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ネコと子イヌ3【前編】

リビングでくつろいでいると、ご主人様はなにやら慌ただしく準備をしていた。

ぼくのものを入れる、黒と白の水玉模様のバッグにささみのおやつを詰めている。


今日はどこかに連れて行ってもらえるらしい。


「ブン」


 外で、車が止まる音がした。

「きみー。行くよ」


 すると、ぼくのおうちの前に一台の車が止まっていた。

「この車、どこかで見たことがある気がする」


近づくと、


「ワンワンワンワン」


 と車の中からイヌの鳴き声が聞こえた。

「もしかして!」


 ご主人様が車のドアを開けると、

「こんにちは、肉まん」

「つとむ君!」


 この車はつとむ君の車だった。

ということは……

「ワンワンワンワン」

 

この鳴き声は……。


「こんにちは。肉まん」

「えりか!」


 子イヌのえりかだった。


 ぼくとえりかは後部座席に座り、ご主人様は助手席に座ると、車に乗り込み走り出した。 


「えりか、また元気がないんだって?」

「そうなのだよ」


 ご主人様とつとむ君は話し始めた。


 つとむ君の話によると、

つとむ君はゆいちゃんと言う人と結婚して、つとむ君とゆいちゃんとお母さんとえりかとの生活が始まった。えりかがつとむ君のゆいちゃんとなついたことだし、「そろそろいいかな」と思い、二人で新婚旅行へ行った。

で、しばらくおうちを留守にしていたんだって。

えりかを置いて出かけたことを心配していたけど、やはりその予感は的中をしてしまい、いない間は、

「私を置いてどこかに行っちゃった。もう戻ってこないかもしれない!」


 と、えりかはおうちでさんざん鳴いてお母さんを困らせたらしい。


帰ってきた今でも不安になるらしく、おうちにいるときでも、つとむ君がちょっと席を立っただけで、ついてくるらしい。つとむ君がお出かけしようとすると、後ろからついてきて鳴きだし、

「ちょっとだけお出かけするけど、必ず帰ってくるからね」

と言っても、鳴き止まずどこにも行けないらしい。

今日は、えりかにさみしい思いをさせてしまったこともあって、えりかを連れて久しぶりにお出かけすることにしたんだって。えりかが知っているぼくといっしょならえりかも楽しいだろうからって誘ってくれたんだって。


「えりか~。そんなに心配しないでよ。つとむ君は旅行に行って、ちょっとだけおうちに帰ってこなかっただけじゃない。もう大丈夫だよ」

「だって~。もう帰ってこないかと思ったのよ!」

「そんなわけがないじゃない。えりかの元には必ず帰ってくるから」

「肉まんだって、ご主人様がいなくなったら、さみしいでしょ?」

「うん。それは……」


 ぼくも、ご主人様と離れたときがあった。お友だちと旅行することになって、おばあちゃんに預けられたときがあった。

 そのときは確かに不安だった。必ずぼくの元に戻ってきて来るとは思っていたけど、やっぱり不安だった。えりかの気持はすごく分かる。

「それに、こうたろうのこともあったし……」

 えりかはシュンとした顔をした。こうたろうは、えりかの弟イヌで、つとむ君のお姉さんが結婚したときに、こうたろうはお姉さんと暮らすことになり、離れ離れになってしまった。

たまには遊びに来てくれるけど、帰り際はえりかが鳴き出して、毎回、大変らしい。

「もしかしたら、お兄ちゃんは私を置いて、ゆいちゃんと二人で暮らすことにしたっていうこともないとも限らないわ」

 

まだ不安があるらしい。


「えりかのことを誰よりも分かっているのはつとむ君だから、必ず帰ってくるよ。いつもそうでしょ? お出かけしても必ず帰ってくるよね。えりかが心配すればするほど余計、つとむ君が気になってお出かけできないじゃない。旅行のことだって、えりかを置いてお出かけしたこと、えりかに悪いなぁって思っているんだよ? それに、えりかが不安がっていると伝わっちゃうよ。仲よくしたくても、えりかがそんな気持ちでいると、ゆいちゃんも不安になっちゃう。そんなことで困らせるなんてだめだよ」


「うん……」


 えりかはうなずいた。けど、まだ心配そうな顔をしていた。


車が走り出して三十分後、渋滞につかまった。


「全く動かないね」

「困ったね」


 今日は、日曜日のせいか道が混んでいた。ぼくらが乗っている車のずっとずっと先にも車が並んでいる。


「このままじゃいつ動くか分からないから、どうする?」

「裏道に入る?」


 つとむ君は、けげんそうな顔をした。そして、ぼくらを見た。


「この子は大丈夫だけど、えりかは?」

「えりかは、いやがるかもしれないけれど、我慢してもらおう」

「分かった」


 ご主人様はハンドルを左に切って、渋滞の列から抜け出した。

「きみー。いつものように寝ていていいからね。着いたら起こしてあげるから」

「にゃーん」


 ぼくは鳴いて返事をした。そして


「スピピ~」


 ものの数秒で眠ってしまった。


一方、

「えりか、ちょっとだけ我慢してくれるかな」


 つとむ君はえりかに言った。


つとむ君は車を止め、イヌを入れるお出かけ用のハウスにえりかを入れた。


「えっ? 何だかいやな予感がする」


 えりかはこれまでの経験から、不安に思った。



《続く》



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