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【英語版電子先行発売!】雇われヒロインは、悪役令嬢にざまぁされたい  作者: 西根羽南
雇われヒロインは、悪役令嬢にざまぁされたい

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登場人物が揃ってからが、イベントです

「誤解だよ。というか、誰もいないだろう?」

「騙されませんよ、ディーノ様。婚約者の私を差し置いて、こんな……こんな? ……あ、来たわ。そう! こんな平民と踊るだなんて!」


 どうにか駆け付けたニーナを見て、クラリッサが安堵の笑みを浮かべている。

 こちらは、さすがに息が切れた。

 慣れないヒールの靴にドレスで走るのは、結構つらい。


 どうやら『婚約者を差し置いて他の女と踊るつもり』というくだりらしいが、それはヒロインがいる状態で始めてほしい。

 クラリッサは本当にせっかちで詰めが甘い。

 やっぱり悪役令嬢よりもドジっ子ヒロインになるべきだと、ニーナは強く思った。


「わ、私は。そんな、つもり、では……」

 息が切れているので、台詞も細切れになる。

 だが、クラリッサはお構いなしで活き活きと悪役令嬢を演じている。

 話の流れからすると、ニーナがクラリッサを差し置いてディーノと踊るのだろう。


 だが、よく考えればダンスなんてできない。

 下手くそなダンスでも優しいディーノと、それに嫉妬するクラリッサというのもありかもしれないが、ディーノの足が瀕死になりかねない。

 ここは、変化球で攻めてみることにしよう。



「クラリッサ様が、ディーノ様と踊ってください」

「ええ? ……どうしてよ」

 クラリッサの予定と違うらしく、露骨に不満そうだ。

 ディーノと踊れるのだから問題ないはずなのだが、やはり一悶着欲しいのだろう。

 普通に勧めても納得しそうにないクラリッサのため、ニーナは大きなため息をついた。


「クラリッサ様のように優雅に淑やかに、誰もが憧れるようなダンスが出来れば良いのですが、とても私では……」

 悲しそうな雰囲気を出しつつ、伏し目がちにする。

「クラリッサ様とディーノ様の軽やかで美しいステップを見れば見るほど、自分が恥ずかしくなります。見るのがつらいです」

 ここで涙の一粒でもこぼせば完璧だが、それは高望みというものだ。

 ちらりとクラリッサを窺うと、呆気にとられたかと思えば、すぐに喜色満面に早変わりした。


「そ、そうね。あなたのような平民は、見ているだけがお似合いだわ!」

 楽しそうなクラリッサの後ろで、ディーノが仕方ないとばかりにため息をついている。

「……クラリッサ。向こうで俺と踊ろうか」

「ええ、ディーノ様」

 手を取って歩いて行く二人を見送ると、どっと疲れが出た。


「でも、これで一仕事終わりよね」

 料理は名残惜しいが、もう帰ろう。



「ニーナさん、俺と踊ってくれませんか」


 帰宅することしか考えていなかったニーナの目の前に手が差し出される。

 それを皮切りに、幾人もの男性がダンスを申し込んできた。

 ……これは、困った。

 いっそ、足に怪我でもしていることにしようかと思ったが、さっき走ってクラリッサの元に行ったのだから、無理な話だろう。


「――ニーナ。俺と踊ってくれますか」


 聞き慣れた声と共に綺麗な手が差し伸べられる。

 白銀の髪の美少年が微笑むのを見て、周囲の男性達がざわめく。

 きっと、これもニーナを助けようとしてくれているのだろう。

 ニーナは迷わずエドモンドの手を取った。




「助かったわ、エド。あれだけ囲まれると、どうしようもないわね」

 エドモンドがその美貌で黙らせてくれたおかげで、問題なく離脱できた。

 まったく、ありがたい限りである。


「さて。一仕事終えたことだし、このまま帰っても良いわよね。エドもお疲れ様」

 手を振って帰ろうとすると、エドモンドがその手を握ってきた。


「待ってください。せっかくなので、踊りませんか?」

「ええ? 私は踊れないって言ったじゃない」

「俺が合わせます」



 エドモンドに手を引かれ、会場の端まで移動する。

「ここならそれほど目立ちませんし、ディーノ達からも見えません」

