火炎VS熱意
互いに睨み合う神山と鹿目、両者ともに目線を逸らさずに審判も二人の胸板を押しながら、ルールを確認しているが、互いに聞いていないのは目に見えていた。
「来たぜ鹿目、言われた通りに」
「連れて来てもらったの間違いだろ?」
「ああ、だが俺たちは、勝ってきた、そして俺もお前に勝つ」
「吐かせモブキャラ、力の差を教えて二度と戦えない様にしてやる」
「おお、楽しみにしてるよ」
神山が最後にそう言うと、二人して振り返り元の位置へ歩き出す。ふと、入場口で杖を突き見ているマリス、そして後で来たのかニーナが見ていた。石畳の感触を確かめる様に、左足、右足と爪先を擦り付ける。コーナーの石柱から現れている魔法の壁に両手を付くと、意外に摩擦があるなと指が感じながら、そのままアキレス腱を伸ばすように、左右交互に足を突っ張った。それから両手を伸ばして背中を伸ばし、振り返る。
鐘がアリーナに鳴り響く、これが、勝敗を決める試合。いかに、中井達が勝ち星を上げようと、ここで神山が負けたら全て意味が無くなる。それを選択したのは自分達だ、一人一試合、必ず勝つと決めたのだから。
「燃え尽きろぉぉ!」
咆哮を上げて、鹿目駿が右手を突き出した。魔法円が展開されて、巨大な火柱が神山向けて放たれた。それを鐘の音と同時に走り出した神山は、左に避けながら一気に石畳を蹴り走り出す。サーキットトレーニングのダッシュが、確かな加速力として、以前より早く動けていると実感した。
「らぁああ!」
それでも構わず左手を突き出しまた火柱を繰り出す鹿目、だが既に神山の間合いに入っていた。石畳を蹴り、火柱を飛び越え、宙に舞う神山。
「WAO……すごい高いわね!」
「相変わらず……馬鹿げたバネだ」
観客席の、ヴァルキュリア・クランのリーダー、朝倉海莉が観客席からその飛翔に興奮し、四聖の一人高原は歯噛みした。
「う お あ ああ あああああ!!」
気合の声を腹から吐き出して、右の膝を鹿目に目掛け突き立てる神山。
鹿目駿はその光景を見てどう思ったか?
『人間の跳躍ではない?』
『隙が大きいんだよ!』
落下しながら自らの顔面に迫り来る、神山の膝頭。それを、寸前に右へ体を捻り回避しながら叫んだ。
「それが……どうしたぁあ!」
だから何だと、回避しながら叫ぶ鹿目が、避けて背中がガラ空きの神山に右拳を振りかぶった。すぐさま振り返る神山がそれを右に首を傾け回避するや、拳が右頬の皮膚を擦り、肩の上を通り抜け、拳から炎が吹き上がる。
「ふぅうああ!!」
熱を顔の近くで感じながら、神山は右拳を鹿目の顔面に振り下ろした。初撃を当てたのは神山だった。肉の打ち付ける感触。後ろへ下がる鹿目に、神山は追撃を開始する。
「あぁああ!!」
右のミドルが脇腹の筋肉を歪ませる、そのまま両腕で首を抱え込み、さらに右足を引き込み、右膝を腹へ打ち込む。これも確かに腹へ当たった。
だがーー。
「きぃいい!」
なんと、鹿目は神山を両手で思い切り押して、首相撲から脱出するや、右の蹴りを放ったのである。左腕に来た衝撃、それは形こそ不恰好だったが、今までアマの試合、プロとのスパーでも感じた……強い蹴りと全く遜色無い威力だった。
優性召喚者は、スキルやクラス以前に、身体強度や運動能力も著しくあがると片隅にあった記憶を蘇らせる神山。それが、その蹴りが余計に神山を燃え上がらせた。
「アァアアィイシッ!」
気合と共に、神山は右ミドルを鹿目に返す、会場に響き渡る破裂音。鹿目は腕を上げて防御を固めて、神山を睨み返すやーー。
「ぁぁあああ!」
鼻からの流血を物ともせず、右ミドルを返して見せた。
「アアィシッ!イヤァアアイッシ!!エィイシャッ!!!」
その鈍痛が左腕に感じたら、神山が更に右のミドルを三発返し。
「ゔぁあがあぁああ!」
鹿目が右を不恰好に思い切り叩きつける。
「イイャアア!!」
「がぁうああ!」
そうして、互いに蹴り合い、二人は互いに右足を抱えるや突き出し、足底で胸板を同時に蹴り抜き、タタラを踏んで下がった。神山の胸板に湯気と共に靴底が焼印の様に刻まれ、鹿目は胸を押さえ膝を屈しそうになるが歯を食いしばる。
「モブキャラがぁあああああ!!」
「JYAAAAAaaaaaaaあああああああ!!」
鹿目の叫びと共に、炎を纏った右足が神山の足を払いに掛かろうとする。神山もまた、咆哮と共に、鍛え上げた右足向こう脛のローキックが迎え撃ち、衝突した!!
展覧試合本戦
第四試合
大将戦
TEAM PRIDE 大将 神山真奈都 (ムエタイ)
VS
マギウス・スクワッド 大将 鹿目駿 (アークメイジ)
Are You Ready?
Fight!!
