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幕間 現世の端話

さて、チーム名は決まった訳だが、いよいよ展覧試合予選へ向けての準備が必要になる。神山は改めてソファにて、今後何をすべきかを取り仕切る事にした。


「はい、という訳でTEAM PRIDE結成した訳ですけどね……僕らもまぁ、強さには自信を持っているわけですが……やるべき事をやっておこうと思う訳ですよ」


「やるべき事……とは?」


神山の導入に、町田が疑問を孕んだ返事をすれば、神山は頷いてそれに答えた。


「そも、俺達がこれから戦う優性召喚者達は、いかなクラスを持ち、いかなスキルを持っているのか?という事だ、それを知るべきだろうと思うわけだ」


TEAM PRIDE一同、それには反論の余地はなかった。


現世の格闘技においても、試合前には入念な調整は必要不可欠である。軽量までに規定体重までの減量と、そのスケジュールの構築、対戦者の情報収集と、その相手に合わせたトレーニングによる、弱点の克服。


神山達はアマチュアではあるが、その実力はプロにも比類しているのは間違いない。ただ、河上だけはアマチュアやプロには分けれない為、この世界で実践を積み始めたが、通用しているのが分かる。


アマチュアでも、強い相手の情報は流れてくるが、地方大会だと、その情報の少なさに、出たとこ勝負になったりする事もある。


情報は馬鹿にならない、知っているだけで、対策も立てて戦えるという優位性は、それだけでストレスも軽減できるし、戦いを優位に進める事ができるのだから。


「確かに、僕らってその辺全くじゃない?町田さんも河上さんも、どれくらい知ってる?」


「いや、それが余り……」


「私は剣士のクラスを狩っていたが……他は聞かないな」


由々しき事態だ、敵を知らずに戦いへ向かうなど、あまりにも無謀極まり無し。とりあえず、最初にやる事は決まったと皆が頷いた所で、彼らの主人が椅子から立ち上がる。


「なら、私に任せて?ニルギリ、羊皮紙とインクと羽ペンを用意して」


マリスが、ニルギリに小道具の調達を命ずれば、一礼して彼は執務室から出て行った。対してマリスは、執務室内の本棚から、一冊の本を取り出して、神山ら闘士達のテーブルに置くのだった。


「これは?」


「職業異能大全……このシダトで召喚の儀式が行われてから、召喚者に発現した様々なクラス、スキルが記録された本よ」


願ったり叶ったりな書物が出てきた、それを前にした神山達、そして神山がその本を開いてみた……が、問題はここで発生した。


「読めない……字が分からない、絵もあるから想像できるが」


そう、神山達にはそれが読めなかったのだ、この世界の文字が。中井も町田も見たが、同じ様に全く読めない、これにマリスが顔を苦しそうに表情を作った。


「やっぱり……劣性召喚者は、喋れるけど字は読めないの……クラスかスキル、どちらかに目覚めていたら、この文字も読めるのだけど」


神山達はこの事実に驚いた、即ち劣性召喚者達は、この世界において、普通の生活すらままならないと言う事になる。識字率の差が召喚にも現れるとなれば、成る程劣性召喚者は外壁の奴隷や娼婦にされても、おかしくは無いわけだ。


また一つ、この国の闇を見てしまった神山達だったが、河上だけはその書物を、次々とめくっていたのだった。


「河上、読めるのか?」


町田が河上の本をめくる様に問うと、当然とばかりに宣った。


「無論、この世界に来て独学でな?この程度の言語、3日あれば余裕だ」


河上の言葉に、中井と神山までもが河上を見た。何とまぁ自信満々に言うのか、信じられないものだと神山は、少々懸念を見せた。


「マジっすか河上さん、ならちょっと喋ってみてくださいよ」


神山から振られた頼みに、河上はふむと妖しく笑って、マリスに顔を向けた。そのまま、河上の口が動き、聞いた事もない、本当にこの国の言語を喋っていた。面白い事に、マリスが話す言葉は日本語に和訳されて聞こえるのに、河上が喋ると訳されないと言う、何とも首を傾げたい現象が起こったのだ。


しばらく話をしていると……マリスの顔がみるみる内に赤くなっていき、河上は意気揚々と話を続けてーー。


「あいたぁっ!?」


マリスが河上の頭を張り手でスパァン!と引っ叩いたのだった。


「いや冗談だ冗談、本気にするな」


「せ、セイタロー、そんな話を臆面無く女性にするのは、セクハラよ?」


「いや、なに喋ったのあんた!?」


とりあえず、下ネタ話をしていたらしい事は分かる。マリスにシバかれ、赤面してセクハラと断じた。にしても一体、河上はなにを口走ったのかと神山は、主人のマリスがシバキあげる程、失礼な会話の内容が気になるのだった。


しかし河上、咳払い一つをしてこれをごまかして、大全を開きながら、神山達に伝えた。


「マリス嬢と私が読んでいくから、他3人は日本語で羊皮紙に書き出してくれ、それで資料を作ろう」


和訳資料の作成から、TEAM PRIDEの活動は始まった。



「格闘って何だよ格闘って、これスキルなのか?しかもプラスとかなんだよ、どんな風に定義付けされてんだ?」


「魔法プラス……とかならさ、まだ理解できるけどその辺イラッてくるよね、サンドバッグ叩いたりスパーリングした事あんのかって感じ」


「疾風と速度強化?どう違うのだ……あー疾風は魔法に依存、速度強化は肉体に……魔法、あるんだな」


「ふむ、剣士と戦士の違いは、剣の扱い特化か、他の武器も満遍なく使えるかとは……どうやら狩る相手が増えたか……なに?上級職?ふむ、つまりカイトは上級職とやらだったか」


