010:クロがみてる
王都ローラン、市民街
本来の王都は、王城と貴族街、そしてそれを囲むように存在する城壁までだ
市民街というものは正式には存在しない
魔物の襲来により住む場所をなくしたもの、戦争から避難してきたもの
都会で一旗上げようと上京したもの、そしてそれらを目的とした商人達
いつの間にか、城壁内の街よりも大きな街が出来た
貴族達は城壁内を王都ローランと呼び、外を貧民街と呼ぶ
貧民街と呼ばれる場所に住むものや商人は、全てを含めて王都ローランと呼び
自分達の住むこの場所を、市民街と呼ぶ
事実上存在しているが、形式上存在しないこの街には街の治安を維持する衛兵がいない
冒険者ギルドや行商人が拠点としている商店街などは比較的治安がいい
しかし、街に入るための検問が存在しないこの市民街には
盗賊や人殺しを生業とするもの、人身売買を商売とするものなどもいる
ここは、そういう闇に属する者達が住む区画、、
既に夜も深くなり人通りもなく、灯りといえば深夜まで営業している酒場か宿屋
当然、前に安いと汚いと言う文字がつく、つまり場末ということだ
この区画に花を売るものたちなどはいない、ここでは花など買うものではなく
刈り取るものだからだ、摘まれた花がどうなるかは運しだい
そして、その通りをなぜか茶色いローブをきた子供がひとり、とことこと歩いている
幸いと言うべきなのか、人通りも無いため、この奇妙な子供を見咎めるものはいない
きょろきょろと周りを見回しながら歩いていた子供は、どうやら宿を探していたようだ
汚いながらも比較的まともな宿屋を見つけ、入っていく
「あのー、」
受付で声がする、こんな時間に客か?、しかも子供の声じゃないか
「いらっしゃい」
ローブなど被っているが、背の高さも声もどう見ても餓鬼だ、いやこの声は
「泊まりたいんですけど、空いてますか?」
なんだ、何も知らないのか?
「取り合えず泊まりたいなら、顔を見せなそんな格好じゃ泊められない」
「あ、はい、ごめんなさい」
フードを取る、これはこれは、珍しい黒髪黒目、少女の幼さが残るが可憐な花だ
「あの、泊まれますか?」
貴族のお嬢様のお忍びとかか?、それにしても供も無しとは
「ああ、一泊金貨5枚だ」
金貨1枚で10日泊まれるがな、ローブの下でごそごそと何かを取り出している
「えっと、これでいいですか?」
鴨が葱を背負ってやって来たというやつか
「ああ、たしかに、部屋はそこの通路の奥104と書かれたところだ」
「はい、ありがとうございます」
少女が、とことこと通路を歩いていく
「おい、夕食の時間はとっくに過ぎているが、軽食位なら用意できるがいるか?」
少女が振り返る
「あ、お願いできますか?」
「わかった、少ししたらもって行く」
ありがとうございますと言い少女が部屋に消える
久しぶりの獲物だが、凄い上物がかかったな、念のため奴等に連絡をとるか
「ふぅ」
緊張したな、なんか怖いんだもん
部屋は、お世辞にも綺麗といえない、椅子と小さな机と汚い水の張ってある桶
藁にシーツを被せたベッドに毛布が一枚、鍵は一応掛かるみたい
お城のベッドとは大違いだな、けどくたくただし寝れればいいや
(リン、もういいか?)
と言いつつクロが顔を出す、聞く意味無いじゃんかー
「いいけど、食事持ってくるみたいだからそのときは隠れてね」
「うむ!」
ベッドに座る、藁とかって虫とか湧いたりしないのかな?
いや、それ以前に虫っているのかなここ、あ、蝶とか見たっけ
畳のにおいがする、あれ?、畳って藁なの?
