仮面舞踏会
前田愛花は硬直した、何しろ美男子の剣士が惜し気もなく、その上半身を晒したのだから。細身ながらにしっかりと浮き上がる筋肉のライン、滴る汗……さらに自らが付けた切り傷により流れる血のフェティシズムが合わさった官能的な姿に口を開けて赤面し、身体が固まってしまった。
「そら、早く……続きをしようではないか」
「あわわ、あわ……」
中段へ構えた河上が、一歩間合いを詰めれば、前田は後ろへ下がった。構えた薙刀をそのままに、河上がまた一歩踏み込めば一歩あとずさる。
「そ、そんな方法使って恥ずかしくないの!?正々堂々戦いなさいな!!」
「こちらは暑いから上着を脱いだだけよ、そちらこそ男が裸体を晒しただけで慌てるなどとは……しかもこうしてくれたのは貴女ではないか?」
卑怯者と罵る前田に、ただ暑さから上着を脱いだだけと宣う河上。しかも、真剣勝負の場にたかが上裸を晒して慌てる方が失礼ではないかと、河上は左手だけを柄から離し傷の一つを人差し指でなぞり血を掬い上げて、自らの唇を撫でた。
優男の上気した血染め肌と、その仕草に前田はぞくりと震え、下腹部に熱を感じた。だめだ、これはダメだ!早くこの男を突き放さねば!!
そう、気づけば前田愛花の薙刀の間合いに、河上はすでに入っていた。振えば斬れる、突けば刺さる間合いまで……。だが、それができない。この男の眼差しに、肉体に、そして……漂う芳香に、前田はもう支配されていた。
「おや……切先が触れてしまったね……」
「あ、あ……え?」
やがて、突き付けた薙刀の切先が、河上の胸板に触れてそれを河上が指摘したのにようやく彼女は気付かされる。しかし、それでは終わらない。
河上は、薙刀の刃と柄を繋ぎ合わせ巻きつけ固定する千段巻をゆっくりと掴み、そのまま左の胸板に切先を少し突き立てた。プツリと皮膚を貫く圧、つつーーと伝い始める血の雫、そのまま切先を袈裟に、ゆっくりと……自ら走らせ傷を作らせていく。
「ひっ!」
自傷行為を目の当たりにして、前田は薙刀を思わず落とした。気味の悪さからではない、またその綺麗な肌に自らの手を介して傷をつけてしまったという事実に手を離してしまったのである。
「落としてしまったねぇ……ダメだよ、試合中に」
「あわわわわわ……」
そうして河上が踏み込み、前田が後退りすれば、いよいよ彼女の身体は魔法障壁に背中を阻まれた。そのまま、河上は左手で彼女の右側に手を伸ばして魔法障壁に手を置いた。
「さぁ、どうする?どうして欲しい?前田さん?」
「あうっーー」
そんな色香と優しい声に、臨界点を超えた前田愛花は、鼻血を吹き出して意識を失い、膝から崩れ落ちた。
「ふうっーー許せよ前田さん、この河上静太郎……いかに女が武器持てば侍と同じとは宣うが、柔肌に切り傷を刻む刃は持ち合わせておらん、このまま続けば負けてたろうさ……」
河上は赤面して鼻血を流す前田の膝裏と背中に腕を通して抱き上げる、即ちお姫様抱っこにすれば女性の観客から黄色い歓声が飛ばされた。
「うう……ひ、ひきょうものぉ」
「罵りたくば罵れ、恨むなら恨め、しかして河上は勝たねばならぬのだ」
気を離してなお譫言を呟く前田に、恨みも罵りも許すと受け止めた。こうまでして勝たねばならぬと河上は、抱き上げた前田を医療班の元へ運んだ。
展覧試合準決勝 副将戦
◯セイタロー・カワカミVSマナカ・マエダ●
3:49 戦位喪失
TEAM PRIDE、三連勝……いよいよ大将神山にバトンを繋ぐ!!
様々なハプニング、展開に見舞われながらも、いよいよ決着が迫る。誰も居なくなった入り口で一人、朝倉海莉は一人柔軟に時間を注ぐ。右膝を、壊れてそして治ってくれた右膝は特に、入念にと柔軟を余念無く行う。
皆負けてしまった、たとえ……自分がこの試合に勝っても追い込まれてしまった事実は変わらない。だがそれでも、自分ならこの試合に勝利して全て全てを覆せると朝倉海莉は自信を失っていない。
やがて、彼女は傍に置いたバッグからそれを取り出して被った。ルチャの象徴……マスク。鮮やかなるサファイアを思わせる緑色、それをベースにさながら羽を思わせる柄、端々には濃淡混じったオレンジに染められたそれは
『ククルカン』
マヤ文明の神の一つを模した仮面は、母も被っていたそれを自らのために作り直した一品。さぁ準備はできた、後は高く、高く、飛翔するのみ!
