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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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【それは神話の時代の物語 ― Fable long long ago ― 3】

『お前がユウ――『白の旅人』か』

『あなたはアル――『始まりのフェバル』ね』


 宇宙の中心に位置するダイラー星系列のさらに中心部、宇宙で最も巨大なブラックホールを背景にして。

 最強のフェバルと最強の『異常生命体』は、宇宙空間にて対峙していた。

 会話はすべて念話によって行われている。


『【運命】の筆頭奴隷が、私に何の用があると言うの』

『お前は僕の心が読めるらしいからな。言わずともわかっているだろう。年貢の納め時が来たということだ』

『へえ。いつも裏からこそこそ手を引くだけの卑怯者が、直接やって来るなんてね。よほど主は腹に据えかねたと見える』


 この時代、『(彼女)』は宇宙の外側に在るけれど、常に傍らにあって見守っている。

『彼女』ほどの力を持った存在であれば、否応なしに『それ』を知覚することができた。

(彼女)』は常にそこにあり、あまねくすべてを照らしている。

 当然、この戦いの行く末も見守っている。


『あの方を侮辱することは許さないぞ』

『許さないのはこっちだよ』


 星海 ユウは、静かに怒りを燃やしている。


『あなたたちにどれほど旅の邪魔をされてきたのか。いかほどの悲しみが私の【器】を満たしたのか』


 白のオーラが爆発的に膨れ上がり、全方位をまばゆく照らす。

 まるで『(彼女)』が放つそれのようで――ほとんど神の領域に至りつつある『彼女』に、アルは強い態度を崩さぬまでも密かに戦慄していた。

 だが『あの方』の期待に応えねば、始まりにして最強のフェバルの名折れというもの。

 お前が『白』なら、僕は『黒』だ。

 アルもまた、黒のオーラを充実させていく。

 黒性気と呼ばれるそれは純粋な殺意の塊であり、その身に包むことで、戦闘に特化した凄まじいバフを施す。

 後に『黒の旅人』を始めごく限られた者が至るが、当時はアルのみが有するオリジナルの力だ。

 白は神性気とされ、この星海 ユウと『(彼女)』以外には空前絶後、ついに誰も持ち得なかった。

 戦闘への特定のバフをもたらすことはないが、純に全にして最強のオーラである。

 同じオーラ量であれば。こと戦闘面に限って、『白』と『黒』は方向性が違えど優劣はない。

 勝敗を決める要素は、純粋な強さのみ。

 ここに至り、アルも『(彼女)』も、『彼女』をまったく測り損ねていたことを悟る。

 オーラの総量が。強さが、あまりにも違い過ぎた。


 アルは聡い(・・)から、この時点で己の未来も勝敗までも視えてしまった。


 ――【神の手】よ!


 もはやなりふり構ってなどいられない。

 彼は既に絶望的な挑戦者の気分で、恐るべき相手に万能の手をかざした。

 これまでいかなる相手も、この手による実力行使の一つで、たちまち意のままの結末へと導いてきたのだ。

 たったお前一人! 出来ぬ道理はない! 届かぬはずがない!


