ディナータイム
「へー……それで僕と緑川くんのチャーハンも平らげたんだ、ふーん」
「いや、こんな日差しに熱帯の中そのままだったら腐るだろうが」
「ごめんなさいシンヤにヤシロ、ディナーは好きな食べ物頼んでいいから」
TEAM PRIDEの面々は、約束通り夕方にはホテルに集まった。バルダヤ旅行初日、せっかくだからホテルのレストランで皆でディナーを食べようじゃないかと、案内されたテーブルに通された。
なお、今回TEAM PRIDEが宿泊を決めたホテルの名前は『バルダヤ・ビーチサイドバンガロー』と呼ぶらしい、河上がこの世界の言葉から訳したらそう呼ぶと聞いて、召喚者の力で言語翻訳され文字が読める長谷部と緑川に尋ねると、本当にあっているという。この世界の言語と文字を独学で習得したと豪語するあたり、この人は本当に色々恐ろしいなと神山は思うのだった。
さて、そんなディナーの席で自分と緑川抜きで先に米を食した話を聞いた中井は不機嫌であった。流石に腐るわと神山が言い返し、それに対してマリスは好きな物を頼む事でチャラにしようと提案した。
ホテル併設のレストランは屋外、屋根つき屋内スペースと分かれていて、どちらも宿泊、外来客でなかなかに繁盛している。既に席に置かれたメニューを開きながら、河上は中井を嗜めた。
「まぁまぁ、屋台であったからここにもあるだろう、さ、頼もう頼もう」
炒飯ならここでもあるだろうさとメニューを開く河上、皆もメニュー表を開くのだが。
「いや読めん、読めんよやっぱり」
TEAM PRIDEの識字率6人中3人、神山、中井、町田は読めないので、何がどれか分からないのだ。神山は早々に諦めてメニューを閉じた。
「お、やっぱりあるな炒飯!中井くん、何がいい?豚に鳥に牛に海老に蟹……どれにする?」
「じゃあ豚で……」
「結構サイズあるのかな、シェアして食べるならもう一皿頼むか?」
「それなら、もう一皿は蟹がいいわ、小皿を貰いましょうか……」
河上が早速炒飯のメニュー欄を発見して具材は豚をと中井が指定するや、そもそもサイズが分からないからもう一皿頼むかと長谷部が提案し、もう一皿の具は蟹がいいとマリスが指定してスタッフに小皿を頼もうと決める。
「緑川くん、炒め物とか野菜とか……どれか分かる?」
「これがそうですね、あ、これ美味しいですよこっちの野菜の炒め物なんですけど」
隣同士だった為、町田はメニューを緑川に見せてどれがどのジャンルか、おすすめはと尋ねて頼む物を決めている。とりあえず、皆が頼んだ物をシェアして食べるかなと頬杖をついた神山だったが。
「マナト様は何かお頼みになられないのですか?」
「んおっ?」
唐突に、マリスのメイドのニーナより聞かれた。何か頼まないのかと、適当に座ったが隣だったらしい。ニーナは神山が閉じたメニュー表を開いてページを捲り、この世界の言語のメニューを指差した。
「海老が好きでしたら、こちらの南国生野菜と海老の薄包みがありますよ、生野菜と茹で海老を薄い生地で巻いた料理です」
「……生春巻きまであるのか」
「なま、はる?」
「ベトナム料理、米の薄い生地で生野菜を巻いて、タレにつけて食べるやつがあるんだ」
「では、それですね……頼みます?」
「お願いします」
ニーナとまともに会話したのは、恐らく初めてかもしれない。しかし有難いなと、こちらの困っていた事を察してくれた事に、神山は感謝した。
オーダーを終えたTEAM PRIDE、バルダヤ最初の夜で頼んだディナーを彩る料理達は以下の様になった。
・ジャルフェン2皿(いわゆる炒飯、この世界での呼び方らしい。中井とマリスのオーダーで、豚肉と海老の2皿中々量がある)
・バルダヤ生春巻き(神山、マリスのオーダー、この世界の南国野菜を米の生地で巻いてタレにつけて食べる)
・ヒラールリーフとシーフードの炒め物(この世界の自生する野草、三日月の形をしたヒラールリーフとシーフードの炒め物、町田のオーダー)
