百十七話 完全無欠の大集結
短編の時もそうでしたが、何かを殺す描写を極力避け、それに対する心の動きもできるだけ軽くしています。
誤字報告、ありがとうございます。
修正致しました。
多寡と高、どっちが正しいのかわからず、わからないまま放置していました。
「アードラー? どうして?」
私はアードラーに声をかける。
「助けにきたに決まっているじゃない。それに、私だけじゃないわよ」
アードラーが視線を向けた先。
岩場を囲う崖の上から、一人の人物が下り立った。
その人物が兵士達を殴り飛ばしながら、こちらへ向かって駆けてくる。
その人物は、リオン王子だった。
「王子!?」
王子は私に笑みを向ける。
「そなたは前に言ったな。一見、悪い方向に転がったようで、実は良い方向に転がっていたという事もある、と……。まさしくその通りだ。王位継承権を持ったままでは、ここに来る事すら叶わなかっただろうからな」
そして、さらに……。
別の場所から別の人物が下り立つ。
兵士の顔や肩を踏みつけながら、宙を舞って私の前まで来たのはルクスである。
「よう、思ったより元気そうだな」
次に、兵士達に向けて崖の上から火球と稲妻が降り注ぐ。
降り注ぐそれらは兵士達の中に落ち、数人が吹き飛ばされた。
それらが発射された崖の上を見ると、ムルシエラ先輩とコンチュエリが立っていた。
ムルシエラ先輩が微笑み、コンチュエリがこちらに手を振る。
最後に、私達が逃げてきた方の道。
その付近にいた十人を超える兵士達が吹き飛ぶ。
サッカーボールキックの体勢で、兵士を吹き飛ばしながら現れたのはティグリス先生だ。
先生が私達に合流する。
「どうやら、少し遅れちまったようだな」
先生は勢ぞろいしたみんなを見て、皮肉っぽく笑った。
だが、現れたのは先生だけでなく、先生が食い止めていた兵士達もまた岩場に雪崩れ込んできた。
兵士達が私達を取り囲む。
思ったより人数が少ないのは先生が頑張った結果だろうか?
「みんな、どうしてここに?」
私は訊ねる。
「助けに来たに決まってんじゃねぇか。それ以外の理由で、誰が好き好んでこんな場所に来ると思ってんだよ」
「ああ、ここでそなたを失うわけにはいかない。受けた恩を返す事ができなくなる」
ルクスと王子が言う。
「そうよ。絶対に、あなたは死なせないんだから」
アードラーも私に笑いかけてくれる。
みんな、私を助けに来てくれたんだ……。
私のために、こんな所まで来てくれたんだ……。
そう思うと、私の胸をじんと熱い物を満たした。
「援軍と言えど、高が六人! 怯むな! 皆、やってしまえ!」
黒尽くめの男が声を張り上げる。
それに呼応して、兵士達が私達への攻撃を開始した。
「クロエ。必ず、生きて帰るわよ」
アードラーが力強い口調で言う。
私もまた、強く頷いた。
あまり戦力にはならないけれど、私もまた兵士達へ構えを取った。
死の運命を打倒し、生き残るための戦いが始まった。
数時間後。
岩場には、倒れ伏すサハスラータ兵達で溢れていた。
もう、動く兵士はいない。
それら全てを倒してのけた私達もまた、もはや満身創痍である。
幸い、みんな生きている。
でも、もうまともに拳を振るう事すら困難なほどに疲弊していた。
崖から下りて、ムルシエラ先輩とコンチュエリがこちらへ来る。
「お疲れ様です。白色をかけますね」
二人はずっと、崖の上から魔法で援護してくれていた。
とはいえ、魔力の使いすぎで疲弊しているのか、少しやつれているように見える。
「ふぅ、無事でよかったですわ。クロエちゃん」
コンチュエリが声をかけてくる。
「ああ、うん。ありがとう」
「他のみんなも待っていますわよ」
「他のみんな?」
「マリノーちゃん、カナリオちゃん、イノスも居ますわ。ここから少し先。国境の辺りで待っていますわ」
「そうなんだ」
みんな、来てくれたんだなぁ。
「クロエちゃん。やっと、帰れますわね」
「そうだね」
そうだ。
これで、帰れるんだ……。
私は安堵し、体の力を抜いた。
私は今度こそようやく、死の運命を脱したのだ。
いろいろとぼやかして書いたら大変短くなってしまいました……。
多分、先生と先輩二人がいなければ切り抜けられませんでした。
あと、相手の兵士の士気が低かった事も幸いしています。
それから、六十六話にて。
クロ(またいつか、みんなで来られるといいな)
というクロエの願いが叶いましたね。




