控え選手の劣等生 上
「そもそもさ、魔法って何?スキルと違うわけ?」
神山がぶっきらぼうに投げかけた質問に、長谷部はそこからかと呆れた。よくもまぁ、その無知さで勝てたなと思ったが、その男に魔法が使える身ながら、殴り合って負けたのは自分であったと、何も言えず長谷部は質問に答えた。
「魔法とは……主にクラスとして魔法使いや、バトルメイジ、魔法戦士、僧侶等が扱える、スキルとは別枠の物になる……因みに戦士系統のクラスにはスキルアーツなる魔法と同じ扱いの物があるわけでーー」
「長谷部さん、すいません長谷部さん?」
「はい?」
説明の最中、中井が長谷部を呼び、神山を指差した。
「神山、理解して無いみたい」
長谷部が中井の指を追えば、神山はぽけーっとした顔でもう理解を諦めていた。
「キミってさ、格闘技以外はダメだったりする?」
「学校の成績は、下から数えた方が早かったっす、体育と英語以外2か1しか無かったですよ」
「英語できるのか、神山くん」
「タイ語と一緒に習ったんですよ、英語話せる人多いんで、向こう」
体育はともかく英語ができるのは意外だが、頑張れば現代文も出来そうな文系脳を感じさせる。発言に、長谷部は腕を組み、ならばと頷いた。
「君達には、口で説明するより目で見て、肉体で体感した方がいいかもしれないな、マリスさん?今日一日彼らを外に連れ出しても?」
「構わないわ、そもそもうちの鍛錬は、彼らの自由にさせてるから」
長谷部は新たなる主人、マリスにそう許可を得るや、TEAM PRIDEのメンバーを外へ連れて行く事にした。
TEAM PRIDEの面々は長谷部に連れられ、向かった先は……何と内地だった。外壁の人間はそれこそ、展覧試合でもなければ内地に足を踏み入れる事は基本できない、しかし今は展覧試合の期間というのもあり、比較的に出入りが容易となっていた。
内地に唯一繋がる北東の門を入り、長谷部に着いて歩き出すTEAM PRIDE。やはり、外壁と全く印象の違う、整った街並みには目が移ってしまう。
「こっちだ」
長谷部に案内されて、神山達がたどり着いたのは、予選を戦った練兵場とはまた違う、開放型の施設であった。しかし、近づいた時から、様々な音や光が施設から漏れているあたり、興味を沸かされる。
扉を開けた長谷部に続き、神山達も着いて行く。受付らしい店員がこちらを見たが、それっきりで何も言っては来なかった。と、ここで中井はある物に目が行った。
「あ、杖だ」
そんな呟きを聞いた神山が、立ち止まって中井が目を向けた方を見れば、ガラスに保護された棚と、赤のマットを敷かれ、そこへ丁寧に置かれた杖を見たのだった。
まるでそう、現世の様々な店とかの、特にお高い品を羅列するかの様に杖が均一な感覚で並べられている。この世界で魔法を扱う奴らは、こうした棚の杖を吟味して、頭を抱えたり、値段に目を丸くしたりするのだろう。
「この並べ方ってさ、向こうもこっちも変わらないな」
「だね、モデルガンとかさ、左か右には乱雑にライフル系のが立てかけられてるんだよね」
「おい、こっちだぞ神山くん、中井くん」
陳列あるあるを二人して言い合いながら杖の棚を眺めていると、長谷部に注意された。そして、棚から離れたすぐ先はもう、またも外につながっていた。そこでは、人型の標的が立てられ、それに向かって杖をかざし、魔法を放つ者達が行く人か居た。
さながらそれは、現世で例えるならばシューティングレンジとでも言うべきか、マジックレンジとでも呼称すべき施設であった。
「ここは魔法試験場、特に魔法を扱う闘士達が覚えた魔法を試したりする場所だ」
「見たまんま、だな……改めて見れば人がこれを起こしているのは、奇異なものだ」
「確かにっすね、記念に動画撮っとこ」
