鮮烈なるデビューを 2
「まず、言う事はありますか?」
「「「「すいませんでした」」」」
俺達全員、現在どうしてるかって?今、当てがわれた控室で、マリスさんとニルギリさんの前で正座して、謝ってます。まぁ、戦う前からあんな惨事起こしたら、怒られるのは当たり前だし、何よりマリスさんの目的が潰えそうだったので。
TEAM PRIDE全員、正座して謝ってます。
「貴方達が戦いに飢えてるのはわかります、特にマナト、私も展覧試合前に組めなくて悪かったわ」
「はい」
「けど、私は貴方達が優勝する実力があるから、雇ったのです、お分かり?シンヤ?」
「ありがたいです」
「キョウジ、落ち着いている貴方は止める側でしょうに」
「面目次第もございません」
「貴方達の不始末は、即ち私の不始末、それを理解して欲しいわ、大人のシンタローなら分かるわよね?」
「サーセンっしたー」
でも、マリスさんは強く叱らなかった、自分が展覧試合の日程を弾丸にしてしまったのも悪い、本来なら代理決闘をもっとさせたかった事も悪いと言いつつ、俺たちを宥めるようにしっせきしたのだった。ただ、ニルギリさんの無言の圧力が、本当に怖かった。そろそろ喋って欲しい。
「まぁ、失格にならなくて良かったわ、早速予選相手も決まったみたいだし……」
とりあえず、失格しなかっただけ結果オーライと、マリスにより許しを得て、全員正座から立ち上がった。
「しかし、両チームがいいなら一回戦指名できるとは……まぁ、誰が相手だろうがぶっ倒すだけだけどなぁ」
俺はもう、身体がもう疼いて仕方なかった、本気の戦い、本気でムエタイを使える、準備運動が必要無いくらいに俺は今、意気揚々として仕方がなかった。
「そう肩肘張るなよ神山くん、約束は守るからさ」
中井も、つまみ食いして気分がいいのか、俺に軽く肘鉄砲を当てて焦るなと諭して来た。
いよいよ、予選が始まるのだ。開会式とか無いあたり、何というかアマチュアの地方大会みたいだ。あくまで予選として、本戦出場のチームを決める大会である。
さて、まずはトーナメント表を見なければと、俺は先程マリスさんから係員に手渡され、待合室の机に置かれた、トーナメント表を見たのだが……。
「そうだった、読めない……あ、でも何だ?4の5の6……ほー、1ブロックに8チーム、それの4ブロックだから?32チーム出てんのか……てことは128名の闘士がここに?」
字は読めないが、トーナメント表の形は現世と変わりない。トーナメントブロックは4つ、ブロックにチームは8チーム、つまりは32チームが登録してあるのが俺にも分かった。
「どれ、見せてろ……TEAM PRIDEは……第一ブロックの2試合目、次すぐだわ」
先程喧嘩を売って来た『サーブルクロス』とは、第一ブロック2試合目、すぐ始まるらしい。
「つまり、僕たちは3回勝ち上がったらいいわけか……1日でやるの?ワンデイトーナメント?」
計算すれば、本戦出場には3回勝ち上がればいい、しかしそれを1日で終わらせるのかと、中井はそれが気になった。
1日で日程を全て終わらせるトーナメントは、ワンデイトーナメントと呼ばれる。通常の格闘技の興行ならば、シリーズとして1年から9ヶ月を掛けてトーナメントを行う。この場合は、選手は1試合のみの出場、その戦いにのみ集中して、そこに対策を打てる。
ワンデイトーナメントの場合は、1日何戦も戦うことになる。これは即ち、全日程を通した対策を立てる必要が出てくる、全試合をフルに戦えるスタミナ、ダメージを受けない為の徹底した対策、次に戦う相手のダメージ……戦略を練る必要が出てくるのだ。
「今日だけで、全ブロックの準決勝までやるわ、その後の決勝は一ヶ月後、シダトアリーナで興行としてやるの、展覧試合出場チーム決定戦としてね」
成る程、そんな日程か、つまりこの日だけで2回は戦う事になるのだなと、俺達は理解した。
「っし、じゃあ……試合前に、あれ、やりますか!」
なら、試合前にやる事があると、俺は皆に提案した。