《存在消去》

《空間圧縮》

《時間断裂》

《因果逆転》

《因果解消》

《論理の檻》

《多価並列矛盾》

《0》

《名前消去》

《命名上書》

《命名付加》

《ブラックホール》

《特異突破》

《銀河破壊》

《超銀河破壊》

《無限連鎖》

《無限波状連鎖》

《死滅領域》

《神世界》

《魂絶掌》

《許容拒絶》

《全許容拒絶》

《N/A》

《D^∞iv》

《原点回帰》

《結末の唄》

《聖戦の終を告げるモノ》

《約束の光》


 …………


 だがすべてが。ありとあらゆる能力行使は。

『彼女』へ届くより前に、それが放つ白き光の前に弾かれてしまう。

 なぜならば。

(彼女)』はそこにあり、あまねくすべてを照らすように。

『彼女』もそこにあり、既に彼を含む周囲のすべてを照らしているのだ。

 決して揺らぐことのない――絶対の強存在性が『彼女』を在り続けさせた。


 ユウは必死に無駄な攻撃を続けるアルに、呆れてじと目を向けている。


『ねえ。ふざけてないで真面目にやってくれる?』

『僕はふざけてなど……』


『彼女』がほんの一睨みすると。

 アルのかざしていた手が盛大に弾き上げられて、そこでぴたりと凍り付いたように動きが止まった。

 そしてもう二度と『彼女』へ向けて力を振りかざすことは許されなかった。

【手】は……『彼女』を畏れてしまった。


『……くっ!』

『【神の手】……たいそうな名前だよね』


 星をこねくり回して。銀河をかき混ぜて。

 領域を千切って。因果を仕切って。何かを無理に名付けて。

 そうやって、決めつけて。決めつけて。決めつけて。

 まるで宇宙を砂場に見立てて、我儘な子供の土くれ遊び。


『で、そんなものがどうしたというの。すべて児戯に等しいものよ』


 くすりと、『彼女』は。女神のように穏やかで柔らかい笑みを彼に向ける。

 まるで思い付きでいたずらをしようと試みた、至らぬ子供を諭すかのように。


『坊や。身のほどを教えてあげる』


 鈴を転がすような少女の蕩ける声が心に直接響き――白き光の究極の高まりとともに『神格』が浮上する。

『彼女』から優しさという生来の感情が失われていき、敵に対する厳格さに満ちていった。

 星の弾けるように輝く真っ白な瞳の眼光は、力強く鋭さを増して、彼を容赦なく突き刺す。

 主以外に初めて、たまらず膝を屈したくなるほどの神々しさを湛えるに至った『彼女』は、宣言する。


『【運命】など。誰にも憚ることは許さない。私の行く道はすべて、私が決めるのだから』


 ユウが右手に創り出したるは白の剣。性別を捻じ曲げられる前の原初のユウはその後(・・・)と異なり、右利きであった。

 アルが呼応して右手に創り出したるは黒の剣。貫いたものを死に至らしめる致命の剣である。


 そして……戦闘と言えるほどのことさえも起きなかった。


 彼が知覚する暇などあり得ない。


『あ、が』


 振り下ろされた白の剣は、黒の剣を一撃で砕き。

 彼の胸を深々と抉っていた。


『ぐぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーっ!』


 存在を焼かれる凄絶な痛みに、哀れ情けない悲鳴を上げることしか許されないアル。

 生来いかなる相手であろうと逆の立場で下してきた彼にとっては、初めての屈辱であった。

 生殺与奪を弄ぶ状況に至ったユウは、白剣を突き刺したまま、品定めするように苦しむ彼を覗き込んでいる。


『あなたたちって、殺してもすぐ復活するんだよね。さてどうしたものかな』

『う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』

『どれだけ復活するのかな。何度壊せばいいのかな。どんなにしても本当に死なないのだろうか』


 まるで感情さえも読み取れない、純粋なる瞳が彼をずっと射抜いている。


『試してみようか。いいよね。構わないよね』


 や、め、ろ。やめて、くれぇ。


 アルは己が打ち砕かれる痛みに泣き叫びながら、ほとんど懇願するようだった。

 かつて敗北を知らなかった男には、『彼女』はあまりにも恐ろしかった。


『いけないよ。君たちはどこにでも現れて、散々余計なことをしてくれたよね。せっかく楽しい旅の水を差す』


 罪を咎めるように、美しいソプラノを紡ぐ。


『フェバルとかいう輩の。お前ごときが筆頭だって言うんだから』


 白剣を突き刺したまま吊し上げ、左手で彼の首根っこを掴み。ぐいと引き寄せる。

 人に非ざる『神格』の白き瞳が、怯え咽ぶ彼の瞳を真正面から突き刺す。


『お前が代表して、責任を取ろうか。たまには理不尽に殺される人たちの思いもよく味わうべきだと。そうは思わない? ああ、思わないか。君たちって人間、とことん舐めてるもんね』


 だから。私が罰を下そう。


 ――や、やめ。


『じゃあまず、いっぺん死のうか』


『彼女』が剣先にほんの少し、力を込めると。

 全身を巨大銀河が滅するほどのエネルギーの暴力が駆け巡り、ついにアルの壮絶な断末魔が上がる。


 彼はたちまち現世から存在を失い、一度星脈に回収されて。


(彼女)』の恩寵を受け、再び世に復活を――。


『ダメだよ。死に逃がしなんて、するはずがないじゃないの』


 星脈に流れ込んだ自らの『存在』を直接掴まれたアルは、心底震え上がった。


 あ、あ。こいつは……!


『彼女』も、星脈の中にいる――!


『ふふ。可哀想な坊や。なまじ強いから、簡単に魂尽き逃れることもできない』


 何もできない無力な魂の存在は、これから為すすべなく蹂躙されるだけのことが明らかだった。


『そうだよね。怖いよね。痛いよね。やっとわかったでしょ』


 ユウは、悪い子に教え諭すように優しい声色で告げる。しかしそこに一切の優しさなどない。


『それがあなたたち【運命】の奴隷――フェバルが人々に与えてきたものなんだよ』


 う、うう……!


『安心して。お前のことはもうどんなに謝っても許さないから』


 凛として、告げる。


『滅びようね』


 そうして。

 億千万を超え、単位を与えられる数など優に超える死と痛みとを刻み付けられ、一度も復活することを許されず。

 星脈の中で繰り返し。繰り返し。アルは魂の存在を砕かれた。

 彼の心もまた、ほとんど完全に打ち砕かれてしまった。

 唯一辛うじて彼を支えていたものは、『(彼女)』への限りない忠誠心のみだった。


 この女だけは、絶対に存在を許してはならない。

 宇宙全域の旅が完了してしまったなら、『彼女』は新たな『光』として『(彼女)』にとって代わり得る。

 あるいはそんな未来すら存在せず、宇宙の破裂によってすべては潰えるのか。


 まったく虚ろになって『(彼女)』のもとへ消えゆく彼の魂に、ユウは最後の役割を与えた。


『いいかい。帰ったらきちんと伝えてね。あなたのママに』


 君みたいな三下を寄こしてないで、お前が直接かかってこいと。


 星海 ユウは、『(彼女)』へ宣戦布告する。


『私はすべての報われない人を代表して。『(あなた)』から真の自由を勝ち得る』

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― 新着の感想 ―
1章ユウがウィルにされたあれの拡大版、ある設けていたのですね。一度も死なせてもらえない分こっちの方がはるかにえげつないですが。
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