・鶏肉のルガナ草包み揚げ(シダト料理、回復ポーションの材料ルガナ草で、味付けした鶏肉を包みそのまま揚げる、ルガナ草ごと食べるか解いて食べるかは地方で違うらしい、河上のオーダー)
・竜の尾のスープ(名前の通り、ドラゴンの尾の肉を煮込んだスープ……つまりこの世界に竜は居るし、料理まであると言う事だ。長谷部のオーダー)
・シダトボウルサラダ(緑川オーダー、町田が炒めた野菜を頼んだのでサラダにした、シダトの特産野菜てんこ盛り)
・ハウスクラフトエール(相変わらずな河上の頼んだ酒、このホテルが醸造するエールらしい)
・水(いい感じに冷えた水、氷はご自由に)
次々運ばれてきた料理達を前に、それぞれ取り分けたり取り始めたりとディナーは始まった。神山は早速、ニーナが勧めたバルダヤ生春巻きを皿から取り分ける。
現世でタイ料理を好んでいた神山、その流れから東南アジア系料理を見かけたら手を出していたが、生春巻きも勿論食した事がある。半透明の生地から見える巻かれた野菜に春雨、茹で海老……それをスイートチリソースにつけて食べた記憶がある。
対するこのバルダヤ生春巻きは、現世の生春巻きより生地が厚いのか、具材があまり見えない。備え付けに出された液体のポン酢にも似たドレッシング、それに早速浸して神山は噛み締めた。
「いかがですか、マナト様……」
勧めた手前、口に合わないのが心配なニーナ。しかし神山は、咀嚼してまた二口、三口と一気に一本を咀嚼して飲み込んだ。
「うん、これは好きだな、青パパイヤの歯応えはやっぱりいい、ミントも刻まれていい塩梅に爽やかさが来るのが癖になる……このドレッシングはもしかしてナンプラーか?いよいよ僕好みな調味料まで出てきたか」
神山の好きな味であった、細切りの恐らく青パパイヤがさながらソムタムの様にいい感じの歯応えと、爽やかなミントの風味が自分好みと称して、ニーナは良かったと笑った。
「それ、そんなに美味しいの?」
神山の総評に、ガツガツ豚肉炒飯を口にかきこんでいた中井が尋ねた。
「俺は好きだ、香草ダメな奴は無理かもしれん、試してみるか?」
神山にしては美味ながら、他人からすれば癖があるぞと、神山は試すならとナイフで生春巻きの一本を半分に切り、中井の更に取り分けた。同じようにフォークに刺して、ナンプラーベースのドレッシングに浸して口に放り込み咀嚼した中井だったが……顔を顰めグラスの水ですぐに飲み込む。
「あー……僕ダメなやつだ、キッツイ……」
「やっぱり好き嫌い分かれるなー」
中井はダメだったようだ。口直しだとまた豚肉炒飯を口に入れ始めた中井を見ていると、ことりと神山の前に濁ったスープの入った椀が置かれた。
「飲んでみろよ、現世じゃないドラゴンテールのスープだ」
長谷部が頼んだ、竜の尾の肉のスープらしい。見れば長谷部の前に、立派な石鍋が置かれてレードルが添えられ湯気立っていた。長谷部の勧められるがまま、竜の尾のスープが注がれた椀を持ち、口につけて傾けた。
飲む刹那、確か竜の肉とか食べたら不老不死になるとかあったよなと思い出したがもう遅い。舌に感じた味は……上品でびっくりするほどあっさりしていた。
「美味いな……色合いからしてキツいくどいって感じなのに……」
「だろ?豚骨みたいな濁りなのにめちゃくちゃあっさりでしょ?」
濁った見た目からは想像できない澄んだ味、浮いている肉が竜の肉なのかとスプーンに掬い上げて食べる神山。
「おー……クニュっとしてるけど噛み切れる、スジを煮詰めて形を無くしたように柔らか」
尾の肉もこれまたコラーゲンの柔らかさがいいなと、感想を漏らす神山。ふと、こっちに来てここまで嗜好に寄った食事な久々だなと実感した。河上が厨房に立ち、華やかなメニューになったが、低カロリー高タンパクの栄養重視メニューだった、ここまで気にせず食べるのを楽しむのは久々かもしれない。
今まで戦い続けて来たし、これくらいいいだろうと、神山は皿に次々と料理を盛り、食を楽しんだ。




