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閑話 変な夢の話

 タイトルの通り、変な話です。


 誤字報告、ありがとうございます。

 ただ、もしかしたら意図したものである可能性が高いのでそのままにさせていただきます。

 少し前の事。

 アードラーがカナリオを罵倒し、それが原因で王子の怒りを買った。

 アードラーは逃げるように私達の前から去り、それ以来私は避けられるようになった。


 私は忘れない。

 あの時のアードラーの表情を……。

 そして、すぐに追いかけられなかった身勝手な自分の矮小さを……。


 何度か彼女と会おうとしたが、アードラーが私に会ってくれる事はなかった。


 そうして何もできないまま時は流れ、夏迎えの祝いの日となった。


 お城で開かれる舞踏会。

 そこで私は、アードラーと強引にでも話をするつもりだった。




 当日、私はアルディリアと共に城へ向かった。

 城の豪華な廊下を進み、広いホールへ通された。


 ギャラリー達が沸き立つ中。

 そのホールの中央には、リオン王子とカナリオがいた。

 円形の広い台座の上、二人は舞っている。


 軽やかなステップによるフェイント、蹴りによる牽制、ぶつかり合う拳。

 二人は台の上で、闘技の攻防を繰り広げていた。


 舞踏会……?

 じゃない!


「これは武闘会だ!」

「そうだよ。今更何言ってるのさ? 当たり前じゃない」


 そう言うアルディリアの姿を見ると、彼はカンフーの達人が着ていそうな中華風の服を着ていた。

 その肩には、リスが乗っていた。


 アルディリアってこんなんだっけ?

 何か違う気がする。

 でも、何が違うのかわからない。


 よく見れば、私もドレス姿じゃない。

 胸元の露出が著しい世紀末ファッションだ。


 私も普段からこんな格好をしていたっけ?

 ……していた気がする。

 でも何か違和感がある。

 なんでだろう?


「僕達はアードラーに会うために、この年に一度開かれるアールネス一武闘会に参加したんじゃないか」


 アールネス一武闘会!?

 なんじゃそりゃ!

 初耳だし!


「そ、そうだったっけ?」

「そうだよ! 怖気づいちゃったの? 君はあんなに、絶対決勝まで行くって言ってたのに。アードラーと会うためならば、ビッテンフェルト流銀河英雄拳(ぎんがえいゆうけん)を使わざるをえないって息巻いていた君はどこに行ったんだ!」


 言った覚えがない。

 どんな技か見当もつかんし。

 でも、アルディリアが私に嘘を吐くとは思えない。


「そうだっけ……。でも、何で決勝までいくとアードラーと話ができるの?」

「何言ってるんだよ。アードラーは前回の優勝者。シード枠で決勝まで行かないと戦えない。でも、それは決勝までいけば確実に話が出来るという事だ」


 そーなのかー。


「あ! 決着がつきそうだ!」


 アルディリアが言い、私は台へ目を向けた。


 丁度その時、王子の顎にカナリオのレフトアッパーが炸裂していた。

 その強力な一撃に、王子の端正な顔立ちが歪み、顎がせり出してしまっていた。

 私の動体視力はその決定的な場面を正確に捉えていた。

 そして、カナリオは次いでライトアッパーで王子の顎をさらに追撃した。

 そのまま飛び上がり、殴り抜ける。


 王子は宙に舞い、ドサァと頭から地面に落ちた。


 アルディリアのゴクリ、と息を呑む音が聞こえた。


「あれが、真・翔雀拳しょうじゃくけん……。頭蓋すら歪ませる、なんて凄まじい威力だ。前の決闘で、アードラーもあれを胸に受けて負傷してしまった」


 え? そうなの?


 しかしカナリオ。

 ゲームでは私のライバルで、私としか決闘なんてしなかったのに……。


 決闘したのか、私以外の奴と……。


「決勝では万全の状態での戦いをクロエと誓い合っていたアードラーは、それが果たせなくなった事に責任を感じて、クロエを避けるようになったんだ」


 すごい説明的な台詞だ。

 アルディリアってこんなキャラクターだっけ?


 でも、おかげで事情がなんとなくわかってきた。

 アルディリアがいなかったら、私はわけもわからないまま武闘会に出ていたかもしれない。


 でもそれがわかったなら、私は迷わない。

 アードラーがそこで待っているというのなら、私はそこまで迎えに行こうじゃないか。




 そうして武闘会に参加した私は、次々にライバルを倒してトーナメントを勝ち抜いていった。


 ルクス、イノス先輩、マリノー。

 対戦相手は、私のよく知る人物達だった。

 みんな強敵ともである。


 特に、何故か眼帯スーツ姿のマリノーが一番強かった。

 トリッキーなうえにえげつない技が多かった。


 そして私が三回戦目を制した時、同じく三回戦目でアルディリアはカナリオとぶつかった。


「大丈夫なの? アルディリア」

「自信はないよ。でも、それはいつもの事だから。自信がなくたって、培った技術は裏切らない。そこには気持ち以上の力が宿ってると、僕は思っているよ」


 かもしれないな。

 感情の勢いも戦いには大事だけれど、やっぱり最後にものを言うのは培った力だ。


「まぁ、見ててよ。僕の破城軍鼠拳はじょうぐんそけん、その真髄を見せるから」


 アルディリアの流派ってそんなんだっけ?


