Workout TEAM PRIDE Lunch Time
「かっはぁ……」
「はいおつかれ、頑張ったな」
緑川の拳は神山に当たる事はなく、ひたすら空振りさせられて、グローブを要所要所押し付けられて終わった。
殴られたのでなく、置かれる様に押し付けられて、拳は空を切り続けた。たった2分で、このざまである、緑川は大の字にリングへ転がった。
その時、カンカンと金物が打ち付けられた音が庭に響いた。
「昼飯だぞー、全員汗流してダイニングなー」
いつの間にやら、エプロンを巻いた河上静太郎が、お玉とフライパンを打ち鳴らし、昼食を報せたのだった。
さて……TEAM PRIDEの昼食だが、朝はフルーツに対して昼は一気に様変わりする。筋肉を作り上げる上で必要なタンパク質、つまりは肉だ、牛豚鶏魚、はたまた植物性なら大豆となるわけだが……此度の昼飯に並んだのは『牛』だった。
「うわぁ……」
緑川は、目の前にごとりと置かれた皿へ乗せらた肉塊に、ドン引きに近い感嘆を上げた。
「タンパク質には肉、肉といったらステーキ、格闘家は鶏肉と言いたいが牛肉も赤身で脂肪の少ないランプのステーキだ、残すなよ?」
練習に参加していない、TEAM PRIDEの副将であり剣士、河上静太郎が焼き上げたランプステーキ、そして添えられているのは、茹でたにんじん、コーン、アスパラガス、別のボウルにはブロッコリーにトマトも切られて盛られていた。
展覧試合に減量という概念が無いとは言え、油には気を使うがそれでも、緑川からしたら平らげる事が出来るのかと、味より先に其方を心配してしまう。
誰かが言った、時としてスポーツマン然り、格闘家然り『食事も練習の一つ』であると。
試合前の減量では一口レベルでの節制を心がける時もあれば、体重増加の為にと日に五度の食事を取るケースもある。その理論、持論は様々だ。現役中は酒等の嗜好品一切を断つ選手もいれば、オフシーズンは酒に焼肉にと精神的な癒しをと取る選手も居る。そもそも減量を良しとせず、健康面を優先する選手も居る。
「じゃあ、いただきましょうか」
「「「「「「いただきます」」」」」」
マリスの号令を得て、さながら囚人の様に揃って手を合わせ、フォークとナイフを手に取った。ステーキなぞ、現世でもチェーン店のファミレスでしか頼んだ事が無い、緑川は早速慣れないながらフォークで押さえ、ナイフを入れた。
弾力と抵抗を感じて、ナイフを前後させて断面が覗く。赤身だ、レアというやつなのだろうか?これまた食べた事が無い。
フォークがその一切れを引き上げれば、肉がテロンと垂れてプルついた。肉って、牛肉ってこんなにも柔らかにフルつくのか?そんな事を思った矢先、緑川は反射運動とばかりに口に入れてしまった。
まるで待てを出来ない犬の如く口にして、歯が、舌が、口内粘膜全体がその肉を堪能した。
レアのステーキは、こんなにも美味いのか?噛めば噛むほど肉汁が出てくる。こんな味を知ったら、ファミレスのステーキだの、家の焼き肉だの……もう口にできなくなってしまう。それ程の味の衝撃だった。
「いや、美味い……ええっ、なんすか河上さん……めちゃくちゃ美味いんすけど」
神山も語彙が無いながら、河上のランプステーキを評したのだが。
「そうだな、ちょっと意外だった」
「河上さんも予想外だったんすか!?」
焼いた本人ですら目を見開いて、予想以上の出来だったらしい。
「う、うむ……何しろ買い出しの時にふと寄った肉屋で、なんとも言い難いランプが並んでたものだから……多分この世界、熟成の概念というか、牛肉の知識がちゃんと根付いてるんだ」
「熟成?え、肉に熟成とかあるんすか?」
「神山くん、まさか屠殺した牛そのままが店に並んでると思ったわけ?殺したばかりの牛は不味いんだよ?」
「おや意外、中井くんも熟成を知っているのか?」
「英和田の友だ……ああ、ヤンキーの一人の家が焼肉屋で、講釈垂れてたんで頭に染み付けられたんですよ、あっちはホルモン専門でしたけど」
中井の口から『友達』という単語が出かかったが、何故か言い直してステーキに目線を落とす。
「知らんかった……俺、こう、スーパーに牛を搬入してそこで締めてるものかと」
「あるかぁそんな事……ちゃんと業者があるんだよ」
神山から出たとんでもな牛肉が並ぶまでを聞いて、中井は流石にそれは無いと強く言った。かく言うそれを聞いて熟成に関しては知らなかったなと、緑川も頭に知識を蓄えていく。
「鶏はまぁ、すぐ食べれるけど牛は熟成させて切り分けてスーパーとか、精肉店で買える味になるんだよ」
「鴨とかは吊るして目にウジが湧くくらいが食べ頃と、漫画かなんかで見た様な」
「美◯しんぼだなそれ、学校の図書館であったわ」
「あー、あるある……」
そして、始まる肉の知識トークは、大概の学生は結局、学校図書に何故かある◯味しんぼから得ているという話に帰結し、昼食の時間が過ぎて行った。
ーーそして午後の練習が始まるわけだが。
この午後の練習こそ、TEAM PRIDEの面子全員が、最も過酷な練習時間となるのであった。




