闘士のリゾート地 バルダヤ
シダトの闘士達は、それこそ貴族同士の代理決闘しかり、展覧試合しかりとその身を戦いに投じて、実力を見せて地位と財を得ている。その戦いで受けた傷は、この世界の魔法薬然り、治癒魔法にて癒される。場合によっては蘇生院によって蘇りすらあり得る。
そんな闘士達も毎日戦い、鍛えているわけではない。精神衛生の為にも娯楽は必要不可欠だ。それはルテプ東の夜街であったり様々だが……シダト領内は南端の、海に面したリゾート地はあらゆる闘士達が利用する慰安の大地であった。
バルダヤという名前のリゾート地は、ルテプより馬車で休み休みに行けば1日は掛かる。TEAM PRIDEの面々はそれこそ、オロチとの戦いで得たガソリンやバイクを走らせる事ができたが、主人たるマリスを乗せて走行は難儀すると思い馬車を選択した。
とは言え、資金に関しては心配ないTEAM PRIDE。合宿の提案を聞いたマリスは、ならばと苦にならない内装のしっかりした馬車を4台チャーターし、それで向かった。
亜熱帯のシダトの南、燦々輝く太陽が余計強く感じる。ある者は沖縄の日差しだと、ある者はパタヤビーチの日差しだと、またある者はハワイの日差しだなと揶揄するだろうが総じて言うなら全て『暑い』の二文字に纏まる。TEAM PRIDEが到着したのは、途中の休憩を含めて10数時間後であった。昼間に出発した馬車は朝の早くにそのリゾート地へ到着した。
「……ケツ痛いわ」
「同感だ、エコノミー症候群になるぞこれ……」
馬車から降りた神山が、開口一番にそう言えば中井も賛同するように吐き捨てて腰を回した。辺りには疎ながら、しかし中々の台数の馬車が並んでいた。
「着いたなー、ここが闘士の慰安地バルダヤか……」
次いで、神山組の後ろをついて来ていた馬車より、背伸びしながら河上が降りるや辺りを見回す。馬車の停車場なのだろう、現在地から先には何やら建物があり、そこからの人の出入りがある。あれが税関なり入場門やもしれない、さながら国際空港の敷地をそのまま駐車場にしましたよとでも言いたげな雰囲気であった。
「おお、痛い……馬車って優雅な見た目してキツいな」
どうやらケツを破壊されたのは神山や中井だけではない、町田も中腰気味に降りて来ていた。
「つ、ついたぁ?もうダメだ、あー痛い痛い……」
「こ、これは腰に悪いな……」
長谷部、緑川組ももれなく腰を痛めながら降りて来た。さて、そんなTEAM PRIDE男性陣に対して、最後に到着した主人たるマリス、そしてメイドのニーナは……。
「あら、大丈夫?これから慰安なのに疲れてるの?」
マリス・メッツァー、何ともなし。と軽やかに馬車よりメイドのニーナの手を取り降車。
「さ、早速宿を取りに行くわよ?ほら、キビキビする」
「う、うっす」
急かして歩き出すマリスに、神山が思わず返事をした。やはり慣れなのか、こればかりはと神山と一同は感じながら、マリスの後を追従した。
『どうやら奴らは、バルダヤで試合までを過ごすらしいな』
その頃……何処とも分からぬ暗闇、その中心に置かれた水晶より映し出された映像に、黒きローブを羽織った者達が注視していた。
『よし、ではこの地を奴らの死地にしてくれる……劣性如きが展覧試合を汚した事を後悔させてやる』
彼らは『姫』より展覧試合の運営を任されている『実行委員』であった。此度のTEAM PRIDEによる準決勝進出を……いや、そもそもこの神聖なる戦いの地を汚す事許すまじと『姫』に進言した者達である。が、その姫は
"強ければ良し、それがシダト唯一の掟である"
と宣い、それが不服ならばTEAM PRIDEを倒して来いと彼らを煽ったのだ。その中の一人が、早速向かうべしと踵を返す中、その中なまた一人が声を上げる。
『待て、悔しいが彼奴らの実力は甘く見るな、万全を期す必要がある』
『というと?』
『数は揃えた方がいい、幸い……この地は闘士の慰安地、癒えて力を持て余した闘士が多々居るのだから』