河上とマリスが大全を読みつつ、神山他2名にて日本語で羊皮紙に『クラス』『スキル』を書き記していく。それだけでなく、気になった文面や解き明かすべき疑問を見つければ、それも漏らし無く書いて行った。


一枚、また一枚と積み重なる羊皮紙が、何というのだろうか……懐かしみを感じ始めた。


「何だろうね、これ、班で分かれての調べ学習っぽくない?」


中井がそう口走ったので、皆があぁ確かにと同調した。


「日本史とか社会とか……小学生までくらいかな?」


「私は高校でもしたな」


「あ、河上さん現役大学生でしたよね?大学ってどうなんですか?面白いですか?」


そこからであった、女三人集まれば姦しい、なれば男四人集まれば喧しくもなる。中井の一言から、現世の学業事情に話が始まるのだった。中井は進学希望だったのだろうか?河上が大学生だった事もあり、その辺が気になったらしい。こんな世界に流れ着いた以上、望みは絶たれているも同じだが。


「私とそれ以外の学生では、全く参考にならんと思うが?」


それでも、気晴らしにはなるだろうし、答えないいわれも無いので、河上は中井にそう言った。


「普通ならサークル活動に、アルバイト、恋愛……最後に勉強が大学生というイメージだろうが……私はこれを続けているし、父の跡を継ぐ為に経済学部に通って、ガッチガチに単位を取って休日作って……全て剣術稽古に当ててたな」


だが、中井が求めていた様な話は無かった、剣狂いは、大学生活でも剣狂いであった。


「ガチじゃないですか、じゃあサークルとかも?」


「入ってないな、というか事件あったし、あまり良いイメージも無い」


「事件って?」


「サークルの飲み会で酔わせて、集団で……嘆かわしい」


そんな類の事件は、ニュースだけの話では無かったのか、いや、実際あるからニュースになるわけだ、それが通う大学であったとなれば、嘆かわしいなる言葉にも納得いった。


「君らはどうだ?花の高校生活……」


さて、となれば河上からすれば、神山、中井、町田の高校生活は如何にと問われると、皆が肩を落とした。


「学校、ジム、家のローテっす」


「同学年から皆敵視されて、放課後はヤンキー狩りしてました」


「神山に同じ、学校と道場の繰り返し」


華やかさから離れた学生生活に、河上は、やっちまったと苦笑いを浮かべた。神山と町田はまぁ、自ら選んだ道だが、中井は中々にバイオレンスな学生生活を送っていたらしい。


「そ、そうか、なら聞くが……恋愛とか青春に憧れたとかは?」


ならば、その合間にも絵に描いたような青春を求めたりはしたかと、皆に聞けば神山と町田は、はっとして口を開いた。


「いや、無いですね、プロのデビュー戦向けて調整してました」


「そうか、神山くんはデビュー前だったな……僕も、空手の稽古が日常化してたし、頭に無かったよ」


言われてみれば、俺達の青春こそ格闘技で、決して色を失っちゃいないし、女にかまける程意識は無かったなと、神山と中井は笑みを見せた。ならそれでいいかと頷く中に、中井だけは皆から目線を外した。


「はっ、馬鹿な男に股開いて腰振る中古雌猿と、誰が恋愛なんて高尚な真似をしてやるか」


中井真也、めちゃくちゃ拗れていた。羽ペンを置いてソファにもたれ掛かり、機嫌悪そうに口を悪く語り出す。この言葉には神山み中井も、そして河上も苦笑いを皆一斉に浮かべるのだった。


「そんな中古雌猿馬鹿女が、妊娠して学校で出産だの、自主退学して結婚して、結局育てられずに虐待とかするんだ、そんな奴らと恋愛なんて成り立たない、ただの性欲発散しか頭にないんだよ」


「わーわー、中井くんすんごい捻じ曲がってる」


「色々あったらしいな……」


中井の学生生活は、よほど荒んでいたらしい。端々で過去の話が語られてはいたが、現世ですら血生臭い生活をしていたのが分かる。最早女性不信まで、女性に対してもあまり好感はない様だ。


「ほんと、真面目に生きて悪いかってんだ、お互い見なければいいだけだろうが、んだよ、陰キャだ陽キャだ決めつけやがって……あームカつく、思い出すだけで腹立たしい」


「けど、そんな輩をグシャグシャにしたんでしょう?」


「ご名答」


気が滅入るので、神山がそんな輩をボコボコにしたのだろうと、中井の舵を切った。


「神山くんはどうなの?喧嘩したりは?」


「したね……ジムにバレない様に」


「真面目だね……まぁ、僕は先生がロシアに帰っちゃったから、叱る人も居なかったし、好き勝手してたよ」


対象年齢とIQが下がった、喧嘩自慢話になりつつあった。しかし、それから神山が河上に瞬きを見せたところで、意図を理解した河上が、うおっほんと咳払いをする。


「続き、真面目にやろっか」


話はここまでにしようと、河上から指導が入り、神山も中井も羽ペンを握りしめた。


「そうだな、で、河上?次は?」


「あー、ユニークスキルだと、別紙のが良さそうだ」


野郎四人による調べ学習が続く、そしてそのご主人様たるマリスはというと……。


「みんなー、お菓子できたわよー、食べる人ー」


「「「「はーい!」」」」


早々に河上に読むのを任せ、闘士達の菓子作りを行っていたのだった。

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[一言] 河上君、遊び人装っていながら実は純愛系? そして童貞?
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