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閑話 仮面騎士BLACK W 第一話「白と黒の仮面騎士」 Cパート

「お前ーーっ! 今日という今日は容赦せん!」

「やめたまえ! それは許容できない!」


 ゲーム部屋に私とカラスの声とどたばた暴れる音が響く。


「何をやっとるんじゃ、騒がしい」


 そう言いながら、シュエット様が床からにゅるりと生えた。


 私とカラスを見て怪訝な顔をする。


 私は逃げようとするカラスのパンツを脱がそうとしていた。

 すでに下着もずれて、半分尻が見えている。


「何のプレイじゃ?」


 呆れたような口調でシュエット様が問うてくる。


「助けてくれ、シュエット! 小生は嫌だというのに、クロエ・ビッテンフェルトが無理やり小生の尻を何度も何度もぱたこうとするんだ!」

「本当に何のプレイじゃ? アードラーが泣くぞ?」


 シュエット様の目が私へ向けられる。


 浮気じゃないし、私はそんなプレイに悦びを見出みいだす変態じゃないよ!


「そういうのじゃないです。ちゃんと理由があるんです」


 私は弁解する。


「このままでは小生のキュートな尻が四つに割られてしまう」


 カラスがシュエット様に訴えかける。


「いいじゃない。四つに割れればキュートさも単純計算で二倍だ」


 私が言葉を返す。


「いや、純粋にキモいだけでは……」


 マジレスされた……。


「じゃあ、ついでに六分割にして腹筋と区別つかなくしてやる!」


 シックスパックだッ!


「小生の腹筋は君みたいにボコボコじゃない!」

「やかましい! 食らえ! クロエ流千手観音!」


 ジ・アバターが即座にカラスの尻を露出させる。

 スパパパパンッと、連発銃の如き尻を叩く音が部屋に響き渡った。

 私とジ・アバターによる間髪入れぬリズミカルな掌打だ。


 まぁ、結果として尻は二つ以上に割れなかったけど、真っ赤になった。

 カラスはギャピー! と泣いている。


「で、本当に何があったんじゃ?」


 真っ赤になったお尻を丸出しでうつ伏せに倒れたカラスを尻目に……文字通り尻目に!

