一転攻勢
神山がそこまで言うほどに、此度の襲撃は許しがたいものであった。このシダトの取り決め、衝突の場合は闘士を立てての『代理決闘』にて取り決められる。雇い主たる貴族への『攻撃』は決して許されない重罪であった。
休暇のバルダヤでは暴走した運営員会が勝手に行なってしまったが、それは神山の『姫』への奇襲で互いに手打ちとされた。しかし……もう今回の襲撃は、許す事も話し合いの機会すらも与えやしないと。
「私は構わんよ、しかしだ神山くん……相手を絞るべきだ」
「絞る?こんなにされて、マリスさん達が死にかけてるのにーー」
「だからこそだ馬鹿め、時間効率を考えよ……熱くなればなる程目的は達成できやせん、絞り込むだけ無駄を省けように」
本気で優性召喚者一人一人殺してローラー作戦する気かと、河上は神山に現実を見ろと釘を刺した。
「マリス達の命が掛かっているなら無駄を省かねばなるまい……さて、それを考える為に一度屋敷へ戻ろう、雨濡れで風邪ひいて動けぬでは、馬鹿馬鹿しくてならん」
このまま雨濡れで語り合うのも悪かないがと、神山を諭して、屋敷へ全員戻る事にした。
「さて、じゃあターゲット絞るか」
屋敷へ戻った一同は、早速とばかりに会議を開いた。談話室のテーブルとソファにそれぞれ座したTEAM PRIDEの本戦メンバー、進行は落ち着きある河上が務めた。
「今回の一件、まず敵を割り出すところから始まる……まぁ内地の闘士の無差別な襲撃の場合もあるが、それは一番最後になるだろう……まずは最もやりかねない奴らから書き出していく」
今回の一件、それこそ『どこにも属さない内地闘士』の仕業でもおかしくはないが、まずは組織的な犯行と仮定を置き、そちらから潰していこうと河上が羊皮紙に犯人候補を羽ペンにて書いていく。
・サーブルクロス
・ムーラン・ルージュ
・ブルー・ラウンズ
・他、本戦敗退組
挙げられた候補はこれらである、仮に挙げるならばこうなるだろうと書き記したところで、さらに河上は続けた。
「俺はまず、第一候補にムーランの輩が怪しいと見てる、何せマリスとの因縁もある奴らだ、何があってもおかしくない、そして……同時にマギウス・スクワッドはまずあり得ないと除外する」
因縁があるのが、このムーラン・ルージュでやりかねないと河上は丸で囲む。
ムーラン・ルージュ……TEAM PRIDEが本戦出場決定戦にて対峙したチームであり、いかにもな悪役令嬢のミラが引き連れたチーム。彼女は、マリスの父を殺して外壁へ追い出した際に関わった一人でもあり、その際は『姫』に命ぜられて関わったのだと証言していた。
一番の候補はこいつらだと言いつつ、河上はここで第一戦にて因縁ができたマギウス・スクワッドを除外すると言った。
「はぁ?マギウスを?残党の奴らとかも可能性ありますよ」
神山はこの時、それこそこいつらを除外はできないだろうと反論した。
「む?……ああそうか、町田よ」
「ああ、神山くん……マギウスは可能性は低い、何せ……僕が荼毘に付したからな」
「なにっ?」
神山は突然生えてきたような情報に目を見開いた。マギウスが犯人候補でない理由は、町田が彼らを一人残らず葬ったから……などと訳のわからぬ話に混乱した。
「僕が忘れ物取りに戻っただろ?あの時さ」
「あ、あーーー!!」
そして神山に気付かせた。マギウス戦の帰り、忘れ物を取りにスタジアムへ戻った時、マギウスの連中が闇討ちに来ていたと。中井も知らなかったとそれを聞いて驚いた。
「言ってくれたら、行きましたよ僕も……」
「すまないな、というわけでマギウスは候補から外れる、まぁ……残党が残っていたなら個人の枠でよかろうよ」