 アルディリアとカナリオが台の上に上がった。


「アルディリア様。あなたと戦うのは初めてですね」

「ああ。そうだね。……手加減はいらないよ。僕は、本気の君と戦いたい」

「わかりました。では、全身全霊を以ってお相手します。先祖代々より受け継いだ陰陽女神拳おんみょうにょしんけんで」


 二人が構えを取った。


 判定員のアルマール公が二人の間に立つ。

 そして声を張り上げた。


「始めッッ!」


 開始のドラが鳴り響く。


 戦いが始まると、二人は一進一退の攻防を見せた。

 互いに繰り出した技は、どちらも致命的なダメージを相手へ与えられないようだった。


 見た所、攻撃の技術はカナリオが上だが、防御はアルディリアの方が巧い。

 カナリオの攻撃は苛烈だ。

 手数が多く、一撃一撃の威力も高い。

 だがアルディリアはそれらの攻撃を的確にガードし、堅実に隙を見つけて攻撃を繰り出していた。


 アルディリアは負けていない。

 このまま試合が運べば、どちらが勝ってもおかしくはない流れだ。


 だが、そこで私は気付いた。


 カナリオの攻撃は、同じパターンの物と下段への攻撃が多かった。

 攻め手のバリエーションが単調に思える。

 これでは、相手に覚えられて見切られる。


 癖なのだろうか?

 今まではそれが必勝パターンであり、それでも勝てていた。

 だが、あまりにも固いアルディリアの守りにそのバリエーションの乏しさが露呈してしまったという事だろうか。


 いや、本当にそうか?

 もしかしてそれは、あえて相手に動きを見切らせようとしているのではないだろうか?


 私がその考えに到った時、アルディリアが動いた。


 ワン・ツーパンチからのローキック。

 カナリオのそのパターンを読んだアルディリアは、ローキックに合わせて跳んだ。


「勝機!」


 空中から、抜き手を放つ。


 違う、アルディリア!

 それは罠だ!


 アルディリアの顎をカナリオのレフトアッパーがめり込んだ。

 そして、二撃目のライトアッパーがさらに顎を追撃した。


 アルディリアの目から、光が失われる。

 その体は宙を舞い、台の上に強く打ちつけられた。


「アルディリアーっ!」


 思わず私は叫んでいた。

 同時に、アルマール公が「決着ッッ!」と声を張り上げた。


 真・翔雀拳……。

 あれは、対空技だったのだ。

 今までのワンパターンは、全てこの展開へ導くための布石だ。

 アルディリアは勝機を見つけて攻撃したつもりだろうが、あれは誘われた行動だったのだ。


 カナリオ。

 力だけを誇る相手ではない。

 確かな戦術を組み立てる事のできる戦術家でもあるようだ。


 私は台の上へと駆け上がり、アルディリアを抱いた。


「アルディリア!」


 声をかけると、目に光のないアルディリアが私に向いた。


「……ク、クロエ、ぼ、く、負けちゃ……」

「もういい。もう、休んでいいんだよ」

「う……ん……アードラーをおねが、い……」


 アルディリアは言い残すと、私の胸の中で意識を失った。

 見下ろしていた彼の顔に、影が重なった。

 私は顔を上げる。

 そこには、カナリオが立っていた。


「順当に勝ち進めば、私とあなたは決勝の前で当たるでしょう。……待っていますよ」


 そう言うと、カナリオは台から下りた。


「……いいだろう。私は絶対に貴様の前に立とう……」


 私はカナリオの背中へ、呟いた。




 そして私は、数々のライバル達を下し、準決勝へ駒を進めた。


 ムルシエラ先輩、コンチュエリ、アルエットちゃん。

 みんな強敵ともだった。


 私は台へ上がり、カナリオと対峙した。


「長かった。この戦いが叶うまで……。私はずっと、あなたとの戦いが楽しみでならなかった」


 カナリオが語り出す。


「前回の武闘会、フェルディウス様の決勝戦の相手はあなただった。ですが、あなたは決勝へ赴くまでの間にあまりにも消耗していた。その消耗さえなければ、あなたが優勝していただろうと言われています」


