結成、『TEAM PRIDE』
「皆、集まったわね」
シダト国、外壁南東の富豪住宅区域、マリス・メッツァーは邸宅内にある談話室に、契約した闘士全員を集めた。マリスは談話室の執務机に手を置き、目の前のソファに座る四人を眺めた。マリスの背後にはニルギリが直立不動に立ち、あいも変わらず瞬き一つしない。
神山真奈都、中井真也、町田恭二、そして昨日見事神山が勝利し、マリスとの契約を受けた河上静太郎の四名が、一堂に介して談話室に集合した。神山は顔面に、横一文字に付けられた傷を、包帯を巻き付けて止血しており、河上も少し顔が腫れている。
神山と河上の決闘から、翌日の事であった。
「まずは、皆、こんな没落貴族の闘士になってくれた事を、改めて感謝するわ……これで、私も本格的に貴方達を闘士として、色々とさせてあげる事ができる」
マリスが、まずは礼をと立ち上がり、頭を下げた。内情も知らずに、ただ闘士になって欲しい、それだけで集まった四人への感謝を、そしてこれからは闘士として何をするか、出来るのか、話はそこから始まった。
「まず、最大の目的、展覧試合……貴方達にはこの展覧試合に出場して、優勝を狙って欲しいの」
展覧試合ーー。それの優勝が、マリス・メッツァー最大の目的である。壁に遮られた内地の、神聖闘技場という場所で行われる、年に一度の闘士達の祭典。
その時ばかりは、外壁住まいの平民達も内地へ入る事を許され、闘士達の戦いに熱狂する、シダト国最大の祭典である。この首都たるルテプ以外からも、シダト領内の平民達が押し寄せるらしい。
「展覧試合、そう言えば四人集まったけど、どんな試合形式なんですか、マリスさん?」
さて、ではその展覧試合の試合形式は如何に?中井の質問にマリスが答えを返す。
「4対4のチームによる勝ち抜き戦になるわ、どちらかが全員倒れたら負け、試合時間は……蝋燭があるのだけど、それが無くなるまで、蝋燭が無くなって勝負がつかないなら、両者敗北になるわ」
それを聞いた一堂は、それぞれが口を開いた。
「成る程珍しい、剣道の団体戦にも似てるな、あちらは4人制は無く、3人、5人、7人制だが」
河上静太郎は、この形式は剣道の団体戦に酷似していると例えた。それにうなずく3人の中で、神山も口を開く。
「蝋燭が無くなるまで正確な時間、先に調べとくべきだな、ラウンド制ですらない、10分程度なら昔の格闘技黎明期の総合の時間になるか」
「そうなると、戦略はだいぶ変わって来るね、仮に……本当にまずい相手なら蝋燭が無くなるまで逃げるなり、塩漬けする戦法もできる」
神山の話に中井も続いた、ラウンド制ではない、真剣勝負のルールで団体戦戦、引き分けが両者敗北ならば、それを利用する事もできるだろうと、もう戦略を練っている。
「となれば、戦う順番も決めなければな、先鋒、次鋒、副将、大将となるが?」
そして町田が、それを念頭に置いた上で順番を組もうと言い出したところで、マリスが待ったをかけた。
「ちょちょちょ、皆待って、まだ続きがあるの」
気が早いと皆を諫め、マリスは一つ咳払いをするや、話を再開した。
「展覧試合に出るには、まず予選を勝ち上がらないとダメなの」
「まぁ……そーだよな」
マリスの話からして、予想はしていた。展覧試合とやらにも、予選はあるだろうなと。神山が頷けば、皆がしてうんうんと頷く。
「それで、予選から上がれるのは4チーム、その4チームが去年のベスト4のチームと合わせたトーナメントが、展覧試合本戦なわけ」
展覧試合の内容が、鮮明に浮かび上がってきたところで、ふと神山が手を上げた。
「あのさ、皆、悪いけど……今更なんだけど、気づいた事があるんだが」
神山が、神妙なる面持ちを見せた事により、マリスも、そして他の3人も神山を見た、そして神山は皆が此方を見た事により、気付いた事を口にしたのだった。
「俺達……チーム名決めてない」
静寂が、談話室を包んだ。
「あのさぁ、神山くん?今はそんな事……」
中井は呆れ果てて、文句の一つを言おうとした刹那。
