087:ギルド職員の平穏な日々
管理迷宮、
現在確認されている階層は40階、深層へ行くほど魔物も強くなる
30Fで出る魔物の強さは、
レベル40、HP200、冒険者ランクではBに相当する
そして、階が深まるごとに敵は強くなり
40Fで出る魔物の強さは
レベル50、HP300、冒険者ランクではAとなる
冒険者ギルドでは、ランクを一言で表す説明がある
S:化け物
A:人間じゃないかも?
B:人間離れしてる人
C:ベテラン冒険者
Cランクになれば十分生活ができ、その後の人生の蓄えも出来るのだ
生きるためにこの道に入った普通の冒険者はここで満足する
30Fまで来れるBランク、そして40Fまで来れるA、そしてその先のS
説明はその者達の精神をあらわしているのだと言う
強くなる事に喜びを感じるもの
殺す事に喜びを感じるもの
名声を求めるもの
このような冒険者達が深層で出会うとどうなるのか?
どれほど強くなったか同じ人間で試したい
魔物だけではなく人間も殺してみたい
ライバルは排除したい
ここならば、全員殺せば問題ない
どのような良い装備を持っているのだろうか?
どのような悲鳴を聞かせてくれるのだろうか?
その青い瞳の先には魔物との戦闘をしている冒険者PT
魔物との戦闘が終わったらその後にすぐ奇襲しよう
終ったようだ、膝をつき肩で息をする冒険者達
声をかけ振り向いたところを、後ろから斬りつける
戸惑う視線、怒りに燃える視線、絶望する視線
ははは、魔力切れなのか、いい顔だ、死ね
ああ、気持ちがいい、、目を閉じる
ずっとここにいたい、なぜかここは心地がいい
ああ、再び開いたその目は、、赤く真紅に輝き、、
管理迷宮38F:
深層、一瞬の油断が命取りになる場所だ
気配を消し、音を立てず、いかに敵より先に相手を察知出来るか
しん、と静まり返った闇の中、血生臭い風が流れている
………!
風に乗って声がする
仲間の死を嘆く声か、、
来ない助けを求める声か、、
獲物を誘い求める魔物の声か、、
「バカギルド長にボケギルド長、いつまでここに居ればいいんですか?」
「私はバカのほうですかね?、取りあえず40Fまで向かいます」
「わしボケてないんじゃが、これってお主のとばっちり?」
「私も帰りたいんですけど~、司祭の代わりについてこいとか、私が一番とばっちりですよね?」
緊張感の無い男女4人、どこからか迷い込んだのだろうか?
ひとりは動きやすい軽鎧を身にまとい手にはクロスボウ、腰に細剣
ひとりは重そうな鎧を身にまとい大剣を片手で肩に担ぎ、腰に剣
ひとりはメイド服を身にまとい手にはガントレット、足に脚絆
ひとりはローブを身にまとい手には回復の杖、腰には魔法の鞄
「それに、なんで私だけメイド服なんですか?、殺しますよ役立たずギルド長」
「メイドのように勤勉に働いて欲しいからです、それに男性職員からの希望です」
白と黒を基調にしたそのメイド服、お似合いですよと軽鎧の男
「セクハラとパワハラってやつですよね?、訴えますよ?」
「どこにです?、ここに最高責任者が揃ってるんですが」
「ウィルはもう少し女性に優しく接しないといかんぞ?」
「相手によります」
「私が居ないとリンちゃんとクロちゃんが悲しみます!」
「最近来てないじゃないですか?」
「ま、まさか!、汚職では飽き足らずリンちゃんにまで悪の手を伸ばしているのかこの下種ギルド長め!」
キンッ!
ガントレットが黒く塗られた投げナイフを弾く
その射線の逆をボルトが飛んでいきその直後に続く白黒の風
手足に装備した真紅のそれが美しい紅の残像を残す
正面から迫る炎の奔流に
「ぬん!」
大剣を振るう老人、その剣線を先頭に炎が切裂かれる
正確に投げた手元へと戻ってくるボルトを忍刀が弾き
追随する白黒の場違いな女に手裏剣を、、キンッ!
ボルトを弾いた忍刀が音を立てて折れる、その後を紅の塊が、、ゴッ!
ボルトの鈍い動きを追い敵に迫る、遅い遅い遅い!
忍者が刀を抜き迎撃体勢に入る、あー、面倒臭い!
