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迷い無しの必殺

『あぁ、そうだ……こいつ痛覚はあるんだ、というか、痛がってたな水になるまで』


 左の不意打ちジャブを命中させた中井は、こいつは液体化はするが、しっかり痛がっていると気付く。関節技を極めて液体化するまで、思い返せば1秒は時間があると。


 その間なら『人間』なのだ、この男は。常時肉体が液状ではない、ちゃんとした人体を持っていると中井は気付いた。


「くぅう!」


 中井は、打撃の間合いを徹底的に確保して、間合いを離れさせない。かと言って組付きには行かない。答えが、隙が見つかるその瞬間まで、徹底的な打撃戦を仕掛け、魔法を撃たせない様にしていた。これには水原もたまらず、ひたすらに後退し、壁際に追い詰められる。


 展覧試合本戦は、四つ柱の石柱による正方形を、不可視の魔法障壁で囲んでいる。そこに背中が触れると、壁と示すかの様に煌めいた。


「くそっ!」


 壁際に詰められサイドステップで逃げる水原、しかし逃げても。


「シィイッ!」


「あぶっ!」


 中井の打撃を振り払えない、さながら格闘技ジムに習い始めて、初スパーリングを体験した練習生の如く。逃げても逃げても逃げ切れず、捕まえられてしまう。中井への帰れコールから、水原の追い詰められた様子に観客も水原を応援しだす。


「らぁあ!」


 ここで、中井は右腕を大きく振りかぶった。ロシアンフックが、水原の左顎関節周辺を捉えた。


 グローブ下の手からも、確かな命中を確信した感触。たたらを踏む水原。しかし……。


「効かないぞ、打撃も」


 水原の顎は、外れて真横に。それこそ大事故で口が裂けた様になっていながら、血も流さずに顔を中井に向けた。その顎の裂傷も透明な液状の断面を覗かせ、みるみる復元していく。ジャブで当てた筈の晴れも見えない。


「液体化すれば肉体は再構成され、傷も無くなる、徒労だと分からないか!」


 打撃戦すら、いくら殴っても液体化から再構成してしまうと傷も無くなると宣う水原。最早、中井に勝ち目は無くなった、これが優性召喚者だとばかりに叩きつける水原……。


 しかし……。


「徒労?」


 中井真也の目は、鋭く冷ややかに水原を射抜いた。


「吐かせ、もう十分勝ち目が見えた!」


 遂に中井真也が、勝機を掴んだのである!


「縊り殺してやるぞ水原陽一!」


 その宣告を持って中井真也が遂に突貫した!胴へのタックル!水原はやすやすと組みつかれてしまう!


「また性懲りも無く関節技か!無駄と分からないかぁ!!」


 通用せぬ技に縋り付く浅ましさに、水原も声を荒げる。こうなればと組みつく中井に水原は、遂に杖を向けた。


「ウォーターブレイド!」


 構成されていく、杖先から高圧の水の刃が、中井の背中へ振り下ろされる!しかし、中井ははなからテイクダウンは狙っていない!するりと、中井は水原の前に出した右足を軸として身体を回し、後ろに回り込んだ!


 水の刃が振り下ろされ、石畳を削った瞬間には、水原の背中に中井はまとわりつきーー。


「無駄だとわからーー」


 引き倒される刹那、水原は『音』を聞いた。


 ーーピキリーー


 え?


 水原陽一は、その音を聞いて、それがどこから来たのか疑問を浮かべる瞬間。


 ーーボギィィッ!!ーー


「あうっ!?」


 自ら出たとは思えない声を出して、意識を手放した。



 応援と、ブーイングに響くシダトアリーナが、一気に静寂に包まれた。倒れ伏す水原、その後ろで首に腕を回している中井。


 その水原の口から鼻から……血が流れ、血の泡が漏れ出ている。何より……水原の首の向きだ。明らかに、可動域を超えて捻れている。関節技は、絞め技は効かない、その水原が液体化せず痙攣していた。


 腕を離して水原の背中から這い出る中井、そしてローブのズボンから滲み出し、広がる臭気を放つ液体。


「審判、さっさと運べよ、死んでるぞこいつ?」


 場外の審判にそう伝え、親指で指し示す中井。審判は即座に魔法障壁に入るや、倒れ伏す水原に駆け寄り、即座に状態を確認。そしてーー。


「た、担架だ!早く!医療班を!!」


 医療班へ指示を飛ばし、騒然とする場内。そして審判を見下ろす中井は、腕を組みニヤリと笑った。


「おい、さっさと勝者を示せよ」


 嫌な笑みに、審判は明らかな歯軋りと苛立ちを向ける。しかし……勝ったのは、立っているのはこの男である。審判がさっと立ち上がり、右手を指し示した。


「し、勝者、シンヤ・ナカイ」


「っはぁあ!」


 その呼び掛けを受けるや、中井は右腕を高々上げた。


 拍手も無い、歓声も無い、あるのは……静寂。こんな結末は認められるかと、信じられるかと騒然とする最中……。観客席に居た一人が、中井を睨む様に注視していた。


「オリヴィエ、今の……どうやって勝ったの?」


 展覧試合三回戦にて、予選突破を決めた、女性闘士のチーム、ヴァルキュリア・クラン。その先鋒である、不触不敗の令嬢、三条原オリヴィエに、リーダーたる朝倉海莉が訪ねた、いかにして中井真也が水原陽一を倒したのかと。