「あれ、とは?何だ神山くん?」
町田さんに尋ねられ、中井も河上さんも、マリスさんも首を傾げた。無論、決め手などいない、俺が今言い出した事である。それはーー。
「円陣だよ円陣、実は考えてたんだ、TEAM PRIDEの円陣!」
「エンジン?」
円陣とは、様々なスポーツにおける、試合開始前における、気合を入れる儀式である。チーム全員ないし、関係者で円を作り、そのチームが決めた様式のコール&レスポンスを行い、士気を高めるのだ。
俺はそれを考えていたと、皆に伝えた。
「円陣か、いいな、やるか!」
河上さんがいの1番に承ってくれた、それを見て中井も、町田さんも笑みを浮かべ、俺に近寄ってくる。
「ほら、マリスさんもニルギリさんも!」
「え!?わ私たちも?」
「当たり前ですよ、俺達を従える貴族なんですから!」
雇い主が加わらなくてどうする、俺の呼びかけにマリスさんも、ニルギリさんも、おずおずと入り、総勢6人の円陣が出来上がった。
「それで、どうするのさ、TEAM PRIDEの円陣は」
「よし、まず右手を出して上に上に……」
中井の円陣への質問に、俺が考えた円陣の方法を教える。まず、俺が右手を出した、それに続いて中井が、町田さんが、河上さんが右手を重ね、ニルギリさん、マリスさんと右手を重ねた。
「で、俺が、TEAM PRIDE、やれんのか、おい!って言うから、皆でやってやるぜ、おい!で上に右手を跳ね上げる、そんな感じで!」
「やれんのか……か、格闘技でその言葉ってさ、すっごい浸透してしまってるね」
『やれんのか?』この五文字は何故だか、格闘技に携わる日本人、関わった日本人には根を張るかの如くに染み付いている。それを中井に言われて、本当だなと俺は笑った。
息を吸う、いよいよ、始まる……本当の試合、戦いが、ここから始まるのだ。
「TEAM PRIDEぉお!やれんのかッッ!おいッッ‼︎」
「「「「やってやるぜ!おいッッ‼︎」」」」
全員が右手を抱えた、マリスさんもコールをしてくれた、しかしニルギリさんはやはり喋らない。最早喋れないのかな?後で聞こうと、微かに頭に思いつつも、俺達は待合室の扉を開けるのだった。
シダト闘士練兵場は、内地の闘士達が日々修練を重ねる、鍛錬のための施設である。吹き抜けの二階建てであり、真上から見れば、横長長方形。正面の出入り口は東側とした時、北と南に三つずつ、練兵場の入り口がある。西側と二階に控室があり、二階からは練兵場が見下ろせる観客席がある、内地の小さな興行にも使われているらしい。
練兵場は普段、様々な器具が置かれたりしているが、それらを全て取り払い、公式試合用の準備が設けられていた。地面は芝生であり、地方のサッカー場を連想させた。
俺達は南側に案内され、その練兵場に出た。一応野球場で控えやら選手が待機する屋根付きの席があったので、そこで待てば、対面側からゾロゾロと、先程俺達に喧嘩をふっかけ、第一回戦として指名して来たチーム『サーブルクロス』が出てきた。
全員、銃士を思わせる貴族の騎士?をイメージした出で立ちであり、全員がサーベルを帯刀している、服はチェック柄、鍔広帽子を被る輩も居た。
その中には、先程中井が左手を破壊してやった三島とやらの姿があり、その左手は何事も無かったかの様に完治していた。
「うっそ、ガチで治して来てる……」
中井としては、全治数ヶ月ものの筈だった、左手の指骨全ての粉砕骨折、手首の解放骨折及び脱臼、肘関節脱臼、それがたった数分で全治しているのだ。
「相手方の治療班に僧侶が居るわね……層が厚いのは羨ましいわね、私にはできないもの」
これまた、クラスとスキルの違いか。まるで、弱小クラブと全国区クラブの試合を思わせる差だ。設備から何まで、持っているのだろう。
それが実力に結びつくかは、分からないがなと思いながら、早速アナウンスが入る。
「えー、展覧試合第一ブロック予選、第二試合始めます、それぞれの先鋒、中心まで出て来てください」