腰の高さまであるレンジの遮りに肘を乗せ、河上が魔法が飛び交う様を見て呟いた。火炎に氷のつぶて、それらを的に向けて杖から放つ。それは確かにそうだなと、この世界では魔法が当たり前な故にスルーしていた神山は、この世界で充電が切れていたが、小型発電機を手に入れた事により充電できたスマホを取り出して、動画を撮影し始める。
「長谷部さん、実際……魔法というのは呪文やらを唱えて放つのかね?それとも翳して念じるとか、そんな感じなのか?」
その最中で町田が尋ねた、実際魔法というのは、いかにして発動しているのか?それは魔法を扱えないTEAM PRIDEの面子からしたら出て来て当たり前な質問であった。その為、長谷部はすぐに答えを出した。
「実際、どっちもいける、ただ口にして唱えた方がいい傾向があるし、手をかざすのは言わば照準にもなるからな……慣れれば唱えず手をかざすだけで放つ奴も居る」
「実際、どれだけ時間がある?」
「む、まぁ1秒から2秒か……」
魔法が放たれるまでの時間は約2秒が平均的である、それを聞いた町田に、動画を撮影した神山はその動画を再生してはまた戻してと繰り返しながら、顎に手を当てる。その動画を中井も、町田も、河上も覗き込みつつ考察が始まった。
「1秒から2秒なら、予兆さえあればなんとかできるか……ジャブみたいに見て避けれないならお手上げだったが……」
「実際、町田さんは真正面から打ち砕いてましたけど、どんな感じでしたか?」
「風は高速道路で手を出した感じだな、火もそこまでだったが、あれに種火の岩石とかあったら話は変わってくる」
「遠間から撃たれた、として猶予があるなら近づけるな……」
「放ってから着弾する速度も見て取れた、足元とかならーー」
たった少しの会話が、いきなり対策会議に流れが出来ていた。この様子を見て長谷部は、嗚呼やはり、彼らは根から格闘家、武道家なのだなと感慨深くなり、自らもアマチュアボクシングで、ジムの人とこうして相手の対策を練っていた過去を思い出させられた。
「あの、すいません」
「うん?」
そうして屯していると、TEAM PRIDEの面々に声をかける者がいた。一同はそちらを見れば、黒のローブに杖を携えた細身の青年が居た。ただ、TEAM PRIDEの肉体による圧もある為、青年は少しばかり恐れを見せたものの、彼らに話す。
「すいません、レンジに入れないんで退いていただけると……」
「あ!ごめんごめん!邪魔だったなうん、横行こう横」
神山はシューティングレンジ?いや、マジックレンジへの入り口を皆で塞いでいた事実に気付いて申し訳ないと頭を下げた、他の3名も夢中で話していたのか気付かなかった非礼に、青年へ頭を下げて横に避けた。
「すいませんね、邪魔しちゃって、練習頑張ってください」
青年に一言告げた神山は、レンジ外の休憩スペースらしきテーブルと椅子を見つけ、そこに座るかと指差し皆を誘導した。椅子に座る一同、神山は辺りを見回すと、休憩スペースの奥にこの魔法練習場のスタッフが営んでいるのか、様々な果物が陳列されゴブレットが並べられたブースを見つけた。
「喉乾かない?飲み物買おうよ」
「いいねぇ、誰が奢るかジャンケンするかい?」
神山の提案に河上が乗ったと握り拳を出す、流れができたとなれば、乗ってしまうのが男のさが、中井も、町田も手を出すと長谷部は俺も?と皆を見回して手を出した。
「はいじゃーんけーん!」
「「「「PON!!」」」」
そして、神山は席を立ちドリンクブースに向かうのだった。
「ごちになりまーす、僕リンゴ」
「グレープを頼もうか」
「マンゴーを、なかったらベリー系を」
「オレンジで」
「くっそ、言い出しっぺの法則かぁ?」
皆からのリクエストを聞いて、こんな日もあるかと思いながらブースに立つ神山。中井はリンゴ、町田はブドウ、河上はマンゴーもしくはベリー系、長谷部からはオレンジをリクエストされた。そして、見事に全部あったわけだが神山は、無愛想な店員が生搾りジュースを作る最中に考えるのだ。
