シードチームのエース達 上
「かかって来いってやってたよなぁ、なぁ?だから来てやったんだよこら、相手してくれよ」
どこのチームの闘士かは知らないが、中指を立てられた以上、見つけたら喧嘩を売る気でこの会場に来たらしい。中井は一度町田を見たが、町田は知らんとばかりに側に置かれていたテーブルに腰掛けて足を組んだ。
勝手にしろという意思表示に、中井は襟首を掴んだ闘士の目を見ながら言い放った。
「誰の襟首掴んでんだよ、雑魚が」
「あぁ!?」
凄んだ刹那、それが隙となった。そもそも中井は優しく教えてやったのだ。
『誰の襟を持っているのか?』と。
襟から手を離しておけば良かったのだ、特に……中井真也の様な、関節技を主体とする格闘家の襟首を素人が持つというそれは、即ち自殺行為なのだ!
絡んできた闘士が中井の襟首を掴んでいる左手、それを中井は右脇で挟み込み、振り回す様に左へ身体を回転させた。
たったそれだけで、その刹那の動作で絡んできた闘士の左肘が、中井の背中に叩きつけられ、伸びて外れたのである。
「いぁぎぃいい!」
叫びを上げながら芝生に倒れ、左腕を押さえる闘士。あの一瞬で鮮やかなと、町田は感心すらして瞬きもできなかった。
「んだこらぁあ!」
「死ねやぁああ!」
次いで取り巻きだろう2人が一斉にかかって来た。1人目が両手を伸ばして中井に掴みかかるが、その勢いを利用した、まるで合気道の掛かり稽古の様に、中井は接近して逆に袖を掴み腰を当てて、足を鋭く払った。
「あ!ぅあああ!腕が、ぁああ!?」
見事な払い腰だった、受け身も取れずに打ち所が悪かった1人目が、手をついてしまい腕が折れた様だ。
「野郎ぉおお!」
取り巻きの2人目が蹴りを放つ、しかしそのまま蹴り足をしっかり抱えられて、軸足を払われて両足が地から離れて真っ逆さまになると、そのまま中井は叩きつけた。嫌な音が鳴った、頚椎がいかれたのだろう。
「あがぁあ、ああ!」
「いた、痛い、痛いい……」
「げっ、げっ……」
周りの闘士達も、この一連の鮮やかさと、凄惨さに悲鳴すら上げれなかった。流れる様に、瞬く間に制されてしまった三人の闘士の中心に立つ中井は、シワが寄った襟首を正しながら、最初に立ち関節で投げ飛ばした、襟首を掴んだ闘士の方へ向かった。
運の悪い、彼らはTEAM PRIDEの中で最も冷酷残忍な相手に喧嘩を売ったのだ。これが神山真奈都なら、この場でお終いとして手打ちにしただろう。側にいた町田恭二なら、全て受け流されて戦意を失っただろう。河上静太郎ならば、痛み無くあの世に逝けただろう。
だが、相手は中井真也である。こと、喧嘩相手には一切容赦はしない、二度と刃向かわぬ様に、二度と立ち上がれぬ様に破壊するのが、この男であった。
「っらぁあ!」
「ゔごぁああ!!」
中井は、左肘を押さえ倒れていた、襟首を掴んだ闘士の腹を思い切りに蹴り抜いた。チンピラの喧嘩の追い討ちそのものだが、爪先がしっかり腹に食い込み、音も凄まじい。
「誰の襟掴んでんだよ、なぁ?ああ?」
「や、やめ」
静止は受け付けない、懇願も、謝罪も聞こえない。待ったをかける前に、中井の爪先が相手の、名も知らぬ闘士の顔面を蹴り抜いた。
「あばぁあ!」
「言えよ、言ってみろよ!誰の襟を掴んでんだテメェよぉ!!」
「ひぎぎぇえ、あああ……」
蹴るだけだった足に踏み付けが、混ざる。いよいよ持って鮮やかな撃退が、一方的な殺戮に変わってようやく周りが悲鳴を上げ出した。
「きゃあああ!誰か!誰か止めてぇ!死んじゃう!」
「衛兵呼べ!早く!誰かぁああ!」
自分達は闘士でありながら、中井の残酷なる仕打ちを前に入り込む勇気が無く、助けを呼び始めた中で、やってしまったかと町田が、頭をかきながら中井に近づいた。
「中井くん、中井くん!その辺にーー」
「おやめなさい!!」
町田が中井に声をかけた最中、中庭の会場に凛とした声が響き渡った。声の主に中庭の皆が、町田も、中井も目を向けた。
そこに立っていたのは、金髪の美女だった。真紅のドレスに、ストンと落ちたロングヘア、まるで芯が有るかの様な真っ直ぐな佇まい。モンゴロイドでは無い、白い肌に青の虹彩……日本人とは明らかに違う、ヨーロッパ系を感じる金髪の美女が、返り血を浴びる中井真也を、キッと睨みつけていた。