「やだ!すっかり忘れてたわ!予選参加の書類にチーム名書かないといけなかった!」
「って、エェエエエエッ!?」
我らがご主人、マリス・メッツァーが、そうだったとチーム名が決まっていない事を思い出したのだった。
「というわけで、第一回チーム名決めを行おうと思う、誰かいいチーム名、ありますでしょうか?」
さて、そうなれば展覧試合の内容の前に、チーム名決めだと、マリスから神山に司会が変わり、中井、町田、河上がそれに応答するという形を取り、マリスは執務机にて出てきたチーム名を書き記す事になった。
「はい」
まず、中井がめんどくさそうに手をあげた。
「はい、中井くん」
「適当でいいでしょう、チーム1とか、2とかで」
もう適当に、チーム1とか番号で良かろうと中井が語ると、神山は顔を横に振った。
「ゲームのデフォルトじゃないんだぞ!はい次!」
そんな手抜きが許されるかと即却下、他に案はと神山が促す。
「んっ」
「河上さん」
次いで挙手したのは河上だった、河上はニカニカ笑いで、思いついたチーム名を提案した。
「ではここは、十字架を両脇に置いて"十終末の戦士団十"とか"十漆黒の旅団十"とかどうだろう」
「明らかにネタ枠じゃねぇか、ネトゲの痛いキッズ臭がプンップンするわ」
ネトゲの痛すぎるギルド名じみた、厨二病感満載の名前に神山は身体を震わせた、聞いただけで笑われそうで仕方がないと却下する。
「町田さん、何かありますかね?」
では、町田さんはどうかと神山が聞けば、町田は簡潔に答えた。
「なら簡単に、格闘家チームとか、格闘武術連合とか……」
「おー、シンプルで分かりやすい」
町田のチーム名に頷く神山、しかしそれを聞いた中井と河上が待ったをかけた。
「えー、だったらもう少し凝ろうよ、第7空挺団とか」
「いつから私達は軍人となった、ならば薩摩武士の行事から、チームひえもんとりとかどうだ?」
改めて出されたチーム名に、いよいよ纏まりが効かなくなりそうになった、これを見かねた町田が、司会たる神山に声をかける。
「神山は?司会だが、チーム名は無いのか?」
「俺ですか?」
「そうだね、司会だからと意見出さないのは無しだよ、神山くん」
「言ってみろ、司会として否定するなら、いいチーム名があるのだろう?」
これは予想外だった、司会にまで波及するとは思っても見なかったと、神山は中井と河上より意見を捻出せよと促される。では、如何したものか……頭の中で良さげな名前が無いかを探し始めた。
「……こう、前にチームで、続いて何かって感じはどうよ?チーム……マーシャルアーツとか?」
「あーこれだよ、町田さんに被せてきた、面白くない」
「今面白いとかいるか?」
前にチーム、そして何たらとかどうだと意見したら、中井が町田さんと同じ方向性で、面白く無いと言ってきた。チーム名に面白いも糞も無いだろうと言い返し、話は続いていく。
「じゃあドリフターズにしようぜ、全員スーツ姿で出て歌おう」
「そっちのドリフターズ!?俺達はいつから大御所芸人になったんだよ!」
「じゃああれだ、もう新日本プロレスで」
「セルリアンブルーのマット持って来いってか!?」
「日本空手協会、異世界支部」
「勝手に協会支部作っちゃダーメー」
「フィッシャーズ」
「YouTuberじゃねぇか!」
「ハイサイ探偵団」
「だからYouTuberじゃねぇか!」
「レペゼン地球」
「いや、だからYouTub……あ、違う、本職DJ集団だわあの人ら」
町田さんまでもが悪ノリし出して収集が付かなくなって来た、て言うか、町田さんも河上さんも俗世に染まってるんだな、ちょっと安心した。
それはさて置きだ、さっさと決めなければなるまいて。色々案が出て来たが、こうしっくりとこなくなって来たわけだが、何かないかと頭の中を模索する。
そうしてふと、そう言えば転移してから、格闘技の試合見てないなー、と思い出していた。まぁ、この世界では見れないから仕方ないのだけど、見逃したマッチメイクの試合、幾つもあるだろうなと、神山は憂いた。
