カチコミ・シダト・キャッスル
神山真奈都は、それこそムエタイ狂いではあるものの現代っ子であり、ある程度の同年代の趣味やら娯楽やらの知識は少しは持っている。この馬鹿げた世界が、さながら日本のよくあるロールプレイングゲームを意識した様な世界観だと言うのも理解、自覚していた。
だから、同じ様な物があるだろうなとも予想はしていた。剣然り魔法然り、果ては竜だの薬草だの……。
それでオズマが案内して来た、バルダヤの入り口から少し離れた、駐屯地かはたまた連絡所とでも言うべきか、そんな民家の一つに案内されて、その民家の中でまだ光る円陣を皆と眺めつつ、オズマに尋ねた。
「これは?」
「ワープゲートだ、シダト城内に繋がっている」
神山はそれを聞いた瞬間、近場にあった椅子を思い切り蹴飛ばした。
「落ち着け神山くん、ステイステイ」
「あるわなぁ!まぁ何となく予想してたわ!!あーもう!!」
癇癪を起こした神山に河上が肩を掴み落ち着かせる、これにはマリスも流石に心配そうな眼差しを向けたが神山は込み上げて来た苛立ちをぶつけた。
「剣と魔法があります!!はい、んで?銃まで出て来やがった!!バイクやら発電機まで出て!?竜も居ます!!おまけに街を行き来できるワープボールだぁ!?舐めとんのか!大概にせぇよ!!どこからどこまでこの世界は馬鹿げた借り物つぎはぎファンタジーじゃあぼけぇ!!」
「いかん!神山が壊れた!!中井くん、中井くん!?」
「神山!!言いたいこと分かったから!!落ち着けもう!!」
今の今まで積もり積もった何もかもを爆発させた神山に、河上もいかんと中井の手を借りて二人してボロ椅子に座らせ押さえつけ、中井が肩を力強く掴んで睨んだ。
「言いたい事はあるだろうけどさ、まず!落ち着けよ神山、なぁ!!」
「ふーー、ふーー!ふーー!!」
中井の指が肩に食い込むほど、それほどの力で押さえつけられて神山はようやく癇癪を抜けて息を整える事ができた。この世界に流れ着いてから神山は数ヶ月の生活をして来て、時折感じていた事があった。
『この世界は、あまりに都合が良すぎる』と。
世界観は中世の騎士やらの世界をベースにしながら、あらゆる現代的な品物が流れ込み、食事文化やら生物まで同じで、統一感も無ければ取ってつけた様な産物やら設定が生えて来ている。せめてその辺は一貫しろやと、いよいよ苛立ちが振り切れて物に当たるまでになった。
さっきまでやる気無しだった神山の熱が一気に込み上げてくるほど理不尽で便利な移動用ワープホールを前に、これが先程まで自分と対峙した男なのかと唖然としたオズマではあったが、咳払いを一つして皆に話を続けた。
「このワープホールに入れば、シダトの城内部に行ける……お前たちにはこの件で、姫に直談判する権利がある」
「まだ負けてない、とか言わないんだな」
「負けは負けだ……」
オズマがここまで律儀に協力してくれる様に、怪訝な顔で煽りを込めた言葉を中井は呟いたが、言い返す気力も無いらしい。煌々光る円陣に、落ち着いた神山が立ち上がり目の前まで歩くと、皆に振り返る。そして、何も言わずにその円陣へ踏み入った。
そして一瞬のフラッシュ、それに目を閉じてゆっくり目を開ければ景色も、肌を触れる空気も変わった。蒸し暑さを感じない微かな涼しさと、石造りの壁面が、明らかに自分が瞬間移動した事実を突きつけて来た。
「10時間少しが一瞬かよ……」
円から出ると、すぐさま高めの音共に、中井が同じ様に目を瞑ってしばらく明けてから同じ事実に面くらい、おおと唸りながら出て来た。町田も、河上も、長谷部も緑川も似通ったリアクションをする中で、マリスとニーナだけが慣れている様に何も反応も無しに出て来た。
「じゃあ、行こうかね……」
こうして、TEAM PRIDEはシダト・キャッスルに不法侵入し、いよいよこの件にて姫に直談判を突きつける事になった。
移動して来た部屋から外の廊下に、何も警戒無しに神山は出た。左右に伸びた廊下は人影も無い。
「さて、じゃあ……王の間に向かいますかね」
神山はそう言って、全員を引き連れて廊下を歩き出す。
神山真奈都は王の間がどこにあるかは知っていた。いや、恐らく全ての召喚社全員が、このシダト・キャッスルの王の間、玉座がどこにあるか知っている。
何故なら皆、そこで召喚されて姫より洗礼を受け選別されたから。だから神山は、その場所まで迷う事なくすぐに到達した。
この城は、外観からでも分かるほど、不気味な左右対称そのものなのだ。その中心に玉座がある、それを皆に見せつける様に、両扉も豪勢だった。
辿り着いたTEAM PRIDEの面々が、玉座の間への両開きの扉を前に立つ。護衛すら居ないこの場所に、神山は……。
