Workout TEAM PRIDE Afternoon
「ダァアァアアッシュ!!」
正午超えて昼時……TEAM PRIDE本拠地メッツァー邸宅……の正門前街路から、叫びが聞こえて富裕層住宅街に響き渡った。
TEAM PRIDEの午後の練習は、技術的なスパーリングやミット打ちからかけ離れた、正反対とも言えるもの。フィジカルトレーニングだった。
徹底的に肉体をいじめ抜き、パワー、スタミナ、スピード……それらを司る筋肉を付ける為に、様々なメニューを、短時間かつ濃密に行う。
はっきり言うなら地獄だ。スパーリングの様な実践形式のトレーニングの真反対のそれは、ひたすらに、ひたすらに回数を積み上げる、面白味の無い運動の繰り返しである。
最初は全員揃って街路をダッシュする、おおよそ100メートルを10本、全力疾走で駆け抜ける。
「オラ緑川走れ走れぇ!全力でやらねぇと意味ないぞ!」
「かは、はひぃい!」
ダッシュ3本目にして既に、緑川のペースが落ちた。それに檄を飛ばして折り返す神山に、必死に食らいつく緑川。ここでも全員のスタミナ差が顕著に現れた。
「こ、の、スタミナモンスターが……」
中井真也が4本目の途中にバテ始めた、流石に現世で鍛え、コマンドサンボを体得したとは言え、正式戦が皆無のストリートファイト、喧嘩上がりともなれば、神山、町田、長谷部と正式な戦績を持った者達には一歩劣る。
「はっはっ!はぁあ!」
「ふぅぅう!」
そして神山と町田両名が、ほぼ横並びのペースで6本目に差し掛かる中ーー。
「シィィイッ!」
長谷部が7本目の折り返しに差し掛かった、アマチュアボクサーの走り込み量、試合時間の関係か、このダッシュをいの一番に終えたのは長谷部だった。
「はぁっ、さ、流石ボクサー……追いつけなかった」
「余裕か、長谷部くん?」
長谷部がゴールした矢先、膝を押さえて息を荒げる神山と、息を上げるもまだ手を膝に付かず直立する町田が、長谷部のスピードとスタミナに感嘆した。
「これでもかって走らされたからな……」
ボクサー時代から走り続けたからと頷く長谷部、そして中井がよたつきながらゴールする。
「中井……体力無いな?」
「かひっ、かひっ……はぁっ……」
寝技の恐ろしさからは想像が付かないスタミナの無さに、神山は流石に苦笑した。言い返す暇も余力も無く、膝を突いて地面に倒れる中井の後ろで、更にヨタつく一人が必死に向かって来た。
「あああぁ、が、はぁあ……」
「よーし、よし、よく最後まで走ったな、ほら息吸え、ゆっくり呼吸整えろ」
汗はだらだら、足はガクガク、緑川、なんとか完走。最後まで必死に走り抜いた緑川に、神山が背中と胸元を摩り、しっかり息を整える様に促す。
燦々と照りつける太陽の下で行われる、フィジカルトレーニング。これはまだ、入り口である。
「いぃいやっ!」
「えぃい!」
「ひは、ひはっ!」
さて、呼吸を整えて次に行われたのは、バービー。
バービーは、スクワット、腕立て、ジャンプの三つを複合したトレーニングで、これは回数では無く秒数内で全力で行う。
立った状態から、手を付き、両足を伸ばし、腕立てをして、また足を戻して立ち上がり、ジャンプ。これを40秒全力で、20秒休憩を5セットで繰り返す。
身体全体を動かし、瞬発力、心配機能、基礎代謝を向上させる。
「緑川くん、はぁっ!ゆっくりでいいから、ぜっ、丁寧にやりなさい!」
「ひぃいい」
横並びで一斉にジャンプしては屈んでと繰り返す、長谷部は呻く緑川に、まずはしっかり一回一回をする様にアドバイスをしながらも、素早くバービーを繰り返した。それを聞いてか、しっかりジャンプして、腕をつき、足を伸ばし、腕立てをして立ち上がりを言われた通りに実行した。
ビー!と、スマホのブザーが鳴る。息を荒げる5人、20秒間の休憩は、少ない時間で呼吸を整える