「あがぁあ!?」
ローキック同士の衝突は、神山の蹴りに跳ね返された鹿目が、足を押し戻される様に身体を回転させて地面に倒れた。蹴り抜いた神山は勢いのまま身体を回転させてそのまま倒れた鹿目の方に向き直り、残心として構えて鹿目が立つのを待つ。
それと同時に、一気に歓声が沸き上がった。
『な、何という攻防だぁああ!シュン選手の炎掻い潜ったマナト選手!そのまま殴りつけたと思えば、シュン選手も蹴り返し、互いに蹴りあったかと思えば、足同士の正面激突!!制したのはマナト選手だぁああ!!あんなに蹴って足は折れないのかぁあああ!?』
実況のフルタチがヒートアップする中、神山は心中で呟く。折れるかと、折れてたまるかと。
本場のタイでは毎日毎日、バナナの木を蹴り。日本ではジムの柱に巻きつけた鉄パイプを、毎日毎日蹴って作り上げた向こう脛だ。ちょっとやそっとじゃ壊れないと神山は豪語する。
「あっつ……」
が、鹿目の繰り出した、胸板への蹴り、そればかりは冷や汗をかかされた。何しろ火傷で、焼印みたく胸板に靴底の形が刻まれてしまっている。左腕を蹴られたが中々に痛い。
成る程……と神山は胸板を何度か払う様な仕草をして構え直した。
『単純に強い?』
『はい、鹿目さんは……スキルやクラスは特に挙げる物は無いんですけど、場数を踏んだというか……練度が高いんです』
試合前、最後の調整で神山は緑川に、マギウスのリーダーに君臨する、鹿目駿の強さはどうなのかと尋ねていた。ユニークスキルを持つのか、はたまた特殊な魔法でも使えるのか、その問いの答えは、力強い物だった。
『えっと、本来魔法使い、アークメイジは魔法を発動するのに効率的なスキルを覚えていくんです、けど……鹿目さんは攻撃力と属性強化、それと格闘関連のスキルを取ってて……アークメイジ系の闘士でも異質なんですよ』
闘士は、戦い続けると強くなり、やがては新たなクラスに変わったり、新たなスキルを取得できる。鹿目駿は、本来魔法使いの取得するテンプレートなスキルを取らず、攻撃特化、更には格闘のスキルという、まず取らない物で固めているらしい。
『戦い方も単純です、高威力の火魔法で徹底的に攻めて攻めて攻めまくる、近づいても火を纏った格闘で殴りつける……魔法使いというより、マジックモンク……ですかねもう』
魔法を纏う肉体で戦うそれは、アークメイジからかけ離れた魔法拳士と言うべきか、それを聞いた神山は思わず笑みを溢した。
『いいねぇ……その超攻撃特化の剛腕型?っての?小細工無し真っ向勝負って感じ、大好物だ』
現世の格闘家にも、その手のタイプが居たものだ。腕力だけ、当てるか当てられるか、倒すか倒されるかの、技術を破壊するパワータイプ。しかも魔法使いで殴り合いするとなれば、もう神山からすれば求めていた相手そのものだった。
『でも、気をつけてください……彼のクラスはあくまでアークメイジ……その気になれば殴り合う事をやめて魔法だけで戦えますから』
緑川の忠告に神山は頷き、そして再び練習に戻るのだった。
『さて、立ってくるか、鹿目駿……』
神山は、倒れ伏す鹿目から離れて待っていた。ダウンした相手に追撃しないのは、神山が立技格闘技の選手故、自分に課した縛りであった。這いつくばる鹿目が両手を地に付き、身体を持ち上げ、神山を見上げる。
鹿目の目に神山が映った……そして、景色がブレる。
笑い声が聞こえるーー。
嘲りが、罵倒が、愚弄が……自分に叩きつけられている。
笑うな、お前らに、僕を笑う価値があるのか?
お前ら所詮、社会に出たら、底辺のゴミだろうが。
犯罪者予備軍が、どうしようもないクズが。
見下ろす神山の顔が、笑っている様に見えて、鹿目の瞳が見開かれた。その一瞬、何かを感じ取った神山は、ほんの一瞬だけ気圧された。
「笑うなぁああ!僕を笑うんじゃ無いこの、モブキャラがぁあああああ!!」
「おおぁああ!?」
勢いよく立ち上がり、神山の顔にアッパーカットが放たれた。その軌道は顎ではなく、腹部に当たる軌道だったが、神山がスウェーにより背中を逸らし、顔面ギリギリを通過して天空に突き上げられると、豪快な噴火を思わせる火柱が夜空に向かって吹き上がった。
「あっちぃ!あちゃちゃちゃ!おおぉお、あっぶねぇ!?」
神山の前髪にチリチリと火が燃え移り、素早く下がって何度も両手で髪を叩いて鎮火した。
「危ねえなテメェ!殺す気かぁ!?あ、殺す気だよな、これ展覧試合だし!!」
今のは死ぬかと思ったから、神山は思わず叫んだが、これは命懸けの死合だと思い出して答えは帰結してしまった。
「あーあー、畜生っ前髪チリチリじゃねぇかよ、まるで◯◯毛だよ◯◯毛!なんて事してくれてんだ!!」
が、前髪を燃やされてチリチリと煙を立たせて、無様にされて神山は文句を宣った。
「五月蝿い!!モブキャラ風情の劣性召喚者が調子に乗ってこの場に立つからだ!!身の程を弁えろ!!」
そんな事知るかと鹿目が言い返す。それを聞いた神山は、身体をわなつかせながら言葉を返した。
「テメェ……さっきから好き勝手吐かしやがって……」
拳を握りしめた神山は、鹿目に、そして会場中に聞こえる様に言い放った。
「そもそも!!モブキャラってなんだぁああああ!!」
その怒声に、会場中が、そして特別席の四聖全員がずっこけそうになった。