「水原くんの液状化にはタイムラグがあるの、人間体から、完全な液体になるまで約1〜2秒……その間なら、人間と同じダメージを食らう」


「けど、水になって、戻ったら復元するのよね?」


「ええ、けどその1〜2秒はつまり、普通の人間なの……その間に意識を断てばいいわけ」


 不触不敗の令嬢が語る、水原のユニークスキルの弱点。それはタイムラグ。液体化し、あらゆる武器、肉体ダメージを無効化するそのスキル、更には新たに肉体を再構築する事により、ダメージも復元してしまう。物理攻撃に対して用意したかの様なスキル。しかして、完全な液体化までは数秒の猶予があると語る。


 そのたった数秒に、勝負を決してしまえばいいとオリヴィエは語った。


「で、あの子犬は打撃に自信が無いから八方塞がり……だった、顎を一撃で撃ち抜く当て感は無いみたい」


 顎を打ち抜けば終わる話だが、それが出来ない中井、総評するオリヴィエに朝倉は待ったを掛ける。


「え、でも締め落としたわよね?」


「違う、頸椎を破壊したの……ネッククランク、禁じ手の頸椎破壊の関節技で」


 その答えは、締め落としたのでは無いと、頸椎を破壊したのだとオリヴィエは断じた。




 格闘技には『禁じ手』として使用禁止とされる技がある。


 かみつき、眼突き、金的等が代表的だ。


 その中で、関節技の中で禁じ手とされる技がある。


『頸椎への関節技』だ。


 ネッククランク、簡単に説明するならば、プロレス技の『フェイスロック』が、それに類する技となる。腕にて相手の顔面を締め上げる技だが、これにより首も捻じられ、頸椎にもダメージが入る。


 しかし、中井真也が刹那に決めたネッククランクは、見せ物の様な生易しい技では無い。


「あの子犬、殺す気満々だった、情けもなく一気に首を捻り上げたわ……もう、水原くんは手遅れかも」


 格闘の技から逸脱した、容赦無しの殺人技、だからこそ刹那に、命を奪う覚悟すらせず行使して、勝利を得たのだとオリヴィエは語った。


「そんな……そんな簡単に、あの子は命を奪えるっていうの?」


「できるんでしょうね、私たちはその辺に暗黙の了解がある、慈悲がある……彼には、彼らにはそれが無いわ」


 腕を上げる中井真也を睨み、オリヴィエは目を閉じる。もしかすれば、戦う相手を前に、オリヴィエは硬く拳を握りしめた。




 歓声無き会場、しかして中井は周囲を見回し、笑みを浮かべる。そして中井は早足に医療班へと囲まれる水原の元へ向かうや……。


「ざっまぁあああああああああああ!!」


 両手中指を立てて意識無き水原に、見せつけて、そして観衆向けて叫んだ。


「ねぇどんな気持ち!?お前らどんな気持ち!?信じてた闘士が無様に小便垂らしてクソ漏らしてくたばったけど、どんな気持ち!!負けると思った!?ざーんねーんでしたぁあああ!!この通り、僕はほぼ、むきずどぅえーーす!!はっはぁああ!!」


 中井は最早名物にする気満々の、サイドステップ中指立て煽りを観衆に向けて始めた。


『た、退場!選手退場!!シンヤ選手、試合後は速やかに退場してください!!』


 放送から退場を命じられる最中、こんな事したらそれはもう、こんな事が起こるのは必然だった。


『ふざけんなぁああ!こんな結果認めるかぁああ!』


『失格にしろよあいつ!こんなの許されるか!』


『そんな勝ち方して嬉しいのこの卑怯者!!』


 投げられる投げられる、ゴブレットに食べかけの食事やら石、それらも悪役には、金の雨でしかない。


 中井真也は悠々と入場口へと歩いて戻り、その間も中指をしまいはしなかった。



 展覧試合本戦、第四戦 先鋒戦。


◯シンヤ・ナカイVSヨウイチ・ミズハラ●


試合時間5:21 一本勝ち


決まり手 バックネッククランクによる頸椎破壊

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『サイドステップ中指立て煽り』 なんというパワーワード! 大好きです!
[一言] 誤字修正 物理攻撃に対してメタを貼るかの様なスキル 正 物理攻撃に対してタメを貼るかの様なスキル
[一言] 誤字修正 プロレス技野『フェイスロック』 腕にで相手の顔面を締め上げる技だが 正 プロレス技の『フェイスロック』 腕にて相手の顔面を締め上げる技だが 弱点を見切って情け容赦なく…
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