ネコとタイ焼き(後編)
甘いにおいに気がついた肉まんは、お皿の上にタイ焼きがあることに気づきます。
タイ焼きが食べたくなった肉まんは、辺りを見わたし、ご主人様を探しますが、
いませんでした。
それなら……。とタイ焼きのシッポをかじると、
肉まんは違和感に気づきます。
ぷにぷにとしていて、噛めなかったし変な味がしました。
肉球で押してみると、すぐにへこんだところが元に戻ります。
にゃ? 食べ物でこんなことある??
すると、
「やっぱりひっかかったね」
ご主人様がそう言いました。
どうやら、肉まんがかじったものは、よくできたタイ焼きのキーホルダーでした。
本物でないことは教えてもらえましたが、肉まんには疑問に思うことがありました。
それは、においです。
あのタイ焼きはキーホルダーなんでしょ。だったら、においなんてしないはず……。と
「どうして、甘いにおいがしたのって知りたいの?
それは、さっきまでそのお皿にタイ焼きを置いておいたからだよ」
なるほどね。にあいはお皿に移っていたんだにゃん。で、それはそれとして……。
「じゃあタイ焼きは?」
ぼくは、ご主人様を再び見つめた。
「タイ焼きはさっき食べちゃった」
ご主人様の告白を聞いて、
「にゃー!」
ぼくは、鳴いた。
「それとも、きみが見ている前で、おいしそうに食べているところなんて見たくないでしょ」
「ひどいにゃん。ぼくにも一口くらいくれればいいのに!」
ぼくは怒った。
「ネコに用に作ってあるものならよいけれど、そうでないものは身体にあんまりよくないの。
それに、タイ焼きはきみが食べたら太っちゃうし」
「だったら、ちょっとくらい、分けてくれたっていいでしょ!」
「ちょっともダメです。きみにちょっとあげたら、また欲しくなるでしょ」
まるで、ネコ語が分かるかのように、ぼくに言った。確かに、ご主人様の言う通りにゃん。
ぼくはきっと食べたらまた欲しがると思う。
だからと言って、このイタズラはひどいにゃん。
こうなったら、ご主人様のごはんをいただくにゃん!
ぼくは、リビングを出た。
夕方になり、ご主人様がキッチンへ行って料理をし始めた。
料理を終えると、
「リンリンリンリン~」
電話がかかってきて、リビングに向かった。
「今がチャンスにゃん」
ぼくはキッチンにコッソリと入り、キッチンの近くにある
ダイニングテーブルの目の前で足を止めた。
いつもならダイニングテーブルのイスがきちんとしまわれているのだけど、
イスを使って高い戸棚から出し入れをしたらしく、イスが少し引いてあった。
身体が重いぼくには、ダイニングテーブルの上に飛び乗るのはできないのだけど、
イスになら飛び乗れる。
ぼくはピョーンと飛び、イスの上に乗って、そこからダイニングテーブルの上にあがった。
「やっぱりー」
ぼくはテーブルの上にあるものを見て言った。
「このにおいはお魚にゃん」
身がふっくらとしたサンマがあった。
ぼくは、ポテトサラダやキノコと大根の炒め物と
言った他の料理には目もくれず、
お魚をくわえてイスから降りて、そのまま外へ行った。
「いただきまーす」
お庭でサンマを食べた。
「やっぱり、本物のお魚はおいしい。タイ焼きじゃなくていいにゃん。焼き魚でいいにゃん」
ぼくはそう思った。
次の日、
ぼくのお腹はいつものように
「グ~」
と鳴った。
リビングに行くとご主人様がいた。
「きょうのごはんはコレです」
ご主人様はぼくの目の前に差し出した。
「なにコレ?」
ぼくはビックリした。
「見てわかるでしょ。お魚。きょうのお魚はおいしそうでしょ?」
たしかに、お魚。しかも、おいしそう。だけど……。
「文句あるの?」
「だって、お魚はお魚だけど、違うにゃん」
目の前にあるのは、絵のお魚だった。
「絵のお魚です。きょうのごはんです」
「食べられないにゃー!」
「お魚が好きだから、絵のお魚も好きでしょ。これならいくらでも食べてどうぞ。
何枚でも描いてあげるから」
ご主人様が描いた絵のお魚はとても上手だった。
けれど、本物のお魚ではない。肉球で触って見たけれど、ペラペラしている。
やっぱり、絵に描いたお魚にゃん。
とても食べられそうにない。ぼくは悲しくなった。
「これからは、ご主人様のごはんに飛びついたりしないから、ゆるしてにゃ~」
ぼくはそう鳴くと、ぼくのお腹が、
「グ~」
と鳴った。
《終わり》