「おー、着いてきてんじゃん緑川ぁ……あと3セット頑張ろう!」
必死に、ゆっくりでも、しっかりと着いてくる緑川に神山が、体を震わせながらも笑顔で叱咤する。こうまで叱咤された事は、なかったかもしれない。だからこそ緑川は、もうクタクタを超えてガタガタになっても、食らいつこうとした。
ブザーが鳴った。地獄はまだ、終わらない。
「最初手をついていいから、こればかりは無理するなよ?」
「は、はい」
バービーを終えた一同は、また庭の青空ジムに戻ると、ブリッジを始めた。小休止を兼ねた首の筋トレである。ブリッジをしながら首をゆっくり前後に動かして首を動かす、レスリングのトレーニングの一つだ。
首の筋力を鍛え、打たれ強さを得て、頭部のダメージを軽減する様に努める。
首は流石に危ないからと、まずは手をついたブリッジで、長谷部が補佐に回った。神山、町田は手をつかずに頭だけで、前後とゆっくり動かす最中。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
中井真也だけが段違いの運動を見せていた。手をつかずに、頭頂部だけでブリッジを蹴り上げ後転して止まり、また地面を蹴ってブリッジに戻り、ゆっくりとブリッジから三点倒立したかと思えば、首を左へ右へ捻り、首をいじめ抜いている。
「……あれは真似せんでいいから」
「できないですよ……」
コマンドサンボ、ロシア式レスリングにより首の鍛え方は生半可では無いらしい。真っ逆さまから落とされても無事だっただけある様だ。真似するなと言う長谷部に、緑川はできませんと正直に言いながら、首を鍛えるのだった。
それから、TEAM PRIDEはメニューをこなしていく。
紐梯子の枠を様々なステップで踏んでいくラダーステップ。
木の幹に縛りつけた太い縄を、様々な振り方で振り回す、バドルロープ。
それらをこなし、最後のトレーニングは。
「よし……やりますか、腕立て」
神山がそう呟き、腕立て伏せでこの地獄を終える事になる。
回数は100回、30回を数セットとは言わない。
ともかく100回をやり切る、これがTEAM PRIDEの決まりである。
「1.2.3……」
「1……2……」
方法の指定は無い、オーソドックスな腕立てを始める神山の横では、足を開き腕も広めに着けた、レスラー式の腕立て『擦り上げ』を行う中井。
「ふんっ、ふんっ」
手では無く拳を地面に付ける拳立て伏せを敢行する町田。
「できるか、緑川くん」
「や、やります」
そして、長谷部、緑川も最後のトレーニングを始めた。
「ああっ」
が、ここまで必死について行った緑川の身体はガタガタであった、手はつけても支えれず、そのままを保持すら出来なかった。
「膝ついていいから、100回やれ、緑川」
擦り上げ腕立てをする中井が、まずは膝付きで負荷を軽めてでも100回こなせと、ぶっきらぼうながらもアドバイスを飛ばした。ここまで付いてきただけでも根性がある、最後の一絞りだと。
膝をついた腕立てでも、腕が震えてくる。それでも緑川は数を重ねた。
17……28……神山が終わって膝立ちになった……32……41……町田が終わり、拳の泥を拭う……51……60…………69……中井が背中を逸らして立ち上がる……73……77……81……長谷部が終わらせた。
「はい97〜〜98ぃ〜〜あと2回あと2回」
「99ラストぉっ!」
「あぁあああああ!!」
皆から叱咤を受け、叫びながら100回を終えた緑川は、見事地獄のフィジカルトレーニングを完遂したのだった。
「あぁー……っつかれしたぁ」
「したぁ〜〜……」
全員青空リングに汗だくで倒れ、赤い空を見上げる。
TEAM PRIDEの練習は、これを持って終了した。




