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五十話 恋情の作用

 私の家で、三人の門下生達と鍛錬に励んでいた時の事だ。


 私は回転しながら矢のように飛び、庭の木へ手刀を突き入れた。

 木は私の手刀を受け、砕けた。


「凄い! なんて破壊力だ!」

「何それ、凄い技じゃない!」


 アルディリアとアードラーが興奮した様子で声を上げる。


「いい? ルクス。こうして両手を合わせて、相手に向けて回転しながら矢の如く飛んでいくんだ。やってみて」

「できるかっ!」

「いや、体格が私よりも大きいルクスなら、片手より両手を合わせた方が破壊力も乗っていいんだよ」


 私はごついと言ってもやっぱり女の子。

 ルクスの方が私よりも全体的に大きいのだ。


「そこじゃねーっ! 手で木を砕き割る事なんか普通はできないんだよっ!」

「いやいや、ルクスならできる」

「できねーって! そもそもお前みたいに飛べねーよ! どうやってんだよそれ!」

「飛ぶぐらい、ルクスにだってできるでしょ?」

「さも当然のように首を傾げるな! 何でお前の中の俺はそんな評価が高いんだよ!」


 ゲームでは飛んでたじゃないか。


 ちなみに、私はさっきの技の際に指先を魔力でコーティングしていた。

 飛んでいたのは、魔力の足場を作って思い切り蹴って推進力にしただけだ。

 原理が分かれば簡単である。


「でも、強くなりたいんでしょ? やっぱり、切り札みたいな技を持ってた方が有利だと思うんだけど?」

「そ、れは……そうかもしれねぇけどなぁ」

「じゃあ、私がやってみるわ。教えてちょうだい」

「僕もやってみたい」


 アルディリアとアードラーが名乗りを上げる。


「わかった。じゃあ、教えよう。で、ルクスはいいの?」

「……一応やるよ」


 三人に技の使い方を教えて、私はその鍛錬を監督した。

 アルディリアとルクスは結局使えなかったのだが、アードラーは難なく覚えてしまった。

 アードラーに新しい突進技ができてしまった。




「ちょっと考えてみたんだけどさ」


 アルディリアとアードラーが組み手をする様子を見ながら、私は隣にいるルクスへ声をかけた。


「何を?」

「イノス先輩に振り向いてもらう方法」

「お、おう。それで?」


 問い返すルクス。

 平静を装っているけど、とても興味を持っているのが手に取るようにわかる。


「多分、考え方としてルクスのやってた事は間違っていないんじゃないかと思うよ」

「どの事を言っているんだ?」

「私を倒して悩みを解消するって事だよ。結局の所、人が喜ぶのはしてほしい事をしてもらう事だからね」

「つまり、やっぱりお前を倒すのがいいと?」


 やめて、鬱陶しいから。


「まぁ、それも間違ってはいないんだけど。イノス先輩のしてほしい事なんて他にもあるでしょうよ」

「例えば?」

「どっちかっていうとルクスの方が詳しいんじゃない?」

「あいつがしてほしい事、か……」


 ルクスは思案し始める。


「今は思い浮かばねぇな。ちょっと探ってみる」

「じゃあ、具体的な行動はそれからって事になるか。……でもやっぱり、こっちを見てもらうなら告白するのが一番手っ取り早いと思うんだけどね」

「今告白しても、どうせ断られる」


 ん?


 私はアルディリアとアードラーから目を離して、ルクスを見た。

 眉根を寄せて、難しい顔をしている。


「結果がわかってるのに、そんな事できねぇよ」

「どうしてそう思うの?」

「あいつは俺を恨んでいるからさ。何せ、あいつの体がああなっちまったのも、夢を壊しちまったのも、俺なんだからな!」


 彼の表情には痛ましさがあった。

 内にある苦悩に苛まれる、そんな痛みの表情だ。


 ああ、そうなんだ。

 ルクスは、あれを自分のせいだと思っているのか……。


「じゃあ何でこんな事をしているのか? 

 わかってんだよ、無駄な事してるのは……。

 馬鹿な事してると思ってるんだろ?

 でも、理屈じゃないんだ。

 人を好きになるっていうのは、そういうもんじゃないだろう?

 駄目だと思ってても、好きだって気持ちはすぐに消せるもんじゃないだろう?」


 ルクスの言葉に、私はカナリオを思い出した。


 彼女もまた、いけない事だと知りながらそれでも気持ちをおし留める事ができないようだった。

 人を好きになる事って、そういう事なのかな?


 私にはわからないや。


「だから、俺は今も……」


 ルクスはうな垂れる。


「私は恋愛なんてした事がない。だから、ルクスの言う事に共感をもてない。でも、馬鹿だとは思わないよ。みんな、愛情が絡むとおかしくなってしまう事を知っているからね」


 カナリオも、アードラーも、マリノーも、人を好きになった人はみんな自分の気持ちを制御できなくなっていた。

 その様子を見てきたから、私は主観的ではなく、客観的に彼の言葉を理解できた。


「それに、あれはルクスのせいじゃないと思うよ」


 私が言うと、ルクスは顔を上げた。

 信じられない物を見たように、私の顔を見上げる。


「知っているのか? おまえ。どうして?」

「私にも情報網はあるからね」


 本当は前世のゲーム知識ですけど。


「なんだと? 聞いてないぞ! 国衛院の調査でも、そんな物は確認されていないはずだ」


 おっと、やぶへびだった。


「お前、本当は俺が思っている以上に危険人物なんじゃないのか?」

「そんな事ないよ。私は無害だよ。無外流だよ」

「ムガイ流? なんじゃそりゃ?」


 手足を主に狙う剣法の流派だよ。


 なんとも疑わしそうな目で見られる。


「まぁ、信じてもらうしかないけどね」


 私は苦笑する。

 そんな私を見て、ルクスは溜息を吐いた。


「怪しいけど、今は信じてやるよ。少なくとも俺個人は、お前の事が嫌いじゃないからな」

「あら、あっさり信じてくれるんだね」

「怪しい事には変わらないが、少なくとも俺個人はお前が嫌いじゃないからな。そんな悪い奴には思えねぇ」

「なんともまぁ、いい加減だねぇ」

「感情は理屈じゃねぇのさ。それがどんな感情でもな」


 本当にね。

 まことに勝手ながら、二日ほど更新をストップします。

 次の更新は、八月一日の予定です。

 ただ、その日もごたごたしそうなので、本当に更新できるかは約束できません。

 でも、できるように頑張らせていただきます。

 

 

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