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二十一話 時計塔の罠

 誤字を修正致しました。

 ご指摘、ありがとうございます。

「「クロエさん。はぁはぁ、今どんな下着着けてるの?」」

「何? 変態ごっこ?」


 夜空を行く途中。

 通信機越しのチヅルちゃんの声に返す。


「「いえ、なんとなく気になっただけです。ほら私達ガールズじゃないですか。ガールズトークとかたまにしなくてはいけないという使命感を覚える事がありません?」」


 ないよ。


「私がガールズっていうのもおこがましい」

「「いやいや、クロエさんはまだガールズで通用しますって。見た目も心も若い若い」」

「って言っても、昔ほどテンションが上がらないんだよね」


 チヅルちゃんとの会話についていくため、どれだけテンションを上げるのに苦労している事か。


「「そんなもんなんですか。で、下着の色は?」」


 えらく食いついてくるな。


「下は黒」

「「で、ブラは? 黒いのか?」」


 そんなスニーキングミッション中の蛇が食べ物の味を聞くかのように……。


「ブラは着けないよ」

「「まさかのトップレス」」

「いや、白だよ。サラシなんだ。子供の頃から」


 今世において、ブラなんて着けたことないし。

 まぁ、前世でもほとんど着けた事はなかったけど。


 それを必要とするほどボリュームがなかったから。

 着けた時のあの不毛感よ。

 ただのおしゃれ以外の何物でもない。

 しかも見せる相手もいない。


 こんな無駄なものにお金を使うくらいなら、ゲームセンターに投資した方が建設的とか思ってたなぁ。

 そして、車が買えるくらい投資したなぁ……。


「「へぇ。まぁ、私もそうなんですけど」」

「倭の国はそれっぽいね」

「「必要性が感じられない、っていうのもあるんですけどね」」

「はは、まだまだこれから。ドンマイ」

「「超適当な慰めですね」」


 どうしようもなかろう。

 豊胸のコツでも伝授しろと?

 私の場合、何もしてないのに育ったから伝授しようにもわからんのですが。


「「でも、サラシだと相手の方が脱がすのに困らないんですか?」」

「……考えた事もなかった」


 確かに、ブラを脱がすのは楽しい。

 少なくとも、アードラーのブラを脱がすのは楽しかった。


「一箇所を解けば外れるから、そんなに困らないと思うよ」


 多分。


「「それだけじゃないですよ。やっぱり、そういう下着を脱がすという行為がスイッチとなって、気分を高めるという事はあると思うんですよ。ほら、人間の体って特定の状況を覚えて感覚を先回りさせる事があるじゃないですか」」


 パブロフの犬的な感じか……。


「条件反射って事ね。つまり?」

「「だから、サラシを脱がせるっていう行為を条件反射とした場合、サラシを見ただけでスイッチが入るっていう状況になると思いませんか? あなた」」


 知らんがな。


「「実際はどうなんですか? アルディリアさん」」


 アルディリア?


「「そういえば、通信が繋がっているとわかるんだったね……」」


 アルディリアの声が通信機から聞こえて来た。

 通信機を起動させていたようだ。


「「ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだ。ちょっと連絡を取ろうと思ったら丁度下着の話が始まって……」」


 さっきから間が悪いな、アルディリア。


「「で、実際は? 性欲を持て余す?」」

「「……軍で演習や任務にあたる時、だいたいの人はサラシを着用していてさ。着替える時に、結び目が後ろにいっちゃった人のサラシを解いてあげたんだけど……。ごめん、そろそろ切るよ。クロエとアードラーの無事が確認したかっただけだし」」


 おい、どうなったんだ!


 そのコンチュエリが湧きそうな話の続きは!?

 アードラーの無事も確認してないだろ!


