真南風 ⑦
大島から離れ島へは、3年という任期で役人が送られてくる。
その間、妻や子を連れていく事は許されず、役人は離れ島で身の回りの世話をさせる娘を持つのが習わしであった。
その役人のうち、アタラの住む集落を任された下級役人が集落で一番大きな家で酒を飲み、月の光を頼りに家へと戻っていた。
すると、だいぶ先に浜へと向かう影を見つけた。
マハエである。
いつもなら人に見られるような間違いはしないが、このときマハエは体も弱り、こんな夜遅くに人がいるなど考えてもみなかった。
役人のほうは、相手が女だと気がつくと、どんなものだか見てみようと、気に入れば新しい賄い婦にしてやっても良いと後をつけた。
女が浜について波打ち際へと歩いていく。
白い砂浜が広がり、光をさえぎる木々がなくなったことで、役人は女の顔をはっきりと見てとれた。
お世辞にも美しいとはいえない、みすぼらしい見た目の女である。
役人はがっかりして、それでも女は何をしに浜へやって来たのかと隠れて見続けていた。
と、女が海へ入った。
死ぬつもりか、と役人はぼんやりそれを見ている。助ける気など毛頭なかった。
死にたければ勝手に死ねばいい。
すると女は膝の途中まで波に浸かりながら腰をかがめて何かを拾った。
そしてそれを口に放る。
遠目に何かわからないが、何かを食べているようだ。
その様子がおぞましく、何か良くないものを見たような気持ちになって、役人はもうこのまま帰ろうかと考える。
あれは魔が物かもしれん。
ならば、明日にでも集落の者に言って捕まえさせ、自分の手柄にしてやろう。
そのためにはどこの家のものか確かめねばならん、と役人はまだしばらく身を隠すことにした。
女はそのうち、ざぶんと海の中に身を躍らせた。
このままいなくなるのか、と思ったが、じっと待っていると誰かが海から浜へと戻ってくる。
海から身を起こしたその姿が月の光に照らし出された。
役人は、先ほどの魔が物とは違う、と呆然とした。
それは、考えられないほど美しい女だった。
役人がこれまで見たこともないほど、都の遊び女どころか、誰ぞの娘や婦人、王に仕える巫女でさえ敵わぬほどに美しい。
それは人であればけして望めない美しさであった。
役人はぼんやりと女を見つめている。
すると、女の姿が見る間に変わった。
それは先ほど海へ潜ったみすぼらしい女の姿であった。
どういうことだ、と驚きながらも役人は女の後を追う。
普段はあの惨めな様子の女として、集落で他のものを騙して暮らしているのか。
女は集落の細い道をたどり、はずれの小さな家の戸を叩いた。
中から男が出てきて女を迎え入れる。
そして戸が閉められた。
役人は我が身の幸運に舌舐めずりをした。
あの女を捕まえて本性を暴き、我がものとすることができれば。
役人としての華々しい栄達。
もう下級の役人仕事などせずとも、いい職について楽ができる。
あの美しい女も、飽きるまでは手元に置いておけばいい。
明日は魔物退治だ、と役人は1人闇の中で笑った。




