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今から一緒に、これから一緒に、殴りに行こうか 中

 ぽーんと、一度赤い実が飛んだ。


 ぽーんと、二度赤い実が飛んだ。


 ぽーんと、三度赤い実が飛んで。


 四度目は飛ばず、それはしゃりりと、齧られた。


 今日はやけに騒がしかった、起きるのが億劫なくらい眠気があって、二度寝して、とりあえず起きて朝飯代わりの林檎を齧ったら、外がやけに騒がしいのだ。


 だからふわぁと欠伸をして、とりあえず林檎を齧りながら、騒ぎが何かを判断する事にしたのだ。壁に掛けた"コレクション"を眺めつつ、傍に置いた黒鞘を左手に持って、右手には林檎。座るソファは硬いが、この世界の家具のレベルはこれが限界らしい。


 実家が恋しいかと問われれば、頷きたくもなる、なにせこの世界のいいベッドは、実家の自室のベッドの百倍は硬い、技術レベルが違うのだ。


 しかし、それが最高級の一流というのだ、まぁ、寝れなくはないが。


 飯も美味から遠い、調味料も限定されているし、なかなか手に入らないから、自然のそのままの美味しさが勝る程だ、けれど健康的だ、自然食だからだろうか?美味への欲と裏腹に、病気も無いし起きてしまえば元気が宿った。


 だが、まだ帰りたく無い。実家は恋しいし、ベッドは硬いし飯はまずいが……何よりもこの世界は楽しかった。


「騒がしい、騒がしい……黙らせに行こうか」


 そう、楽しいのだ。現世で決して許されないそれが、認められる。願っていた事が、叶う、それがこの流れ着いた地で、私が帰りたく無い理由だった。


 それの為なら美食も、寝屋の固さも、衛生も取るに足らない。何より、壁の"コレクション"もまた、現世と違い趣があって愛おしくなる。


 こいつには敵わないがと、傍の黒鞘を見て、私は林檎を齧り終えた。芯をゴミ箱に投げ捨てて、鞘を左手に、上着を掛けるように羽織り、私は今の住処から出るドアを開けた。


「急げ急げ!ゴルトさんの呼び出しだ!遅れたら何されっか分からんぞ!」


「あぁ、遂にマチダを殺すと言い出しやがった!また俺たちの時代が来るんだ!」


 横切った男達の話が耳に入った……。そして成る程と、私は理解した。騒ぎの原因も、これから起きよう事も。


「そこの、止まれ」


「あぁっ!?」


 ならば、私もこの騒ぎに乗らねばなるまい、私の声に止まり、振り返った標的を見て私は言う。


「ゴルトの仲間か、貴様ら?」


「おぉ、だったらなんだよ兄ちゃんよぉ!」


 人数は3人か、そして最前に居た話を聞いた輩は、私を知らんと見た。しかし……。


「あ、あぁ!?おい逃げるぞ!!だめだ止まるな逃げろ!逃げろ!!」


「やべぇ!指切りだ!ここ指切りの住処だった!」


 他二人は知っていたか、いやはや、時代劇か不良ドラマのようで中々に面白い反応をしてくれる。私はニッコリ笑った、そして黒鞘より伸びた柄に右手を伸ばして握りしめた。


「そうだ、私が指切りだ……何、運が悪かったと諦めてくれ、素人とはいえ……ゴルトの仲間で町田の敵ならーー巻藁と同じよ」


「ひっーー」


 鞘より、白刃を引き抜いて。


 怯えて動けぬ標的向け、私は刃を振り下ろした。




 砂埃が舞っている、乾いた土の地面から風で舞い上がった砂埃が、俺たちの服を揺らした。スラム奥地は、本来開発構想があったらしいが、予算で頓挫して工事の跡を残した廃墟となっている。


 そこに巣食うかの様に、一人の男が根を張り、その身に宿した力でスラムを牛耳り、そのお零れと庇護を貰おうと、足元に群がった奴らが住み出した。


 だが、ある日その当たり前は、二人の来訪者によって崩され、本人とその残党が機を待ち隠れていた。それが、スラムのチンピラ、ゴルトの今までの経緯である。


 奥地の開発跡地は、様々な建物が途中で建設を止められ、内観をむき出しに、足組もそのままで、資材も晒されたまま、正しく開発跡地そのままだった。


 そんな場所に、ボロ布しかり、傷んだ衣服しかり、それらを纏った男達が、資材の上やら地面に座り、ある物は木材を肩に掲げ、ある物は包丁を携えて、こちらを見ていた。


 その奥で、両耳の無い、ボロのコートを纏った男が、右手に持った棍棒を肩に置いて、睨みをきかせていた。


「マチダァアアアアーー!われぇ、よう来たのう、仲間も連れて来たようやのぉ!おうコラァ!!」


 チンピラのゴルトが吠えた、それを聞いたマチダが、ギリリと歯軋りをしたが、傍の中井は口笛を吹いて、この状況を確認した。


「あっは、マジぃ?こんな集まんだねぇ、不良とかヤクザ映画のワンシーンみたいだ」


 アニメでもシネマでも無い、現実にこの異世界があり、そこにチンピラ達が集まって、俺たちを袋にしに来ている。それに対して中井は、飄々としながらも、これから起こる事を楽しみにしていた。


