百三十一話 愛を交わす
誤字を修正致しました。
誤字報告、ありがとうございます。
私には見えていた、彼の動きが……。
何故かわからないけれど、戦っている途中から二人の次に起こす行動がわかるようになっていたから。
でも、避けなかった。
だって彼のこれからする事がわかってしまうと、避けたくなくなってしまったから……。
私は彼の唇が自分の唇に重ねられる事を望んでしまったんだ。
心の中。
パリン、と音が鳴った。
心を覆った黒が割れる音だ。
亀裂の入った黒い空間は、ガラガラと音を立てて崩れていく。
晴れやかな、真っ青な空と花畑がずっと続く世界が現れる。
何があったかわからないけれど……。
私の頭の中、今お花畑なんだ。
「な、なんじゃと? ワシの支配が、こんな事で解ける?」
何かよくわからないけれど、今の私って心の闇がなくなっちゃったみたいだね。
人には心の闇があるものだけど、その闇の一切が晴れる時だってあるって事さ。
何もかも嫌な事を忘れてしまい、ただ楽しさだけが心を占める時だってあるのさ。
それが一瞬だけの事だろうと、その時ほど人の心が光に満ちる時はないって事だね。
表層の私、どうなってるのかなぁ?
なんていうのかな?
今、すっごく気分いいんだよね。
新しいパンツを履いたばかりの正月元旦の朝のよーな気分? みたいな?
「おのれー……」
さて、私も自由に動けるようになったみたいだし。
そろそろ退場願おうかな。
邪神様?
さて、じゃあどうやって追い出そうか……。
ここは私の心の中だから、私の好きなようにできるわけだけど。
どれがいい?
蛙のモンスターと一緒にカタパルトで射出される方法とタンホイザーに叩き込まれるのとキックでドーンされるの。
「どれも嫌じゃ!」
じゃあ、これだ。
指を鳴らす。
一瞬にしてシュエットがロープでぐるぐる巻きになった。
私の手には、バットが現れる。
「んむーっ! んむぅーっ!」
猿轡をされてうめき続けるシュエットの前で、私はバットを構えた。
クロエェェェェホォォォムラァァァン!
バットを振ると、カキーンといういい音がしてシュエットが遥か彼方へと飛んでいく。
キラーンと星になった擬音がする。
どこからともなく歓声が湧いた。
あれ?
私、何してたんだっけ?
何で私、アルディリアとキスしてるの?
ああ、さっぱりわからない。
まったく憶えてないや……。
……ごめんなさい。
嘘つきました。
実は今までの事、ちょっと憶えてます。
私がここに来るまでに何をしてきたのかも、だいたい……。
はぁ、後でいろんな所に謝りにいかないとなぁ……。
アルディリアの唇が離れる。
少し名残惜しい……。
「クロエ。僕は、君の事が好きだ! ずっと前から好きでした!」
唇が離れた途端、アルディリアが告白してきた。
びっくりである。
「……はい」
私はどう返していいのかわからず、そんな返事をする。
「それは婚約者だからとかじゃなくて、ちゃんと僕自身が想い続けていた気持ちで……。僕が、ただ婚約者だから君と一緒にいるわけじゃないって事を伝えたくて……。僕が婚約を解消したのは、誤解されたくなかったからなんだよ。だから、えーと……」
アルディリアは告白の恥ずかしさからか、しどろもどろで言葉を重ねる。
つまり、婚約者とか関係なく君が好きだよ。
君は婚約者だから僕が結婚すると思ってるみたいだけど、本当は君が好きだから結婚したいんだ。
そういう事だろう。
「ああ、うん。それはわかったよ」
でも、そんな説明なんて今更いらなかったけどね。
言わなくても、伝わったよ。
言葉がなくても、よくわかった。
私、アルディリアにそんなに想われていたんだ。
そして私も……。
「手、放して……」
「あ、うん」
私の手首を掴んでいた手が放れる。
それと同時に、私はアルディリアの首に腕をかけた。
そのまま、今度はこちらから引き寄せて唇を奪ってやった。
すぐに唇を離す。
驚くアルディリア。
「ヒヒヒヒヒ」
私は照れて変な笑い方をする。
「お返し。私の気持ちだから。私なりの愛だから」
「う、うん。ありがとう」
アルディリアもはにかんで笑う。
「そろそろいいかしら?」
私の腰の辺りから声が聞こえる。
見ると、血まみれのアードラーの顔があった。
「限界なの……」
傷だらけになったアードラーに、私は白色をかける。
「クロエが元に戻ってくれて、よかったわ」
そんな最中、アードラーが言う。
「それに、おめでとう。よかったわね。両想いで……。友達として嬉しいわ」
アードラーは笑顔で言うけれど、無理をしているようにも見えた。
微笑がどこか儚い。
そんな彼女に声をかけようとしたけれど、何を言っていいのかわからなかった。
「ありがとう」
お礼の言葉しか言えなかった。
そんな彼女に、アルディリアが声をかける。
「ねぇ、アードラー。こんな時になんだけど」
「何よ?」
アードラーの聞き返す声がどこか刺々しい。
「前にした話、憶えてる? サハスラータの舞踏会で言った事」
「古い話ね。……憶えてるわよ。女々しい事に、時々思い出していたわ。申し出を受けるべきだったかもしれないって……」
何の話かわからないけれど。
女々しくっていいじゃない。
だって女の子だもの。
「もう一度、聞くよ。アードラー、僕の側室になる気は無い?」
ええ! 早速浮気発言!?
ていうか、サハスラータの舞踏会ってあれでしょ?
話の内容は憶えてないけど、ちょっと険悪になってた時じゃない。
本当はそんな申し出してたのか!
「同情ならいらないわよ。私がその話を時折思い出していたのだって、気の迷いに過ぎないんだから……」
「違うよ。同情なんかじゃない。今回の事で思ったんだよ。僕は結局、一人じゃクロエに並び立てない。でも……」
アルディリアがアードラーの手を取った。
「君となら並び立てる。君と一緒なら、僕はクロエに並び立てるんだ。だから、君とも一緒にいたい。クロエと並び立つために、ね。だから決して、これは同情じゃない」
「ふぅん……」
「それに、その方が君だって嬉しいでしょ?」
「……まぁね」
アードラーは溜息を吐いた。
「わかったわ。そうまで言うなら、仕方ないわね。嫁いであげるわ」
何か二人共、私とよりも通じ合ってない?
いや、確かに前にもアードラーがアルディリアのお嫁さんになってもいいかな、なんて思った事もあったけど……。
この国は正室と側室を持つ事も許されているから、今でも別に構わないとも思っているけれど……。
何だ? 嫉妬心がまたメラメラとし始めたぞ?
「アードラーはもしかしてアルディリアの事が好きだったの?」
ちょっと聞いてみる。
「え、嫌いだけど」
一切の躊躇いもなくアードラーは言い切った。
じゃあ、プロポーズ受けたの何でやねん?
「あの……」
そんな中、洞穴内に声が響いた。
見ると、武装したカナリオとリオン王子が立っていた。
「もしかしてもう、終わったんですか?」
その後、今回の事件がシュエットに取り憑かれた者の仕業であると兵士達に説明され、私がその犯人を倒したという事になった。
それでも真相は陛下に報告され、一度呼び出された。
結果、情状酌量の余地があるという事で、貸し一つという事で許してもらう事ができた。
その分、何かあった時は無条件で手伝ってもらうとの事だ。
これが著者渾身の恋愛です。
感想によってはタグの「恋愛(懐疑)」を「恋愛(笑)」に変える用意があります。
次は本編最終話です。




