蠱毒
『魔将』篠宮の言葉に、内地の野次馬達は戦慄した。対して神山と、話を聞いていたTEAM PRIDE面々も、この展開は予想外だと各々浮かべた表情に差異はあれど気持ちは同じだった。篠宮は、自分が言い放った言葉を聞いて固まっている優性召喚者の者達に、ため息を吐いて言い放つ。
「まずさぁ、まぁ……誰かは知らんよ?知らんけど君らの誰かがルール違反であちらさんの貴族襲撃したわけでしょ?もう、これでまず擁護もできねーよ。展覧試合の一年参加資格剥奪なり、シダト領内の私的興行にも参加不可になるわ」
そもそもこちら側がまず貴族襲撃したのが、擁護不可の過失であると野次馬共へ言い放つ、その時点で擁護もクソも無い過失割合10対0でこちら側が悪いわと篠宮は、何をしてくれたのかと呆れていた。
観衆は、四聖はこちらに味方してくれると思っていた。外壁の奴らが何を吐かすのかと言ってくれると思っていた。しかし違った、何故自分達が叱責させられていると困惑した。
「し、しかしコイツらは外壁のーー」
「それとさぁ?何で君達は彼らと戦わないのよ?内地の、優性召喚者だろうが君達は……」
野次馬の一人が、内地だ外壁だと差別意識を吐き出す前に、篠宮はそれを言わせないとばかりに被せた。
「君達が内地に住める理由は何だ?強いからだ、姫に力を与えられ、人智を超えた異能を操れるからだ、強いからこの内地に居れる……その君たちは、日々錬磨し衝突し、力を磨くからこの内地に住めるのを忘れたか?」
篠宮は話し続ける、強いはずのお前達が何故、TEAM PRIDEと戦わずに、怯えて、助けを待っているのかと。内地の闘士としてまずやるべきは、彼らと戦う事だろうと冷たく言い放つ。
「分かるか?この内地は君達が貴族のように暮らす楽園ではないのだ、ここは君たち毒虫が互いに噛みつき喰らいあい、更なる毒を、呪いを生み出す蠱毒の壺の中だ……君たちはそれを忘れている、外から入れられた新たな毒虫に食われても文句は言えない」
ここはお前達が優雅に暮らす楽園ではない、互いに殺し合い、新たな強者を生み出すための蠱毒の壺の中であることをお前達は忘れてしまっているのだ、篠宮は息を一つして、最後に言い放った。
「この世界、少なくともこのシダト国の決まりは一つ……弱肉強食だ!優性劣性関わらず強い奴が偉くて、弱い奴は何も言えない……お前達は弱いから何も言えない、TEAM PRIDEは強いから何しようが許される!!お前達がやるべきは、TEAM PRIDEの言う事を聞くか!ここで彼らをぶちのめして外壁に叩き返すかだ!!」
シダトの決まりは弱肉強食!弱い奴らは何も文句を言えないのだと言い放ち、篠宮は近場の石積みに座って神山に言った。
「僕は止めない、彼らが戦う意志あるならそれを見守ることにする、君たちのいかなる蹂躙、殺戮も許そう……いや違うな、僕が言わずとも許されている」
「そうかい、で……どうするよおたくら?やる?」
この国の最高戦力が、自分達を見捨てた。それどころか、劣性召喚者を擁護してこの事態を放棄して観覧をキメこもうとしている。
いや違う……正しいのは神山達であり四聖の言い分であった。優性召喚者は、召喚された時からこの恵まれた条件で日々戦い、鎬を削り強くならねばならない。強いからこそあらゆることが許され、あらゆるものが手に入るのだ。
与えられたから偉いのでは無い、強いから偉いのがこの国の大前提である。神山達は……TEAM PRIDEは強いのだ。それに異議を唱え、否定するには、彼らに勝つ他ない。それがこの国の決まりだ、現に何人かは襲撃をかけたがそれは正しいのだ。
この一件、貴族襲撃というルール違反に対する、彼らの内地襲撃、そして内地チームへの無差別報復行為は、許される行為である。
