選べないもの、選べるもの。
モブキャラとは?
モブキャラクターの略称。漫画、アニメ、映画、コンピュータゲームなどに登場する、個々の名前が明かされない群衆のことを指す。類語に背景キャラ、雑魚キャラがある。
神山は意味を知らなかったので意味分からんと叫んだのだが、観衆は皆ズッコケてもおかしくない返答だった。
「そ、その他群衆という意味だ!主人公の背景を歩く通行人とか、それだよ!」
「おー……成る程、うん」
流石に鹿目は呆れてか、意味を簡単に説明して、ようやっと自分が馬鹿にされている、悪口を言われていると神山は理解した。
「確かにお前から見たら、俺は中盤のボスあたりかもしれんな、うんうん」
「な、何だと?」
だが、神山はそれを悪口と捉えなかったのである。
「まぁエキストラの一人だろうとしてもだ、それはお前の目から見た人生だろ?俺からすれば、人生の主役は俺だからな!主演、俺!というやつだ!」
人生の主役は自分以外の誰でもない、他人から見た自分もエキストラの一人でしかないと、主役だなんだと宣う鹿目に言ってみせた神山、その通りだと肯定した神山に、鹿目は……歯を食いしばった。
「ふ、ふふ、ああそう……いいよなぁ、才能とか持って生まれた奴らはさぁ……脳天気にそんな事吐かすとは思わなかったよ」
「あん?」
ぶつぶつと絞り出す様な声を聞いた神山、その瞬間、神山も反応が遅れるスピードで、鹿目は間合いを詰めて来た。
「ふざっけんなぁあ!」
「おあっつぅう!?」
振り下ろす軌道はまるで肉食獣が爪を振るうが如く、勢いと火の通過する熱風の音と熱を作り上げた。横へ身体を捻る事で神山はそれを回避したが、石畳に焦げ付いた爪痕が出来上がっており肝を冷やした。
「イラつくんだよ!現世で才能やら生まれでちやほやされて!親ガチャ!才能ガチャ!環境ガチャにも恵まれたお前らに、僕の!僕らの何が分かる!?」
「沸点低いなテメェ!?また分からん単語並べやがって!あれか!イシキタカイ系アピールかコラァッ!!」
また知らない単語の羅列にうんざりだと苛立ちを募らせる神山は、いい加減にしろとばかりに、右ストレートを鹿目の顔面に叩き込んだ。
「お!?」
「効かねぇんだよ劣性!」
鹿目は仰け反る事も、後ろに下がる事もせず、握りしめた右拳を神山に思い切り、仕返しとばかりに叩き込む。顎を引いて額にヒットポイントをずらした神山、しかし額を、また髪の毛を焼く炎の熱に下がらされる!
「っ!?つぁああ!!」
熱と火に目を閉じてしまった神山、暗い視界の中腹部に衝撃が来て、背中に突き抜けた。
「おううっ!?」
「はっはぁ!」
ボディを効かされたのは久々だった、鳩尾に入りくの字に身体を曲げる神山。しかも腹筋には、焼印の如く拳の火傷が刻まれた。
「死にさらーー」
「イイリャアアァッシャアアアイイイッ!」
効かされた、効かされたが……倒れるほどではない!神山はその場で思い切り飛び上がるや右の膝で、鹿目の顎を蹴り抜いたのだった。顎が真上を向く程の威力、それでもって勢いを止めたのであった。
「がほっ……」
顎を蹴り抜いた、脳は揺れた、前のめりに倒れる鹿目に、神山はまた律儀に後ろへ下がり、立つのを待つのであった。
「マナト……大丈夫かしら、髪の毛にお腹、熱そうだわ」
杖で身体を支え、しっかり目を逸らす事なく神山の戦いを目に焼き付ける主人のマリスだが、やはり心配でならない。髪の毛は燃やされチリチリとして、胸板と腹部に痛々しい火傷が刻まれて、息も上がっている。二回相手を地面に這いつくばらせているが、また立ってきそうで心配でならない。
「大丈夫です、勝ちます、マナト様は勝ちますから」
メイドのニーナは、主人を安心させる様にそう言うものの、何かのタイミングで全てを覆されそうでならないとは思うわけで、肩に手を乗せて同じ様に戦う姿を見る。