 そうだったのか、知らなかった。

 全然覚えがないけど、そんな事があったのか。


「だから私は、そんなあなたとずっと戦ってみたかった。その強さが本物なのかどうか、確かめてみたかった」

「そうか。ならば、確かみてみろ」

「はい。私は勝ちます。あなたがどれだけ強かろうと、必ずッッッ!」

「ああ。胸を貸してやる。本気でかかって来いッッッ!」


 アルマール公が「始めッッ!」と声を張り上げる。

 ドラが鳴り響き、私達は互いに拳を振った。


 拳が交差し、互いの顔を殴り合った。

 その初撃を合図に、私達の攻防は始まった。


 それは殆ど、技の駆け引きと呼べるようなものじゃなかった。


 技術などない、純粋な暴力のぶつかり合いにも似たやり取りが繰り広げられる。


 だがそれは誤解だ。

 この単純な力のぶつけ合いの中には、互いに今まで培ってきた技の全てが詰まっている。


 どうすれば威力が乗るのか、どこを狙えば効くのか、どうすれば受けるダメージを最小限に留められるか。

 無駄な技術が省かれ、抽出された技術の結晶。

 虚飾を取り去ったそれらは、もはや無骨の一言に尽きる。

 華やかさはなく、そこには単純な力だけが残っていた。


 気付けば私達は、打撲を受けていない場所がない、そんな有様となっている。

 痣や擦過傷が所々に見受けられた。


 しかしそんな単純な攻防の中にも、カナリオは戦術を組み込んでいた。


 先ほどとは違って単純では無いが、確かなパターンがその動きにはある。

 並みの闘技者では気付けない、そんな難解なリドルのようなパターンが見て取れた。


 おそらく、それは誘いだ。

 私ならば、そのリドルを解けると踏んで、誘っているのだ。


 そして私は、その誘いへ乗る事にした。


 下段への手刀を跳んでかわす。

 目下のカナリオへ蹴りを放った。


 その機を見計らっていたカナリオは、目の輝きを強くした。


 真・翔雀拳が来る!


 わかっていた事だ。

 だが、私は何の対応もしなかった。


 二対のアッパーが私の胸を抉り、胸の真ん中に深い傷を作った。

 激しく出血する。


 カナリオの目は、驚きに満ちていた。

 その動揺へ付け込むようで悪いとは思いつつ、私は着地してがら空きになったカナリオの顎をフックで穿った。


 カナリオは数歩、後ずさる。

 そんな彼女の頭頂を狙って、空中前転からの踵落としを放った。

 踵落としを受けたカナリオは、強かに地面へ顔を強打した。


 両拳を地面へ突き立て、起き上がろうとするカナリオ。

 だが、その半ばで力尽きる。

 ついにはバランスを崩し、仰向けにごろりと倒れた。


「決着ッッ!」


 アルマール公の声が響き、ギャラリーの声援がホールを埋め尽くした。

 私は、台から降りようとする。


「どうして……? わざと、受け、ました……ね?」


 カナリオの問いが私を立ち止まらせた。

 答えようと振り返った時、カナリオは気を失っていた。




 決勝戦。

 ホール中央の台の上。

 多くの人の熱気に満ちた視線を受けながら、私はその場に立っていた。

 そんな私の前には、アードラーがいる。


 やっと会えたね。

 アードラー。


 ずっと、話がしたかったんだ。


「カナリオの真・翔雀拳をわざと受けるなんて、何を考えているのかしらね」

「その方がフェアだと思ったんだよ」


 アードラーが話しかけ、私は答える。

 アードラーの胸元には、私と同じように傷が走っていた。

 今や、私はアードラーと同じハンデを負っていた。


「そんな理由で、肌に傷を付けるなんて……。馬鹿なんじゃないかしら」


 そう言いつつ、アードラーはそっぽを向く。


「いいじゃない。お揃いだ」

「ふん」


 アードラーは顔を赤く染めた。

 照れてるみたいだ。


「そんな事をしなければ、簡単に勝てたかもしれないのに……」

「友達は対等なものなんでしょう?」

「それは……ふふ、そうね」


 アードラーは私に向けて、手を差し出す。

 手の平を下にした、ダンスに誘う時の仕草だ。


「じゃあ、私と踊ってくださるかしら?」

「よろこんで」


 私もまた、アードラーに手の平を上にして差し出す。

 アードラーが、その手の平の上へ自分の手を乗せた。


「私達二人で、最高の舞踏(武闘)を繰り広げましょう」

「うん。楽しもう」


 どちらからともなく、同時に手を離す。

 そして、放たれた拳と抜き手が交差した。




 という夢を見た。


 何で、こんな夢を見ちゃったんだろうか?

 寝起きのベッドの上でしばらく考え込んでしまった。


 でも、夢を見た理由なんてわかるはずもなく、時間の無駄だった。


「お嬢様、婚約者のアルディリア様とフェルディウス家のアードラー様がお見えになっておられますが」


 朝食を食べ終わった頃、メイドさんが私を呼びに来る。


 今日は日曜日。

 朝から遊ぶ約束をしていた。


 どうしてあんな夢を見たのかはわからないけれど。

 あの夢を見て、私は二人と無性に会いたくなってしまっていた。


 半分残った朝食をかっ込み、私は二人が待つ玄関へと足早に向かった。

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