「シャアッッツ!!」
ヤクザキックの如く思い切り蹴りを入れて扉を開けたのであった。勢いよく開いた先には、いかにも見たことある様な赤絨毯と、左右の柱に飾られた国旗、垂れ幕。
そして……。
「あら……」
気怠げに頬杖を付いた、あの日見た顔にヴェールをかけた『姫』がそこに居た、
それを見た瞬間……神山のあらゆる全ての感情が吹き飛んだ。そう、こいつが原因だ、こいつがこの世界に自分を引き摺り込んだ張本人だと……ふつふつと、込み上げて来たのは……怒りであった。
だから、その歩みの一歩目がおかしいとTEAM PRIDEの面々が気付いたが、それより早く神山はスタートダッシュを決めて叫んだ。
「こ……の、クソアマァアアアアアアアア!!」
「待て神山!ああもう!!」
怒り一色の神山の暴走に、近場に居た中井が手を伸ばすが掴めずそのまま走り出し、それに釣られる様に町田と河上も走った。
赤絨毯の上を疾走する神山、それを見て姫は一つ手を叩けば、柱から四人の人影が姿を現した。
「ぬぅぅん!」
一人目は、凄まじい巨躯。それが壁の如く立ちはだかかり、神山に向けて張り手を放ったが、神山はその股下をスライディングで潜り抜けたのだ。
「おぁあぁあ!?」
その張り手が空振りした先に中井が居た、張り手を咄嗟に両手を前にしてガードした中井は、その強さに背中から転がる様に倒れたが、神山を追う町田と中井が左右から通り抜け後を追う。
「ダメでしょ、いきなり襲撃なんてさぁ?」
二人目は見知った顔だった、オロチとの一件で会った『四聖』の一人、『魔将』の篠宮倉人は、露払いとばかりに火球を素早く目の前に顕現させて放った。
「いかん!?」
これに跡を追っていた町田が神山が直撃を避けれないと見るや、一気に加速して前に出て来た。
「しぃいやっ!!」
そして、予選でも見せた魔法すら穿つ拳速の正拳で火球を消散させた。
「えぇーー、まじぃ?」
魔法を物理にかき消されたショックを受けた篠宮の横を神山と河上が駆け抜けた。姫との距離まで僅か、そこに立ちはだかったのは……。
「止まれ!これ以上の狼藉はーー」
『剣聖』御剣玉鋼が、剣を抜き放ち行手を遮ったが、その刹那。
「ゆるーーむぅ!?」
「いい機会だ!貴様の腕見せて貰おうか!!」
河上静太郎の、容赦無しの一太刀が御剣の首向けて振られたのだった!我慢できるわけがない!!河上静太郎が、この世界で剣聖を嘯き胡座をかく輩を前にして、神山を止めるよりも重要な事であった。
遮る者は誰もいない、神山は拳を振りかぶり残り数mの地点で地面を蹴るや、玉座に座す姫向けて拳を叩き込みに掛かる。
たがーー。
「神山ぁ!!」
最後の一人が立ちはだかり、飛びかかる神山を撃墜するかの様に拳を放つ。
互いの右拳が、頬を、耳を擦れて身体がぶつかり勢いつけて横に転がる。
そこに居たのは高原泰二……四聖の一人『拳神』にして、現世にて神山とアマチュアで戦った因縁ある男の一人だった。高原は立ち上がり、姫の玉座を背にして立つと構えて言う。
「神山、何しに来た……姫への襲撃、最早これはテロと同じだぞ」
「知らねえよボケ……ああ?何テメェは白馬の王子気取ってんだよ……」
神山の怒りは更に上昇する、何故おまえがこんなごっこ遊びじみた事を馬鹿げた世界でしているのだと、ゆっくり立ち上がり拳を握りしめた。
「勝手に引き摺り込まれて勝手に階級決められて……何もかもそこのクソアマが悪いんだろうが、どけろ高原ぁ……そいつをぶちのめさないと気が済まねんだよ!」
「悪いがさせん、引いて貰おうか?」
「そうかい!!」
怒りを露わにして遂に我慢の限界を迎えた神山が、高原に突貫するや右足のミドルキックを奇襲気味に放つ。
「っーーッツ!?」
「しゃぁ!!」
右のミドルを左腕で防御した高原だったが、その威力に体を強張らせ、更に追撃を許した。左ストレート、右フック、右アッパーと散らす様なラッシュで神山が一気に畳みかける。
それを高原は、体を左右に振りしっかりガードをしてヒットポイントをずらしていた。熱くなりすぎていたのだ、冷静さを失った神山は、ラッシュに気を取られて忘れていた。
「しゅっ!!」
吐く息と共に、高原は握りしめた左拳を、神山の右脇腹に叩き込んだ。
「がひゅーー」
神山の息が止まった、そして思い出した。
そうだった、この男は……自分を一度完膚なきまでに叩きのめした一人『剛腕』の異名を冠していた事を。それらを思い出して、神山の両足から力が抜けて口が開き涎が分泌されて、胃がひっくり返るほどの吐き気に晒されて、神山真奈都は膝をついた。




