非常事態宣言
情報が明らかになる。
まず、マリス達の呪いはこのシダト領内の人間では無かった事に神山は……脂汗が出てきた。まさか他国、しかも全く知らない勢力が今回の呪いを振り撒いたなどと気付けようか?いや無理だ、絶対無理だと神山は自らに言い聞かせる。
何しろ昨日の事件当時まで、現に内地闘士から襲撃を受けていたのだからまずそちらに目が行く。それに紛れて仕掛けた犯人が見事としか言えない、そりゃ自分達は内地にふざけるなと襲撃を掛けさせる矢印も向いてるものと、自分の犯した内地のチーム幾つかを襲撃し、元四聖の高原を叩きのめした全てが徒労であると突きつけられたのだから。
だが良かった、この世界……シダトという国の倫理観上、負けた奴が悪い弱肉強食。自分達を責める奴は居ない筈……と、思いたいと神山は悪行を開き直る事にした。
「すいません、その……カースドラゴンだの、エルフ至上主義だの……ルウリム教団とは何ですかね?」
とりあえずタイミングを見計らって、神山が手を上げて改めて質問をした。御剣、明石、村田、そして篠宮から生暖かい目線が向けられ、恐らく姫からもベール越しに同じ目線が注がれた。物を知らん奴だと言いたげだ、悪かったなと言い返してやりたかったが、しっかり頭に情報は叩き込む必要がある、これでもし無知のまま向かって返り討ちに遭い、マリス達が死んだとあれば目も当てられないのだから。
「では、僕から説明しよう」
その説明役を請け負ったのは、四聖の篠宮であった。
「さて、まず出てきた用語から解説して、それを結んでいかなる事態になっているかと流れで説明させていただく、席について」
カッカッカッカッーーとテーブルへ指示棒を幾度も小突いて注目と、神山達へ篠宮は呼びかけた。
「まず、今回呪いを辿って特定された発生源からだなー、ザディル共和国はシダトより北西の、この大陸半分の領土を有する共和国……いや、むしろアメリカ合衆国やローマ帝国に近しいかもしれない、何しろ様々な民族や文化圏が入り混じった共和制国家だからなー」
ザディル共和国が如何なる国かを話す篠宮、主に神山への説明となるが、御剣や明石、そして村瀬も復習を含めて篠宮の説明をしっかり聞いていた。神山はこの世界に流れ着く前から常備しているメモにボールペンを走らせ書き留めていく、インクがそろそろ切れそうなのか度々掠れ出していた。
神山の行動に、展覧試合の戦いぶりから思えない几帳面な部分があるのだなと、ペンの音を鳴らす中で篠宮は話を続ける。
「で、だ……リアナンスってのはシダト・ザディル国境付近にある州の一つと言える、エルフ族の居住する中でも端も端……なんだが……ここはザディルのエルフ族から"流刑地"なんて呼ばれている」
「罪人の流刑地なのか?」
その三文字からそうだろう?と尋ねる神山に、篠宮は腕組み唸りを上げて語り出す。
「罪人……というか、かい摘んで言うと、このザディルが共和国になる際に反対した純潔派エルフ達が流れて行った……と言う話なんだよね、何しろザディル共和国の成り立ちを説明するのならこの時間じゃあ足りない」
「成る程、繋がった……ザディル共和国建国時に反対した純潔派エルフが流れて住み着いたのがリアナンス、そのリアナンスでエルフ至上主義を教義にしている宗教がルウリム教団……となるわけか」
「あれ?君、結構勉強できる?」
「現代文と英語以外は壊滅的と言っておこう」
それは自慢する事なのか?胸を張る神山に怪訝な顔を御剣、明石、村瀬が向けたがその視線には全く気付いていない神山、篠宮もそうかそうかと少しばかり生暖かい笑顔を浮かべた。
「ていうかやっぱりあれか、エルフって誇り高かったりするのか?うちの河上さん……コハクドにエルフの情婦が居るけどーー」
「エルフが性産業に進出してきたのはつい最近になるね、珍しい子だ……今もキミが現世で知った様なエルフが大半、その中でも懐古で、さらに過激な奴らがルウリム教団さ」
「そのルウリム教団のエルフって……やばいの?」
「ああやばい、現に四方八方喧嘩売ってるような奴らさ……第二次世界大戦のドイツくらいには思想と行動力がやばい、ザディルのエルフ内ですら関わるなと声が上がる、時代に取り残された懐古の残骸だ」
