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八話 家族が心配

「いや、助かったよ。特別顧問」


 拘束を解いたアルマール公から礼を言われる。

 他に拘束されている人達は、先に解放した人達が順次縄を解いていっている最中だ。


「アルマール公が援助してくださったおかげですよ。……こんなものを作らせて、どうするつもりなんです?」

「まぁ、それは後日改めて話をしよう」


 誤魔化された。

 まぁいいだろう。

 今はそれどころじゃないし。


「わかりました。じゃあ、知っている事を教えてください」

「いいだろう。私もいろいろと今の状況を把握したい。情報交換だな」


 私は、今の王都の状況を話した。

 代わりにアルマール公が、国衛院の襲撃について話してくれる。


「では、第三部隊隊長は救出されたのだな? そして、その際にタイプビッテンフェルトの襲撃にあった、と」


 アルマール公が言う。

 ルクスを役職で呼ぶのは、公私混同を避けているからだろう。


「はい。ルクスは今、町の治安維持のために隊員達の指揮を執っています」

「うむ。いい判断だ」


 アルマール公は頷く。


「……やっぱり、ルクスの捜索で人員が減った隙を衝いてタイプビッテンフェルトを奪取したって事ですか?」

「うむ。そうだな。細心の注意を払い、情報は秘匿してきたつもりだった。だから、こんな時でも輸送だけなら問題はないと判断したのだがね。サハスラータの影が関わっているとは思わなかったよ」

「彼らがこの国にいた事は察知できなかったのですか?」

「悔しい話だが、国衛院は諜報技術で彼らに劣る。サハスラータに属しているならば、他から情報が漏れる事もあるだろうが……。どうやら今の彼らは単独で行動しているようなのでね」


 アルマール公は平然としているが、どことなく苛立っているように思えた。

 普段の彼は、こういう逆境を楽しむと思ったのだが……。


 だからこの態度が意外に思える。


「そして、奪取後に国衛院の本部を襲撃した。

 タイプビッテンフェルトが奪取されたという報は入っていたので、防備のために人員を集めていたのだがね。

 タイプビッテンフェルトの性能が殊の外に良すぎて抑え切れなかった。

 しかも人員を集めた事が裏目になり、暴動を抑える事ができなくなったわけだ」

「それも計画の内だったのではないでしょうか」

「だろうな。タイプビッテンフェルトの性能までは読んでいなかっただろうが。

 彼らにとってそれは、嬉しい誤算だった事だろう。

 まんまとやられてしまったよ。

 幸いなのは、タイプビッテンフェルト奪取の情報を報が入った時に、陛下と軍部へいち早く伝えておいた事だろう。

 そちらは防備を備え、無事なはずだ。

 こちらに人員を割かれなかった所を見ると、陛下の安全を優先したのだろう。

 いい判断だ。

 中途半端に増援を送られても、返り討ちに合っていただろうからな」


 確かに、捕まっている人間が増えていたかもしれない。


「今後どうしますか?」


 私は訊ねる。


「国衛院の機能は今から復旧させる。動ける人員はすぐに王都の治安維持に回す。王宮との連絡も密に取り、状況によっては軍の戦力を割いてもらう予定だ。君の方はこれからどうするのだ?」

