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人面獣心のクソヤロウ 上

 ラウェイ……。


 タイ王国のムエタイに酷似したその格闘技は、ミャンマーの国技であり、それを修めし戦士は尊敬の念を国民から集める。

 パンチ、キックは勿論の事、肘も膝もありのルール。さらには頭突き、故意でなければ金的すら許される過酷なルールの格闘技だ。


 特徴的なのはそれだけではない、この現代においてラウェイは……グローブを着用しない。バンテージを巻いた拳、裸拳に近い形で殴り合うのだ。それ故に『世界一過激な格闘技』と呼ばれている。


 まさかの相手に神山は笑い……構えをとる。拳がこめかみの高さにまでくるアップライトの構えに対して、襲撃者たる銀髪の美丈夫は、胸元あたりに構える顔面を保護しない低めの構え……余程避けるのには自信がある現れだ。


 砂浜をゆっくりと、二人して間合いを取り、測り合う。しかしーー。


「ここまでだ神山真奈都」


「なにっ」


 銀髪の襲撃者は構えを解いた。


「明日にはどの道本気でやり合う、その時にケリをつけようじゃないか」


「待て!名前くらい名乗れ!!」


 今夜ではなく、明日には戦うと銀髪の襲撃者はフードを被り直すや、バックステップと共にローブを翻し……瞬く間に消え去った。姿を消した襲撃者を前にして、神山は舌打ちをし……右膝を砂浜に屈した。


「マナト!大丈夫!?」


「マナト様!!」


「頭突きは考えてなかったなぁ……くそ、危うくダウンだ」


 頭突きが見事に決まっていた、景色も歪み脳震盪になっていたのを無理矢理我慢して構えていたらしい。息は然程荒くないにしろ、ダメージは目に見えてあった。


「ニーナ、肩を!」


「かしこまりました!」


「いや、いいから、立てるって……」


「怪我人が口答えしない!」


 肩を借りるほどでもないという神山に、厳しく言葉を遮るマリス。夜の散歩は、結局襲撃によってホテルに帰還となった。



 やがて、それから1時間ほど経過してーー。


 TEAM PRIDEのメンバーは緊急で集められた。神山に充てがわれたバンガローに集合し、襲撃があった事を伝えられる。河上静太郎は相変わらずまだ街の中の様で、この場には集まらなかった。


「中井くんも襲撃にあったのか、というか気付いてたなら一言欲しかった」


「気を張ってましたし、仕掛けてくる気配も無かったので……しかし神山、余程やられたの?」


「頭突き一発いいのがなー、ああくそ……油断した……」


 神山はベッドに寝かされ、氷嚢を額に当てられて安静にさせられる中、中井も襲撃にあった事を町田が聞き、報連相をしろと指摘する。


「しかし……ありなのかよ、大会運営側が襲撃って……前代未聞だぞ?」


 中井の証言から、此度襲撃をかけてきたのは『展覧試合の実行委員』を名乗る輩であるというのが分かる、大会運営の人間が参加者を襲撃などと、そんな事あり得るのかと長谷部は困惑が強く、あり得ないと頭を抱えた。