取りとめもないことを考えながら、ローブの胸元から頭だけ出しているクロを撫でる
コンコン、食事が来たみたい
パンとシチューと水、質素な感じの食事です
「クロ、みてみて」
ローブから飛び出し藁のベッドに着地したクロに言う
「もしかして、またか?」
まあそうだね、怪しさ満点だもんね
「本日二度目の睡眠薬入りの食事が出ました、じゃーん!」
「燃やすか?」
「多分火事になるとこの辺一帯が焼失するんじゃない?」
このあたりは燃えやすそうな家ばかりだ
アイテムボックスから安全な食事を取り出して、食べる、食料も心ともない
睡眠薬入りの食事はアイテムボックスにしまう
「ねえ、クロ、ここの世界のお金の価値ってわかる?」
「しらん」
だよねー
「金貨5枚って、妥当な値段だったのかなあ」
「そういえばリン、よくお金持っていたな?」
「うん、騎士達から没収したんだ」
「ん、宝物庫には無かったのか?」
「そりゃーないよ、あそこは宝物があるだけでお金は普通に管理してるでしょ」
「それもそうか」
お金稼がないといけないのか、やだなー
「働きたくないでござる」
「戦闘がしたいでござる」
などと、バカなことを言いつつ、じゃれあいながら眠りにつく
藁は畳の上で寝てるみたいで意外に落ち着く、悪くないかも
「本当に獲物が掛かったのか?」
と、運搬役のひとりが聞く、鍵開けと戦闘担当の盗賊だ
貴族の娘が掛かったと連絡したので、魔法使いも同行している、保険だ
「ああ、極上の獲物だ、俺では幾らになるかの見当もつかん」
「ほお、お前でも見当がつかないとか相当だな」
「髪と目が黒という特徴があるから、売るなら裏でしか無理だろうがな」
「黒というと、王族の可能性もあるのか」
「身代金とかになると上に報告しないとならなくなるから、それは面倒だな」
「勇者なのではないか?」
今まで黙って聞いていた魔法使いが聞いてくる
「勇者?」
「王族に黒髪がいるのは勇者が建国した国がおおい、黒以外の勇者も居るが」
「そういえば、この前勇者が召喚されたな」
「まさか勇者なのか?、しかも女となると貴族どころじゃないな」
「ああ、貴族自体が幾ら出しても欲しがるだろうな」
「報告したほうがよくないか?」
「馬鹿野郎、報告したら上が持ってっちまうだろうが」
「そうだな、せっかくのチャンスだ」
「売るならば、貴族にも伝のある奴隷商を知っている」と、魔法使い
「おう」
「ああ」
「うむ」
「やろう」
カチャ、
小さな金属音の後に、音も無く扉が開く
「スリープ!」
開いた扉のむこうから、睡眠の魔法スリープが発動する
範囲は部屋全体、もし起きている者がいたならばこれで眠りに落ちる
ギッ!
床が鳴る音と共にを男が3人部屋に入ってくる
「どうだ?」
盗賊風の男がベッドを覗き込む、そこには藁のベッドの上で毛布にくるまり
顔だけを出した少女が一人、気持ちよさそうな顔をして寝息を立てている
「確かにとんでもねえ上玉だな、肌も綺麗だ大事に育てられたんだろうな」
男が嗤う、綺麗なものが汚されるのを想像した黒い笑いだ
「魔法を使いそうだな、やはり封魔の処理だけはしておくか、頼む」
保険だったが、来て貰ってよかった封魔は魔法使いの得意技だ
封魔の首輪を持っている魔法使いの返事が無い
「おい」
と、魔法使いに振り返る
綺麗な翡翠色の光がふたつ、宙に浮いている
あの色はエメラルドという宝石だったか、そういえばあそこは机がある場所だったな
この少女、宝石まで持っていたのか、いったい今夜はどれだけついているんだろう
「少しくらい味見してもいいよな」
盗賊が少女を触ろうと手を伸ばす、傷物にするな、高く売れないだろう
「おい、やめろ」
「我が主に気安く触るな、下郎共が、、」
宝石が喋る、え?
盗賊が少女に障ろうと伸ばした手が落ちる、
「・・・」盗賊が無くなった手を押さえ何か叫んでいる、が聞こえない
そういえば、魔法使いは?、宝石の下に何かがふたつ転がっている、あれ?
声が出ない、違うこれはサイレス、静寂の魔法か
床にことんと何かが落ちる振動だけが伝わってくる
振り返ると手を押さえた胴体が倒れるところだった、首は?
そして、景色が傾く、あれ?
夜の静けさの中、錆びた鉄の臭いだけが漂う
ぴょん、とことことこ、ごそごそ
クロが、毛布の中に潜り込む、ぐりぐりぐり、リンの手に頭を押し付ける
「おやすみ」
リンの手の中で、丸まり眠りにつく
クロを起さないように糸を使い、死体をアイテムボックスにしまう
血のにおいがちょっときついけど、まあ、そこは我慢しようか
糸を掛けておいたので鍵が外されたら気づく、睡眠ももちろんレジストした
けど、クロが対応するのがわかったので、見ていた
わがあるじだって、ふふ、格好つけちゃって
照れちゃうじゃないか、まったくもう
おやすみ、、、、クロ
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名前:楠木 凛 種族:人族 性別:女 年齢:16
レベル:1
HP:20/20 MP:100/100
STR:5 VIT:5 DEX:5 MND:5 INT:100
スキル:(特殊)言語翻訳、アイテムボックス、鑑定
(魔法)召喚魔法(式神)、水魔法1、光魔法1
装備:学生服
茶色のローブ
金貨:20
使い魔:クロ
スキル:火魔法1、風魔法1
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