 シュエット様が改めて訊ねる。


「聞いてくださいよ、シュエット様!」


 その時、部屋の扉が開かれてトキが現れた。


「シュエットがいる気がして」

「うう……こうなるからできるだけ像を作らぬようにしておったのに……」


 だから最近、黒色のスライム形態で過ごしてるんですね。


 トキは当然のようにシュエット様のそばに寄って抱き締める。

 シュエット様は成すがままにそれを受け入れた。


 もはや諦めの境地に達しているようで、目が死んでいる。

 逃げたいけれど、抵抗は無駄だと悟った構われすぎるペットのような表情である。


 でも、ここに女神が揃ったのなら丁度いいか。


「で、話を戻しますけど、こいつやらかしやがったんですよ」


 と、カラスを指差す。


「何をしたんじゃ?」

「黒色の魔物に自分の力を注ぎやがったんです」


 黒色の魔物とは、黒色の体を持つ魔物である。

 そもそも黒色とは、シュエット様が復活する力を蓄えるために生み出した力である。

 人の負の感情を糧として増え、シュエット様はかつての戦いで失った体をこの黒色で補っている。

 黒色の魔物は人の負の感情に取り付いて増大し、さらに人へ害を成すという存在なのだ。

 まさに、シュエット様にとっての黒歴史なのである。


「ああ……。あれの……」


 シュエット様も、そう言ってばつの悪そうな顔をしている。

 やっぱり、あれは自他共に認める黒歴史らしい。


 今は白色照射装置で数が減っているのだが、それでもまだ完全に消えていない。


「力を注いだ?」

「はい。自分の力を注いで、パワーアップさせちゃったんですよ」


 私は詳しい事情を話す。


 あれはついさっきの事。

 私は、カラスがゲーム部屋の隅にいるのを発見した。

 毎回、不法侵入するのはやめてほしいと注意するためにそばへ寄ると、どうやらカラスは何か小動物めいたものを可愛がっているようだった。


「何やってるの?」


 声をかけると――


「クロエ! いや、なんでもないんだ」


 と、どっかのナウいシカみたいに背中へそれを庇った。

 とりあえず、ジ・アバターの力でどかすと……。


 そこにはよく解からない黒い何かがいた。

 黒色の魔物のようだが、黒色の魔物とは微妙に違うよくわからないものだ。


「これは何だ?」

「前に町で見つけてね。弱っていたから、小生の力を少し分け与えたんだ」


 じゃあ、やっぱりこれは黒色の魔物か。

 ちょっと雰囲気が変わっているのは、カラスの力の作用だろうか。


「害のない可愛い子なんだ」


 ふうん。

 害がないならいいかな。


 私もそれを撫でようとする。


 と、頭が針状の触手に変化し、私の左胸を狙って凄まじい速さで伸びてきた。

 私はその触手を掴んで止める。


「明らかに人間に敵意あるやないけぇ!」


 叫び、私はその黒色の魔物を叩き潰した。


「ああ、なんて事を……!」


 カラスが悲しそうな声をあげる。


「ただちょっと、生ある物を無差別に攻撃する特性があって、ほんのりとした死の恐怖を常時垂れ流してるだけなのに……」

「害だらけじゃ!」


 流石にこれは許容できないレベルの害だ。

 人類の敵である。


「でも、これで安心か……」


 人類の脅威は去った。


「それはどうだろう? 実は、もう一匹居たのだけど逃げちゃって……」


 笑顔で言うカラス。


「もしかしたら、町中の黒色に小生の力を分け与えて増えてるかも知れないね」


 ペロッと、カラスは舌を出した。


 そして冒頭に戻る。


「なんであんな事をした! 言え!」


 私はカラスを問い詰める。


「ただ、なんとなく面白……かわいそうだったから力を分け与えてあげたんだ。こんな面白……じゃなくて、大変な事になるとは思わなかったんだよ」


 お前ぶち殺すぞ!