「ゴルト……フェディカさんはどうした?」


 そして、最前に来たマチダが、拐われたフェディカはどうしたのかと聞けば、ゴルトはニヤニヤ笑って奥地に目を向けた。


「おう安心したれや!まだ手ぇだしちゃいねぇよ!テメェら袋にしたら目の前で、俺とこいつら全員でマワしちゃるけぇ!」


 マワス……その言葉を聞いた瞬間、町田の両手に力が入った。さて、ここいらで俺も啖呵切っとくか、その方がそれらしいだろう。つーか一度やっときたかったんだよな、こんな言葉。


「おうチンピラぁ!テメェ町田さんにキン◯マ潰されて使いもんにならんのによく言うなぁ!勃起不全のタ◯無しがイキってんじゃねぇぞボケェ!もう片方も潰したろかコラァ!!」


 思いついた啖呵を切って、俺は中井を見た、どうかなと目線で採点を要求したら、中井は口元を押さえて俺から目線を離して震えだした。


「か、片方無いんだ」


 そして、再び顔を見せれば、片方無いと言う事実に笑ってしまったらしい、再確認を込めてこっちに聞いて来たので頷いたのだが、それに俺もつられて笑ってしまった。


「そ、そう、町田さんがね、潰したんだよ、ね?」


 町田も二人の笑いにつられそうになり、目線を下に下ろした。しかし、この啖呵、そして態度は異世界のチンピラを焚きつけるには十分だった。ゴルトは棍棒を振り下ろし、座っていた資材の山を叩いて音を鳴らし、叫んだ。


「いてもうたれやぁ!!ガキどもぶち殺せぇ!!」


 ゴルトの号令に、屯していたチンピラ達が一斉に声を上げて、走り出す。それを見た俺も、町田も、中井も……一斉に笑みを作り出したのだった。


「ゴルトは俺がやる……奪ってくれるなよ」


「その前に、雑魚どもの処理だね、あぁ、楽しみだ」


 町田が両手首をぶらぶらして歩きだし、中井がその場で飛んでから肩を回しだした。そして俺も、縄のバンテージを纏った手を握りしめ、二人の前に小走りで出る、向かってくるチンピラの壁、呑まれるな、飲み込んでやれ、接敵数秒で勝敗をつける!


「いくぞテメェらぁああああああ!!」


「雄ぉぉおおおぁあああああああ!!」


「УPaAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 俺の咆哮に応じて、中井と町田も声を上げた。そして小走りから全速力へとギアを一気に上げ、チンピラの波に飛び込んでいく。


 残り10メートル、5メートル!そこで俺は地面を蹴り飛翔した。


 最前で角材を振り被る男の顔面へ、助走をつけた飛び膝をお見舞いし、その横では町田が拳を振り抜いて、チンピラが錐揉み回転で吹き飛び、反対では中井がその肉体を思い切り衝突させ、二人、三人、五人と巻き込んでドミノ倒しに前列を崩したのだった。


「ぐげぁあ!」


 跳び膝と共に、チンピラの波の中へ着地した俺は、この跳び膝に倒れ、一瞬静止した周りの奴らへ標的を変える。攻撃させるな、先手を取れと身体は自然に動いた。


「うしゃああッ!!」


 眼前で棒立ちになっていた輩に右前蹴り、後列を巻き込むように押すように蹴り、次は左前で空瓶を振りかぶった輩へ、踏み込んで左手を上げ、鼻柱に肘を振り下ろした。


「ギィゲェ!」


「や、野郎なめんなぁ!」


「うぁいしょぉおい!!」


「おごあ!」


 素手の右手を振り下ろしたチンピラの腹に、膝をお見舞いし、背後向けて引き投げて、後ろへ牽制を掛ける。四方八方が敵だ、出来るだけ間合いを取りつつ、一撃で制して勢いを止めるな、止めたら飲まれると思いながらも、胸から込み上げる熱は天井知らずで上がり続けた。


「かぁみやまぁああ、くぅううん!」


 そんな時、中井がこっちを見ろと俺を呼んだ。中井はチンピラの一人を足から抱え上げていた、何という力技、見かけによらず中井の膂力と、それが示す合図に、俺は蹲り倒れたチンピラの背を見て理解した。