「「じゃあね」」

「「アルディリアさんの通信が途絶」」


 ……まぁいいや。

 今度じっくりと聞こう。


「そういえば……。今の話で思い出したんだけど」

「「サラシに興奮したエピソードでもあるんですか?」」

「いや、そうじゃなくて。さっきからアードラーの声を聞いていないんだけど」


 イェラとの通信から、一切その声を聞いていない。

 先輩もだ。


 チヅルちゃんとしか話していない」


「「所用で今、近くにいません」」


 先輩の声が答える。


「「ムルシエラさん。終わったんですか?」」

「「はい」」


 チヅルちゃんと先輩のやり取り。


「所用?」

「「はい。いずれわかります」」


 はぐらかされた。

 言うつもりはなさそうだ。

 ただ、その声音にはイタズラっぽい響きがある。

 悪い事では無いだろう。


 それよりも今は、目の前の事に集中しないといけないな。


 私は、建物の煙突の上に着地した。

 しゃがみ込み、下を見下ろす。


 そこには、廃墟の中へ入っていくタイプビッテンフェルト着用者三名の姿があった。

 その中には、復讐者の姿もある。


 ヤタの所にいた彼らを、気付かれないよう望遠機能と飛行機能を駆使して追跡したのだ。

 結果、彼は王都西部にある時計塔へ入り込んでいった。


 あそこにイノス先輩が囚われているんだろうか。


「「クロエは今、どこにいるの?」」


 アードラーの声がする。

 戻ってきたのかな?


「「西部の時計塔です」」

「「わかったわ」」


 チヅルちゃんの声が答え、アードラーが返事をする。


 あれ?

 何で聞いたんだろう。

 モニターで見えるはずなのに……。


 アードラーの声が聞こえなくなる。

 まぁいいや。


 後で聞こう。

 今から潜入しなくちゃならないし。


 私は時計塔の鐘楼から中へ侵入する。

 律義に入り口から入る必要はないだろう。


 こっそり近付き、こっそり奇襲だ。


 鐘楼から機関部へ下りる。

 万能ソナーで探る。


 三層からなる時計塔。

 構造はスラム街のものと同じだ。


 その二層目の中央に、椅子へ拘束された人間がいた。

 恐らく女性。

 右足に怪我の痕がある。


 見つけた。

 イノス先輩だ。


 タイプビッテンフェルトは、一階に集まっている。


 先に倒すべきか……。

 いや、先輩が優先だ。


 彼女の拘束を解いてからでも遅くない。


 私は二層目へ下りていった。

 イノス先輩はうな垂れていた。


 近付くと、先輩が気配に気付いて顔をあげる。

 ルクスは痛めつけられていたけれど、先輩に目立った外傷はなさそうだ。


 先輩の口元には、猿轡が噛まされていた。

 猿轡を解く。


「いけません! 探知型起爆術式です!」


 猿轡を解くのと同時に、先輩が叫ぶ。


「え?」


 何それ?


「「クロエさん! 爆弾です!」」


 え?


「椅子の裏に術式が張ってあります。私が離れると、爆発する仕組みになってい――」


 先輩が言い終わるよりも前に何かが飛来し、椅子の足を折った。

 両端に鉄球のついた鎖だ。

 投擲用の武器だろう。


 椅子が傾き、先輩が椅子から滑り落ちる。


 私は咄嗟に先輩を抱き、椅子から離れるように飛ぶ。


 同時に爆音が空気を震わせ、衝撃が体を襲った。


 爆風にさらされた。

 先輩を庇うように抱きしめるが、爆風に吹き飛ばされた私は壁に体を強かにぶつけられた。


 頭を打つ。


 目を開ける。

 視界がぶれて見える。


 先輩を見る。

 かすかに身じろぎした。

 呼吸音も聞こえる。


 よかった。

 生きてる。


 私の体も、五体満足だ。

 体中に痛みはあるが、手足が吹き飛んだりはしていない。


 さすが「黒の貴公子」だ。

 なんともないぜ。


 でも……。

 外が無事でも、中は無事じゃないみたいだ。


 くらくらする。

 体が思うように動かない。


 多分、脳震盪だ。

 頭を打ったせいだろう。


 白色で治そうとする。

 けれど、うまく白色が体に流れない。

 脳震盪のせいだろうか?