その立ち方を見た瞬間、町田は気付いた。
この女性……『やってる』人だと。
姿勢から、立ち方から、自分や河上静太郎と同じ、武道家の物だと気付いた。
「おお!オリヴィエ様だ!ヴァルキュリアクランのエースファイター!」
「不触不敗の令嬢が来てくれたぞ!もう大丈夫だ!」
周りの悲鳴が一気に歓喜へと変わった。中井は自分を睨む金髪の令嬢を睨み返し、最早顔の形が分からないほど蹴り、踏みつけた闘士を踵で蹴り転がして、息も切れ切れに身体を向けた。
中井の騒ぎが起きる少し前に時間を戻す。
神山は強敵たる長谷部から話を聞いていた、これから自分達が戦う『本戦』の事について。
「君も知っていると思うが、本戦にはシードとして、前年のベスト4がトーナメントに参加する……そのチームも、君以外の予選突破組にも、僕や君達みたいな奴が居るんだ」
「つまり……格闘家や武道家が?」
「そう、そこへさらにクラス、スキルで強化された奴らがね……分かるかい?」
考えた事が、無いわけでは無い。いや、むしろいつか絶対、戦う事になるだろうタイプの相手を長谷部が指摘して来た。
自分達と同じ、格闘技、武道を現世で修め……なおかつ、この世界の能力を操る、優性召喚者を。
「劣性召喚者の中にもたんまり居たさ、空手やってる奴、剣道やってるやつ、フェンシング、薙刀、銃剣、相撲、レスリング……そんな奴らが悉く劣性扱いされる原因はそれさ……それだけならまだしも、経験を積んだ何も習ってない優性召喚者に彼らは手も足も出なかった」
神山達の様な格闘技、武道経験者は悉く負けたのだという。しかも、何も知らぬ優性召喚者が鍛錬すれば、簡単に上回ってしまったのだと。
「優性召喚者で経験者の中には、格闘技と決別した奴も居たさ、その方が強くなれると知ってね……」
長谷部は握りしめた拳を見つめながら呟く、現世で磨いた、傍にあった力すらも捨ててしまう魔性の力が、姫から授かりし力なのだと。
「長谷部さんは決別しなかったんだね?」
しかし神山は、にっかり笑ってそうなのだろうと聞いてきて、長谷部は自嘲した。
「生憎、こいつしか信じられないからな」
「俺もですよ、何処まで行こうと、何処に居ようと……」
神山も拳を握りしめて、長谷部と同じ様に見つめた。嗚呼、どうしようもないのだと、2人は笑うしか無かった。拳しか俺達には無かったし、拳以外では自分を語れない。
泰拳戦士と拳闘士《ばか》が、二人揃って笑った。
「長谷部さん……」
「何だ神山くん」
「楽しかったっすか、俺と戦って」
「ああ、今までで一番、楽しかった」
そうですかと神山は頷いた、ふうっ、と一息吐いた長谷部が神山に話す。
「ならもう、下手な事を言うまいよ、誰が相手だろうがそれで叩きのめして、優勝しちまえ」
「ええ、四聖の拳神もぶちのめしますから」
四聖すら倒す気らしい、それを聞いた長谷部はこれ以上は野暮かと神山から離れつつ、世話を一つ焼く事にした。
「シードのチームの話なんだが……特に四聖や姫からも一目置かれている奴等が居てな、エースファイターとでも呼ぶべきか……そいつらには気を付けろよ、絶対誰かとは戦う事になる」
「何だよそれマジ?どんな奴、教えてくれよ長谷部さん」
シード勢のチームに所属する、特に強い奴ら。その話に神山は勿体ぶるなと長谷部に催促した。
「まず、ブルーラウンズの2人だな、未来視と剣術無双、それとヴァルキュリア・クランの不触不敗の令嬢、あとはーー」
長谷部が語り出した最中、神山達の離れた場所で、食器が割れる音がした。それもいくつも割れた様な、喧しさであった。
何があったのか、2人して顔を見合わせ音の発生源へと歩いていけば……。
「河上さん!?」
河上静太郎がそこに居た、しかし様子が明らかにおかしい。河上はソファ席に座して、左右に先程から誘われた美女達を侍らしていて、テーブルはひっくり返されていた。床に散乱する割れたグラスや氷に、酒瓶……そして、その河上を見下ろす1人の青年を見上げながら、頬に伝う酒の雫を河上は親指で拭い舐め取った。
河上の左右に座る美女達は、突然のことに驚きはしたが、河上がそれぞれ左右に笑顔を見せただけで安堵する。しかし、目の前の青年には、怒り一色が表情を染め上げていた。
「認めない、認めるものか!あんたが現代最強の剣士だなんて俺は認めない!」
