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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
二つの世界と二つの身体

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256「ラナの記憶 5」

 死を望まぬ限り、誰も死なずに済む世界。生きとし生ける者が心豊かに暮らせる世界。

 私とトレインを含め、誰も寂しい思いをしなくて良い世界。

 私は、そんな世界を創りたかった。

 私とトレインは、世界を変革するための旅を続けた。

 とても長い旅だった。数百年などあっという間だった。

 世界中を巡り、明日をも知れない暮らしをしている人々を導いていった。

 ほとんどどこでも感謝された。ほとんどどこでも崇められた。

 世界規模にもなれば、信仰心が【想像】の力の源となることを知ったのは、そのうちのことだ。

 私が女神だと信仰されるほど、振るうことのできる力は日に日に増していった。

 いつしか自分はかつてただの人だったのかしらと、疑問に思ってしまうくらいに。

 だけどこれは私が覚悟をもって進むと決めた道。後戻りはできない。

 そうして強化された私の【想像】とトレインの【創造】の力が、さらに人々の暮らしを改善し、死を遠ざけていく。

 人が死を意識しなければなるほど、平均寿命も延びていった。けれど、未だに生物学的限界を超えるには至らない。

 でも私に焦りはなかった。少しずつできることをしていけば良いと、そう考えていた。

 私の側にはいつもトレインと、そしてイコの愛しい子孫たちがいたから。

 イコの子孫のうち、若い娘が代々私のお世話と聖書を受け継いだ。みんな良い子たちだった……。

 暮らしやすい地域から少しずつ手を付け、造り替えていった。

 故郷ラナ=スチリアの遥か南に肥沃な一帯を見つけた。そこで私たちは先進的な魔法都市フェルノートを築いた。

 トレインから他の星々の文明の話も聞き、世界の中心としてそれらにも負けない立派な都市を作り上げたつもりだ。

 フェルノートを拠点に世界各地を回りながら、様々な調査も始めた。

 地理調査により、世界地図の輪郭はほぼ出来上がりつつあった。この世界には二つの大陸があるみたいだ。

 ラナリア大陸とかトレヴィス大陸とか名付けようと言われたときには、さすがに閉口したけれど。

 しかもそのまま通ってしまって、すごく恥ずかしかったもの……。

 次は世界の名前も付けようという話になった。

 こちらもそのまま私の名前から、ラナなんたらと付けられそうになったけれど。さすがに固辞した。

 彼の功績が最も大きいと思うから、トレインの名前をもじったらどうかと。私は強く、強く提案した。

 何とか提案は受け入れられ、トレヴァークという名前が採用された。

 トレインはばつが悪そうにしていたかな。ごめんなさいね。


 そしていよいよ私たちは、現世に残された最後の秘境の開拓に取り掛かる。

『世界の壁』グレートバリアウォール。

 切り立った崖の向こうには、豊饒な大地が広がっている。

 ポモちゃんを始めとする、様々な【想像】種による事前調査でわかっていたことだ。

 雲をも突き抜けるほど高い山々は、羽や翼のある者にしか容易な侵入を許さない。

 でも、だったら強引にでも道を切り拓けば良い。

 移民として付き従ってくれた大衆を背に、私はよく通る声で宣言した。


「トレイン。お願いします――道を」

「わかった。この程度、どうということもない」


 彼が特大の魔法を放つと、轟音とともに壁の一角が消し飛ばされた。

 土埃が止んだ後には。直線状に山脈が貫かれて、広大な谷口が開けていた。

 フェバルというものの業の深さは聞くところでしか知らないものの、これほど絶大な力の代償とはどれほどのものなのか。

 純粋な力で彼に及ぶ者はいないのではとすら思わせる。

 それだけの力を私のために捧げてもらっていることに、改めて感謝する。


「道は拓けました。さあ行きましょう。みなさん」


 人々は口々に奇跡を持て囃し、私とトレインを崇めたてながら、意気揚々と行進していく。

 そこへそろそろと近寄ってきた当代の聖書記、ナルコは私の熱い信者だ。

 ……ちょっと病的なくらい。

 ナルコは底抜けの明るい笑顔を弾けさせていた。


「うひょー! さっすがラナ様ですねー! しっかり書き留めなくっちゃ! 『ラナ様には、万物を切り拓く力があった。険しい山々を指して曰く、「これゆかん」。トレインは応じて、「これしかり」。かくして偉大なる山は拓かれ、豊かな大平原への道は通ず』と」

「ナルコちゃん。落ち着いて。私そんな物々しく言ってないから! それにあれ私の力じゃないから! ね!」

「ぐっふっふ! ラナ様の伝説に新たな一ページが加わったのですよー!」

「あ、ダメねこれ聞いてないわ」


 そんなこんなで、私たちは開けた谷をぞろぞろと進んでいった。

 途中で、志ある部族が残って関所を作るということになった。

 部族の言葉で『大いなる門』を意味するダイクロップスと名付けるつもりだという。

 私はトレインと協力していくつかの手助けをしてから、残りのみんなを連れて谷を抜け出した。


 谷の向こうは事前調査通りの豊かな平原が広がっていた。

 適当なところで、私たちはフェルノートに次ぐ規模を持つ大都市トリグラーブを作り上げた。

 この都市には、他の町とは一線を画す大きな特徴がある。

 あえてちょっと不便にしたの。

 というのも、あまり魔法に頼らず地に足を付けた生活をしたい、自らの力で開拓したいと希望した自立心溢れる逞しい人たちも一定数いたから。

 彼らに私たちの理想を押し付けるのもしのびなくて、最低限の援助だけをして自主性に任せることにした。

 この差異は、後にラナリア大陸とトレヴィス大陸それぞれの特徴になった。

 ラナリア大陸は先進的な魔法文明、トレヴィス大陸は科学技術を発展させていく。

 私の理想とはちょっと離れているけれど、それでも私はトレヴィス大陸の活気あふれる人々や街並みが大好きで。

 フェルノートに身を落ち着けてからも、ちょくちょく遊びに行ったりしていた。


 そうして、またさらに数百年ほどが流れて。

 一つの進歩と一つの異変が、ほぼ同時に起こり始めた。

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