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それぞれのホリデイ ①

ーーその頃、神山と河上以外のTEAM PRIDEメンバーは……。


「これはどう、こっちがいいかしら?」


「お嬢様、あまり派手な物は良く無いかと……」


 TEAM PRIDEの主人マリスと、そのメイドたるニーナが水着を選ぶ傍ら、こちらもビーチを普段着で歩くわけにもいかないと、主人から着替えを買う様に命ぜられた。


 のだが、中井真也は不満気に、そして気怠げな様子でマリスとニーナを見て佇んでいた。町田、長谷部、緑川の3人はさっさと買いに行ったにも関わらずである。それに気付かないマリスではない、水着をニーナに持たせて佇む中井に歩み寄った。


「シンヤ、どうしたの?自由に何でも買ってきなさいな」


 そう言われた中井だが、顔を顰めてバツの悪そうに呟く。


「いや、いいですよら……別に泳いだりとか遊んだりとかしないんで……ずっと部屋に居るから」


 そもそも、このバルダヤへの慰安旅行自体乗り気でなかった中井は、期間中練習以外は部屋で休んでいようとすら思っていた。こう言った明るい雰囲気自体が苦手なのである。しかし、マリスはそれを許さなかった。


「ダメよ、主人の命令、ここに滞在する間は遊ぶこと!ニーナ!」


「はい、こちらに!」


「シンヤの服を選ぶわよ!さぁシンヤ、来なさいな!!」


「ちょっ、だから僕はーーおぐぅう!」


 襟首をマリスに引かれて中井は、水着のブースから男性の服のブースまで引っ張られた。神山が異様にマリスは力が強いと言ったが、それを中井は身を持って体験した。ここまで膂力あったのかとよたつきながら中井は、マリスに連れられ強制的にバルダヤ用の服を買わされ着替える事になった。



 斯くして、TEAM PRIDEのバルダヤ修学旅行は幕を開けた。その初日は、とりあえずバルダヤを好きに回ろうと、それぞれグループしかり単独行動で方々に向かう事になった。それぞれやりたい事も違うだろうし、まずは好きに行動してみよう、夕方にはホテルへ帰還し夕食を皆で取ろうと、ラフなスケジュールにしたのだった。



「ぷはぁあ!」


 水面から顔を出して息を吐く神山は、髪をかき揚げて立ち泳ぎになった。異世界の海は綺麗だった、現実で海水浴に行ったりしたが、その何処よりも綺麗かもしれない。バカンス先の透明な海外の海で今、自分は海水浴をしているようだと、それだけでテンションが上がった。


「はは、綺麗でいいや……うお!?」


 波も結構強い、ぐわんと持ち上げられて浮き上がる神山は、ふと視界の端に見た姿を捉える。河上だ、河上が板の上で波を支配し、乗っているのだ。左へ右へそうしてあっという間に砂浜まで流れ着き棒立ちになり、板から降りた。


 神山はそのままクロールで河上の方へ近づき、砂浜に足をついて立ち上がる。


「すげぇ!河上さんサーフィンできるんすか!?つか、どこで借りたんすか板!!」


「趣味の一つさ、この世界にもレンタルサーフィンがあちこちにあったよ、多分サーファーが転移したのだろうな」


 確かに、あちこちに数は少ないが板の上に跨り波を待ち、乗ろうとしている客が見えるし、サーフボードが立てかけらているのが砂浜にいくつかあった。しかしこの人何でもできるなと、海水を浴びて太陽ギラギラに浴びて余計色気を醸す河上に目を輝かせる。


「せっかくだからサーフィンやらないか神山くん、キミならすぐロングなら立てる様になるよ、僕が教えるからさ」


「じゃあ、折角なんでご教示して貰っていいっすか?」


「よし、じゃあロングのボード借りに行こうか」


 神山、河上の二人は、異世界の海の波をこの日は楽しむのだった。



 波乗りに興じる二人とは別に、街中に滞在していたのは中井と緑川であった。中井はあれから、マリスにより見繕われたサーフパンツとパーカーに着替えさせられ、部屋の鍵すら奪われたのである。さながら厳しい母の如く外で遊べと言われた中井だが、どこも行く気にも遊ぶ気にもならないと言うので、緑川に連れられバルダヤの街中を散策していた。


「あの、中井さん?」


 そんな、全く遊ぶ気も無い中井ではあったのだが……ふと、一つの店で足が止まってしまったのだ。イキがった中学生の如く両手をポケットに入れて気怠げに歩いていた中井の目が、その店の店頭に飾られた物を見つめて、足も動かないので、緑川はどうしたのかとその店を見た。


 ショーウィンドウに飾られているのは……銃だった。この世界にも確かに『銃』はあった、しかしそれらは所謂遥か昔の、火縄銃や火打ち石で着火するタイプの単発式ばかりである。自動拳銃などまず無かったが、オロチとの抗争の最中に

