戦力補充
薬師寺の連撃を捌き切る町田、その攻撃が繰り出される度に、町田の内に眠る何かが燻りだしていた。
本当にそっくりだ、女でありながらその攻撃全てが、彼女の兄の生き写しの様に。違うところは身長と、攻撃の重さくらいだろう。
「はぁああ!」
「むっ!?」
その最中であった、町田が中段の回し蹴りを放つ薬師寺に対して、捌こうと手を出した瞬間。その軌道が変わったのだ。膝から下の向きを変えるそれは、フルコン空手が生んだ芸術であった。
ブラジリアンキック。マッハ蹴りとも呼称されるそれは、ミドルの軌道から膝を柔らかく使い向きを変える。ガードをすり抜け振り下ろす様な軌道で頭部を狙う回し蹴りが、町田の側頭部にめり込んだ。
もしも、この場に神山が居たら、その蹴りに目を輝かせるなり、町田が攻撃を喰らった事に驚いただろう。ドレスから覗く足が、町田の右側頭部にめり込んだまま硬直する。
「いい蹴りだ、君の兄さんもこの蹴りが上手かった……」
「くうぅう!?」
しかし、その見事なブラジリアンキックでも、町田恭二の膝を付かせることは出来なかった。薬師寺の顔が焦燥と怒りを綯交ぜにして歪む、クリーンヒットを食らってもまるでノーダメージ、理由は単純だった。
威力が足りない、単純に力が無いのだ。町田恭二の鍛え上げた肉体に、薬師寺彩芽の女性の肉体では真正面から攻撃を放ってもまず倒せない。体重差もある、カウンターで放たない限り町田の意識を刈ることはできないのだ。
足を下ろして後退する薬師寺に、町田は虚な眼差しを向けて尋ねる。
「やめにしないか、キミでは僕を倒せない、それに……キミの兄が死んだのは僕のせいでは無かろう、恨むべきは大真塾の館長だろう」
「黙りなさいよ!お兄さんを壊したのは貴方でしょう!貴方が、貴方と戦わなければ兄さんは、兄さんは……!」
町田は、泣きそうな目で睨む薬師寺に、溜息を吐いて、椅子に座らせた中井を再度肩に担いだ。
「怒る矛先を間違わないで欲しい、薄々気付いているでしょう薬師寺さん……これ以上、語る気はありませんので」
では、と頭を下げて背を向ける町田に、薬師寺は握った拳を震わせて、ゆっくりと解いた。分かっている、充分理解している、悪いのは当時の館長だったのだと。
だが、けど……始まりは、今去ろうとしているあの男なのだ。そう思うとどうしても、怒りが込み上げて仕方がないのだ。
「絶対、絶対倒してやる、町田恭二!」
涙を浮かべた復讐の戦乙女が、決意の呟きを静かに吐いた。
「で、大暴れしたわけ?」
「「「「ごめんなさい」」」」」
TEAM PRIDE反省会、fromシダト城門前、開催。あの後、騒ぎを聞きつけたマリスが、事の次第を聞いて帰ろうとしたTEAM PRIDEの面子を招集し、城門前に正座させた。
「あの……俺関係無いんですけど」
「ああ?」
「いえ、何でもないです」
共演、長谷部直樹。シルバードラゴンのリーダーたる彼も、河上の言葉に流れでついて来てしまい、正座させられてしまった。ついて来て途中『あれ、何で俺までついて行ってんの!?』と自らも気付くまで遅く、神山と河上も、そうだよな!?と河上もついて来た長谷部に、何故居るの!?となってしまったのである。
「ま、いいわ……あの場でいざこざ起こして、返り討ちにされるよりはマシよ」
しかし、怒られると思った4人と無関係1人だが、城を見上げながらマリスは呟いた。それからマリスは、中井と河上に目を向けた。
「シンヤ、貴方を投げ飛ばしたそのオリヴィエって闘士はね、ヴァルキュリア・クランのエース、オリヴィエ・サンジョウハラと言うの、不触不敗の令嬢と呼ばれているわ」
そして、対峙した闘士の名前をシンヤに伝えた。それを聞いた中井は、名前を覚えたぞと険しく眉間に皺を寄せたのだが……。
「三条原オリヴィエ?え、ハーフなの?ていうか中井投げられたってマジ?」
名前からしてハーフなのかと神山が、中井に尋ねつつ、それ以前に投げられたのかと問いかけた。
「ああ、合気道やってるみたいでね、あんなに……バッタバッタ投げ飛ばされたのは初めてだ、演舞の相手をさせられた気分だ」
「嘘だろ!?」