その青年は、青い奔流を纏う……日本刀に似た反りを持つ異形なる片刃の剣の先を河上に突きつけている。対する河上は、その切先を前にして動じず、足を組んで青年へ言葉を返した。
「随分とまぁ昔の因縁を引っ提げて来たねぇ……この世界で仇討ちか?」
笑顔を一切に崩さず、河上が尋ねる。何事かあったのかと、知っている人物なのかと神山が青年の背を見つめて、河上はそれに気付いてはいたが手を顎に乗せて語りかける。
「別に……君が認めなかろうと、僕は現代最強に変わりない……何より、この世界で唯一無二本物の剣士は僕ただ一人なのは明らかだ、君がそのおもちゃの剣を持っていようがね?」
「あの時も……そう言って先輩達を貶めたのか!河上静太郎!」
「事実だから宣ったまでよ、所詮は児戯であったと、高校最強の剣道部と期待したが……チャンバラごっこと同然であったとな?」
「貴様ぁ!」
河上の煽りに青年が剣を振り上げた、それは流石にまずいと神山と、思わず長谷部も青年の背中に向かう。
が、剣が振り下ろされるよりも、神山達が飛びつくよりも早く。河上はソファから立ち上がり、青年の手首を掴んでしまった。
「ぐぅうう!?」
「そらっ」
そして思い切り押してやると、丁度神山と長谷部が青年を止める為に向かって来た最中で、2人にぶつかり。
「わ!ちょっ!長谷部さん右右!」
「うおおまず!い!?」
「な、何だ貴様ら、離せ!離せよぉ!」
反射的に2人して抱えてしまい、勢いに負けて後ろへ、後ろへと行くと。
「「ああぁあああ!?」」
「ぶぎゃああ!?」
そのまま、青年を2人してブリッジして背後に落としてしまったのだった。神山と長谷部は脳天を打ち付け、青年は後頭部を打ち、見事な人間橋が出来上がったのだった。
そんな騒ぎと同時に、中庭では……1人の金髪令嬢と、中井真也が睨み合い対峙していた。
ヴァルキュリア・クランのオリヴィエ、そう呼ばれた美女は、足元にて呻く中井に投げられ腕を負った闘士と、頚椎損傷の様子が見える泡を吹き痙攣した闘士を見て、観覧していた皆に伝えた。
「すぐに彼らを治療院へ、彼らを預かる貴族に連絡もしなさい」
「は、はい!オリヴィエ様!」
余程信頼されているのか、偉いのか知らない。彼女の一括で周りは中井が傷つけた闘士を協力して運び始めた、中井の背後で呻く蹴られ、踏まれた、絡み始めた闘士にも数人が向かい、町田が側に居て少し戸惑ったが、町田は何もしないからと首を振りその闘士も運ばせた。
「あなた、どう言うつもりだったの?」
「あぁ?」
「もう勝敗はついてたでしょう、痛めつけてなにがしたいの?」
中井の追い討ちに余程憤りを感じていたらしい彼女は、そう問いかけた。中井は舌打ちしてガンを付けながらオリヴィエなる美女に言い放つ。
「喧嘩売って来たから買っただけだ、しかも負けたら勘弁しろとよ、関係ねぇだろがアマ」
「話聞いてる?痛めつけて楽しいの?」
「はっ!何か?トウシノカザカミにもおけないとか吐かすのか?」
そのまま中井はオリヴィエに言い放った。
「馬鹿みてぇに喧嘩売った輩はこうしねぇと理解しないんだよ、二度と立ち上がれない様、歯向かえないように叩きのめしやらねぇとまた馬鹿みてぇに向かってくるからなぁ!」
そう言った中井に、オリヴィエは返した。
「怖いのね、やり返されるのが、ギャンギャン吠えてまるで檻の中の子犬みたいだわ」
「あぁ?」
オリヴィエは言い切った、中井を子犬だと、何もかも怖くて檻の中から吠えるしかできない弱虫な、可愛らしい子犬だと。
「おいで子犬ちゃん、遊んであげるわ、手の鳴る方へいらっしゃい?」
口笛を吹いて、パンパンと手を叩いて中井を挑発するオリヴィエ、それを見て……中井真也はキレた。
「て、め、ぇぇえええクソアマぁああああ!!」
「中井くん、やめい、挑発にのったら余計に」
「その首へし折って二度と人間らしい生活できない様にしてやらぁああ!!」
町田の静止も虚しく、金髪の令嬢に対して走り出す中井。対して、中井を挑発したオリヴィエは、静かに右足を後ろに引いて迎え撃つ様に手をだらりと下げて待つ。
そして中井の手が伸びた瞬間、その手首を見事に掴み、華麗に横へとスカートを翻しながら移動して、中井をテーブルの上に投げ飛ばしてしまったのだった。