「……まぁ、こういう次第で。シュエット様とトキにも、駆除を手伝ってほしいんだけど」

「うむ。致し方ないのう」

「シュエットがやるなら、僕もやるよ」


 シュエット様とトキが快く了承してくれる。


「小生に、自分が力を分け与えた眷族を殺せと言うのか? 我が可愛い、黒死の魔物達を!?」


 何か名前つけてる。


「小生にはそんな事できない。あれらを殺すというのなら、小生はここから出て行くぞ」

「どうぞどうぞ」

「戦争だ! 小生は君達に徹底抗戦するぞ! もう、ここには遊びに来てやらないからな!」

「どうぞどうぞ」

「これから小生達が会うのは、ゲームセンターだけだ!」

「そうだね」


 カラスはゲームが強いので、対戦する分には楽しい。

 むしろ、この一件が解決してもそれくらいの距離感で接したいな。


「では、さらばだ!」


 そう言って、カラスは部屋から出て行った。




 その日から、私達は黒死の魔物の駆除作業を行うようになった。

 連中は夜に活動する事が多いらしく、まだ日が経っていなかった事もあって人への被害は無さそうだった。

 どうやら、黒死の魔物にはあまり白色が効かないらしい。

 一応少しは効くのだが、黒色の魔物に対するほどの特効は認められなかった。

 ただ、私の場合は威力を腕力で補えば何とかなりそうだ。

 最初の一匹を倒した時はそうだった。


 けれど、普通の人間ではまず対抗できないだろう。


 それでも神の力は効くらしく、女神達の力ならば対抗できた。


 時折、妨害に出てくるカラスを撃退しながら、夜は黒死の魔物の駆除に専念した。


 そんなある日の事だ。


 家屋の屋根の上。

 強化服に身を包み、顔には仮面をつけていた。

 漆黒の闇に囚われし黒の貴公子スタイルである。


「クロエ!」


 シュエット様が慌てて私の所へ来た。


「どうしたの?」

「ヤタが襲われて、怪我をした! 今にも死んでしまいそうじゃ!」

「何だって!?」

「そばにイングリット家の子供がおったので、力を分け与えてお前を呼びにきた」


 シュエット様が黒死の魔物を倒せばいいのでは? とも思ったが……。


 イングリット家の子と言えばアドルフくんか。

 なら、白色は使えないな。


 イングリットくんに黒死の魔物を足止めさせて、その間に白色を使える私を呼びにきたか。


 こういう判断をしたという事は、ヤタの容態が危ないという事か……。

 一刻も早く、白色による治療を行わねば危ないという事だ。


「わかった。早く行こう」


 私はシュエット様に案内されて現場へ向かう。


「何かあったのかい?」


 途中で、トキが合流する。


「緊急事態だよ。トキ、合体してほしい」

「ん? わかった」


 説明を省いて頼む。


 トキが私の体に入り込んだ。

 着ていた強化服が、トキの力によって灰色になる。

 形状も変わる。


「クロエ・ザ・ワールド」


 時よ止まれ!


 時を止める瞬間、どういうわけかジ・アバターがポーズを取って出現した。

 まるで、ジ・アバターが能力で時を止めたかのようだ。


 時間停止によって、空気の流れが止まる。

 風がぴたりと止んだ。


 止まった時の中を動けば、現実の時間では一秒とかからず駆けつける事ができる。


 そして、現場に辿り着いた。

 家屋の屋根から現場を見下ろす。


 そこでは白と黒に彩られた鎧の騎士が、今まさに黒死の魔物へトドメを刺そうとしていた。

 きっと、あれがアドルフくんだろう。


「「時間切れだ」」


 トキの声が聞こえ、止まった時が動き出す。


 黒死の魔物が、黒と白の螺旋を浴びて消滅した。


 倒したか。


 ヤタは?

 探すと、壁にもたれかかって動かないヤタの姿があった。


 そんな時である。


 現場へ五匹の魔物が新たに姿を現した。


 アドルフくんは、明らかに満身創痍だった。

 きっと、あの五匹を相手に勝てるだけの力を残していない。


 私は溜息を吐いた。


 屋根から飛び下り、黒死の魔物の上を踏みつけて着地する。

 そのまま踏みつけた魔物を殴ってトドメを刺す。


「クロックアップ」


 言って、時を止める。


 その止まった時の中で、黒死の魔物を倒していった。

 倒した魔物が、黒い塵となって消える。


 脅威は去った。

 早く、ヤタを手当てしないと……。


 そう思って、倒れるヤタの方へ向かう。


「あの……」


 アドルフくんが声をかけてきたが、無視する。

 今は、彼と話をしたくなかった。


 白色をヤタへ流す。

 ヤタの怪我が治っていった。

 苦悶の表情が和らぐ。


 一安心だ。


 アドルフくんかこちらに寄ってきた。


「ありがとう。たすかっ――」


 礼を言おうとするアドルフくんの首を振り向き様に掴んだ。

 軽く持ち上げる。


「ぐっ……何故……?」


 何故かって?

 君が、ヤタを守れなかったからだよ。


「その程度の力では、またお前は傷付ける事になる。誰も守れない」


 私はアドルフくんを投げ放す。


 そして、それ以上言葉を交わさずにその場を去った。


 ヤタが本気で好きだと思える人なら、私はなにも文句を言うつもりはない。

 けれど……。

 女の子を守れないような男に、うちの子はやれないな。

 母親として。


 今後は、きっちりと吟味させてもらおう。

 それでも相応しくないと思えた時は、誰がなんと言おうと反対してやる。


 私はそう、胸に誓った。




 その後。


 黒死の魔物は、弱るとまたどこかに潜んで力を蓄える。

 蓄えるのは、今まで同様に人間の負の感情であり、なおかつ人の死も糧とするようだった。

 そして力を蓄えた黒死の魔物は、だいたい週一くらいの割合で現れるようになった。

 主に日曜日に現れる事が多く、それから一年ほどかけて駆除する事になった。

 クロエの新必殺技(尻叩き)は、某お笑いRPGにあった技より名前をいただきました。

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