このフルーツ達、どこから来たのやらと。農園とかあるのかなと。この世界の家畜やら植物やらは、現世と同一な物が多い。剣もあるし魔法もあるが、竜は空を飛ばず、地にスライムやら這わず、小鬼も出ない。
しかして、エルフやらドワーフは見かけたわけで……歪な世界だなと、ゴブレットに注がれた生搾りジュースと、お盆をわざわざ出してもらい、神山は皆が待つ席に向かった。
「あいよお待ち」
「ありがとうねー神山くん、はいはい、早速取った取った!」
河上がお盆から皆が頼んだジュースを座る一同に渡していく、神山は相変わらずのザクロジュースを選んだのだった。
「っと……そうだ、みんな予選お疲れ様です!」
「あ、お、お疲れ様です」
そして河上が突如、そんな音頭を取る物だから、中井は釣られてゴブレットを当てた。町田も、そしてつい昨日加入した長谷部も、ゴブレットを当てるので神山もゴブレットをぶつけた。
「こっちの世界でびっくりしたのは、オレンジの甘さだな、日本のオレンジとかみかんの酸味が少しあるかと思ったら、凄まじく甘くてね」
長谷部はオレンジジュースを飲み、この世界の果物は現世で口にした物より些か甘さが強いなと語った。同じものとは思えない甘みがあるのだと語る長谷部に、町田も頷く。
「基本甘いか薄いかって感じですよね長谷部さん、僕も此方のスイカを食べたら薄かったのにびっくりしましたよ」
「マンゴーもあっちと変わらない甘さだ、神山くんとかその辺食いまくりでしょ、タイのフルーツ」
町田はスイカの薄味が驚きだったと語る最中、河上はマンゴーのクオリティが現世と遜色無くていいと続き、神山はこの手の南国フルーツをよく口にしていたのではないかと尋ね、神山は頷き答えた。
「屋台で買ってましたねぇ……スイカ、パパイヤ、マンゴー……ドラゴンフルーツとか、マンゴスチンも食べたかなぁ……」
タイでの修行の時にそれはもう堪能したなと、懐かしさを感じていた神山が、そう言えばと思い出した。
「マンゴーと言えば、ココナッツミルクで炊いた餅米とマンゴーのデザートがあるんですよ」
「ココナッツミルクで炊いた……餅米ぇ?なんか地雷臭半端ないよ」
餅米を、ココナッツミルクで炊いたなどという理解できない組み合わせに、中井が顔をしかめた。
「いやいや中井、これがなかなかアリなのよ、ねっとりとした感触に甘さと、そうだなぁ……おはぎとかその甘さかな、それと一緒にマンゴーを食べるのよ、屋台にもフードコートにもあるポピュラーなスイーツなんだから」
タイではポピュラーなんだからと論ずる神山だが、中井は聞かなかったことにしようとリンゴジュースのゴブレットを傾ける。
「それにしても……熱心だね魔法使いの皆さん」
その傍らにて、河上はレンジの方向に首を向けて、飛び交う魔法を眺める。幾度と目にして来たが、これが自分たち向けて飛んできてもおかしくないのだから愉快だなと笑みを浮かべていると……。
先程、レンジに入って行った青年が、ぜぇぜぇ息を切らして、ふらついて出てきた。顔色も青ざめて、いかにも調子が悪そうだった。河上が立ち上がると、どうしたのかと神山が目を向けた直後には、河上はその青年に向かって歩き出していた。
「おい、そこの、おい」
近づきながら声をかけてみた河上だったが、青年は顔をこちらに向け、荒い息をしていた。視線が定まっておらず、返事も無いとなって河上は気付く。
熱中症か!河上は青年の背中をさすりながら、もう一度声をかけた。
「おい!聞いてるか!返事できるか!?」
「あ……うあ……」
「河上さん、どうしたの?」
「神山くん、ブースにヤシの実あったか?それ買ってきて」
「え?あ、熱中症!?」
河上の行動に何かあったか聞けば、青年の様子を見るや理解した神山は、河上の支持に従ってヤシの実をブースへ買いに行く、途中、中井や町田、長谷部もその様子と神山が一言伝えれば、一斉に青年の熱中症へ対処をする為動き出したのだった。