「お、なんだ、まだやってたか……神山も相変わらず、優しい奴だなぁ」
その二人の背後から呟きながら現れたのは中井だった。中井は河上を医務室に運んで来たらしい、まだ終わらないのかと神山が倒れ伏す鹿目を見下ろす様を見て顔を曇らせる。
「頸椎蹴り砕いちゃえばいいのにさ、カウントも無いのに律儀なやつ」
展覧試合は殺し合い、ノックダウン制も、テンカウントも無いのだ。やるかやられるかなのに、この男はまるでテンカウントを自ら刻み込んでいるのだ。
そうしている内にほら、鹿目は立ち上がった。しかし凄いな、神山の打撃で顔を晴らして、立ってこれる奴が、優性召喚者に居るんだ。
「ああ、そうだ……いつだって、僕らは、僕たちは……脇役なんだ、お前みたいな、お前らみたいな特別が居るから……」
「特別だぁ?」
「君だってそうだろ……格闘技の才能を持って生まれた!そうだろうが!」
鹿目は血を撒き散らしながら、神山を指差して語り出した。
「いいや、TEAM PRIDEがそうだろう!全員が全員!生まれ良し育ちよし!華やかな人生を確約された勝ち組だろうが!あ!?何なんだよ、何で、何でお前らこんな場所に来てんだよ!!」
鹿目はそうだろうと叫び決めつけた。
「いいよなぁ君らは!努力は報われ!才能はあり!そしてそれを披露する場にも恵まれてさぁ!?お前達みたいな奴と比べられる僕らの気になった事あるのかよ!?」
独壇が始まる最中、その場に偶々出くわした中井は、鹿目を冷たく睨む様に見つめ、腕を組む両手が胴着の袖を力強く掴んだ。
「努力しても報われない!才能は上回られて!金も生まれもよろしく無い!!結局お前らが笑う様を、才能には勝てないと嘲笑われて見上げるしかないんだよ!!」
「……何が言いたい?」
その話を聞いた神山の目には、熱が失われていた。
「この世界ではせめて大人しくしてろよ!なぁ!?お前らお呼びじゃねぇんだよ、僕の、僕らの舞台をーー」
怒りか、泣き顔か、悲痛な思いの表情と共に右手と左手に炎を宿し、鹿目は両手を掲げた。
「奪うんじゃあなぁあぁああああいいいいいいい!!」
強大なる業火が渦巻き、神山を包み込んだ。
人は……いいや、生命は、生まれを選べない。
虫として生まれたら、食われるか、潰されるか、どのみち最後は土に還る。
空飛ぶ鳥も、より大きな鳥に食われるか、はたまた人の銃に撃ち落とされる事もあろう。
人間に生まれても……生まれは、どうしようもない。金持ちに生まれて、何不自由無く楽に人生を真っ当する輩が居る一方で……何かの拍子に財を失い不自由を強いられる事もあろう。
愛を受けて育つ赤子の傍で、愛を知らぬまま虐待死する赤子も居る。公衆便所に産み落とされて、知らんと捨てられる赤子も。
才能があると称えられながら……さらに上の才能持つ輩を見て、井の中の蛙と自らを知り、諦める者も居れば、大海に飛び出す奴も居る。
ただ、これだけは言える。
生まれは、選べない。
育ちも、選べない。
ただ……我々は選択する自由がある。
嘆く暇があるならば、立ち上がる事もできる。
大いなる力、才能を前に、挑み続ける自由がある。
努力は多少報われたが、まだまだ届かない。才能はあったか知らないが、遥か上が居た。金持ちかと言われたら、首は横に振るしかない。
それは全て、自分が今日まで選んで来た道の結果だ。
それを……やれ、全て前から持っていたなどとは言わせない。決して、言わせてなるものか。
炎の渦が身体を撫でる、けど、熱さは無い。身体は……全く焼け焦げてはいない。むしろ……。
「お お おおおおあああああああああああああああ!!」
この程度で焼けてなるものかと、神山真奈都の咆哮が、アリーナを震わせた。