中井は拳銃を見つけたが、既に弾から何からダメで使えなかったのだ。


 しかし、ショーウィンドウに飾られた銃達は、そう言ったアンティーク品じみた物ではない、自動拳銃の『形』はしていた。が、どれもこれもレリーフを刻まれていたり、形状が特異であったり、剣と一体化していたりと様々だった。


「興味、あるんですか?魔法銃」


「魔法銃?」


 緑川から尋ねられて、中井は疑問を浮かべた。


「はい、杖とは違う魔法の出力装置です……結構マイナーなんですよね」


 これまた魔法かと中井はバツの悪そうにショーウィンドウを眺めた。


「そうか、なら俺には関係ないな、こんな馬鹿みたいなレリーフやら分からん刃物が付いた銃なんて、使う気にもなれん」


 捨て台詞を吐きながら中井は店を後にしようとしたのだが……。


「おい待てよ、聞いてたぞ」


 扉が開いて吊りベルも鳴らして、一人の青年が怪訝な顔つきで中井と緑川を呼び止めたのだった。


「うちの魔法銃はそこらのとは違うぞ、何ならミリオタが目を輝かせて唸る銃もあるんだ、今の言葉取り消してもらおうか?」


 中井の悪態を聞いて喧嘩を売ってるのかと短髪の青年が、言葉を取り消せと強く言う。緑川は喧嘩になるかと、中井のキレ易さもあり、他のメンバーに助けを呼ぶべきかと身構えた。


「取り消さなかったらどうなる?」


 振り返った中井はもう喧嘩を買う気満々だった……挑発を込めた言い方に青年は眉間にしわをよせたのだが……。


「あれ?あんた、中井真也か?」


 青年は中井の顔を見て、本人かどうかを尋ねるのだった。



 町田恭二と長谷部直樹もまた、バルダヤ観光に羽を伸ばしていた。神山、河上のアクティブでもなければ、中井、緑川の様なデンジャラスな店でもない、健全な街中を歩いていた。


「匂いがすごいな、神山くんが言ってたタイの屋台町の匂いってこんな感じだろうか」


「色々あって混沌としているな」


 適当にぶらついていた町田と長谷部が辿り着いたのは、屋台街だった。シダト首都ルテプ外壁にも屋台街があるが、それとはまた違う雰囲気と匂いが充満している。神山が話の端に出していたタイはバンコクの屋台の匂いとはこんな感じかと想像しながら、屋台街を長谷部と歩く。


 ドス黒い鍋に浮かぶ豚足の塊に、ゴワゴワ泡を立てる油と側に上げられた小麦系の菓子、鉄板から蒸気を上げて炒められる野菜や肉……この世界の屋台飯も現世と変わらないなと町田は眺めて歩いていると……。


「え!?」


「あった!おい、止まんなよ町田、何?」


 町田が立ち止まりその背中に長谷部がぶつかるや、止まると文句を垂れながら何を見つけて止まったと町田の目線の先を追う、立ち止まるには充分過ぎる理由を長谷部も理解した。


 乱雑に、ダイナミックに業火の上を揺らされる鉄鍋に、舞い上がるそれは……見間違うはずも無かろうそれは間違いない。


『米』であった。米飯が具材と炒められている、つまり『炒飯』である。


「焼き飯だ……ご飯だ……おい、ご飯だ長谷部!」


「おいおいマジかよ!?この世界、米があったのか!!」


 この馬鹿げた世界の主食は、パンであった。日本人の主食である米など無い、探しても無かったのに、それがまさかの領内のバカンス地で見つかるという事態に二人はそれはもう歓喜するしか無かった。


「買って行こう!全員分包んで貰おう!」


 これはもう買うしかなかろうと、町田はその屋台まで向かおうとした。


「待て町田、待った……もしかしてホテルのメニューであるんじゃないか?ここのも気になるが、全員分買ってホテルで被ったら……」


 長谷部は待ったをかけて引き留めた、焦るなと。夕食まで自由時間であるが、そのホテルで皆集まって食べる夕食のメニューでもあるのではないかと、この屋台で全員分買ってみな食べたとして、ホテルの夕食で出てきたら、被ったらちょっと変な気分にならないか?と。


「でも米だ、数ヶ月ぶりだぞ?被っても幾らでも食べれそうだが?何せ米だぞ、主食だぞ?」


 それに対しての町田の返答は、数ヶ月ぶりの米飯だから被りも気にしないだろうし、主食がそうなるか?という何とも頭の悪い返しだった。


「……それもそうか、なら買っとくか」


「よし!」


 が、それでも長谷部は納得した、そして町田は自分のブレスレットから支払いで、異世界の炒飯をチーム全員分、マリスやニーナ含めて8人前をお買い上げしたのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正 いや、いいですよら…… 神山くんが言ってたタイの屋台町の匂い 正 いや、いいですよ…… 神山くんが言ってたタイの屋台街の匂い 中井くんもしかして体育会系ひきこもりとい…
[良い点]  気が付いたら、いつの間にか凄く更新されてた事にビックリ(;・∀・)。 [気になる点]  米は米でもジャポニカ米じゃなかったらどうするんだろう?(;^ω^)  私は食べ比べた事が無いので分…
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