ボルトごと忍者を撃ち抜く、キンッと刀をへし折り
紅のガントレットが忍者の頭を吹き飛ばす
「ぬぅん!!!」
気合と共に大剣を横なぎに払う、凄まじい大きさの衝撃波が発生する
剣技のスラッシュ、普通は剣で行うものを大剣で実行しうる技量とは
スラッシュのみで全てを片付ける男、その名も剣を極めし者!
それだけではない、よく見ればその衝撃波の後ろを追う数十のボルト
連射出来ない事が弱点のボルトをどうやってこのような数放ったのか
周りの戦況に合わせ多様な攻撃を行う男、下種ギルド長!
大盾を持った戦士が防御体勢を整える、盾スキル絶対防御!
その盾の性能と技量に応じたダメージを吸収するスキルだ!
迫る衝撃波!
守る戦士、、トンッ!、と背中に何かが当たる
いつの間に現れたのか、紅のガントレットをしたメイド
背中に当たっているのは、紅の拳、、
ズンッと何かを踏みしめる音と共にバッと広がる黒いスカート
凄まじい踏み込みと急激な腰の回転、その全ての運動量が拳へと伝わる
背中には拳の跡が少し残るのみ、不発だったのか?
違う!!!
構えた盾の内側にこびり付いているのは、戦士の内臓!
その腹は、分厚い鎧ごとポッカリと穴が開いているのだ!!!
崩れ落ちる戦士、紅の軌跡を残し消えるメイド!
ゴォォ!
衝撃波とボルトの雨が降り注ぐ、防ぐものなど何も無い
ただ、衝撃波とボルトの中を紅の軌跡がすり抜けるだけだ
激しい嵐の跡に佇む者は白と黒を纏う紅の影!
「あんな戦い方してると命が幾つあっても足りんぞい?」
「ギル、貴方がいわないでくださいよ」
「いやいや、ほんとにお前さん気に掛けているんだったら、もう少し別の方向で守ってやる事を考えたほうがいいぞ?」
「私には無理ですよ、わかっているでしょう?」
私は自分のギルドを守る事で手一杯の愚かな策士ですからね
「女ひとり守れんようでは一人前といえんぞ」
「貴方も独り身じゃないですか!」
「うほ!、これは一本とられたわい!」
「あの~、今ので目的果たしましたよね?、もう帰りましょうよ!」
真の被害者、市民街ギルドの受付嬢サラが泣きながら訴える
「残念ながら違ったようです」
何が違うのか?
冒険者ギルドの長が2人、そして実力のある職員2人
おそらく冒険者を除外すればこの都市にいるギルドの最高戦力
何を捜し求めているのか、ギルドの仕事よりも重要な案件なのか
「ジジイギルド長のお気に入りのフジワラという冒険者を連れてくればいいじゃないですか、私はリンちゃんと一緒に居たいです」
「えー、なんかフジワラちゃんわしと似てるから気に入っているけど苦手なんじゃ」
「なんですか、それは」
「そのうち殺し合いを始めちゃいそうでなあ、なんだろうなあ、絡まれやすい体質なんじゃないかな、人を鼓舞すると言うか狂気に走らせると言うか、おそらくあれ持ってるじゃろ?」
スキル強奪
「ええ、おそらく、確認できているだけでもスキルの数も増え方も異常ですからね」
「フジワラちゃんもおかしくなっちゃうのかのお、悪いやつじゃなないと思うんじゃが」
スキル強奪保持者は災厄の種
奢り高ぶり暴走するもの
国家に兵器として使用されるもの
自らを神と僭称するもの
冒険者ギルドでは、
スキル強奪の所持を確認されたものは監察対象となり
必要とあらば処分される、存在自体が紛争を呼ぶのだ
兵器としてみた場合魅力的なのだろうが
個の戦力としてはたいしたことはない
彼等は簡単にスキルを覚えてしまうのだから
結局はろくに使いこなせないのだ
殺すには、
毒を盛ればいいし、街中で背中から刺せばいい
ハーレムを作るんだ、とか言い出すバカも多いので
奴隷の偽装をした女をあてがえば次に日には裸で死んでいる
その様なやつのために国と争うくらいなら殺す、簡単な事だ
「お嬢ちゃんは、」
「リンちゃんに手を出したら殺しますよ?」
思わず身構えるほどの、狂気に満ちた殺気が放たれる
「ウィルよ、勘弁してくれい!」
「なんで私に振るんですか、彼女自身に言ってくださいよ?」
「だって、こわいんじゃもん!」
「じゃもんってなんですか、かわいこぶっても気持ち悪いだけですよ?」
「無駄話してるんなら、帰りましょうよ~?」
真の被害者、サラの提案は黙殺されるのであった




