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 時間を巻き戻す。


 河上により『策』を提示された神山は、その前に『禊』を済ませて来いと河上に言われ、内地のある場所に向かっていた。


 神山の前にあったのは立派な屋敷だった、マリス邸宅も中々だが、明らかに内地と外壁の差を理解させられる外観。正門の左右に、さながら守神として置かれた立派な女神像、そこから柵が伸びて屋敷全体を囲い、奥に見えた純白の屋敷を守っている。


 神山がその門に近づいて、そのまま取っ手を引いた。鍵どころか、閂すら見当たらないあたり不用心な気がしてならないが、屋敷に向かい伸びている道と、左右の花壇は手入れされていて様々な花々を咲かせている。


 そのまま屋敷まで半分の所で、神山は気配に気付いた。


「待ちなさい、どちら様?」


 こればかりは神山も驚いた、いつの間に背後を取られたのか気配無く、ちくりと頸に突きつけられた感覚があった。神山は手を上げつつ話す。


「TEAM PRIDEの神山真奈都です、用がありヴァルキュリア・クランへ来ました」


「こちらを向きなさい」


「はい」


 言われるがままに、手を上げたまま神山は背後に居るだろうヴァルキュリア・クランの、恐らく警備関係者に顔を向けたのだが……。


「あんたは……」


「もう夜になるのに、何用で来たのかしら?」


 黒髪に眼鏡の大和撫子が、恐ろしい薙刀を地面に立てて呆れた風に言う。河上静太郎と対峙したヴァルキュリアの副将、前田愛花がそこには居たのである。


「ああ、事が事なので筋は通すべきと思って急ながらーー」


「マナトーーーーーーー!!」


 失礼ではあるが急用で、夜が来る目前ながら駆けつけたと彼女に事情を説明しようとした神山だったがーー。


「あうっ!?」


 事故であった。前田愛花曰く、そうとしか形容ができない吹っ飛び方だった。弾丸の如く飛来した何かが、神山の肉体に衝突して宙を一秒は浮いたか、そのまま花壇の絨毯に叩きつけられたのである。


「もーー!何で会いに来なかったのよ!!待ってたわよ私!!」


「おおお……あ、あば、肋骨いったかも……」


 馬乗りになり、そんな事を不満と嬉しさないまぜにして言い放つはヴァルキュリアの大将にして、神山と死闘を演じた朝倉海莉。彼女は中々にセクシーなガウンでそのまま出て来たらしいが、横からのタックルに神山は流石に悶絶してその姿を見る余裕などなかった。


「あ、あら……わたし……ヤッちゃったかしら?」


「兎に角中へ運んであげましょう、用事でいらした方を怪我させたなど笑えませんから」


「りょーかい!」


 悶絶して呻く神山の背中と膝裏に腕を通した朝倉、そのまま抱え上げれば即ちお姫様だっことなり、それを見た前田は申し訳なさそうに神山へ言った。


「すぐ、治療させますから中へ……」


「お、お前らやっぱり……こっち恨んでるよなぁ?」


 尊厳破壊を受けながら神山は、ヴァルキュリア・クランの本拠地へ運ばれていった。




 女性の園とはやはりこんな感じなのか、落ち着かないとヴァルキュリア・クランのギルドに通された神山は、その内観にそわそわした。マリス邸宅も彼女の趣味が見えたが、シックな落ち着きあるものだった。


 対するヴァルキュリアのギルド内観は、いかにもお嬢様が住まう屋敷……としか、神山は形容ができなかった。河上がいれば、あれはどう言った芸術の影響がだの、あちらの椅子はこれくらいの年代にありそうな……だの説明してくれたかもしれないが、神山の知識では『童話の姫様が住みそうな屋敷』としか言えなかった。


 来訪早速で、この世界の治療薬を飲まされた神山、飲んでしまえば本当に理不尽で馬鹿馬鹿しい程薬は効いて、痛みは即座に消え去った。何故、マリスたちもこう治らないのかとその差異と犯人に神山は苛立ちを募らされる。


「ごめんなさいね真奈都、それで……こんな夜中に何用で来たのかしら?まさか、夜のデート!?」


「いけませんからね、海莉ちゃん?ヴァルキュリアの規律で夜遊び、外泊は禁止なのだから」


 本当にお嬢様な決まりだな、このギルドはと思いつつ。神山は、時間も少ないと早速話を始める事にした。


「実はな……今日の昼前に、うちの主人とメイドさん、その護衛役の選手が爆発魔法で襲撃を受けた」


「えっ…………」


「何ですって?」


 その一言で、彼女達の面持ちから楽観は一気に消え去った。主人たる貴族への攻撃は、タブー中のタブー。それは内地に居を構える闘士達にはなおの事重大な事件であると理解しての反応だった。


