幕間 優性召喚者達の憂鬱
『あれが……劣性召喚者なのか?』
『絶対嘘だ、有り得ない……劣性召喚者があんなに強いものか』
『だが現に倒してるぞ、サーブルクロスを』
『大方話題作りの嘘だ、すぐに大会委員が調べて不正を暴くさ』
TEAM PRIDEという劣性召喚者集団が、本戦にも出た新鋭強豪チームサーブルクロスに完勝。この事実を垣間見た優性召喚者達の反応は、このパターンに収まった。
それを事実とは認めれず、優性召喚者が身分を偽り、話題作りの為にそうしているのだと。
それだけ、この世界における『優性』と『劣性』の差は激しい。劣性召喚者が、優性召喚者を倒す事は、まずあり得ないとして話が進むのだ。故に、この反応は当たり前であった。
「おっそろし……」
その当たり前の中で、受け入れられぬ『異質』を受け入れた者も居る、理解した者も居るのは確かだった。
「大口を叩いただけある……本当、あっちで強かったタイプだ、しかも、習ってた程度じゃない……」
短髪に刈り込んだ少年が、練兵場で蹲り叫ぶ大将を見ながら呟いた。その服の背中には銀色の龍のデザインが刺繍されたジャケットを羽織っていた。
「なんだ長谷部?分かるのか、あいつらの強さが?」
同じく、その横で、ウルフヘアにヘッドバンドを巻いた少年が、前の席の背もたれに足を乗せて、口をクチャクチャと鳴らして同じく練兵場を見下ろす。
「うん、強いよ、下手な上位職も、対策しなきゃダメなくらい……」
「お前と同じか、なんだっけ?ボクサーってのか?」
「違うよ西谷くん、最初のはグラップラー、二番手は空手家……三人目は……サムライ?」
「あいつマジ頭おかしいだろ、なんだよあの振り、剣聖もあれ程早く振れないぜ」
ウルフヘアの男、西谷は三人目に出てきた剣士を、頭おかしいと、その腕の凄まじさに吐露した。長谷部は、とぼとぼと去りゆくTEAM PRIDEのリーダーを見てその姿をしかと焼き付ける。
「ムエタイ……かな、凄い因縁の巡り合わせだよ」
短髪の少年長谷部は笑いながら、観客席から立ち上がってそう呟いた。
「すぐ他の2人を呼んで、対策を練らないと……竹原と伊佐美は下かな?」
「控室だろう、さっきの試合で結構疲れてたから寝てるぜ、多分」
「なら、起きたら対策会議だ、昼の一番目だし、負けられないからさ」
観客席から去ろうとする長谷部を見て、西谷はまだ立ち上がらず練兵場を見る。ある一部の芝生が、血に染まっているのを見て、西谷は冷や汗を垂らしながら呟いた。
「順番通りなら、あのサムライと俺がやんのか、かーっ……恐ろし」
「はっーー!?」
尾田健一が意識を取り戻したのは、ベッドの上であった。目蓋を開いて思い切り起き上がり、どうして自分がベッドで寝ていたのかすらも理解できず、左右を見渡した。
「あれ、え、予選は……」
確か、自分は展覧試合の今年の予選に出場する為、練兵場に来ていた筈だ。何故ベッドで寝ている?ふと、自分が寝ているベッドを確かめたら、この世界の自分の寝屋とは違う事にも気づいた。
「あれ?え、寝坊した?あ、え?んぅ?」
記憶が混濁している、どうかしている、何かを忘れていると頭を掻いていると、部屋の扉が開き、見知った男が入ってきた。羽瀬沼大輔、自分達サーブルクロスを束ねるリーダーだ。
「尾田……目を覚ましたんだな」
「羽瀬沼……試合は?まだ始まってないよな?まだ戦ってないよな?」
尾田から放たれた言葉に、羽瀬沼は驚いた。それに対して尾田は、顔を俯かせてベッドの近くの椅子を引き出し、そこに腰を下ろして、おずおずと口を開く。
「尾田、負けたんだよ……俺達、三島も、あんたも……真希も……」
「えっーー?いや、俺まだ戦って」
「負けたんだよ!!TEAM PRIDEに!!」