『レッドゲートより、カイリ・アサクラ選手の入場です!!』
https://youtu.be/71Y9FIlkGiw
入場曲はTEAM PRIDEだけではない!そう言わんとばかりに響き渡るガールズボーカルの曲と共にレッドステージが様々な光に包まれる。彼女もまた、どうやらポセイドンに委託していたのかは知らないが、扇情的な歌詞の曲と激しいリズムに乗りながら、観客を沸き立たせにかかった。
『ここまで来たか!ここまで到達したかTEAM PRIDE!!ならば私が迎え打つまで!!空を飛ぶのは鳥や竜だけではない、このカイリ・アサクラもまた空を駆けて敵を裂くのだ!!飛翔淑女!!カイリ・アサクラがいざ降臨!!』
そんなマティウスの実況が真実であると見せつけるように、朝倉は走り出すやーー。
「は!!」
ハンドスプリングからバク転、さらにそのまま連続でバク転を繰り返して石のリングまで到達!そして魔法障壁を通り抜けて見事に着地して手を上げるや、一気に沈みきった会場がボルテージを戻して熱気に包まれた!
さぁ、準備はできた。出てこいTEAM PRIDE総大将!!この歓声の響き渡る会場で決着をつけようと、朝倉はブルーステージを見た。
『ブルーゲートより、マナト・カミヤマ選手の入場です!!』
https://youtu.be/e5PF8DC6RrI
対するこちらは、重厚なギターサウンドを鳴り響かせ、スモークが焚かれる中で、ゆっくりと人影が現れる。何も奇抜なアクションも、何も特異な言動も無し、ただ悠然と曲を背にこの男は石畳のリングに歩いて行く。
『人を表す言葉は幾つでもある……ですが、彼を表す言葉はこの一言で済むのでしょう、強い……と!様々な曲者率いるTEAM PRIDEの大将マナト・カミヤマ!!天空淑女を前にどう戦うのか!?それともここで終わるのか!?いざ正念場へ!!』
ガウンを脱ぎ捨て、いざリングの魔法障壁を潜り抜けるや、リング全体を大きく回るようにサイドステップで駆け、やがてコーナーへ戻る神山……。いつも通りの縄のバンテージとキックショーツの出立ちで、大将戦に挑む。
「いよいよね、神山くん?準備はいいかしら?」
「聞く必要無いでしょ……」
つれないわと肩を落とす朝倉に対して神山は、右の拳に力が入る。
中井真也は、情け容赦なく拳を振るった。
町田恭二は、寸止めにて実力差を理解させた。
河上静太郎は、剣とは違う力で戦意を奪った。
皆が、女性との戦いで答えを見せた、いよいよ自分の番である。神山は決めている、この試合をいかに終わらせるか頭にしっかり描いている!
コーナーに戻り、鐘を待つ。足を伸ばし、膝を解して背中を伸ばし、石柱に右拳を軽く押し当て握りを確認する。
『はじめぃ!!』
開始の鐘が鳴り振り向く神山、しかし朝倉の姿は無い。消えた……違う上か!飛翔した朝倉が、早速両足揃えて神山の顔面目掛け落下する!
「イヤッハァーー!!」
「おおぉ、いきなり来たぁ!?」
奇襲のドロップキックを前に神山は最早横っ飛びというアクション映画のようにダイブして回避、そのまま受け身を取り膝立ちになって朝倉を見れば、すでに彼女は石柱に両足裏が命中して、膝を曲げていた。
そこから膝を伸ばして跳躍するや、ムーンサルトで神山の近くへ着地して、回し蹴りを放つ!だが、蹴り方から何まで身体はバラバラ、威力もスピードも感じ無い見かけ倒しなプロレスの回し蹴り。
しかし、そんなめちゃくちゃフォームのくせに、明らかに威力を孕んだ様な風を切る音を聞いて神山はバックステップで回避した。
「まだまだ行くわよ!!」
流れを支配してやると、勢いそのままに後ろ回し蹴り……いや、ローリングソバットというプロレス式後ろ回し蹴りを放つ朝倉にこれは回避できないと腕で腹に向かう足裏を防いだ神山は……。
「ぬぉおぉおおぁあああ!?」
女性離れした突き刺さる勢いに、身体が後退りして思わず声が出た。両腕にクッキリブーツの靴底形の痣がハンコの様に刻まれ、神山は目の前のルチャ・ドーラが笑みを見せて軽やかなステップで左へ右へ幻惑する様に動き出したのを見て、ようやく構えた。
展覧試合準決勝 大将戦
TEAM PRIDE 大将
神山真奈都 (ムエタイ)
VS
ヴァルキュリア・クラン 大将
朝倉海莉 (ルチャ・リブレ)
Are You Ready?
Fight!!




