で戦っている。彼らなら、この世界に来ても、例え優劣構わず戦うのだろうなと思いを馳せた。
というかだ……優性召喚者が勝てるのだろうか?現地のムエタイ戦士に。
そう考えて俺は……実際にスパーリングして貰った現地のプロ達を思い出して……どーも、笑顔で攻撃を掻い潜り肘やら膝やら当てたり、カウンターしたり、組んで逃がさんと首相撲から膝で、嬉々として嬲る現地のプロの姿が浮かんでしまった。
「負ける絵が見えないんだけど……」
それぐらい、あの人達は強かった。人外魔境なのだ、あの微笑みの国は。聞かされた話だが、海外や日本の団体が掲げる『キックボクシング世界チャンピオン』のベルトを何本取ろうと……タイの国内団体、スタジアムのベルトの強さには追いつけない、と言われているらしい。
日本にも、ムエタイ戦士狩りに成功した選手は居る。タイ国内スタジアムのベルトを巻いた人は居る、そこまで強くなりたいと俺は願っていた。だが、この世界でその夢は絶たれてしまった。
そんな事をしみじみ感じていると、入り口から足音が聞こえた。
「あーくそ、伝染ったぞ神山、どうしてくれる?」
「河上さん……すんません、なんか」
河上さんだった、河上さんもまた尿意を感じたらしい、俺のせいと言われたので、一応謝っておく。尿意って伝染するのか?まぁ、するのかと疑問を感じた俺だったが、河上さんは俺から少し離れた左側にてズボンのチャックを下ろした。
……まああれだ、男子というのはそう、気になるわけだ。ナニのサイズというのが。決してそれで男の価値が決まるわけでは無いが、まぁ横目に見た瞬間。
「うわでけぇ!?」
俺は思わずそう叫んでしまった、それくらい河上さんの◯◯◯はデカかったのだ。それに対して河上さんは、それに対して怒るでなく自信満々に笑って来たのだった。
「そうだろう、中々だろう?俺の◯◯◯は、歴戦で磨いた正しく珍宝に相応しい」
「えぇー、何その自信……」
「まぁなんだ、デカさではないが……ふむ、まだ成長の猶予はあるさ」
「やめてくれません!?哀れな目で見るの!」
ふざけてる、顔は女性寄りなのになんつーえげつない隠し刀持ってるんだ。哀れな目で俺のを見てきた為反論するが、悲しくなるだけだった。
「全く、なぜこうもなるのやら」
「おぉ?町田、お前もか?」
そうして喋っていると、町田さんまでもが現れたのだった、町田さんも催したらしい。
「不思議なものだが、尿意は伝染病なのか?」
「男子あるあるやもしれんな」
町田さんもチャックを下げ、無論排尿に必要な部分を晒す……無論、さっきまでその話をしていた俺と河上さん、町田さんの斜め下を見てしまう。
「ほう……町田、お前も中々の◯◯◯だな?」
「おい見るな、別に大きさで……え?河上デカくない?」
町田さんもデカかった、河上さんと優劣つけ難しなサイズであった。町田さんも、高校生らしい反応をしてしまうくらいに、河上さんのを見て驚いた。
「ふむ、どうなのだ?経験は?」
「いや、まだ……」
「フェディカは抱いてないのか?」
「まだ、そんな感じでは」
下世話な話になりつつあった、そしてここまで来れば、最後の1人も到着した。
「あーもう……マジでしたくなって来た」
「む、中井くんも伝染ったか?」
中井真也、満を辞して登場。溜息を吐いて町田の横に並び、ズボンのチャックに手をかける。
「いやね、マリスさんも行ったし、ニルギリさんは付き従って一人だからさ、何かね?で、今もよおした」
「くく、まさかのTEAM PRIDE四人で連れションとは」
ああ糞と、中井は苛立ちながら、無論同じように曝け出せば……3人全員が中井を見るわけで。
「えっ!?何!?怖いんだけど!!」
「……まぁ、あれだ中井に神山よ」
「まだ、猶予はあるさ」
「何の話!?」
「ナニの話だ、中井……河上さん、やっぱ遺伝なんすかね、日本男児は小さいのか?」
「俺も純日本人なのだが?」
「嘘つくなよ?父が母方に外国人居るだろう、ブラジル辺りからとか?」
「何故にブラジル?だから◯◯◯は大きさではない、持続力と硬さよ、俺は全て持っているがな」
「あんたらさっきから◯◯◯の話で盛り上がってたのか!?恥ずかしいからやめてくんない!?」
女三人集まれば姦しいとなる、では男四人集まれば、喧しいとは正しくこの事。こうしてTEAM PRIDEは、練兵場の厠にて、股座にぶら下がる珍宝談義により、絆を高めたのだった……ろうか?
一方、女子トイレ前。
「ニルギリ、◯◯◯って何?貴方にも付いてるの?」
執事ニルギリ、答える事できず。