「一度、実家へ行ってみるつもりです」


 タイプビッテンフェルトの着用者。

 影達は、その大半が国衛院からいなくなっていた。

 恐らく、王都中に散らばったのだろう。


 そして、彼らは復讐を果たそうとしている。

 父上もその対象の一人だろう。

 ならば、その対策として母上の身柄を押さえる事が予想できる。


 きっと、父上は王宮にいる。

 国衛院の襲撃前に情報が伝えられたなら、復讐者達の目的や動向も掴めていない可能性がある。

 だとするなら、母上に対して何の安全策をとっていない可能性が高い。


「なるほど。それは急務だ。これ以上敵が増えると困る」


 アルマール公が言う。

 母上を人質に取られ、父上が敵に回る事を懸念しての事だろう。


「よろしい。ならばこれからも外に出るわけだな。なら、この場所は民間の避難場所にするつもりだから、人に会ったらここに来るよう君からも伝えてほしい」

「わかりました」

「うむ。では、これを渡しておこう」


 アルマール公は、懐から金属の印章を取り出した。

 国衛院のエンブレムを模ったものだ。


「これは、国衛院の身分証明のためのものですよね?」

「うむ。これを見せれば、民間人も素直に従うだろう。今の君は、いささか人に信用され難そうだ」


 あなたがそういうデザインに注文したんでしょうよ。


 でも、確かにありがたい。

 受け取っておこう。


「だったら、私はこれを渡しておきます」

「これは?」

「無線機です」


 先輩とチヅルちゃんが作ったものだ。

 同じものを三つ渡されており、連絡を取りやすいように協力者へ渡すよう言われていたものだ。


「例の新技術か……。あの二人には驚かされるな」

「本当に」


 この世界の技術から見て、オーバーテクノロジーである。


 私は無線機の使い方をアルマール公に説明した。

 とはいえ周波数などの選択はなく、ボタンを押して喋るだけの簡単な仕組みだが。


「そういえば……」


 ふと、ある事に気付いて私は口にする。


「イノスはいないんですか?」


 私は部屋の中にいる隊員達を見た。

 けれど、その中にはイノスがいなかった。


 そう思えば、エミユちゃんもいない。


「……イノスは、連れて行かれた」

「何ですって?」

「連中は我々を捕らえた後、イノスだけを連れて行った」


 何て事だ……。


「エミユちゃんは? こっちに帰って来ていたはずです」

「エミユはわからない。連れて行かれる時にはいなかった。ここにもいないとなれば、上手く外へ逃げ出せたのかもしれない」


 それはよかった。


 でも、アルマール公が珍しくイラついている理由がわかった。

 イノスが危険に晒されているかもしれないからだ。


「……特別顧問。これは国衛院の院長としてではなく、個人的な頼みだ。イノスとエミユ、二人を見つけて守ってくれないだろうか?」

「はい。見つけたら連絡します」

「頼む」


 私は頷き、その場を後にした。




 私は高速機動装甲をバイクに変えて、それで王都を疾駆していた。

 目指すのは実家である。


「それにしても、よくこんな物を作ったもんだね」


 その途中、無線でチヅルちゃんと会話する。


「「これぞ科学力って奴です」」

「かがくのちからってすげー!」

「「ふふん。すごいでしょう。じゃあ、おじさんのきんのたまをあげましょうか」」


 君はおじさんじゃないだろう?


「って言っても、魔法を応用した技術なんだよね。それは科学っていうのかな?」

「「何を言うんですか。

 本来、科学という物は自然界に起こりうる現象を人為的に再現したものが多いんですよ。

 全ては起こるべくして起こる事なんです。

 魔法だって、魔力を利用した物理現象なんですから。

 火を起こすのだって、木を擦り合わせて出すか、魔力を使って出すかの違いでしかありません」」

「だから、科学だと?」

「はい。あくまでも魔法は物理現象なんです。

 現象を生み出す方法だって、それを出したいと願って出すわけじゃないでしょう?

 風の魔法がいい例です。

 一口に風の魔法と言ってもそれを起こすプロセスはいくつかあり、そのどれも科学的なアプローチを踏んでいます。

 たとえば、冷気と熱気を発生させてその冷暖の差で風を起こしたり、すでに起こっている風に無色の魔力で道を作って指向性を持たせたり、いろいろあるじゃないですか。

 風よ吹け、なんて単純な方法で吹かせる事はできないじゃないですか」

「なるほど」

「だからこそ、魔法で代用して科学知識を応用できているわけです」


 説得力があるな……。

 そう言われると、そんな気がしてくる。


「そういうわけね」

「そういうわけです」


 納得した。



 道の途中、何度かチンピラに襲われる町の住民を見つけて助けた。

 チンピラの関節を外し、助けた人に国衛院へ向かうよう指示する。

 足を怪我して動けない人もいたが、その時はアルマール公に連絡を取って隊員を回してもらう。


 そうして私は実家へ辿り着く。

 門の前で、バイクを素早く脚部装甲へ変える。


 すると、屋敷の中では騒ぎが起こっているようだった。

 誰かが玄関ホールで戦っている。


 入り口前に立つとそれらしい音が聞こえる。


「くっ! この!」


 叫ぶ女性の声。

 その声には聞き覚えがあった。


 正面玄関からそのまま入らず、魔力縄クロエクローで二階へ上がる。

 窓から中へ侵入した。


 玄関ホールを囲み、見下ろす事のできる廊下に下り立つ。

 玄関ホールをうかがうと、そこでは思った通りの人物がいた。


 アードラーである。

 彼女は、タイプビッテンフェルトの着用者と戦っていた。


 彼女だけじゃない。

 アルディリアとイェラも、同じようにタイプビッテンフェルトの着用者と戦っていた。


 三対三の総当り戦だ。

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