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気づいたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE  作者: 8D
三人のビッテンフェルト編
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一話 襲撃のシュエット

 一種のクロスオーバーなので、この話に関してはあった事にしてくださってもなかった事にしてくださっても構いません。


 

 アルディリアと結婚してから、私達は貴族街の区画に屋敷を建ててそこで暮らしている。

 そして私自身は、母上の手伝いをしつつ領地や事業の勉強をしていた。

 今日の私も母上の店へ、経営について実地で習いに行っていた。

 その帰りの事だった。


 夕陽はとっくに沈み、夜の闇が下りて久しい時間帯。

 暗い夜道の中、私の前に黒い塊が地面から滲み出るようにして現れた。

 その黒い塊が、盛り上がって人型へと形を成していく。


「クハハハハ」


 笑い声と共に形を成したそれは、カナリオに似た幼女だった。


「シュエット?」


 えらく可愛くなっているが、あの笑い方と現れ方はかつて戦ったシュエットと特徴が合致していた。


「何か久し振りだね。何の用?」

「ふん、貴様は相変わらずふざけた奴じゃのう。決まっておろう。味合わされた屈辱をその身に返してやるためじゃ」

「別にいいけど……その体で?」


 どう見てもあの時より強くなっているようには見えない。

 むしろ、こんな姿しか作れないという事は前に戦った時より弱いんじゃないだろうか。

 ペンダントがなくても、自前の白色だけで倒しきれそうな気がする。


 私はそう思いつつ構えを取った。


 戦いに来たならこれ以上の会話はいらない。

 あとは拳で語るのみ……。


「待て待て! ワシに戦うつもりはない!」


 焦ったように止めるシュエット。


「貴様の心の中で力を蓄える事ができたとはいえ、貴様と戦う力など今のワシにないわい! ちょっと考えればわかるじゃろう! たわけ!」


 怒鳴りつけられる。


 何で私怒られたし?


 というより、私の心の中?

 ……そうか、結婚するちょっと前にあったあの騒動……。

 あれはシュエットが関わっていたという事か。


 じゃあこれで三回目か。

 しつこいよ。

 どこのイレギュラーだ。

 シリーズを追うごとにラスボス張ってたら飽きられちゃうぞ。


「じゃあ何しに来たの?」

「無論、戦うためじゃ」


 今、そんな力はないって言ったじゃん。

 本当に何しに来たの? こいつ。


「確かに今のワシに貴様と直接戦う力は無い。じゃが、今のワシでも貴様を倒す方法はあるのじゃよ」


 ふふん、とシュエットは得意げに笑う。

 そして、球体を掴むかのような形で両手を前へ出した。


 彼女の手と手の間、その空間に闇が生じた。

 黒い球状の物ができあがっていく。


 そのただならぬ事態に私は構えを取った。


「ワシは運命を司る女神……。人の運命、そのものを手繰り寄せる事ができる。ワシと直接関わった者であるならば、別の歴史を辿った者であろうともこの地へ引き込む事ができるのじゃ……」

「どういう事?」

「今のワシでは貴様を倒せぬが、貴様を倒せる人間を別の次元から呼び寄せる事はできるという事じゃよ」


 別の次元……。

 パラレルワールドから、人を召喚できるって事か?


 言うと、シュエットは両手の間に作った黒い物体を上空へ向けた。

 黒い物体はシュエットの頭上で広がり、リングのようになった。

 リングの中は、闇の空間で満たされている。


 その空間の闇に波紋が揺れる。

 同時に、何かが空間から出てきた。


 それは足だ。

 次第に足から腰、胴体、と人の体が空間から出てくる。


 そして、そこから出てきたのはくすんだ白の鎧に全身を覆われた一人の人物だった。

 その人物は、シュエットと向かい合うように現れた。

 こちらからはその背中しか見えない。


 しかし……。

 私の拳を握る手が、知らず強くなっていた。


 一目見てわかった。

 強い……。


 あの鎧の人物が何者かはわからないが、ただ立っている姿を見るだけでわかる。

 あれは、強い。


「クハハッ! どうじゃ! 私とてこやつが何者かはわからぬが、呼び寄せられる中で最強の人物を設定してやった! クハハハハッ!」


 ああ、説得力があるよ。

 まるで、父上やティグリス先生に匹敵するような強さを感じる。


 下手をすれば、それ以上か……。


「ここは……?」


 その人物が声を発する。

 フルフェイスの兜に魔法がかかっているのか、その人物の声は歪んでいた。


「ここはお前がいた場所とはまた、別の次元じゃ」

「あなたは?」

「シュエットじゃ。ぬしの力が借りたくて呼び出した」

「女神様……? 何故私を?」

「あれを倒してもらおうと思ってのう? 女神であるワシへ反旗を翻す不心得者じゃ。困っておるのじゃ」


 その人物が私へ振り返った。

 鎧の胸元には吼える猫科肉食獣の顔の意匠が施されていた。


 その正体は謎のベールに包まれているが、その意匠から見るに恐らく中身は勇者系ロボットか大阪のおばちゃんに違いない。


「……クロエ・ビッテンフェルト」


 驚いた。

 私を知っている?

 なら、この人は私の知っている人物なのか?


「貴様は、何者だ?」


 私は訊ねた。


「我が名は、ビッテンフェルト……。アールネスの敵を断つ剣なり」


 その人物は、歪んだ声で静かに答えた。


 親友が馬に変形しそうな言い回しだな。


「女神様、あなたは邪悪だ。恐らく、滅するべきものであろう」


 こちらを向いたまま、その人物は言った。


「な、なんじゃと? 待て、ワシは……」


 動揺するシュエット。


「しかし、この場へ呼び出してくれた事は感謝する。だから、あなたが何者であろうと関係ない。私は、あなたの望みに応じよう……」


 そう言って、ビッテンフェルトと名乗るその人物は私へ構えを取った。


 私も構えを取る。

 強者との戦いを前にして、緊張が体を縛る。

 だが、その縛りが心地良い……。


 鍛錬だけは毎日欠かさず行なっているが……。

 思えば、本気で拳を振るうのは結婚してからはなかった。


 久し振りの戦い。

 自分の力を余す事無く解放できるであろう相手を前にして、私は心が高揚しているのを感じた。


 そんな時である。


「うおあああああ!」


 開きっぱなしになっていた、闇のリング。

 その空間から悲鳴が聞こえて来た。


 悲鳴が次第に大きくなり、そしてまた一人の人物が闇の空間から転がり出た。

 転がり出たそれはそのまま地面を転がり、私の近くで倒れた。


 その姿を見て、私は驚く。


「痛てて……」


 転がり出たその人物は、女性だった。

 黒髪の女性だ。

 麻でできたボロボロの服。

 手術の時に患者さんが着るような心許無い衣服からは、鍛え抜かれたであろう筋肉質な四肢が見える。

 色んな意味でナイスバディの女性だった。


 そしてその人物の顔は……。


 痛みに閉じられていたその人物の目が開かれる。

 黒い目がこちらに向けられた。


「「え、私……?」」


 その人物の顔は、私とまるっきり同じだった。

 謎のビッテンフェルトの正体に気付いても、知らないフリをしていただけるとうれしいです。

 正体が明かされた時にでも、「知ってた」と言ってくださると助かります。

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