「余程我々が勝ち上がるのを楽しく思えんらしい……さて、どうするか?」


 腕を組みため息を吐きつつ、此度の襲撃により旅行もクソも無くなった事態に町田は、これからの身の振り方を皆に問うた。


「どうするって……こんなのあんまりですよ!すぐに帰って運営に直談判を」


「その運営がすいませんって謝るか?緑川、はっきり言うけどこればかりは逃げる選択肢はもう無いからな?」


 緑川の真っ当な話は、この場では通じない。普通ならそうなるだろうが、これは異常事態であると中井は、今はその選択肢は塞がれていると厳しく言い切った。


「とりあえず、あっちが仕掛けて来たなら叩き潰すだけだ、明日からでも僕は情報を集めて、実行委員会の根城なり潜伏先を見つけて……全員捻り殺す!」


「そう昂るなよ中井くん、やり合うにしても……マリスさんにニーナさんまで襲撃されたらどうする?」


 立ち上がりながら、中井はもう臨戦体制だと声を上げるが、町田がマリス、ニーナの守りはどうするんだと諌めた。


「しかし、このまま待ちぼうけしていいのか?襲撃されたという事は、どんな手を使ってくるかも分からんぞ?」


 だが、長谷部はこのまま待つのかと反論をする。むしろ先手を取りに行かねばこの場合、追い詰められないかと言われた町田は顔を顰めた。


「事が事、だからな……難しい話だ……」


「多分っすけど、あいつら明日には何か仕掛けてくるっすよ」


 そうして悩む最中、神山は氷嚢を額からどかして上半身を起こした。


「俺を襲撃した奴が、明日にはケリをつけるとか吐かしてたんでね、何か仕掛けてくるんじゃないですか?」


「それを迎え討つ、という形にするか?」


「しかないっしょ……で、マリスさんとニーナさんを守りつつ戦う……何来てもいい様に腹は括っときましょうや、町田さん」


 自分達が今できるのはそれくらいだろう、神山の答えに町田は、それでいいかと全員に目配せをし、これ以上はもう話をしても進まぬと皆反論は出なかった。


「河上には俺から話をしておく、皆明日に備えて休もう……」


 これから何が起こるのか、何が向かってくるかも分からない。しかし何が起きてもいい様にはしておけと、町田の一言を持って、TEAM PRIDEは解散した。




 ーー翌朝、TEAM PRIDEの面々は、ホテル近辺にて待機する事になった。館内ないしホテル周辺にて、襲撃に備え気を張るように、朝帰りした河上も話を聞いて、今夜の夜遊びはやめかと気を悪くしながらも部屋に戻って寝る事にした。


「しかし……何を仕掛けてくるのか分かんないっすね町田さん」


「だな、まぁ……流石に日中のこんな賑やかな時間には来ないのか……」


 ホテルのレストランは、モーニングでそれなりに賑わっていた。そして神山、町田は丁度会った為、二人で朝食を取る事にしたのである。メニューは……いかにもな、ホテルのバイキングの食事だった。パンに、サラダに、焼かれたベーコンだのなんだのそれらがブース毎に置かれて好きにどうぞという形。オムレツのブースには現地人らしいシェフが暇そうに立って、客に頼まれればオムレツを焼いていた。


 神山は思う、やはり都合がいい……いや良すぎると。馬鹿げた世界だから、ホテルのサービスもファンタジーよろしくグレードは下がる物かと思えば、さながらそこばかりは現世並みの便利さが切り取られて置かれている。


 ガスは?電気は?火は?それらは『魔法』という荒唐無稽な力に補完されていたり、その町には理由無く『ある』様は混沌そのものである。瑞々しいサラダを齧り、ルビー色のいちごジャムの塗られたトーストを齧り、本当にこの世界は何なのだろうかと、実行委員会とやらの襲撃を神山は待つ。


「町田さんは……もし現世に帰れたらどうします?」


「む?」


 唐突であった、神山はふと昨日のマリスとニーナからの帰るなラブコールが過ぎって、町田に尋ねた。帰れるならどうするんだと。


「神山は……確か帰りたいのだったか?」


「ええはい……町田さんはどうなんっすか?」


 ルテプのエビ料理屋の時に、町田はこの地で空手をするのも悪くないし、帰れるならその時に決めると言っていた。濁した言い方で、まだ判断していなかった町田に改めて聞く神山。町田はフォークとナイフを置いて、真剣に神山を見つめた。


「神山くん私は……君の知る様に、人を殺している」


「はい……」


「世間は私を、悲劇のヒーローと仕立て上げ、保護監査まで勝ち取れた……殺した者達の悪行から、裁かれるべきは君ではないと世論の同情すら得た」


「存じてますよ、あ……あの時は焚き付けるためとは言え、すんません」


「気にするな、事実だからな」


 町田をメンバーに誘った際、人殺しの事をなじった事を、今更に謝る神山に苦笑する町田。


「いやでも……あれは町田さんに正義があったからの行いっしょ!?一人の純血を救うために……その、町田さんは間違ってねぇと俺は思いますよ!!」


 神山からしても、事件の話は知っていた。相手方の余罪に、持っていた凶器……守るために拳を振るい、空手を使った事は誰も咎めないし、決して悪くないと神山な言い切った。


「神山くん……もしも」


 そんな純真無垢な穢れを知らない神山の言葉に、町田は吐き出す様に言うのだった。


「その事件、私が私欲で戦っていた……と言ったら君はどう思う?」



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― 新着の感想 ―
[一言] 町田さん自らの内面をついに明かすのか… しかしよくよく思えば誰しもが大小の差はあれど心の中に獣が巣くっているとは思うんだがな。 ラウェイってルール無用の古代相撲みたいな感じなのかな?
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