熱意のムエタイ狂人
「おぁあああああああ!!はぁあああああああ!!」
アリーナを震わせる咆哮と共に、神山の周りを包み込んでいた炎の渦が霧散した。上級魔法『ファイヤートルネード』大凡、人一人に対して振るうには強大すぎる、鹿目駿最高最強の切り札が、何も異能も加護すらも持たない、劣勢召喚者の神山の咆哮で消え去ったのだ。
「はぁ、はぁ!?はぁぁああああ!?なんだよそれ!!なんなんだよそれ!!ふざっけんな!!主人公補正も大概にしとけやぁあああ!!」
鹿目からすれば、理不尽極まりなかろう。自分の全てを込めた魔法が、気合で掻き消され、全くダメージすら無いと立つ神山に叫ぶしかない。が……それは神山も一緒だった。
『何故生きてる?いや、絶対死んでたよ今……何で俺、生きてるの?ていうか、勢いで気合込めたら消しとばしちゃったけど……』
神山も反応には困ったが、今はそれはどうでも良かった。
まずは、この目の前で騒ぐ駄々こねたガキが成長したような奴に、自分の全てを叩き込む。それだけだと神山は鹿目を視界に捉えた。
「才能だの、生まれだの、テメェ好き勝手言いやがって……こちとら首が攣りそうなくらい真上に立つ奴に、必死こいて追いつく為に、努力してこの技を、肉体を身につけてきたんだ」
神山は一度、二度と縄バンテージの纏った拳を互いに打ち付け、より強く固めるようなルーティーンを取る。そして拳を合わせたまま、額の前まで持ち上げた。
「その身体に刻み込め、鹿目駿……神山真奈都が現世で培い、研ぎ澄ました五体の力を!ムエタイの奥技を!!しかと身体に焼き付けろぉ!!」
拳同士が離れ、右足を大きく持ち上げ、神山は思い切り石畳へ振り下ろした。その力強い踏み付けが、まるで地震でも起きたかの様にすら観客に錯覚させる程であった。
「はっ、何がムエタイの奥技だ主人公気取るんーー」
「JYAAAAAAAAAA!!」
主人公気取りがと喚く間も無く、神山が飛んだ、真横に。
まるでワイヤーでも吊るしているのではという勢いと共に、鹿目の脳天に、神山の右肘が振り下ろされた。軽快な音が響き、鹿目の視界に星が飛ぶ。
「あ、おお……」
それは、先程までの神山とは打って変わったかのような戦い方だった。いや、予選で見せた物とも全く違った。これまでの神山の試合は、それこそ力強さは散見されたが、そこには確かな『形』があった。『セオリー』があった。
現代格闘技の基礎があり、その結晶であると、同じ畑の者なら見れば分かった。
ところがどうだ、今の神山の肘打ちは、全ての力をその一撃一撃に注ぎ込まんとばかりに、力強さを感じる。全く防御を考えていないと分かる。
「こ……の……」
たたらを踏む鹿目が、手を伸ばして魔法円が現れる、しかし神山はその手を思い切り右手で弾くや身体を右に回転させ、遠心力を宿した左肘を、鹿目の左こめかみに叩きつけた。
鈍い音が響く、回転肘打ちにより、鹿目の左こめかみの皮膚に、傷が疾った。
「おーーごー……」
「JYAAAAAA!!」
そしてまた後ろに離れた鹿目へ、神山は雄叫びと共に飛び掛かりながら、両手拳を同時に鹿目の顎へ突き上げた。口から血を噴き出す鹿目だが、それで気を取り戻したのか、まだ鈍い光を失わず、しっかり地面に立ち神山の背中に炎纏った蹴りを放つ。
「がぁあ!」
だが効かない、背中に火傷ができても微動だにしない。
「あぁあ!」
もう一発、全く効かぬと睨みつける。
「うあぁあ!!」
「JYAAAAA!!」
三発目の蹴りを放つ瞬間、思い切り神山の右足が、鹿目の胸板を蹴りつけて、いよいよ闘技場の魔法壁に背中がぶつかった。
その瞬間、鹿目は見た。神山の瞳に炎が一瞬浮かび上がったのを。
「JYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
石畳を蹴り走り、鹿目の身体によじ登り右肘を振り上げ、そして落下の勢いをつけて、鹿目の脳天に肘を叩きつけた。頭蓋から、鮮血が飛び散り、鹿目の目は白目を剥き、前のめりに倒れる。
その傍に、神山は着地するや片腕を伸ばして残心した。
鹿目は全く、痙攣すらもせず、血を流してうつ伏せのまま、立ち上がらない。いよいよ審判が入ってくるや、鹿目に近づいて数秒……審判は頭上で腕を交差させてから、神山に手を指し示した。
「勝者!マナト・カミヤマ!!」
『け、決着ぅうぅうううううう!!何という展開!!何という大番狂わせ!!展覧試合本戦第四試合!!大将戦を制したのは、TEAM PRIDE大将マナト・カミヤマ!!そしてこの瞬間、TEAM PRIDEの準決勝進出が決まったぁあああああ!!ベスト4のマギウス・スクワッドを下し、TEAM PRIDE準決勝進出ぅううううう!!』
実況のフルタチの熱狂が響く一方で、観客達の大半は静まりかえっていた。望まれない結果だと、思っていたものと違うと無言の会場。神山は、倒れ伏す鹿目を見下ろして、それから入場口に向かった。
拍手も、ブーイングも無い、ただ無言が会場を包む中。
「神山ぁーー!凄いぞ!よく勝った!」
「TEAM PRIDEまた応援するからな!優勝しろよ!」
微かに聞こえた声援に、神山は手を上げて応える。そしてーー。
パチ、パチ、パチ、パチ
「あ?」
拍手が聞こえた、どこからだと探すも見当たらない、気のせいかと神山は闘技場を降りて、入場口に消えていった。
こうして、TEAM PRIDEは、展覧試合本戦第一試合を勝ち抜けたのであった。
展覧試合本戦 第一試合 結果
TEAM PRIDE VS マギウス・スクワッド
◯シンヤ・ナカイVSヨウイチ・ミズハラ●
試合時間4:52 絶命勝利
決まり手 バックネッククランクによる頸椎破壊
◯キョウジ・マチダVSツクモ・アオジ●
試合時間3:27 KO
決まり手 胸骨への正拳
◯セイタロウ・カワカミVSリンタロウ・フウマ●
試合時間2:14 絶命勝利
決まり手 三段突き
◯マナト・カミヤマVSシュン・カナメ●
試合時間7:32 KO
決まり手 脳天への肘打ち
TEAM PRIDE、展覧試合準決勝進出決定!!