俺達が、こんな馬鹿げた世界で時間を過ごす中、色んな試合組まれてるだろうなと。自分こそ、そのリングを目指した身であるが、やはり見るのも楽しいものだ。
そうだった、まだ小学生の時は大晦日には格闘技を見ていたな。それくらいブームであり、黄金期であり、何より面白かった。
色々な選手が居た、本当に信じられないだろう、TBSではK-1が、フジテレビではPRIDEが地上波で放送されていたのだから。今はそれこそ、地上波で格闘技なんて……。
「PRIDEかぁ……」
「何て?」
「だから、PRIDE……面白かったよなって」
「意外だな、キミ、どっちかというとK-1の方じゃない?」
「K-1見てたよ、けど……熱さと面白さならPRIDEじゃない?」
チーム名決めから、話が逸れ始めた。だが、それでも中井、町田、河上までもが神山の話の逸れに追従し始めた。
「ハリトーノフのパウンドでやられたシュルトが、K-1スーパーヘビー級で無敵だったもんなー、身長ってやっぱり優位になるわ」
「あー、あの殺しに来てるパウンドの……恐ろしかった」
「で、五味隆典さんのスカ勝ちよね、川尻にマッハ、外人選手もなぎ倒す様よ」
「崩壊前に青木真也さんが出ててさ、いつか五味さんと夢のマッチがって思ってたんだけどなぁ」
「実際、あのテーマソングをバックにオープニングセレモニー出る想像、したことない?」
「すまん、俺もちょっと想像した」
「ヒョードルの無敵さは凄まじかった、そのヒョードルをふらつかせたプロレスの藤田さん……」
「私もそれ見たぞ、もしかしたらと思って手に汗握った……」
「そのヒョードルを発掘したのが、プロレスラーの前田日明さんと言うのが面白いよね」
「UWFだ、田村潔に桜庭和志……日本人も輝いていた」
「PRIDEで高瀬や長南に負けたアンデウソンさんが、UFCいったらめちゃくちゃ強くなってたもんなー」
蚊帳の外のマリスが、シュンとするのも構わず、野郎どもはPRIDE談義に花を咲かせた。そう、この場に居る皆、PRIDEを見ていた世代だった。剣士の河上ですら、話が出来るほどに、PRIDEという格闘団体は、世界が熱狂していたのだ。
「PRIDEか、うん……TEAM PRIDE……どうだろうか?」
だからこそ、だろうか?神山の口から、そのチーム名が吐き出されたのは。それを聞いた中井が、ケタケタ笑った。
「そこで出す?そんなチーム名」
「いや、中井くん、俺としては真面目だぞ……そう、この馬鹿げた異世界でさ、能力持った奴らに、俺達が勝って、熱い試合を見せてやるって感じ……」
俺は真面目だ、神山は中井にそう語る。
「そう、内地の召喚者がさ、グレイシーが来る前の、プロレス幻想を抱いた日本で、俺達がいわばグレイシーであり、ヒョードルであり、アンデウソンって図式なんだ……それを尽く破壊して、新たな熱を生み出すんだ……PRIDEみたいにさ」
格闘技好きにしかわからない、例えられた図式、しかし一同が、おー、と唸った。
「いいな……ふむ、クラスと能力至上の相手を、格闘武道で制圧か」
「そう上手くいくか、内地からしたらブーイングものだろう」
「ブーイング、上等だよ、逆に勝って見せつけてやればいい」
俺達が、グレイシー、ヒョードル、アンデウソンとなり、クラスと能力により幻想を抱いた中央の召喚者に、現実という力を見せつける。いい、実にいいと、皆が神山の図式に賛成を見せた。
「決まったな」
「うん、文句無いよ」
「右に同じ」
「反論無しだ」
皆が賛成したのを見て、神山はマリスに向けて宣言した。
「マリスさん、チーム名は……TEAM PRIDEでお願いします」
こうして、外壁の没落貴族の元に集まった闘士達のチームが、産声を上げた。
全員が、劣性召喚者。
されど、全員が現世にて格闘技と武道を体得した。異質な闘士達。
格闘家として、そして武道家としての誇りを異世界に知らしめる為に。
誇りを胸に、雄叫びをあげる。
『TEAM PRIDE』ここに結成!!