「爆発の際に使われた魔法は……呪いを付加された、らしい……今は外壁側の診療所で、全員解呪魔法とやらで進行を抑えるのがやっとみたいだ」


「進行を抑えるって……」


「余程の呪いを付加したみたいですね……」


 呪傷の話も優性召喚者には当たり前の知識で、状況をしっかりと理解したらしく二人は神山の話を真面目に聞いた。その上で、まずはと朝倉は尋ねる。


「憲兵には連絡したの?」


「外壁の闘士チームの話を真面目聞くと思うか?」


「ごめんなさい……」


「あ、ごめん……八つ当たりになった」


「ううん、私も察せなかったわ」


 そもそも外壁の、今や大半の闘士からヘイトを集めるチームに憲兵が真面目に取り合うか?冷たい返しに謝る朝倉へ、今のは八つ当たりじみた返答だったと神山もすぐ謝り返し、朝倉は更に気付けなかったと更に重ねる。


 そうして神山より、今後何をするのかと語られた。


「まぁそれで……この後にでも内地のチームに襲撃かけてさ、脅し上げようと思ってる」


 今から内地にカチコミする、犯行声明を聞いた朝倉、前田の二人は表情を変えなかった。


「妥当ね、雇い主の貴族への被害、この世界なら当然だわ」


「しかし……犯人の見当はついているのですか、神山さん?」


 この国の報復として妥当である、毒されているがそれは正しいと二人して頷いた。しかしその相手は誰か調べはついているのかと前田の問いに、神山は返した。


「犯人……誰がやってもおかしくないし、出てくるかそいつを叩きのめすまで終わる気はない……」


 見つからないからこの手段に出ていると、その話に朝倉の顔は苦心から歪んだ。


「四聖が来てもおかしくないわよ」


「なら、その四聖も叩きのめして言う事聞かせる」


 しかし、その言葉を吐いた瞬間歪みは即座に消えた。そのまま両手で口元を隠して、彼女は顔を赤らめて震え出した。


「まぁ、だから……分かるだろ?雑誌とか新聞でも糾弾されたりヘイト向いてるし、今ならまだ関係断ち切れるし知らんぷりも……」


「あ、の、ねぇ……真奈都?貴方どこまで私を燃えさせてくれるの……」


「はい?」


 対面に座っていた朝倉が、そのままテーブルを回り込み神山の横に座って早速しなだれかかった。腕にしがみつき離すものかと抱き寄せて、頬擦りまでしてくる。神山は流石に赤面し、引き抜こうとしても抜けない力な朝倉に忠告した。


「は、話聞いてたか?そー言うのマジで後悔するぞ?あんたルチャを広めたいって言ってたし、絶対邪魔になるから!」


「そんなもの知らないわよ、ルチャを広めるのも決定してるわ!けどね、そんな燃える事言う男から、離れるなんて私はできませーーん!」


 神山は失敗した、この時は弱気な台詞を吐くべきだったのだ。だが神山達、TEAM PRIDEの選手自体が、やる前に負ける可能性を吐くほど心が弱い奴らではなかったし、神山も現世に帰還するまで誰にも負ける気は無いと決意をしているので、そんな事が言えるはずも無かった。


「安心なさいな!ヴァルキュリアはTEAM PRIDEを全面バックアップする!!だから、あんたは主人をそんな目に合わせた奴を見つけて、しっかり叩きのめしてやりなさい!!愛花ちゃん!」


「はい」


 そうして、ゴリラのドラミングの様に朝倉は胸を叩いて、前田に目を向けた。


「うちから聖職者、魔術師クラスの中で治癒術、解呪を持った子を集めて外壁の診療所に送って頂戴、設備が無いならうちのメディカルルームに移送してもいいわ」


「分かりました、直ぐに呼びます」


 神山は、ここで朝倉やヴァルキュリアとの縁を断ち切る気でいた。こんな事に巻き込まれてしまったら、彼女のこの世界での願いの邪魔になるだけだと。


 しかし、それがどうしたと、彼女は主人の為に戦って来いと背中を引っ叩いてきたのだった。神山は、彼女のその行動力と精神力に衝撃を受けた。


「あはは……強いな朝倉さんは」


「でしょう?そんな私に勝って決勝行くなら、主人を救うなんて簡単よ、存分に戦ってきなさい!」


 本当に勝てたのが不思議だと思わされた神山は、すくりと立ち上がり、朝倉と前田に頭を下げた。


「迷惑かけますが、よろしくお願いします」


 そうして神山は、ヴァルキュリアのギルドから出ていく。


 主人を救う為、犯人への怒りを熱に変えた神山は、夜の内地を歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正 腕にしがみつき話すものかと抱き寄せて 正 腕にしがみつき離すものかと抱き寄せて 燃え盛る愛にガソリンを投じて業火になったようでなにより。夜遊び禁止だと神山くん童貞卒業で…
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