というわけで、マギウス・スクワッドは個人の襲撃枠、後回しで良かろうと×印を刻み込んだ。
「じゃあ早速、ムーラン・ルージュの本拠地を攻めにーー!」
「まーてー!」
「まだ何かあるんすか!?」
なら話は早いと出ようとした神山に河上が待ったをかける、まだあるのかと神山は焦りと苛立ちない混ぜの感情を込めて聞いた。こうしている間にも呪いが進行して、気が気でないのが見てとれた。
「その一点だけじゃあ駄目だ……優性召喚者へ恐怖を叩き込むには、もう一押し必要となる……そして奴らに犯人を差し出させるなり、探させる必要がある」
「探させる……?」
「あぁ、犯人探しに内地の奴らを利用する」
河上はそう言って、羽ペンを指で弾けば、羊皮紙に先が突き刺さった。そこは『本戦敗退組』と記されている場所であった。
ーーシダト・キャッスル、城内ーー
四聖『拳神』高原泰二の部屋。
高原泰ニは、華美絢爛たる部屋の窓より、右手で顎を撫でながら夜景を窓より眺めていた。
あれから、また顎を触る癖がぶり返したかと高原は、痛むはずもないのに、度々疼いたように感じてしまう顎から手を離して、左肘を窓枠にかけて頬杖を付く。この世界で、この立場を手にしてから消え去った癖は、また蘇り自らを現実に引き戻す。
『すっげーー!これでここいらの奴らも高原さんのシマッすよ!』
『やっぱりストリートの伝説っすね!高原さんは!』
あの頃は、自分より強い奴なんていないと思っていた。
『高原さんなら神童も余裕ですよ!』
『いずれは世界一、日本人離れの剛腕は伊達じゃないっすね!』
あの時は、誰が相手でも勝てると思っていた。
『つ、次は勝ちますよ高原さん!高原さんは地元最強だったじゃないっすか!!』
『大人にも勝ってた高原さんなら次は勝てますって』
しかし、叩きつけられた現実は残酷だった。
『あ、ざこはらさんちーす!ちょっと走ってパン買ってきてくださいよ』
『クソ原さん、近づかないでくれます?いや、うんこ臭いんで!まじで』
『ちょっと、脱糞した奴の彼女ではいれないわ』
たった2回の敗北で、全て失った。勝ち星は十数回積み重ねたのに。残酷ながら知っている、格闘技は『0』か『1』しかない……自分は全て失って、そしてリングを去った。地元最強は所詮地元最強、世界に行く前に壁にぶつかって……そして。
「ふぅう!!」
振り払う様に、高原は右拳を窓ガラス向けて振った。
触れるか触れないかのギリギリで静止した拳、その先で窓ガラスはゆっくりとヒビを広げ……そして喧しく音を立てて割れた。
「何故この世界に来た、何故召喚された、神山真奈都!!またお前は、俺の前を遮るのか!!」
過呼吸気味な息をして、まるで全速力で走った様に肩が上下する。よりにもよって、何故お前がと思わず口に出してしまった。夜風が室内に入る中……ふと、高原は見た。
「え?」
はるか先の景色であった、内地の一角が……確かに燃え上がっていた。火事?何があったのかと窓から眺めているとーー。
「け、拳神様!大変です!!すぐに出動願います!!」
扉越しに衛兵から緊急とばかりに呼び出された。
「何だ、何があった」
「内地の闘士ギルドで襲撃が発生!!ムーラン・ルージュ、サーブルクロス、ギガンテス、ノワール・ド・エールのギルドが襲撃されて壊滅との事……首謀者はTEAM PRIDE!!中央広場にてそれぞれの代表選手を引き摺り出して何やら口舌を垂れていると!!」
「はぁ!?」
情報の整理がつかない、一体何があったのだと高原は、即座に四聖の証たるマントを羽織り、現場に向かう為扉を跳ね開けた。




