第22話 強面騎士は殴られる
(バキッ)
左頬に鈍い衝撃が加わる。
痛みに顔を顰めてしまう。
「貴様っ! お嬢様を拐かされるとは何をしていたんだっ!」
女性騎士が怒りの表情で叫ぶ。
先程殴ったのも彼女である。
だが、彼女にはその権利がある。
俺の不注意で彼女の主人──イザベラ嬢を誘拐されてしまった。
「すまない」
「貴様が謝るだけで済むものかっ!」
謝罪をするが、当然受け入れて貰えない。
当然だろう。
俺が謝罪をしたからといって、イザベラ嬢が戻ってくるわけじゃない。
だが、今の俺には謝罪することしかできなかった。
「おそらく、狙われていたんだろうな」
団長が落ち着いた様子で話している。
年の功か、積んできた修羅場の経験か、団長は平常心だった。
「狙われていた、とは?」
「お前とイザベラ嬢が狙われていた、ということだ」
「どういうことですか?」
状況が理解できず、質問をする。
どうして俺とイザベラ嬢が狙われることになるのだろうか?
「手紙には『女は預かった』と書かれているのだろう。もちろん、祭りに参加している女性は大勢いるが、こんな手紙を書いて誘拐を知らせるのは最初から計画されていたことだろう」
「イザベラ嬢を誘拐する計画ということですか?」
「ついでに言うと、お前の評判を下げることも計画だろうな」
「なぜ?」
団長の説明を聞いても理由がわからなかった。
イザベラ嬢を誘拐するのはまだ理解できる。
彼女は侯爵令嬢であり、身代金は高額になるはずだ。
政敵が侯爵家の評判を下げるために誘拐した可能性も考えられる。
だが、俺の評判を下げる意味が分からない。
「二人を狙う理由がある奴がいるだろう」
「え?」
団長の説明を聞いてもまだわからない。
イザベラ嬢だけならまだしも、俺を狙う理由を持つ奴なんて──
「あの馬鹿令息のことだよ」
「あっ⁉」
女性騎士の言葉でようやく思い至った。
たしかにあの男はイザベラ嬢だけでなく、俺にも恨みがあるはずだ。
だが、おかしなことに気づく。
「ですが、あの男は謹慎中なのでは?」
俺の知っている情報ではあの男は自宅で謹慎しているはずだ。
あの婚約破棄騒動を引き起こしたことを重く考えた公爵が反省させるために謹慎させたと聞いた。
たかだか半月程度で解消されることではないと思う。
「別に牢屋に閉じ込めているわけじゃないから、抜け出すぐらい簡単だろう」
「そうかもしれませんが、普通は抜け出さないでしょう」
「普通の奴が婚約破棄なんて馬鹿な真似をするか?」
「・・・・・・」
反論できなかった。
元々、公衆の面前で婚約破棄をするような恥知らずである。
謹慎されても、自由を求めて抜け出すのも考えられる。
「しかし、問題はどこに誘拐されたかだな。手紙には何も手がかりがない」
「そうですね」
手紙には誘拐した事実しか書かれていない。
犯人が誘拐した場所を書くはずがないので、当然の話である。
なので、どうにかしてその場所を探り当てないといけない。
一体、どうしたらいいのやら──
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