「嘘って言いたいさ、けど、現実逃避するほど僕は弱くない」
中井はそれを、真実だと認めはしたが、屈辱だと歯噛みする様に目を閉じて拳を握りしめている。この世界に、中井真也というグラップリングの生き字引を投げ飛ばして制した奴が居て、しかもハーフの美女ともなれば、神山は一体どんな化け物と手合わせしたのかと口が開きっぱなしになる。
「セイタローと揉めたのは……」
「水戸景勝だな、奴もエースなのか?」
そして次は河上静太郎が因縁、水戸景勝の事を話し始めたマリスに、河上は奴もなのかと、先程あしらった為にエースファイターには思えないがと腕組みながら尋ねた。
「剣聖に並ぶ、剣術無双と呼ばれてるわ……ブルーラウンズという去年優勝チームの副将よ?」
マリスの口から飛んできた内容に、河上静太郎は……真顔のまま固まった。
「冗談……ではないのか?あいつが?剣術無双?」
「そうよ……どうしたの、その顔?」
「いやいや……さっきあしらってやったぞ……」
「流れで長谷部さんとバックドロップ決めましたよ?」
馬鹿も休み休み言え、その剣術無双はさっき軽々あしらったし、バックドロップまで決めたぞと河上と神山が互いに目を合わせ、そして長谷部にも目線を向ける。
「長谷部さん、本当ですか?」
「嘘では無い……理由もあるし、あれが彼の本気では無い、では無いのだが……」
正座した長谷部は神山の質問に、真実だと答えて、剣術無双たる理由もあるのだと、その理由を話そうとしたのだが……河上静太郎を見て顔をしかめた。
「河上さんを見た後となると……なぁ?」
長谷部がそう語るや、河上以外が全員、嗚呼なるほどと納得した。
「そもそも、この世界の剣術は……スキルやクラスによる影響が強い、河上さんの様に、現世の技術や体捌きができる奴はまず居ない……それを持ってきている訳だからその差は出るからなぁ」
「という事は……俺の様な剣士は?」
「居ない、剣聖もあれはスキルとクラスの動きだ、剣道上がりも何人か居たが……あんた程ゴリゴリの剣術家は居なかったよ」
それを聞いた河上静太郎は、左様かと少しばかり表情が沈んだ。つまりは……この世界で河上静太郎と同じ、現代日本にまで現存した古流剣術をバックボーンとした、所謂サムライタイプの剣士は居ないと事実を突きつけられたからだ。
「はぁ……一人くらいは同胞が流れ着いているかと思ったが……あの水戸だけか、なんとまぁつまらんな」
明らかな落胆だった。河上は期待していたのだろう、自分と同じ、古流剣術をこの世界でも使い続ける人間が、一人くらいは居るのではと。それが今のところ、剣道あがりの水戸だけで、剣聖も違うとなればその落胆ぶりは大きい。
「さ、もういいわ……帰りましょうか、ニーナが馬車を呼んできているから」
こうして、正座を解いて良しと命じられ、5名は立ち上がる。ニーナが不在だったのは、帰りの馬車を呼んでいた為だったらしい。と、ここで神山が流れで着いてきてしまった長谷部に頭を下げた。
「すいません長谷部さん、巻き込んじまって、シルバードラゴンには無関係なのに」
「あー、別に気にしてはいないさ、僕ももう根無し草だからね」
気にしていないと言う長谷部、しかし最後の話を神山は聞き逃しかけた。
「え?根無し草?」
「シルバードラゴンは解体されたんだ、君たちに負けた後、契約解除された、今フリーなんだよ」
「はぁ!?」
まさかの事実に神山は驚いた。そんな話は聞いていない、とは言っても耳にする余裕も情報網も無いので、どうしようもない話だが。
「ここに来たのも自分を売り込む為だったんだが……君たちに負けた事実があるから、誰も見向きはしなかったけどね?」
このパーティ自体、その様な意味があるらしい。つまりは移籍なりトレード、売り込みも兼ねていたと言うのだ。しかし、TEAM PRIDEは劣性召喚者だけのチーム、それにストレート負けしたチームのメンバーなど、誰も欲しがらないわけでと長谷部は笑った。
と、なればーー。
「じゃあ長谷部さんTEAM PRIDE来なよ!!ミット打ちとかスパーリングパートナーとか!トレーナーとかやってくれませんか!?」