羽瀬沼が強く叫んだ、その事実を否定したくて仕方が無いほどに強く叫んだ。その声に身体を跳ねさせた尾田だが、記憶の混濁という尾田に起こった事は、珍しく無い話だった。
「三島は腕折られた、尾田は1発で失神した……覚えて無いか?」
「あ、いや……!?」
羽瀬沼より話を聞かされて、尾田はその瞬間を思い出した。フラッシュバックで甦る、あの一瞬の時間、飛び込んで来た男、迫る拳、顔面の痛みと星が飛んだように真っ白な世界……。
尾田は顔に触れた、それが引き金となり、鼻周辺が潰れたのを思い出した瞬間、ほんの少し痛みが走った。鼻あたりを触るが、異常は無い……いや、治癒魔法で治されたのだろう。この世界の医療、治癒は、現世とは比較にならない程凄まじいのだ、複雑骨折すらもすぐに治し、切断した腕も縫合手術無しで完治し、リハビリも不用ですぐに動かせる程だ。
「思い出したよ……」
「そうか……」
やっとの事で、尾田は自分が敗北した事を思い出した。だが、そうしてやっと事実を反芻できて、尾田は羽瀬沼に向き直る。
「え、負けたって……真希は、お前は?」
そう、自分だけではない、チーム全てが敗北した事実を理解したのだ。三島が負けたのはこの目で見た、では真希は?羽瀬沼、お前はどうしたのだと聞くと、羽瀬沼は下を向いて語り出した。
「真希は……殺された」
「殺されたって……え?冗談だよな?」
「……」
真希陽二は殺された、その事実は如何にも冗談にしか聞こえなかった。悪い冗談だと、だが羽瀬沼は否定せずに何も言わない。
「悪い冗談だろ、なぁ羽瀬沼、なぁ……」
「三人目の剣士に……袈裟に斬り裂かれて死んだ……今は、蘇生院に送られてる……けど、闘士としてはもう……」
事実であった、否定して欲しかったと尾田は、リーダーより語られた事実にベッドの布団を強く握りしめる。だがしかし妙であった、チームが負けたならば……何故、目の前のリーダーが、こうして傷一つ無く、自分の病室に入ってきたのだ?
「羽瀬沼……お前はどう負けたんだ?」
それを聞いた瞬間、羽瀬沼は身体を震わせた。そして、押し黙ってしまったのだ。何も言わず、ひたすらに押し黙る様に、尾田は気付いた。
「ま、まさか、棄権したのか……」
棄権の二文字、それを同じ優性召喚者ではなく、劣性召喚者を相手にしてしまったのか?羽瀬沼は尾田の言葉に否定をしなかった。尾田は、この時呆れだとか、怒りだとか、そんな物は抱えていなかった。やれ逃げたのか、やれお前だけ戦わなかったのかだとか、そんな事より事実確認したかったのだ。
「教えてくれ、棄権したのかとーー」
「したよ!ああ悪いか!逃げたさ、逃げたんだよ!!」
羽瀬沼は叫んだ、逃げて悪いか、棄権して悪いのか?
自分自身の行いを肯定する為に、語気の強さだけで言い負かしに掛かる。
「怖かったんだよ!三島は腕折られて、お前は1発で負けて、真希は殺されちまった!そんな事無いだろうって、負ける筈ないって、そしたらどうだ!?真っ向からボロボロにされちまった!ありゃ化け物集団だよ、怖くなって、気付いたらもう……ベンチから逃げてたんだよ」
羽瀬沼の何も隠さない叫びに、尾田は……何も答えなかった。逃げたという事実は、もう覆せない。この事実はやがて広まっていくだろう。
『息巻いた劣性召喚者チームに大敗北し、リーダーは逃げた優性召喚者チーム』として。
そうなれば終わりだ、以後たとえ、劇的な勝利を挙げても、この過去に苛まれるだろう。それに、そんなチームを養う程、うちの貴族は優しくは無い。
尾田は確信した『サーブルクロス』は今日で終わりなのだと、もう二度と立ち上がる事はできないのだと。
これもまた運命なのか?はたまた、運が悪かったのか?それに答えを出してくれる人は居ない。ただ一つ、尾田は目の前で歯を食いしばり嗚咽を響かせる羽瀬沼に、書ける言葉も出てこない事に、小さなため息を吐くしかなかったのだった。