「おっしゃああ!」


 俺は中井向かって走った、そして蹲るチンピラの背中を踏み台にして飛び、さらに一人、二人とチンピラ達の肩を踏み台にして渡り、中井が掲げたチンピラ目掛け飛んだ。


「トニーィイイジャァアアアアーー!」


「もぐげぇ!」


 そう、トニー・ジャーの如く人の肩を踏み台にして走り、抱えられたチンピラの顔面に飛び膝を放ち、重力に従い落下していく、そして。


「だぁりゃあああ!」


「ぺんっ!」


 中井は飛び膝の勢いを抱えたチンピラを、そのまま地面に叩きつけるように投げたのだった。


 地面に叩きつけるチンピラを見て、俺は中井の背に背中を合わせ構え、中居も立ち上がり構えを見せた。ああ、いいなぁ、いいなぁこれ!たまんねぇよ!体の熱もヒートアップしてアドレナリンが全開になっていく!喧嘩はタイマンもいいが、こうして多人数を相手にするのもたまらねぇ!



 背中の神山、前に敵……前まで一人で戦っていたけど、ここまで違うんだなと僕は思わず口を笑みに歪めた。こちらに来る前、真夜中の神社、ヤンキー、暴走族、カラーギャング、半グレ……街中のワルが僕を追い詰めて、一人必死に戦った夜を思い出す。


 背後で叫ぶ神山の興奮ぶりには、僕も当てられた。何より、目の前の数と見た目だけの輩が、悲鳴と苦痛に泣き叫ぶ様は興奮する、まだ居る、まだたんまり居るのだ!


「しゃあぁあっ!」


 気合と共に、有象無象目掛け突貫する、まずは最善の一人に飛び掛かる!体をよじ登るように跳びつき、そして体重を掛けて地面に転がりながら引き倒す!


 右腕!触感で理解して、股に挟み込み腰を突き上げる!


「いぎゃああああ!」


「一ぽぉおん!」


 早速一本折る、異世界のチンピラからしたら、地面を這う人間など奇妙極まりないだろう、すぐ様立ち上がる。


「オラがきゃあ!そこまでにしとけやぁあ!」


 熱り散らした輩の一人が、左手を伸ばして俺の右襟を掴みに来た。阿呆め、サンビストの、寝技師の襟を持つど素人め。僕はチンピラが襟を掴む左手を右脇に挟み込んだ。


 そしてそのまま、反対側へ、背中の筋肉を相手にぶつける様に引っ張れば、チンピラの手首と肘が悲鳴を上げ、そして地面に倒れ伏す頃には小気味好い音を鳴らした。


「ぁぁああ!腕がぁ!腕がぁあ!」


 立ち関節技、腕ひしぎ脇固め、手首と肘を破壊されたチンピラが泣き叫び、地面を転がる。


「食らえやぁああ!」


 声を出すな、後ろからかと振り返りいかにもな喧嘩蹴りを右足で繰り出した馬鹿の足首をキャッチ、さて、足首というのは脆い、左か右へ勢いよく回せば、簡単に破壊できる、何より膝靭帯断裂もおまけで付いてくる。


「ぐりっと」


「あがぎゃああああああ!」


 というわけで左へ回してやった、手応えも叫びも上々だ。技とも呼べぬ、人体構造に準じたシンプルな捻り上げでこのザマだ。やはり関節技はいい、思うがままに破壊できるから気持ちがいい。


「おんどりゃああ!」


「うぉお!?」


 だがこれは危ない!刃物は危険だ、向かって来たチンピラがナイフを振り回す!周囲の仲間など知らぬと振り回すが、僕はその腕を掴んで右手で手首を

 持ちながら脇に挟み込む。


「がぁあ!離せやごらぁあ!」


 そうして離す馬鹿がどこに居る、固め続けこれからどうしてくれようかと考えていると、ふと町田さんの背中を見た。


「町田さん!」


 僕の呼びかけに町田さんが振り向いたのを見て、僕は脇固めを外して背中に回り込んでチンピラを押しこみつつ走った。前のめりに町田さんへ向かうチンピラに、町田さんは応と言わんばかりにアイコンタクトして、チンピラ向かって駆ける。


「せぇえおりゃあああ!!」


 町田さんが飛んだ、横回転に、伸び切った右足が綺麗な円を描き、踵がチンピラの顔面に激突する!胴廻し回転蹴り!凄まじい快音と共に、チンピラの頭部が激しく揺れ、体ごと当たる様な胴廻しに、チンピラがまた跳ね返り僕向かって後退る。その千鳥足なチンピラの腰をガッチリ背後から僕は掴んだ」


「はぁ、らぁ!しょおおおおおおお」


 師より習った鼓舞の叫びを上げ、僕は力任せにチンピラを引っこ抜いた。そして鈍い音ともに、チンピラは地面に頭から突き刺さるかの様に、脳天を打ち付けたのだった。



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