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特注品

 テント群から離れた開かれた地にて、二人は向かい合う。鎧を着込み、兜まで被り大きな盾と、演習か修練に使われる木剣ながら、その中でも大きな一振りを携えて澤屋敷は神山の前に立つ。


 対する神山は、四聖正式礼服を着込み、風に裾をたなびかせて腕組み仁王立ちで待つ。その間に立つは、四聖が一人『魔将』の篠宮倉人。立会人としてこの場に立つや、二人と集まりだした討伐任務参加者向けて言い放つ。


「ルールは一つ、参った言わせるか、気絶させるか……シンプルだろ?それで勝ち負け決めたら一切文句は無し!いいね!!」


「最初からそのつもりだ!!」


「…………」


 そんな事は分かり切っていると吐かす澤屋敷に対して、神山は黙ったままであった。この瞬間にも、神山は相手がいかなる人物かを目視から得られる限りで叩き込んでいたのである。


 身長おおよそ180〜190、体重は重厚な鎧を含めたら100kgには届く。身長差、体重差、武器を含めたリーチの差を頭に描き、澤屋敷淳吾を攻略するかとイメージする。


 見るからに西洋的で、なんともファンタジーじみた鎧。大きな盾に、わざわざ木剣すらも大きい様は幾度か見かけた『タンク』なる役職のタイプの闘士と見えた。


 強固な鎧と盾で仲間を守り、時にはその剣で持って押し勝つ攻撃と防御に振られ、スピードを犠牲にしているのが見た目から分かる。


 速さで撹乱して、薄い所に打撃を入れて長期戦かと考えた神山だが……そんな暇は無いなとこんな事態でもし主人や仲間たちを助けるのが間に合わなかった場合を考えた。


 そのまま考えを巡らせていると、篠宮は神山の方へ歩いて行き、横を去り際に耳元へ呟いた。


『そのまま普通に戦ってみてくれ』


 なにっーー?


 篠宮の去り際の注文に、神山は声こそ出さなかったが頭は動いてしまった。そのままそこにあった丁度いい岩に腰掛けて篠宮は言った。


「さ、始めて」


 その号令を聞いて、闘士の観衆は歓声を上げる。それと同時であった、澤屋敷が野生の猪の如く、盾を構えて突進して来たのである!


「あっ!?」


「よそ見してんじゃあねぇよ神山ぁあ!!」


 盾を構えての体当たり『シールドチャージ』とでも言うべき突貫の技を前にして神山は歯軋りした。どう言うつもりか知らんが、避けるのも間に合わないスピードで神山は反射の如く繰り出したのはーー。


「恨むぞ、篠宮ぁあ!!」


 右足を抱え、思い切り、槍のように突き刺す前蹴り(ティープ)であった。主にリズムを崩したり間合いを取るために放たれる蹴り、しかし突進の勢いも込めた澤屋敷の体当たりには、まず力学的にも神山が潰れて吹き飛ばされたりするのが当たり前の攻撃であった。


 がーー。神山の爪先と、澤屋敷の大盾がぶつかった瞬間……。


「うおっ!?」


「は?」


 弾き返されたのはーー澤屋敷だった。ぶつかった瞬間も、神山の足先から感触は伝わった。まるで棒立ちの人間を蹴り抜いてしまったような力が伝わった感触……ロケットスタートした質量の塊である澤屋敷が、逆に弾き返されている様に神山は呆けた声が出た。


「何してる神山!打ち込め!!」


 呆けた神山に放たれた怒声、町田恭二の声に身体が反応した神山が一気に踏み込む!そのまま、いつも巻いていた縄バンテージを巻き忘れたのを今更気づいた裸拳の左拳を、澤屋敷の左脇腹に放つ!当たっても無意味と思っていた左ボディが……鎧に沈んで変形させ、拳の形をくっきりと作り上げてしまった!


「はうっ!?」


 感触が分かった、肋骨が折れたのだ。変形した鉄板か何か知らないが鎧越しにもそう感じた。悶絶の呻きを上げる澤屋敷を前に神山はイメージでハイキックを放とうとはしたが急遽変更、右手を開いて顔全体に手のひらを押し付けるようにして、振り抜く形に腕を振った。


 それでもーー目の前で100kg超えの巨体が、伸身のまま二転、三転、四転して宙を舞う様に神山は唖然とした。どしゃりーーそんな土煙と共に落下した澤屋敷は、白目を剥き泡を吐いて大の字に倒れた。


 観衆は目の前の、新たな四聖神山真奈都の力に唖然として何も言えない。しかし、一つ拍手が上がり、その先を見れば岩に腰掛けた篠宮が笑って拍手をしていた。


「流石!新たなる四聖神山真奈都……四聖に相応しい勝ち方だ!!」


 歓声が上がる、新たなる四聖の誕生だと皆が声を続け様に上げる。倒れ伏す澤屋敷と、自らの手を交互に見た神山は、自らが纏う服が、微かに光ったことに気付いて篠宮を睨みつけた。