いかにも事務的なアナウンスだった、見れば練兵場敷地内にて係員が、金属製メガホンで呼びかけて来た。これを聞いた中井が、早速上着を脱ぎ始めた。
「よし、じゃあさっさと勝ちに行ってくるよ」
靴も脱ぎ、素足になり、中井はハーフパンツ一着だけの姿になる。いかにもなMMAファイタースタイル、そして鍛え上げられた肉体に、俺や町田、河上さんは唸った。マリスさんは、赤面しながらマジマジ見ていた。
「ガッチガチだね中井くん、ロシアンパワー全開じゃん?」
その甘い顔からは想像できない肉体に、河上がクスクス笑ってロシアンパワーとサンボに肖ったらしい言葉を送る。
「まぁ、ウォームアップして来ましたからね、張りもありますよ……見てな、5秒、いや6秒で勝つから」
待機場から出て、俺達に指差して5秒で勝ってくると、芝生を小走りで駆ける中井、対して出て来たのは、三島だった。
「秒殺とは大きく出たな、しかし……何故6秒なのだ?」
中井の秒殺宣言と、中途半端な秒数への言い直し、それに首を傾げた町田さん。しかし、俺はその秒数と、中井が考えている事に、あっと気付かされた。
「あー、中井……あれやる気か?」
「あれ、とは?」
あれ、それが何を指し示すのかは町田さんにも、河上さんにも、ましてやマリスさん、ニルギリさんにも分からなかった。しかし、この異世界の大地で、現世の伝説を再現する気で、中井は向かったのを俺は理解していた。
芝生の上を小走りして、中井は練兵場の様相を見た。二階からは今にでも殴りかかって来そうな、受付に居た召喚者達が、中井を、そして三島を見ていた。
三島が受付けで、いい様にされたのは間違いで、それがこの場で証明される、化けの皮を剥がしてやれと言いたげな雰囲気が醸し出されていた。
TEAM PRIDEより中井、そしてサーブルクロスより三島が、芝生の中心に立ち、睨み合う形になり、その間に審判が入った。
「展覧試合予選ルールは、本戦と同じです、指や武器による目への攻撃、及び股間への攻撃、噛みつきは禁止となります」
命を奪い合うかもしれない戦いながら、目と股間への攻撃、噛みつきは禁じられている。配慮か、はたまた文化的な意味合いがあるのかは知らない。
「互いに悔いが無い様に、握手」
審判より、あいさつが命じられる。中井は右手を差し出した、笑顔で、優しく笑って。これに対し、三島は先程の痛めつけと中井の顔を思い出し、拒否して下がりだした。
中井は、まぁいいかと審判を一瞥してから、了解と後ろへ下がった。ちょうど石灰で、下がる場所が引かれている。
三島がサーベルを抜く中、中井は肩を回したり、その場を飛んで、手をぶらぶらさせたりとした。そのまま、体を前傾させ、合図を待つ。
「いいか?準備いいか!?」
審判が中井、そして三島を指差し準備ができたかを聞いた、互いが審判に頷いた瞬間!審判が縦に右手を振り下ろした。
「ッジメィいい!」
審判による開始の合図、そしてゴングの代わりだろう、鐘が鳴り響いた瞬間だった。目の前に居た審判が、サーブルクロスの闘士達が、二階の優性召喚者達が、そして町田、河上、マリス、ニルギリが……この予想だにしない『6秒間』を目に焼き付けたのだった。
だだ1人、神山真奈都だけは、この『6秒間』を予測して言い当てたのである!
「行け中井!飛び付き腕十字だぁああ!」
0.36 開始の合図に、中井が跳ねる様に、三島へ走りだした。
1.28 驚く三島、中井の両手が三島を捕らえる!
2.05 ホールドされた三島へ、中井が飛翔しーー。
3.47 中井の腕が、三島の先程破壊して、直したばかりの左腕を引き伸ばす。
4.32 中井の体重により、地面に引き倒される三島、腕は既に悲鳴を上げ。
5.85 中井と三島、審判にのみ『音が』聞こえ。
6.02 三島、再び絶叫!日に二度の絶叫!治したばかりの左腕肘関節脱臼!
「ひぎゃあぁああああああああ!がぁああああああ!!」
「っしゃああああああ!!いっぽぉおおおん!!」
三島の腕から離れ、中井は立ち上がる。両腕を広げて芝生をサイドステップで駆け巡り、勝利を示した。