篠宮による、ルウリム教団傘下に属するエルフ至上主義主義がいかに危ない連中かの例えに神山は静かに口元を押さえた。そんな奴らに、自分達の主人と仲間が、そしてブルーラウンズの者達が呪いをかけられ、さらに解呪に至ろうとした者にまで呪いを伝播させたのかと。
ニュース番組で、自爆テロ等を他人顔で見てきて実感の湧かない神山は、今テレビで見てきた被害者はこんな気持ちなのかもしれないと。
「そのルウリム教団が此度の呪いの媒介に使ったのが……カースドラゴンという竜だ」
話はもう一つの、呪いを媒介している標的に移る。ここからは未知の領域だなと、異世界に存在する『モンスター』の話に、神山はしっかりついていく為に、改めて気合いを入れ耳を傾けた。
「カースドラゴン、英語のCurse、つまり呪いの竜……その通りに身体が致死の呪いに覆われたドラゴンだ……神山くん、キミはルテプから外に出て、モンスターに遭遇した事は?」
「無い、ただ……バルダヤのホテルで竜の尾のスープを飲んだ事はある」
「家畜種のだね、その竜はむしろ蜥蜴とかに近しい、畜産された竜だ」
「そんなのが居るのか」
竜でなくて蜥蜴という訳かと、神山は違いを自分の中で区別しつつ、未だに遭遇した事はないモンスター、その中でも明らかに別格な存在たる竜……此度の標的になる呪いの根源カースドラゴンについての話を聞いた。
「カースドラゴンは触れるだけで呪われる竜だ、それに触れるには余程高位の浄化か、呪術に塗れなければ触れない……本来ならその鱗一枚から作り上げた呪物で人を十人は呪い殺せるのに対し……竜そのものを媒介にしている今回の恐ろしさは、話を聞いて、そして惨状を知った今の君なら分かるだろう?」
解呪をしようとすれば呪い返され、探知しても呪いに塗れる……そんな惨状を聞いて来た神山は、いかに劣性で物を知らずとも、理解できてしまった。二つの呪いの発生源、竜とエルフの教団を討伐せぬ限り、自分の主人と仲間達は死ぬ以外にないと。
説明はこれで終わりだと指示棒を下げた篠宮、それを見て『姫』もまた口を開く。
「今回の事件、この国を治める者として国家非常事態宣言を発令します、一ヶ月後の展覧試合決勝は……この件が片付くまで開催停止とし、内地外壁、地方に至るまで……闘士達に招集をかけて討伐任務に向かわせます!」
姫は、事態を重大であると判断して非常事態宣言を発令すると言い出した。この惨状で展覧試合をとり行うのは不可能とし、この事態が収集がつくまで延期も決定すると宣った。
「四聖達にはその指揮を取って貰います!マナト・カミヤマ……貴方の主人を救いたいならば、この討伐作戦に参加をーー」
「参加するに決まっとるわ!!」
今更何をもったいぶって嫌がると、神山は怒気混じりの声で言い放って、勢いよく椅子から立つや蹴り飛ばして姫に言った。
「理由も何かあるだろうがそんなものは知らん……こっちの主人や仲間をこんな目に合わせた奴が分かったんだ、今からでも行ってやる!!さっさとそいつの前に送るなりしてくれ!!じゃないと俺は……どうにかなってしまいそうだ!!」
「まぁ神山くん……落ち着きなよ、気持ちはわかるから」
その肩を叩いて待ったをかけるのは村瀬翔吾、いずれ戦う相手が気持ちはわかるからと神山を落ち着かせる。
「うちの仲間たちも呪いに蝕まれ、必死に抗っているんだ、気持ちはわかるが君一人でどうにかできる事態でもないのは分かるだろう?」
「……そう、だな……すまん、熱くなった」
当事者同士ゆえに、分かり合ってしまって神山の怒りの滾りを押さえ込む村瀬。それを見てから姫は、集めた皆に言い放った。
「では、今日この時より!対カースドラゴン及び、大呪術標的討伐部隊を結成する!!全体指揮、作戦立案及び部隊編成は魔将クラト・シノミヤに一任します!!他の四聖、そしてブルーラウンズ以下、領内の戦力となりうる闘士は、それに従い、今回の標的討伐を命じます!」
「了解!」
「了解しました」
「了解」
篠宮が、御剣が、明石がそれぞれ、一度右手で拳を胸元に置き、それから斜め下に払いながら手を開く所作を見せる。この世界の敬礼らしき所作を姫に見せて了解を示す三人にたいし、神山は自分の知る敬礼……直立不動から右手による敬礼を見せた。
「了解……」
いかに四聖であろうと、命ぜられようと、これは国の為ではなく、自分の主人と仲間の命の為に戦うのだという意志を、神山は現世日本式を真似た敬礼にて示した。




