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第12話 強面騎士は婚約の提案を断る


「お断りします」

「「「っ⁉」」」


 俺の一言に一瞬で空気が冷え切った。

 信じられないといった視線を向けられる。

 だが、一人だけ平静を装っている者がいた。


「理由を聞かせてもらってもいいですか?」


 イザベラ嬢は笑顔で質問してくる。

 だが、全身を少し震わせていた。

 まあ、俺みたいな男にあっさり断られたのだから、怒っても仕方がない。


「一言で説明すると、釣り合っていない、ですかね?」

「貴様、お嬢様を愚弄するかっ!」


 突然、女性騎士が怒り出す。

 今にも剣を抜き、斬りかかってきそうだった。


「落ち着きなさい」

「で、ですが・・・・・・」


 イザベラ嬢の命令に女性騎士はその場に留まる。

 だが、まだどこか不満そうであった。


「彼は別にお嬢様を愚弄したわけではないですよ」

「何?」


 メイドの言葉に女性騎士は怪訝そうな表情になる。

 自分とは真逆の考えに理解できなかったのだろう。

 さらにメイドは話を進める。


「おそらく、自分の方が身分が下であり、侯爵令嬢であるイザベラ様と釣り合っていないからお断りをしたのでしょう。そうですよね?」

「その通りです」


 問いかけられ、俺は頷いた。

 しっかりと俺の意図を汲んでくれている。

 まだ何も説明していないのに、素晴らしい洞察力である。


「ほう。身の程をわきまえているな」


 ようやく納得できたのか、女性騎士は頷いていた。

 まあ、納得してくれたのならありがたい。

 イザベラ嬢の提案をあっさり断ったことについては無礼であることには変わりない。

 そこは触れないようだ。


「身分ならば気にしなくても大丈夫ですよ」

「貴女が気にしなくても、周囲が気にしますよ。俺は田舎貴族の三男坊です。侯爵令嬢と結婚できるほどの身分じゃありません」


 俺からすれば、彼女は雲の上のような存在である。

 そんな相手と運良く結ばれたとしても、周囲は快く思わないだろう。

 俺が馬鹿にされるのならまだ良い。

 彼女が評価を落とすのは申し訳ない気持ちになる。


「あなたの場合、そもそも身分などさほど問題ではないですよ」

「どういう意味ですか?」

「20歳で第二騎士団副団長という肩書きを持ち、次期団長にもっとも近いんですよね。それだけで立派だと思いますよ」


 たしかに騎士団の副団長という肩書きは立派だろう。

 認めてくれる可能性もあるはずだ。


「荒くれ者の第二騎士団所属ですよ。その時点で周囲からの評判はあまり良くありません」

「荒くれ者なんですか? パーティーでの対応はとてもそうは見えませんでしたが・・・・・・」

「流石にあのような場では素は出しませんよ。他の人を怖がらせてしまいますからね」

「怖がっている方もいた気がしますね」

「それはおそらく俺の顔のせいですね」


 イザベラ嬢の指摘に的確に反応する。

 いくら丁寧な対応しても、顔の怖さは変えられない。

 怖がっていたのなら、強面のせいである。


「ぶふっ」


 突如、吹き出すような音が聞こえた。

 メイドの女性が顔を背け、口を押さえていた。

 まるで笑いをこらえているようだった。

 クールな雰囲気の女性だと思っていたが、意外な反応である。

 周囲の視線に気づき、何食わぬ顔で通常の状態に戻った。


「とりあえず、第二騎士団副団長という立場はメリットにはなりません。第一や第三、近衛騎士団所属なら良いでしょうが」

「どういうことですか?」


 イザベラ嬢が食いつく。

 どうやら騎士団事情にはあまり詳しくないようだ。

 まあ、普通の令嬢なら知らなくて当然だろう。


「先程言った騎士団は貴族令息によって構成されています。首都だけでなく、城内も見回りをすることもあるので平民出身では難しいんです」

「第二は違うのですか?」

「ウチは良くも悪くも実力主義なんです。このおっさんが気に入った人を入れるので、他の団からはじかれた者達が入ってきます」

「優しい方なんですね」


 俺の説明を聞き、なぜかイザベラ嬢はそんな感想を漏らす。

 どうやら勘違いしているようだ。


「このおっさんが優しいだけであぶれ者を引き入れると思いますか?」

「違うんですか?」


 彼女は首を傾げる。

 やはり貴族令嬢にはこの男の真意は理解できないのだろう。







作者のやる気につながるので、読んでくださった方は是非とも評価やブックマークをお願いします。

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