第24話 強面騎士は完璧令嬢の思いを知る
部屋に一人残された俺は考えていた。
今の俺には彼女を助けに行く資格はない。
彼女のことを振ってしまったのに、どんな顔をして会えばいいのだろうか。
「こんな情けない姿を見せたら、あっさり諦められるだろうな」
思わずそんな言葉が口から出る。
彼女が好きになってくれたのは、ピンチから救ってくれるヒーローのような存在だ。
現状とは真逆である。
「それはないと思いますよ」
「うおっ⁉」
いきなり背後から声をかけられ、驚いてしまった。
振り向くとメイドさんがいた。
「イザベラ嬢のところに行ったのでは?」
「そちらは相方に任せています。非戦闘員の私がいても意味が無いですから」
「まあ、そうですね」
誘拐犯からイザベラ嬢を救うのに、メイドの彼女が役に立つことはないだろう。
だが、残った彼女がどうしてここにいるのだろうか?
「先程の話ですが、お嬢様がウルス様を諦めるようなことはないと思いますよ」
「どうしてですか?」
イザベラ嬢が諦めない理由がわからない。
正直、今の俺は女性にとって魅力的ではないと思うが──
「たしかにお嬢様がウルス様に好意を抱いたきっかけは助けていただいたことですが、魅力を感じたのはそれだけじゃないんです」
「俺に魅力があるとは思えないんだけど」
一体、俺の何に魅力を感じたのだろうか?
自分でも気づかない何かがあるのだろうか?
「自分の駄目な部分を認めているところですね」
「はい?」
予想外の答えに呆けた声を漏らす。
何を言っているのだろうか?
疑問に思う俺を見て、彼女は話を続ける。
「お嬢様は昔から周囲に期待され、完璧であることを求められてきました。それがお嬢様の心を徐々に蝕んでいきました」
「まあ、彼女の立場なら仕方がないですよね」
彼女が優秀であることも原因の一端だろう。
優秀であるが故に期待に答えてしまい、さらなる期待がのしかかるのだ。
その結果、負担が増していくわけだ。
「お嬢様は完璧にこなしてきましたが、それがあの馬鹿な婚約者にとって嫌だったのでしょう」
「彼女が完璧であるが故に、自分の駄目さが際立つからな」
あの令息の気持ちもわからないではない。
イザベラ嬢が優秀であるため、比較されて馬鹿にされるのはつらいだろう。
だからといって、あの行動は肯定できないが──
「ですが、婚約破棄されたことで今までの完璧主義が間違っていることに気がついたようです」
「別に間違ってはないんじゃないのか?」
完璧であることは悪いことではない。
だが、今はそういうことではないのだろう。
「ウルス様の素性を調べていると、様々な情報が手に入ります。その中には恥ずかしい失敗などもあります」
「・・・・・・何の話かわからないですが、外には漏らさないでくださいよ」
どんな情報を手に入れたのだろうか。
知られたのは仕方がないので、外に出回らないようにしてもらいたい。
「ですが、ウルス様はその失敗を糧にして、今の副団長の地位についています。たとえ失敗したとしても、努力で取り返すことができることを学びました」
「そう思ってくれたのなら良かったです」
彼女の言うとおり、俺の人生は成功だけではない。
失敗の連続もあった。
だが、その失敗から学ぶことで今の俺の立場があるのだ。
「ちなみに自分の強面に悩むウルス様に対して庇護欲を抱いたそうです」
「・・・・・・聞かなかったことにする」
どうして年下の令嬢にそんな思いを抱かれないといけないのだろうか。
なんとも言えない気持ちになってしまう。
だが、彼女が俺のことを思っていることは揺るぎのない事実だとわかった。
これだけ思われているのに、助けようとしないのは男が廃る。
「イザベラ嬢の場所に連れてもらえますか?」
「もちろんです」
俺がやる気を出したことでメイドさんは笑みを浮かべた。
部屋を出た彼女の後を俺はついていく。
完璧な人より少し抜けた人の方が親しみが湧く気がします。
まあ、人それぞれだと思いますが・・・・・・
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