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百十三話 クロエの外交交渉

 紛らわしかったので修正しました。

 かつてカナリオが王子と先輩との問題で悩んでいた時……。

 彼女は一度全てを忘れ、頭をすっきりさせる事で答えを出した。


 やっぱり、頭が疲れている時は良い考えなど浮かばないものだ。


 そして、今の私は一度睡眠をとった事で頭がすっきりしていた。

 そりゃあ、名案も思い浮かぶという物だ。


 よく考えれば、いろいろな問題を解決できる方法が目の前にあったのだ。


 それは目の前にいる怯えたおじさん。

 もとい、サハスラータの王様である。


 ここで彼と話をして、今後の和平条約を約束させつつ、王権を復権させれば何もかも解決できるのではないか、と私は考えた。


 そうすればアールネスは南部の脅威にも対抗でき、私だっておうちに帰れる。

 一石二鳥の完璧なプランである。


 ただ問題があるとすれば、王様が私の話を一切聞いてくれない事だ。


「あの、王様……」

「ヒャイアーーッ! フキャーーッ!」


 と、陛下はあれ以来、人間であった事を忘れているかのように、怯えながら警戒してくる。


 それでも諦めずに「恐くなーい。恐くなーい」となだめすかした結果、ちょっとずつ慣れていったのか、数時間後には人語を話せるまでに王様は回復した。


「こ、恐い事しない? 僕の事、ぶったりしない?」

「しないよー。大丈夫だよー。ほら、聞いてたでしょ? ヴァールくんも言ってたじゃない。今の私は魔法が使えないから弱っちいって」

「本当? 本当に本当? 嘘吐いてない?」


 と、さらになだめすかして数時間。


「うむ、わかった。大丈夫だ。お前を信じよう」


 隠しようのない恐れはまだ目に宿っているが、それでもちゃんと話をできるまでにはなった。

 体も小刻みに震えている。


 実はあんまり信じてないでしょう?


 しかし、とてつもなく時間がかかってしまった。


 ここでは正確な時間がわからないが、朝から始めてここへ到達するまでにもう夕方近くなっているのではないだろうか?

 でも、まるで進化と成長の過程を凝縮して見たような気がして、むしろ貴重な体験をした気分だ。


「何で、そんなに父上の事が怖いんですか?」

「……昼夜問わず追われ、幼少の頃よりの親友を目の前で殺され、孤独のまま気の休まらぬ逃亡を強いられればこうもなろう」


 なるほどなぁ。


「私にとっては、優しいパパなんだけどなぁ」

「うむ、そうらしいな。噂では……」

「あぁ?」

「ヒャギィッ!」

「あ、ごめんね? うそうそ、冗談だからね。怒ってないよ」


 おっとまずいまずい。

 今またあの状態になられると、間に合わない。

 逃げる前に、王子が来て十八禁展開に発展してしまう。


 もしこれがネット小説とかだったら、規約違反で削除されてしまう事だろう。


「お前の言う事はわかった。確かに、僕としても条約の破棄は本意じゃない」


 あ、まだ一人称が戻ってない。


「だから、復権が叶えばアールネスとの和平条約の維持については約束しよう。このたびの国の責任についても取らせてもらう。だが、そもそもここから出られるか?」

「それは多分大丈夫です。私にいい考えがある!」

「そうか。どんな方法だ?」

「ここに、昼食の時に確保したトマトソース入りの小瓶があります。これを利用して、兵士が来た時に血を吐いて倒れたように見せかけ、その隙を衝いて脱出しようと思っています」

「なるほど。だが、そんなに上手く行くか?」

「ダメだったら、ヴァール王子が来た時に股間でも蹴って逃げます」

「急に行き当たりばったりになったな」


 だって、確保できる道具も限られているし、そんな複雑な作戦なんてできないんだもん。


「だが、出てしまえばこっちの物だ。脱出ルートは任せておけ」

「心当たりがあるのですか?」

「代々、王にしか伝えられない秘密の抜け道が城にはある。

 街まで逃げられる抜け道だ。

 ヴァールは、僕を人質にして従わない軍部の人間を抑えている。

 そして僕を救出されないよう、軍部の人間は城から離して街にでも駐留させている事だろう。

 そこで彼らと接触できれば、国を取り返せるだろう」


 流石は王様だ。

 頼りになる。


 なら、あとは牢屋から脱出して、この支配からの卒業をするだけだ。


「じゃあ、次に兵士が来た時に作戦を決行します。そのつもりで」

「わかった」


 そうしてしばらく待っていると、こつこつと地下への階段を下る足音が聞こえて来た。


 足音はこちらへと近付いてくる。

 私はトマトソースを口に含んだ。


 兵士が私を見た瞬間に、トマトソースを吐いて倒れる。

 そして、慌てて牢屋の中へ入って来た所を倒して外へ出る。


 完璧である。

 なんという冷静で的確な判断力なんだ!!


 足音の主が、私の牢屋の前へ来た。


「クロエ!」


 馴染みのある可愛らしい声。


 足音の主は、黒尽くめの服を着たアルディリアだった。


 私は驚いて声をあげようとし、トマトソースを噴き出す。


「クロエ!?」


 一歩後退しようとして床につまづき、仰向けに倒れる。


 ビッテンフェルト・ダイ……。


「クロエ? クロエーっ!」


 驚いて叫ぶアルディリアは慌てふためき、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 サハスラータ王の親友だったダルシム氏とエドモンド氏。

 ダルシム氏は部隊の半数を連れて囮となり、そのまま殲滅されて戦死。

 エドモンド氏はビッテンフェルト候の剣からサハスラータ王を庇い、剣で攻撃を防ぎながらも「俺は不可能を可能に……」と言ったかは知りませんが、サハスラータ王の目の前でそのまま真っ二つにされました。

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