『ほう……お前の考え見えたぞ、ならば準備をせねば』
『彼奴らに引導を渡してくれる』
一人、また一人と暗闇に消えていくローブの者達。神山達は、自らが標的とされている事も知らずに、異世界のリゾートへ足を運ぶのだった。
「いよいよ魔法は何でもありになって来たな、さながらテーマパークとかサッカーの入場用のリストバンドだ、いや財布機能付きなら海外のフードコートか?」
TEAM PRIDEの面々はバルダヤの入場門……いや、税関?関所?に類した場所に辿り着いていた。神山達は、バルダヤ入場門に設けられた入場口にて、さながら入国審査ならぬ、入場審査を受けていた。
ここ、バルダヤでは入場に際して、リストバンドを付けるらしい。しかも、それがこのバルダヤ区域における『入場許可証』であり『身分証明書』となり『財布』になるのだという。
これをこの関所然り、このバルダヤ各地にある『換金所』で、シダト通貨を支払いこのバンドに魔法でその金額を刻み込み、この地でのみ支払いをスムーズにできるというわけだ。何故ここだけ現代的だと思いつつも、自分達が持つスマホ然り現世の科学技術も、魔法染みているから何も言えないなと神山は、左手首のバンドを眺めながら呟く。
しかし、デザインはいい。木製かつ、この世界の『魔法鉱石』だかを埋め込み作られたそれは、まるで海外の露天の木工細工のようで神山はこの手の物は好みであった。帰る際は回収するらしいが、買取できないだろうかと神山は考えてしまう。
「マナト・カミヤマ様、登録完了しました……ようこそバルダヤへ、良い休暇を」
受付に案内され、小さなゲートが開けられる。外部から見えていたが、バルダヤなるこの慰安地、リゾートは現世のローカル系のビーチの雰囲気が見てとれた。幾つか見える、バンガロー式の家屋や露天、石畳には砂が被りそして椰子の木も高々と生えている。朝方のまだ早い時間故に疎な人の姿、現世のリゾート地に比べたら劣るが、しっかりとリゾートらしい雰囲気が出ている。
賑わいを見せるのはまた昼からか、そう思いながら辺りを見回していると、別の入場口からそれぞれTEAM PRIDEのメンバー、そしてマリスとニーナが出てきた。
「さぁ、皆入ったわね?それじゃあまず宿から探しましょうか、高くてもいいからしっかりしたところを取るわよ
TEAM PRIDEがバルダヤでまず行ったのは宿の確保だ、当たり前である。マリスは金はどうでもなるからと、しっかりした宿を取ろうと釘を刺して来た。
「ではマリス……ヴィラにするか?それともコテージ?できれば一人部屋を僕は借りたいのだけど」
「そうね、セイタローがそう言うなら、コテージタイプを人数分借りるのがいいかしら?私はニーナと相部屋にしてもらって……」
「ヴィラ?コテージ?」
マリスの言葉に河上がプラン提唱を行う最中、緑川が知らない言葉に首を傾げた。これに対して神山が答える。
「ヴィラっていうのは、別荘や邸宅を意味する、まぁつまりハイクオリティなタイプの邸宅の宿だな、コテージはそれよりランクは下がる、海外の南国だと特にホテルとは違うこの手のタイプの宿泊施設があるんだよ」
こればかりは海外によく行っていた河上や、渡航経験のある神山にしか分からないだろう。つまり、別荘借りてそこに皆で泊まるか、コテージを幾つか借りるか、どちらがいいかと河上はマリスに提案した訳である。
「じゃあ本拠地みたくヴィラ?とやらのがいいんじゃないか、河上は何故一人を好む?」
となれば、何故河上が個室ないし、プライベートに一室欲しがるかを長谷部が尋ねた。これは神山、中井、町田からすれば聞く必要も無い理由であった。個室の話だけで察してしまったからだ。対して河上は……。
「いや、女の子連れ込む故……流石に皆が泊まる空間で斯様な事はできまいよ」
臆面なく、ズバッと言い切った。女連れ込んで楽しむから個別のコテージがいいと。閉口し、固まる長谷部に神山が肩を叩いた。
「河上さん、欲の塊だから……懇親会でも侍らせてたでしょ?」