「それは良いことだけど、でも、本当に踊れないわよ?」

「大丈夫です。上手に踊ってほしいわけじゃありませんから」


「んー?」

 どう意味なのか考えている間に、いつの間にか踊り始めている。

 ニーナも頑張って合わせようとはするのだが、定期的にエドモンドの足を踏んでしまう。


「ごめん、エド。もうやめよう? 怪我をするだけよ」

「大丈夫です」

 散々足を踏まれているのに、エドモンドは楽しそうに笑っている。


「……ダンスも、久しぶりです」

 ぽつりと、そう呟くのが聞こえた。

 なるほど。

 久しぶりだから、上手な御令嬢と踊るのが不安だったのか。


 確かに、ニーナが下手なせいで多少失敗しても目立たないし、気楽だろう。

『上手に踊ってほしいわけじゃない』というのは、そういうことか。

 ならば、日頃の感謝を込めて、エドモンドに付き合うのも良いかもしれない。

 下手なダンスを望まれているとわかれば、こちらとしても気楽だ。

 そうしてしばらく踊っていると、段々と周囲を見る余裕が出てきた。


「ニーナ、上手になってきましたね」

「本当?」

 何だか嬉しくなって見上げてみると、青と金の美しい瞳と目が合った。


「はい。上手ですよ」

 優しく微笑むエドモンドを至近距離でまともに見てしまい、慌てて視線を外す。

 美少年の微笑み、おそるべし。

 危うく、ときめくところだったではないか。


「ありがとう。……もう、帰るわ」

 エドモンドに挨拶をすると、目立たぬよう足早に会場を後にする。

 普段よりも鼓動が跳ねているのは、走ったからだけではない気がした。




「ただいま」

「……お帰り、ニーナ」

 疲労を感じつつ扉を開けると、アイーダが待っていてくれたのだが、その顔色が明らかに悪い。


「お母さん? 具合が悪いの? 無理しないで、横にならないと」

 慌ててアイーダの額に手を当てる。

 熱はない。

 寧ろ、冷えていると言って良かった。


「ニーナ、楽しかった?」

「もう。そんなことどうでも良いの。今、ベッドを整えるから待っていて」

「その恰好じゃ大変よ。おいで、ニーナ」

 確かに、ドレス姿ではベッドメイクひとつまとも出来そうにない。

 苛立つニーナを手招きすると、アイーダはゆっくりとドレスを脱がせ始める。


「素敵なドレスを貸してもらって良かったわね。お母さんも、ニーナの可愛らしい姿を見られて幸せだわ」

 顔色は悪いが、声はどこまでも優しくて、ニーナは危うく涙がこぼれそうになった。

 ドレスを脱ぐと下着姿のままアイーダの部屋に飛び込み、ベッドを整えて水を用意する。

 アイーダを寝かせると、浮かれていた自分が恥ずかしくなった。



 あれは、夜会じゃなくて、仕事だ。

 ダンスなんてしないで、まっすぐ帰ってくれば良かった。

 ドレスを片付けながら溢れる涙を拭うと、ニーナは深呼吸をする。


 アイーダは既に余命宣告をされていて、はじめに伝えられた()()()は、既に過ぎている。

 それでもまだ、実感は湧いていなかった。


 だが、それは契約のおかげで苦痛を取り除いてもらっているからだ。

 決して病気が治ったわけではないし、契約をこなしても余命が延びることはないのだろう。

 それでも、ニーナにできるのはこれしかない。



 優先順位を間違えてはいけない。

 まずは、アイーダ。


 そのためにも、ニーナはざまぁされなければいけないのだ。

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「余命わずかの引退聖女は冷酷公爵との厄介払い婚を謳歌したい!」

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英語版「雇われヒロイン」「The Hired Heroine Wants the Villainess to Gloat」紹介ページ

「The Hired Heroine Wants the Villainess to Gloat」

Cross Infinite World Hanami Nishine Rin Hagiwara

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