それが嫌なら、彼らの要求を全て飲み込むか、TEAM PRIDEを自分達の力で追い返すのが筋というものだ。彼らはその行為を放棄し、四聖を頼った。
その四聖は、一人は倒され、一人は知るかと放棄した。
「どうすんだ!やるのか!やらねぇのか!!」
最早、誰も助けは来ない。神山が一歩踏み込んで言い放つと同時に、他のメンバー達も間合いを詰めた。これに対し、野次馬だった闘士の一人がーー。
「や、やめてくれ!す、すぐにうちの魔法使い達を動かして調査させる!!だからこれ以上は!!」
腰元の剣を捨てて、両手を挙げた。協力するからこれ以上はやめてくれと、それを皮切りに他の者達も杖を、剣を、武器を放棄していく。
「こちらもだ、何でも要求は飲む!だからもうやめてくれぇ!!」
「犯人は見つけ次第差し出します、だから殺さないでください!」
「どんなことだってしますから、許してください……」
次々と武器を捨てて許しを乞う優性召喚者の闘士達、その無様な姿を見た神山はーーあまりの酷さに怒りは消え去ってしまった。あれだけ偉そうに罵声を浴びせ、あれだけブーイングをしておきながら、いざ自分達が戦う事になり負けが見え、後ろ盾を失えばこのザマかと力が抜けた。
「醜い……」
「醜いな……なんとまぁ、すくたれ者共め……これなら夜街で喧嘩を売りに来た輩共のがマシだ」
神山が一言呟けば、河上も同じ感情が浮かんだようで、刀を回し納刀して興が醒めたと冷ややかに宣った。
「ほーーんと、こいつら口だけだわ……カーーーッ……ペッッ!!あーーおいお前ら、明日から優性とか闘士名乗るなよ?お前ら今日から糞以下って名乗っとけ!文句あるならかかって来いよ!!いつでもやってやるからよぉ!!」
中井は今までブーイングやら受けてきた腹いせに、唾を吐きかけて二度と優性召喚者だの闘士だの名乗るなと罵倒仕返した。いつもならこの行いに、待ったをかける町田ですら、見るに耐えないと背を向けて無言を貫いた。
「さて……じゃあ、話は決まったわけだし、仕事しますかねーー」
降伏を宣言した野次馬達に、篠宮はもうこれ以上は何も無いと見て宣言した。
「四聖が一人、魔将の篠宮倉人が命ずる!!内地の優性召喚者は、今より全員事の真相を突き止めるため有する全ての異能を使い、呪いを行使した者を突き止めよ!!」
その宣告を聞いた瞬間、野次馬達は即座に走り出して、各々のチームのギルドへと向かった。日が変わるくらいの真夜中、残ったのはTEAM PRIDEの面々と、篠宮、そして未だに意識を戻さぬ高原だけであった。
「さて……もう一仕事だね、神山くん、悪いけどちょーっと時間もらっていい?」
「あぁ?何かまだあんのかよ」
「いやーまー……予想してなかったけど、決まりは決まりでね、多分もうすぐ来ると思うから」
そう邪険にしてくれるな、すぐ終わると篠宮が頼み込んですぐであった。
「ほら来た、あ……襲撃は駄目だよ、頼むからさ?」
そうして篠宮が指差した先、城がある方角より。ゆっくり歩いてきたのは……ベールに顔を隠した『姫』であった。なんと、護衛も連れず一人、ここまで歩いて来たのである。
城に入り込み襲撃してから幾日振りか……苛立ちはあれど顔を立てて欲しいと篠宮に頼まれた神山は拳こそ握れど振るわなかった。姫が神山の前まで来ると、篠宮が片膝を曲げて地面に付けて騎士の如く頭を垂れる。
ベールは濃くて顔は見えない、しかし意識失い倒れる高原を一度見るように首を捻り、もう一度神山の方へ向き直り……姫は言った。
「マナト・カミヤマ……貴方はこの国の掲げし最高戦力たる四聖、その一つ拳神を打ち破った……しきたりに習い、貴方を新たな拳神として迎え入れます」
「はぁっ?!」
「なにっ?」
「ふむ……」
「ほーー……」
この国を統べる、未だ名前も顔も知らぬ、自分達を身勝手に呼び寄せた『姫』から放たれた宣言に、神山含めたTEAM PRIDEの面々は驚愕した。