 魔力の制御がうまくいっていないんだ。


「「クロエさん! クロエさん!」」


 チヅルちゃんの必死な声。

 けれど、答える余裕が私にはなかった。


「イノス・アルマールは無事か……。くくく、それはよかった。まだ、惜しいと思っていたんだ。こんな所で死なせるのは、惜しい。早過ぎる」


 声がした。

 顔を上げる。

 そこには、左目だけがあらわになった男。

 復讐者が立っていた。


 復讐者は、イノス先輩の体を私から引き剥がす。

 私は抵抗したが、顔を蹴りつけられて手放してしまった。

 体が思うように動かず、たいした抵抗ができなかった。


 先輩が離れていく。


 意識も、途切れそうだ。


「俺はこいつを……。……単……だ」

「は…………」

「……きに……。……計画……」

「は……。……ました」

「お前…………しろ。……始末……、……メイン……。……食い破れ」

「……。もはや、……張子……。……、打……み」

「幸運……」

「そちらも…………」


 復讐者とタイプビッテンフェルト着用者が何か話している。


 何を言っているんだろう?

 わからない。

 認識ができない……。


 話が終わり、イノス先輩を担いだ復讐者が部屋から出て行く。

 タイプビッテンフェルト着用者の二人が、こちらへ近付いてきた。


 くっ……。

 このままじゃ……。


 体を動かす。

 少しだけ、回復したようだ。


 なんとか立ち上がれた。


「死に損ないめ」


 タイプビッテンフェルト着用者が、殴りかかってくる。


 力の入らない腕で防ごうとする。


 間に合わない。

 そう思った。


 しかし、腕が自然と動いた。

 攻撃を防ぐ。


 これは、動作補助機構のおかげだろう。

 私の動きを覚えた強化装甲が、動きを先回りして補助してくれたおかげだ。


「まだそんな力があるのか……」


 タイプビッテンフェルトの着用者が言うと、別の相手が私の腹部を蹴りつけた。


 ある程度は戦える。

 でも、今の私じゃ彼らを倒す事はできないだろう。


 くっ……。

 こんな所で……。


「こんな日が来るなんて、思いもしなかったわ」


 声が、部屋に響いた。


 同時に、赤い何かが目の前に降り立つ。

 タイプビッテンフェルト着用者達が、その降り立ったものに驚く。


「何だ!?」


 その赤い何かは、驚く相手を掌底で打倒する。

 もう一人が気付いて反撃するが、赤い何かはそれを避けて後ろ回し蹴りで頭を蹴りつけた。


 倒れたタイプビッテンフェルト着用者達は、転がり起きて赤い何かから距離を取る。


「私が、あなたを助けられる日が来るなんてね」

「アー……ドラー……」


 その赤い何かは、赤いタイプビッテンフェルトを着た人物だった。

 顔には、黒い仮面を着けている。

 見覚えのあるものだ。


 というか私が漆黒の闇(略)の時に使っていた仮面だ。


 そして、その人物の正体は恐らくアードラーだ。

 技を見ればすぐにわかる。


「クロエ」


 呼び掛けられてそちらを見ると、そこにはアルディリアがいた。

 体に手を当てて、白色を流してくれる。


 少し楽になる。


 どうして、二人共ここに?


 疑問に思っていると、アードラーはタイプビッテンフェルト着用者へ向けて構えを取った。


「さぁ、いざないましょうか。私の演じる「蹂躙」という名の舞踏へ……」


 そして、言い放った。

 クロ「そのタイプビッテンフェルト、わざわざ赤く塗ったの?」

 アー「塗ったわ!」

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