「テメェ何仕掛けやがったぁ!!」


「ストップストップ!待って!?弁明させて!!」


 再びテントに戻った神山は、篠宮の襟首を掴んで額をぶつける程にまで引き寄せた。一体何をしたのかと激昂する神山、その後ろにはテント入り口を塞ぐようにして町田が立つ。


「けほっ、そ、その服は特注って言ったろ?僕と城の機織りと夜なべして作り上げた……君専用の服なんだ、僕たちが着ているのと全く違う……試作品で、着込んだ人間に優性召喚者並みの力を与える……パワードスーツ的な……」


 篠宮は語る、神山専用に一から織り込み作り上げた試作品の四聖正式礼装だと。その効果は簡単に説明すれば、着た人間を優性召喚者並みの強さに引き上げてしまうパワードスーツであると。それを聞いた神山は、さらに激昂して声を荒げた。


「こんな物無くても俺はあいつに勝てた!!」


 そのまま、床に篠宮を振り回すように投げ倒し言い放つ神山。

 これ以上無い侮辱であった、今の今まで自分の力だけで戦い、勝って来た神山が、この世界の理に助けられて勝ちを得てしまったという事実をしっかり教え込まれてしまった。拳を握り締めて今にも殴りかかりそうな神山に、篠宮はその覇気すら滲む神山を前にして視線は外さず言い返す。


「ああ分かっている、分かっているとも……だが、今回ばかりは君に必要なんだよそれは……」


「何だと!?」


「愚かな群衆は目で見た事しか信じない!!」


 負けじと言い返す篠宮は、聞いてくれと、神山へ真正面から言い放つ。


「君の格闘技の実力は認める、実際勝ち登ってきたし高原すら倒してしまった……だが、劣性召喚者の四聖はまず認められない、馬鹿だからなあいつら……派手に勝つ様を見せる必要があったんだよ、象徴は……目をつぶす眩しさがなければならないんだ!」


 実力は認めている、しかし此度は一人で戦うわけでは無いのだ。シダトの国中からあらゆる輩が集まった作戦で、その中心となるは四聖……その象徴が劣性召喚者である事を、まず群衆は認め無いと。愚かな群衆を従えるには、光り輝く眩い象徴が必要だと語る篠宮に、神山は気付かされた。


「まさか……お前澤屋敷は……」


「そう、丁度いい当て馬になって貰った、まぁ呪術師討伐チームにはついて来てもらう、ちゃんとしたメンバーの一人だけどね」


 澤屋敷は、神山を輝かせる為の当て馬であり、礼装の試金石であった。だからわざと、ギガンテス残党から引っこ抜いて来たと理解した。しかし、討伐隊としてはしっかり吟味した上でメンバーに入れたとそのあたりはフォローをしている。


「そして理由はもう一つ……理不尽への対策だ」


 立ち上がる篠宮は、襟を正しながら続けて語り出す。


「これから僕や君たちが戦う、この世界のモンスター……原生の民族は、優性召喚者ですら命を落とす理不尽の固まりなんだ、"強さ"の二文字では表せない"理不尽"の三文字が待っている……その服は、それからキミを守る為の必要な装備でもある」


 今から闘う相手は、展覧試合で戦うようなヤワな奴らでは無い、理不尽の塊なのだと篠宮は説明する。その三文字を聞いた神山はまだ手に力は入ったままではあったが、流石に拳を振るうまでの熱は冷めていた。


「それ程なのか?エルフとやらは……」


 テントを遮る町田も尋ねる、そこまで最高戦力の一人が念押しするような存在なのかと。これに対し篠宮は頭を掻いて唸りながら説明した。


「キミらは……ゲームとかしないよね?そうだな……あれだ、キミらが拳や蹴りや放つ前に、目が合えば死ぬとか……呪いとかはそれだけ理不尽なんだ」


 篠宮の話に町田の眉間に皺が寄った、成る程それは理不尽極まりない。戦いの場にすら上がれないのかと考える町田に、篠宮は傍らに置かれたこれまた金属製の箱を持って、町田の前まで歩き、それを渡した。


「キミにも作った、頼む……この戦いの間だけでいい、僕の指揮に殉じてはくれないか、二人とも……君たちの主人や仲間を救いたいならば」


 その理不尽に対する力が、神山の礼装であり、町田にも作ったと篠宮は言う。呪いに苦しむ主人、その術者の理不尽には生身では勝てぬと聞いた二人。


 神山は手に込めた力を解き、町田も足元に箱を投げて留め具を爪先で蹴り開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  むしろ、そこまで理不尽なモノを使って(肉体的・精神的に)平気でいられる教団の連中が不気味(;^ω^)。  あ、ひょっとして既にリッチみたいなアンデッド化しちゃってるとか?  指導者も某少…
[一言] ウーン…コハクドでドワーフやエルフ達が半ば奴隷状態だったから理不尽のイメージがあまりわかないな。町田さん達の道着にも呪い対策施されてたがそれで間に合わない位ヤバイってことか。
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